
2022年9月、ミスミグループ本社とコアコンセプト・テクノロジー(CCT)は、ミスミが提供する機械部品調達のAIプラットフォーム「meviy(メビー)」のシステム開発を加速させることを主な事業とする合弁会社「株式会社DTダイナミクス」を設立しました。
設立の背景にはどのような課題があったのか。外部のベンダーに委託という関係ではなく、同じ一つの会社として開発を進めることでどのような価値を創造できたのか。そして、未来に向けどのような理想像を描いているのか。CCTの金子武史代表取締役社長CEOと、DTダイナミクスの道廣隆志代表取締役社長のお二人に、設立から2年半が経った今の状況、それぞれの思いなどを伺いました。

外資系企業のシリコンバレー本社に勤務し、現地のテックリードとして従事。帰国後は、Webベンチャーで開発とプロダクトマネジメント、Fintechベンチャーで開発を担当し、IPOに貢献。 その後ミスミと出会い、世界で戦えている日本の製造業の課題解決に向き合いたいと考え、ミスミに入社。
入社後meviyの開発責任者として従事していく中で、継続的なプロダクトの成長のためにはエンジニアが主体となりプロダクト開発をリードしていくべきという考えを強く持ち、ITエンジニア組織の徹底強化を開始。2022年、ミスミのエンジニア精鋭部隊をスピンオフさせ、DTダイナミクスを設立。
2000年、東京理科大学 理工学部 情報科学科卒業後、株式会社インクス入社。製造業向けのCAD/CAMシステムの開発、自社工場の立ち上げ、分散計算システムの開発等に従事。その後コンサルタントに転身し、製造業、金融、小売、流通、通販など20社を超える企業の業務改革を支援。
2010年、株式会社コアコンセプト・テクノロジー(CCT)に参画し、2015年に代表取締役社長CEOに就任。2021年、CCTは東証マザーズ市場(現、東証グロース市場)に上場し、現在主事業として、製造業・建設業・物流業向けDX実現支援及びIT人材調達支援の2事業を展開。
目次
「システムを作ってゴールではない」、合弁会社設立の背景にある狙いとは
--DTダイナミクスは、meviyの開発加速を主な目的として設立された合弁会社ですが、最初に、meviyとはどのようなものなのか、概要を教えてください。
道廣氏(以下敬称略) meviyは機械部品調達のAIプラットフォームで、3D CADのデータをmeviyにアップロードして条件を指定するだけで、約1分で見積もりが完了しその場で注文できるサービスです。Web上で穴の形状や寸法など細かな指定ができるほか、meviyで受注したデータを同時に工場と連携し、部品の加工や切り出しなどを自動で行います。

製造業のバリューチェーンにおいては、いろいろな無理や無駄が存在しています。中でも大きな課題が部品の調達で、3D CADで設計した図面を一旦紙の図面に落として、そこから加工業者に見積もりをとって……と、大変非効率な工程が当たり前のように行われていました。例えば1,500点ぐらいある設備の部品をすべて調達しようとすると、およそ1,000時間もの時間が消費されていると言われており、ここが製造業全体のボトルネックになっています。これをITの力で解決する、つまり時間を生み出す、そういった戦略を今ミスミグループとして取り組んでいます。その一つが、meviyです。

--なぜDTダイナミクスを設立しようと考えたのか、きっかけや狙いはどのようなものがあったのでしょうか。
道廣 設立を考え始めた当時は、meviyを日本国内からグローバルに展開しようとするフェーズでした。それまでもCCTさんと一緒にmeviyを開発してきましたが、グローバル展開を考えると、開発しなければならない項目が大幅に増えるという問題がありました。さらに、新たな展開によって出てくるお客様の要望や意見に対して、より迅速に対応する必要が出てきます。これらを背景に、合弁会社設立の話が進みました。
設立にあたり、具体的には三つの目的を掲げています。一つ目は開発力を強化すること。二つ目はCCTさんの技術とミスミの技術を一つの会社に集めることにより組織や人を強くすること。そして三つ目はCCTさんがどのようにITと向き合っているのか、そういった文化を取り入れてミスミに新たな文化を醸成すること。これらの目的を実現するためにも、一つの同じ会社でやっていきたいと考え、合弁会社設立に至りました。
--開発を請け負う側としては、普通であれば、合弁会社を作るよりも、例えば、管理オペレーションの費用をもらって、リリース後も取引を続けていくやり方も経営的には考えられると思います。なぜそうではなく一緒にやるという判断に至ったのか、CCTの側から見た背景についても金子社長からお聞かせいただけますか。
金子氏(以下敬称略) 当社のお客様への向き合い方とも少し関係しますが、我々はただ単にシステムを作っているわけではなく、システムを作った上でお客様が描いている事業を共創し、強めていくことが役割だと思っています。お客様が描いている事業の未来や目指す姿に対して、作ったシステムやプロダクトを最大活用していただきたい。そういった経営戦略の中で、デジタル化を推進したり、ITを活用したりしています。
meviyに関しても、システムを作ったらそこがゴールなのかというと、そうではありません。meviyは製造業の無駄を省き、社会課題の解決につながるミスミさんの非常に優れたサービスです。グローバル戦略で多くの海外のお客様にも使っていただき、ミスミが海外事業を強める一つの事業体の手段として成長させる、ここも含めてきちんと支援ができる立ち位置で向き合うことが、我々としての目指す姿なのではないかと考えました。
海外のマーケットに対して素早く需要に応えていくためには、今までのように外部の会社として要件をいただき、ものを作るやり方よりも、中に入って我々の技術を段階的に移転しながら開発を進めたほうが、もっと早く要件を具体化できる。そして、meviy自体をもっと素晴らしいものに成長できると考えました。その上で、このmeviyというサービスを世界に届ける軌跡をご一緒したい、そんな思いが、DTダイナミクス設立という形につながりました。

--御社の中で、こうした合弁会社を作る事例は他にもあるのですか。
金子 いえ、ミスミさんとの取り組みが最初のモデルケースになります。これまで我々の業界は、業務を受託して売上を立てるのが主なやり方で、その後の支援については経営的な観点からいくと売上や利益につながりにくいのが正直なところです。今回のような取り組みは、日本の中ではあまり多くない事例なのではないでしょうか。
しかし、売上や利益について考慮することは当然必要ですが、システムを提供するならば、作った後こそが本番です。そこにIT業界としてどう答えていくのか、模索しながらもきちんと解を出し、もっと先まで支援していける産業に変えていきたいと私は考えています。そのほうが未来につながるはずですし、そのためにも、今回の取り組みを形にしていきたいですね。
綿密な計画がスムーズな技術移転の成功要因。設立前と比べて生産性が3倍に
--2022年9月にDTダイナミクスを設立し、約2年半が経ちましたが、合弁会社を作った効果について今の所感をお伺いできますか。
道廣 合弁会社設立には、CCTさんの技術を移転して開発力を上げ、内製化を進めたいという目的がありましたが、この2年半を振り返ると、思った以上に順調に進んできたというのが私の感覚です。
具体的には、生産性が大きく上がりました。一つの長いプロジェクトをまず一つ当たり大体3日から1週間ぐらいのタスク・チケットに分割し、1ヵ月で出せるアウトプット、すなわち完了できるチケット数から生産性を測っているのですが、その手法から考えると生産性はビフォーアフターでおよそ3倍に上がっています。
また技術移管に関しても、最初は心配な面もありましたが、思ったよりスムーズにやれたと感じています。設立前から一緒に開発してきた経緯もあり、身内のような近しい関係だったことから、エンジニア同士の関係が非常に良好だったことが良かったのかなと思います。
金子 3ヵ年計画で、主要な技術要素をDTダイナミクスのコアとなる社員に技術移転をし、開発生産性を段階的に引き上げていくシナリオプランでしたが、その計画自体も上手く機能しましたね。
道廣 確かに、計画が元々よく練られていたことも大きかったですね。meviyには汎用性の高い技術と専門性が高い技術が同時に存在しています。例えば3Dの形状処理のような難しいものは最初や最後のフェーズに置いて比較的長いタイムスパンを見積ったり、簡単なWebの汎用技術などは短いスパンでいけると想定したり、綿密な計画がその通りにはまって上手く取り組めたと思います。そこをもし読み違えていたら、混乱があったかもしれません。
我々が内製化が大事だと思った理由の一つに、システムやソフトウェアの解像度を上げたいとの思いがありました。開発工程では、いろいろなタイミングで意思決定が生じます。要件を詰めていく段階でどう実装するかを考える際、ソフトウェアの中身に対する解像度が高ければ意思決定も当然早くなりますし、リリース直前でバグが生じた際でも、この不具合はこういう作りになっているからお客様への影響はそれほど高くないな、といった判断ができるようになります。解像度が高ければ高いほど、すなわち内製化ができているほど、判断が早くなります。さらに言うと、ソフトウェアは作って終わりではなく、運用する状態になってからもシステム障害が起きることがあります。その場合でも何が起きているのか見当が早くつくので、障害復旧のスピード感につながっています。
CCTさんと取り組んできた内製化の取り組みが、全行程の最適化にすごく効いています。それこそがシステム開発を内製化する本質ではないかと強く感じています。
内製化を成功させるキーとなるのは「採用」と「コア技術の習得」
--内製化については、多くの企業がやりたいと考えてはいるものの、上手くいかないケースも多いと聞きます。
金子 内製化を成功させるためには、採用とコア技術の習得、この二つが避けて通れない鍵となる要素です。
DTダイナミクスは現在、順調に開発に取り組めていますが、非常に優秀なエンジニアを採用できていることも大きく影響していると思います。その方たちを通じて、当社のコア技術を形式知としてだけではなく、実務能力としてDTダイナミクスにどんどん移すことができている。そしてそのエンジニア達がサービスの主戦力として活躍ができているからこそ、本来の意味で発注者側がシステム開発をドライブするという姿にできていると思います。採用とコア技術の習得、この二つが現実的に進まないと、内製化はなかなか難しいのではないでしょうか。
--今、採用はどこの企業も苦労している大きな課題の一つです。DTダイナミクスが優秀な人材を採用できている秘訣、ポイントは何でしょうか。
道廣 それはもう間違いなく、プロダクトのコンセプトとビジョンでしょう。meviyに関する新規プロダクトのエンジニアを集める際も、やはりmeviyが目指すものや事業会社としてのビジョンについてお話すると、「これまで作ってきたWebサービスと何か違うぞ」という反応があり、非常に相手の心に響くんです。
製造業の課題や社会の課題を解決するという目的、それから3Dの技術とWebの技術が融合しているという特性、それらが合わさって、とてもユニークで難しい、難しそうだけども面白そう……と興味を持ってくれる方が多いんです。私たちの思いに共感してくれた上で、何かとてつもない高い山があるので登ってみたい、そんな風に考えていただけていると思います。

大企業とベンチャー、それぞれの強みを融合し、世界に価値を届けたい
--改めて、外部のベンターとしての連携ではなく、合弁会社設立という形を取るメリット、良い点はなんでしょうか。 道廣 やはり、私達が考えているミスミの戦略をしっかりとすぐに共有できる点が大きいのではないでしょうか。例えばセキュリティなどは、対策を取る必要がある一方で、やろうと思えばどこまででも無限にできてしまうので、判断が必要です。そうした際に受発注の関係だと、どこまでやっていいですか、どこまでやって欲しいですか、と相手の意向確認からスタートし、時に平行線になってしまいます。その点、一つの会社であれば「ここまでやるべき」と決めを作り、スピード感を持って取り組むことができます。
上流の考えやお客様の声などを、一つの会社、ミスミグループの一員としてすぐに共有できるので、同じ情報の密度で取り組める点は大きいかなと思います。
金子 DTダイナミクスの設立以前から、ミスミさんとは一緒にアジャイル開発に取り組んできました。会社は分かれていたものの、物理的にも近くの場所で、担当者同士が直接コミュニケーションを取りながら開発する手法を取ってきたんですね。私は、このアジャイル開発からもう一段踏み込んだ究極の形が、合弁会社による内製化支援だと感じています。アジャイル開発の良さを極限まで引き出したのが、この取り組みではないでしょうか。
会社も一体となり、可能な限り情報を共有しながらやっていく。だから早いし、同じ思いを抱くことができる。何かイチから新しい形に変化させたというよりは、元々やってきたものを、最大限踏み込んで進化させた感覚を持っています。
--金子様にお伺いします。内製化支援や技術移転することは、お客様にとってだけではなく、CCTにとってどのようなプラスが考えられるのでしょうか。CCTが今回の取り組みで得られることや実現できることについて、聞かせていただけますか。
金子 私達としても、実際に数多くのものを得ることができたと感じています。私達はIT技術そのものについての専門的知見を持っていますが、それを実際に使う立場の方たちの業務や戦略などに関しては、通常、お客様から伺って理解するしか術はありません。つまり本を読んで理解するのと大差ない、形式知としての理解にどうしてもとどまってしまうんです。その点、今回のように一歩進んで同じグループの一員としてやらせていただくことで、事業会社の実際の様子や事業を通じたお客様のリアルな声を直接知ることができます。顧客理解につながるさまざまな声、さらにはシステムの裏側にある狙いなど、当社の社員が得られる情報の質も量も格段に向上しています。
合弁会社としてご一緒させていただいたことで、開発しているシステムのそもそもの狙い、目指す姿は何かという点について、当社の社員もミスミさんと同じ言葉で語れるようになっているのではないかと思います。こういうプラスの変化は、IT会社単独ではなかなか実現することはできません。合弁会社として一緒に開発に取り組んだからこそ得られる、大きな価値だと思います。
--最後に、将来の展望、未来に向けて今後取り組みたいことについて、それぞれお話いただけますでしょうか。
道廣 DTダイナミクスに関しては、CCTさんとこれまでmeviyを一緒に開発する中で築いてきた信頼関係、培った実績が上手く絡み合い、比較的順調に進んでいると考えています。しかし、ミスミグループ全体で見ると、まだまだやるべきことがたくさんあります。日本から世界に発信できるプロダクトをどう作っていくか、日本の強みをどのように生かすのか、そして、そこにITがどう関与し、日本を下支えしていくのか……ソフトウェアの力を使ってCCTさんと一緒にやれることがたくさん残っていると思うので、今後も思いを共にしながら、一緒に取り組んでいきたいと思います。
金子 このmeviyというサービスを世界に展開し製造業の役に立つサービスとしてさらに成長させるためには、我々ITベンダーだけでは実現できない、難しい壁がたくさんあります。それらはまさに、製造業の強みとブランド、そして組織力を持っているミスミさんだからこそ、超えられるものです。一方で、各地の需要に未来志向でクイックに応えていくところは、大企業よりもベンチャーのほうが優れた側面があります。大企業としての強みと、我々が持つ強み、この両面と個の力を融合していくことが一つの答えなのかなと思っています。
さらに、私たちがこの取り組みに参加している根本にある動機、原動力は、ミスミさんという一つの企業を盛り立てることだけではなく、素晴らしい価値を世界に届ける、そこに貢献する、そしてそれをどこまで広げられるかというチャレンジなんです。そんな「わくわく感」をご一緒できる取り組みとして、今回の合弁会社の器が一つの形になっていくことができれば、未来につながっていくのではないか、そんな期待を持っています。

【関連リンク】
株式会社DTダイナミクス https://dt-dynamics.com/
株式会社コアコンセプト・テクノロジー https://www.cct-inc.co.jp/
meviy https://meviy.misumi-ec.com/ja-jp/
(提供:Koto Online)