この記事は2025年5月30日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「企業進出は堅調である一方、在留邦人数が減少するシンガポール」を一部編集し、転載したものです。


企業進出は堅調である一方、在留邦人数が減少するシンガポール
(画像=asab974/stock.adobe.com)

(日本貿易振興機構「地域統括機能拠点調査」ほか)

シンガポール会計企業規制庁(ACRA)の登記データによると、同国における経営実態のある日系企業(日本に住居する法人・個人が10%以上出資する企業)は、2024年3月時点で4,558社に上る。日系企業の年間設立件数は、22年に300社と過去最高水準に達し、進出の動きは堅調だ。

ただ、日系企業の顔ぶれはこの30年間で大きく変化している(図表)。企業登記の事業分類「シンガポール産業分類基準」(SSIC)別に見ると、1991~2000年にシンガポールで設立された日系企業の中で最大の割合(40.3%)を占めたのは卸売部門で、次いで製造業(18.8%)だった。しかし、21~24年3月には新規設立の割合はそれぞれ15.0%、2.1%へと大きく縮小した。

一方で、大きく拡大したのが情報通信技術(ICT)部門だ。ICT部門の日系企業の新規設立の割合は1991~2000年の1.0%から、21年~24年3月には18.3%に拡大した。シンガポールは14年以降、「スマート国家」構想を掲げ、国を挙げてのデジタライゼーションに取り組んでいる。同国の国内総生産(GDP)に占める情報通信部門の割合が10年の3.6%から24年に6.5%へと拡大しているように、ICT関連サービスの需要拡大が同部門の日系企業の進出を後押ししている。

日系企業の新規設立件数のうち、経営コンサルタント部門が占める割合も、1991~2000年の1.0%から21~24年3月には17.2%へと拡大した。当法人の地域統括機能拠点調査によると、日系企業でシンガポールに地域統括拠点を置く企業は23年時点で87社と、東南アジアおよび南西アジア地域においては最も日系企業の統括拠点が集積する。こうした背景が、コンサルタントや人材会社、法律事務所などのビジネスサービス会社の進出要因となっている。

ただ、日系企業の増加は必ずしも在留邦人の増加には貢献していない。外務省の海外在留邦人数調査統計によると、シンガポールの在留邦人数は24年10月時点で3万2,565人と、前年比3.8%増加した。しかし、在留邦人数は依然、新型コロナ禍前の19年10月時点の数値(3万6,797人)を下回っており、減少傾向にある。

その背景には、産業構造の変化とともに、外国人の就労査証の発給基準が引き締められていることがある。駐在員の増員が厳しくなる中で、地元人材の幹部登用も進みつつある。日系企業の進出が堅調な一方で、企業活動を支える人材の顔ぶれも変化している。

企業進出は堅調である一方、在留邦人数が減少するシンガポール
(画像=きんざいOnline)

日本貿易振興機構(ジェトロ) シンガポール事務所/本田 智津絵
週刊金融財政事情 2025年6月3日号