新しい資本主義の担い手であるベンチャー企業。政府からユニコーン100社創出が宣言されたこの状況下において、「現在の成長企業・ベンチャー企業の生き様」は、最大の関心事項と言える。ジャンルを問わず、一社のトップである「社長」は何を思い、どこにビジネスチャンスを見出しているのか。その経営戦略について、これまでの変遷を踏まえ、様々な角度からメスを入れる。
現在は同大学大学院社会文化科学研究科在学中。
これまでに2つのサービスの立ち上げに失敗したのち大学4年次に株式会社ABABAを創業。
高校理科教員免許保持。経済産業大臣賞・SDGs日本賞受賞。
東京MX「堀潤モーニングFLAG」にてコメンテーターを務める。
代表の友人が「就活うつ」に陥ったことをきっかけに開発された 「就活の過程が評価される」新卒スカウトサービス『ABABA』を提供する。
これまでの利用実績は就活生6.5万人、企業1,600社。
新卒人材の企業間推薦を間接的に実現するプロダクトを通して人材の流動性を高め、人材の適切配置の加速に寄与することを目指している。
これまでの事業変遷について
—— 事業変遷についてお聞かせいただけますか?
株式会社ABABA 代表取締役社長・久保 駿貴氏(以下、社名・氏名略) 創業は2020年10月で、サービスリリースは11月でした。学生起業という形で始めまして、現在3つの事業を行っております。共同代表の中井とは1つ目の事業から一緒にやっています。創業のきっかけは、友人が就職の最終面接で不採用となり、落ち込んでいる姿を見たことでした。彼の頑張りを評価する仕組みを作りたいという想いと、落ちた会社を嫌いにならず、前向きに応援して送り出す仕組みを作りたいという想いからこの事業を始めました。
久保 就活生の約半数が一度は「就活鬱」のような状態を経験したというデータがあり、警察庁のデータによると、就職活動が原因で命を落とす方が年間数80人程度にのぼることもあります。このような状況を踏まえ、就活生をサポートするサービスが今後ますます必要とされると感じています。
私たちは学生起業家として、右も左もわからない状態からスタートし、数多くのコンテストに参加して外部機関からの評価を得てきました。そして、創業から約1年半後に最初の資金調達を行い、その後もステージを重ねながら資金調達を続け、現在に至っています。
—— 最終面接で不採用になった求職者のデータは、どう集めているんですか?
久保 企業が不採用の連絡を送る際に、「今回は採用に至りませんでしたが、最終面接まで進んだ実績がありますので、こちらのサービスで評価してもらうことができます」というようにABABAをご紹介いただき、いわゆる「お祈りメール」をエールに変える「お祈り”エール”」という取り組みを行っています。。企業間でデータの受け渡しは行っておらず、あくまでサービスの紹介のみをお願いしています。そこから登録するかどうかは、求職者自身の自由です。
飛躍的な成長を遂げた秘訣
—— 登録者数や提携先企業が驚異的に増えていると伺っていますが、その成長の秘訣を教えていただけますか?
久保 弊社のサービスは、企業側と就活生の両者のニーズを満たすことが前提になっています。企業と就活生の双方にとってウィンウィンの関係を築けるサービスであり、誰かが不幸になったり、搾取されたりすることのない「三方よし」のモデルです。登録する企業にとってもデメリットはほとんどありません。
また、ブランディングやPR戦略がうまくいったことも大きな要因です。創業から約1年半で、TBSテレビ『News23』や NHK『おはよう日本』など視聴者の多い報道番組で取り上げていただき、それ以降、ほとんどのキー局でニュースとして紹介されました。テレビの力は非常に大きく、メディア露出が増えることで、登録者や問い合わせも急増しました。
サービスのユニークさや「お祈りメールを次につなげる」というコンセプトが、テレビでも受け入れられやすかったのだと思います。
—— メディアを通じたPRが大きな役割を果たしたのですね。
久保 今年からは、再現性のあるPR活動を目指し、広報チームが中心となって取り組んでいま す。就活生をターゲットにしているため、毎年新しいユーザーを獲得する必要がありますが、一度PRやマーケティング手法を確立すれば、それを毎年繰り返すだけでよいので、戦略を立てやすいという利点があります。
ちなみに、就活生の登録方法には2つのパターンがあります。1つは企業からの不採用通知に含まれる案内、もう1つは自己申告です。現在は、自己申告での登録を増やすために、マーケティングとPRに力を入れています。
—— 就活生はどのタイミングで登録することが多いのでしょうか?
久保 最終面接に進んだタイミングや、選考に落ちたタイミングで登録する方が多いです。サービスを事前に知っている方は、早い段階で登録することもあります。当社のサービスは就活生の間で認知度が高く、特に「最終面接」という言葉に関連してサービスを知ってもらっています。就活生が「こんなサービスがある」と周りに広めやすく、口コミで自然と広がりやすい点も大きなポイントです。就 活情報はOB・OGや学生同士の間で伝わりやすいので、今後もさらに広がっていくと感じています。
経営判断をする上で重要視している点
—— 経営判断を行う上で、特に重要視しているポイントについてお聞かせください。
久保 当社では、各部署に自分よりも優秀な人材が揃っていると信じています。そのため、よほどのことがない限り、各部署の方針に任せる形をとっています。例えば、私はマーケティングについて詳しくはありませんので、基本的な戦略や方針はマーケティングチームに任せています。もちろん、最終的な決定は話し合いを行いますが、基本的にはチームの判断を尊重して動いてもらっています。
—— 全て自分で決めたいという方もいらっしゃいますが、久保さんはどうお考えですか。
久保 社長が全ての能力において一番とは限りません。自分の得意分野は自分で行いますが、不得意な分野は社員や組織に任せることが重要です。組織を作り上げ、適切な人材を配置するのも社長の大事な役割です。
最終的には、ユーザーファーストの視点や創業の理念から外れていないかを確認し、決断します。もし決めたことが失敗した場合は自分の責任と捉えますし、成功した場合はその人のおかげだと思っています。
事業拡大の未来構想
—— 事業拡大の未来構想や、今後の計画についてお聞かせください。
久保 まずは、現在のスカウト型サービスの拡大に注力します。また、当社は最終面接のデータを日本で最も多く持っている会社ですので、このデータを活用して現行サービスのアップデートや新たなサービスの開発を進めたいと考えています。
例えば、就活の後半に当たる冬や年明けのシーズンにおける就職活動の活発化や、送客精度の向上を目指しています。
—— 例えばエントリーシートの書き方や自己PRのポイントをアドバイスするというイメージでしょうか?
久保 いえ、むしろエントリーシート自体をなくしていく方向です。最終面接まで進んだ方に対して、初期の書類選考や一次面接を省略できる仕組みを作りたいと考えています。また、今年の9月24日にリリースしましたが、AI面接サービスの開発も進めています。このサービスでは、単に面接のシミュレーションを行うだけでなく、企業の採用要件を蓄積したデータベースを基に、AIが採用可能性の高い企業を提案したり、就活生自身のスキルレベルを確認できるようにしたいと考えています。
—— 入社希望者の再チャレンジをサポートする仕組みもあると伺いましたが、それについても詳しく教えてください。
久保 一度最終面接で不採用となった方や内定辞退者のデータを蓄積し、数年後の再チャレンジをサポートする仕組みを作っています。どうしても行きたい企業がある場合、他の企業で経験を積んだ後に再挑戦したいという方も多いので、そういった方々をデータを活用してサポートしています。
—— 上場やM&Aについてはどのようにお考えですか?
久保 上場(IPO)を目指して活動していますが、上場をゴールとするのではなく、しっかりとした成長戦略を描きながら進めたいと考えています。出資いただいているデライト・ベンチャーズさんも同じ方針で、急いで利益を上げるのではなく、市場にインパクトを与えた後に進めるという考えです。
—— 短期間で急成長を目指す企業もありますが、御社は自分たちのペースで進める環境が整っているのですね。
久保 売上の拡大を目指しながら、最終的には上場を通じて知名度を高め、採用面でのメリットや資金調達の手段を増やすことが目標です。新しい価値を生み出すことがベンチャー企業の使命だと
思っており、IPOもそのストーリーの一部です。今後も人材業界や採用領域に貢献していきたいと考えています。
ZUU onlineユーザーへ一言
—— ZUU onlineユーザーに一言いただけますでしょうか?
久保 日本の就活生の中には、外資系企業に行きたいという風潮があるように感じています。私の時代も同様でした。しかし、個人的には優秀な人材こそ外資系ではなく、日本企業で働いてほしいと考えています。
このメディアを読んでいる方々の会社や掲載されている日本企業が、就活生にとって魅力的に映るような仕組みづくりを、一緒に進めていきたいと思います。そうした取り組みを積み重ねることで、「衰退している」と言われる日本企業の現状を変えていけるのではないかと考えています。少し大袈裟かもしれませんが、採用の分野から国力を強化することを目指し、皆さんと共に取り組めたら嬉しいです。
- 氏名
- 久保 駿貴
- 社名
- 株式会社ABABA
- 役職
- 代表取締役