「AIで、人類の進化と人々の幸福に貢献する」をパーパスに、さまざまなAI技術の開発に取り組み、生成AIサービスや高付加価値のAIインフラ=データ基盤・学習基盤・運用基盤(AnyData)を提供している。
『グローバルナンバーワンのAIプラットフォーマー』を目指し、絶え間なく革新を続ける当社代表の渡久地氏に、これまでの事業の変遷と将来のビジョンを語っていただく。
2004年より人工知能の研究開発をはじめる。以来10年以上にわたって継続的な人工知能の研究開発とビジネス化・資金力強化を行い、2015年AI insideを創業。2019年に東証グロース市場に上場。代表取締役社長CEOとして経営・技術戦略を指揮し、事業成長を牽引している。
神奈川県出身。一橋大学経済学部卒業。大学在学中にIT分野で起業。2006年 野村證券株式会社に入社。国内外の上場企業オーナーや上場予備軍から中小企業オーナーとともに、上場後のエクイティストーリー戦略から上場準備・事業承継案件を多数手掛ける。2013年4月 株式会社ZUUを設立、代表取締役に就任。複数のテクノロジー企業アワードにおいて上位入賞を果たし、会社設立から5年後の2018年6月に東京証券取引所マザーズへ上場。現在は、プレファイナンスの相談や、上場経営者のエクイティストーリーの構築、個人・法人のファイナンス戦略の助言も多数行う。
起業から事業の変遷について
冨田:それでは、渡久地社長ご自身のルーツや強み、起業からこれまでの事業変遷について教えていただけますでしょうか。
渡久地:私のルーツは、起業する際に作成した未来年表にあります。200年先まで世の中の動きを予測して書き起こしました。現時点でも自分ができること、やりたいことではなく、その年表にある程度基づいて行動しています。
また、私自身の強みとしては、バックグラウンドは開発者のため、経営者としての大局的な視点と開発者としての知見を組み合わせた意思決定や経営判断ができることだと考えています。
初めて起業したのは高校卒業後です。AIの研究開発をしながら複数事業の立ち上げ・売却を経て2015年に当社を創業し、2019年に上場しました。創業当初はAI SaaSというものがまだ存在しない時代で、AI業界では主に実証実験を通じてビジネス導入の検討が進められている状況でした。
その中で、誰もが簡単にAIを使えるように、当社が先駆けとなって「DX Suite」という紙やPDFなどの手書き文字・活字を高精度に読み取りデジタル化するAI SaaSを提供しました。その上でAIの学習、運用、データの保存という「好循環のサイクル」を回しサービスの価値を向上しながら、そこで得た利益を我々のコアテクノロジーであるAIインフラに投資し続けてきました。これが当社事業におけるフェーズ1になります。
そして、2021年ごろから、フェーズ2としてAI Platformへと事業を移行し始めました。具体的には、我々が長年投資を続けてきたコアテクノロジーをパブリッククラウドとして開放し提供しています。これはAI実装に求められるデータ基盤、学習基盤、運用基盤を全て包含したプラットフォームで、あらゆるデータを投入するだけで低コスト、短期間で様々なビジネスにAIを活用することが可能となります。
AI insideの強みとは
冨田:次に、自社の強みを教えていただけますでしょうか。
渡久地:私たちの強みは、AIの提供方法にあると考えています。
AIに関連した事業展開をする企業は増えてきたものの、AIのサービスを提供する企業は増えておらず実証実験に留まるケースが多い印象です。この外部環境に対し、私たちはAIを誰でも簡単に使えるようにサービス化して提供してきました。この結果として、実際にAI-OCR市場では当社単独で64%のシェアを占めています。
また、お客様の状況に応じてクラウドとオンプレミスでサービス提供が可能です。オンプレミスでは、「AI inside Cube」というエッジコンピュータを自治体や銀行、保険会社を中心に提供しています。よりセキュアな環境でAIを運用いただくことが可能です。
冨田:クラウドだけでなく、オンプレミスまでカバーしているわけですね。特にデータを置く場所はセキュリティが重要になりますし、大量のデータがないとAIの精度も上がらないので、データを置く場所は重要な要素になりますよね。
渡久地:はい、昨今のChatGPTの広がりでも言えることですが、多くの日本企業が生産性向上やビジネス変革を目指す一方で、こうしたAIが想像以上に活用されていない実態があります。一因として情報漏洩などセキュリティ面のリスクがあげられます。海外の生成AIを導入する場合、自社のデータを海外企業のサーバーに送るのが主流です。
日本にはLLMを自社開発している企業がほとんど存在しなかったため、当社では生成AI・LLMの研究開発と社会実装を行う「XResearch(エックスリサーチ)」を創設し、独自の日本語LLM「PolySphere-1(ポリスフィア-ワン)」を開発。それを日本のサーバー上でプライベート環境を構築して提供できるようにしました。
この日本語LLMを誰もがより簡単かつ汎用的にビジネス活用できるように、これまで培ってきた画像認識AI・予測AIなどの技術も組み合わせてサービス化したのが、AIエージェント「Heylix(ヘイリックス)」です。
冨田:自社でLLMを開発している日本企業は多くないと思いますが、渡久地社長が経営判断をする際に最も重視する観点を教えていただけますでしょうか。
渡久地:当社では、パーパス、ビジョン、ミッションに重きを置いています。日々の業務を進めるにあたり、目先の具体的な案件推進の話ばかりに気を取られていると、それにより近視眼的なサービス開発が進んでしまい、本来の価値が生まれにくくなると考えています。それを防ぐために、これらを意思決定の拠り所とすることを意識しています。
さらに、『グローバルナンバーワンのAIプラットフォーマー』を目指しており、どうすればグローバルで競争して勝つことができるか、ということを常に考え、それに基づいた行動を取ることを重視しています。
AI insideの未来構想
冨田:では、今後御社が取り組むテーマや未来構想についてお話しいただけますでしょうか。
渡久地:テーマとしては、まず生成AI・LLM、AIインフラの強化が挙げられます。生成AI・LLMについては、業界的にも社会的にもホットトピックだと思いますが、我々はChatGPTに勝つぐらいのモノを作るという強い思いで取り組んでいます。
また、AIインフラについては、AIの学習や推論の際にできる限りエネルギーを消費しないアーキテクチャを追求しています。この技術に基づく独自の仮想分散型データセンターの構築に7、8年前から着手しており、より一層力を入れていきたいと考えています。
また、先ほども申し上げましたが、AIビジネスはまだ実証実験で稼いでいる企業が多い中、これからは、AIがSaaSやウェブサイトなどのあらゆるサービスに組み込まれていくことは必然でしょう。しかし、全ての企業がAIの研究チームを持つことや、スケーラビリティのあるインフラを構築することは難しいと思います。そこで、専門的な知識がなくてもAI運用ができるサービスとして提供することが大きな価値を生みます。私たちは「AnyData」や「Heylix」などにより、誰もが簡単にAIを作り・使い・共有することができるAIの民主化を実現します。
未来構想としては、ゼロエミッションの自律型AI(オートノマスAI)を作ることを目標としています。例えば、医療に焦点を合わせると、体内にAIを取り入れる未来が来ると考えています。当社で開発しているハードウェア「AI inside Cube」は一番小さいもので掌サイズなのですが、将来的にはAIをナノボット化し体内に取り入れることで、薬を自律的に生成し病気を未然に防ぐことが可能になるでしょう。
また、当社は東北大学の吉田和哉研究室と共同研究を行っています。同研究室は、宇宙開発・月面探査を推進するロボティクスの研究開発をしており、これまで小惑星探査機「はやぶさ」の開発や内閣府の「ムーンショット型研究開発プログラム」などのプロジェクトに携わっています。
当社のAIにおける知見と同研究室の宇宙開発における知見を生かし、月面の限られた電力で動き、厳しい温度差や環境にも耐えられる丈夫なハードウェアと次世代型のAIを作るのがプロジェクトの目標です。
このプロジェクトがまさにオートノマスAIを作ることに直結しています。極限環境で自律的に電力を得て、自律的に消費を最適化し、自律的に動くAIを実現することができれば、月面だけでなく、地球においても災害現場の復旧作業や工場・建築現場における設備の故障検知などで活用できるでしょう。
読者へのメッセージ
冨田:最後に、ZUU onlineのユーザーさんに向けて、メッセージがあればお願いいたします。
渡久地:これから先、AIは全ての人やモノに入り込んでいきます。AIを活用することは人類の必然です。その未来に向けて、当社がグローバルで負けない基盤を作っていきますので、是非応援のほどよろしくお願いいたします。
プロフィール
- 氏名
- 渡久地 択 (とぐち たく)
- 会社名
- AI inside株式会社
- 役職
- 代表取締役社長