TOSHY連載:第4回「顧客とブランドの関係性 『信頼』で未来を描くマザーハウス」
マザーハウスの山﨑大祐副社長(写真左)(画像=「セブツー」より引用)

先日、マザーハウスの山﨑大祐副社長に直接お話を伺う貴重な機会がありました。経営の哲学やブランド戦略について語るその姿勢は、顧客との関係性を大切にする同社の価値観を体現していました。山﨑氏が強調したのは、単なる商品販売を超えた「顧客との信頼の構築」というテーマでした。

ファッション業界では、トレンドの移り変わりとともに在庫一掃の動きが広がる中、マザーハウスは「クリアランスをしない」というポリシーを掲げています。この方針は、商品が単なる「モノ」ではなく、職人の技術や想い、共創のストーリーを宿していることに起因します。値引き販売による「安売り」が、これらの価値を損なうリスクを含むことを理解しているのです。適正価格を守ることが、顧客との信頼を築き、持続可能なビジネスを成立させる鍵とされています。

生産現場に込められた「共創」の哲学
マザーハウスのもう一つの特徴は、生産拠点の選定にあります。バングラデシュやインドネシアといった発展途上国の職人たちとともに商品を生み出すスタイルは、単なるコスト削減のための海外生産とは一線を画します。現地の技術を最大限に活かし、職人たちの生活向上にも寄与する「共創」の姿勢が貫かれているのです。

こうした取り組みは、商品そのものに「背景のある価値」を与え、顧客にもそのストーリーを伝える役割を果たします。「クリアランスをしない」という選択は、これらのストーリーの「価格」を適正に守るための重要な要素と言えます。

挑戦を歓迎する文化と商品展開の広がり
マザーハウスは「変わらない価値」を守る一方で、新しい挑戦にも積極的に取り組んでいます。バッグや靴だけでなく、ジュエリーやチョコレートといった異業種の商品展開に踏み出していることはその象徴です。

こうした挑戦には常にリスクが伴いますが、「チャレンジする人を応援する」という企業文化が根付いているマザーハウスでは、店長や社員一人ひとりが積極的に新たな試みを行い、成功事例を作り上げています。この文化が、企業全体に挑戦のDNAを浸透させ、組織としての成長を後押ししています。

経営者としての「時間を預かる」意識
「社員の人生の時間を預かっている」。この言葉に象徴されるように、マザーハウスの経営者は社員との信頼関係を大切にしています。採用や教育にも積極的に関与し、商品発表会や社内コミュニケーションを通じてブランドの方向性を共有することで、全員が同じビジョンを持てる環境を整えています。

経営者自らがビジョンを示し、現場と共に未来を描く姿勢は、企業文化の核となり、マザーハウスが目指す「世界で戦うブランド」への道を確実なものにしています。

「信頼」で築くブランドの未来
「クリアランスをしない」という方針は、単なる経営判断ではなく、顧客との関係性を築くための戦略です。これは現代の消費社会に対するアンチテーゼであり、価値と信頼を守るための意思表示でもあります。

ブランドが持続的に成長し、顧客から選ばれ続けるためには何が必要なのか−−マザーハウスの姿勢は、ファッション業界が次に進むべき未来へのヒントを示しているのではないでしょうか。

TOSHY連載:第4回「顧客とブランドの関係性 『信頼』で未来を描くマザーハウス」
(画像=「セブツー」より引用)