この記事は2025年5月30日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「低い成長率と財政不安で先行き不透明なフランス経済」を一部編集し、転載したものです。


低い成長率と財政不安で先行き不透明なフランス経済
(画像=Daria/stock.adobe.com)

フランスでは、2月に2025年度予算法案が辛くも成立したものの、26年度の予算法案の行方は不透明な状況だ。フランス政府は400億ユーロ(約6兆4,000億円)の歳出削減を進め、GDP対比財政赤字比率を24年の5.8%から25年に5.4%、26年には4.6%とすることを目指している(図表)。25年の目標は達成可能とみられるが、26年以降の目標達成は難しくなっている。

低インフレと欧州中央銀行(ECB)による利下げのほか、底堅い国内企業の利益率やドイツの財政拡大の波及効果が、フランスの経済成長を下支えすると考えられる。しかし、ドナルド・トランプ米政権の関税による世界経済への悪影響に加え、フランスの財政政策を巡る足元の状況は、極めて不透明だ。当社はフランスのGDP成長率を25年0.8%、26年1.2%と予想していたが、それぞれ0.6%、1.1%と下方修正している。

フランスの予算はすんなりと通過しない状況下にある。年金コストや利払い費が増加する一方、マクロン大統領が説く「30年までに防衛費をGDP比3%までに引き上げる」という将来目標も無視できない。

それでもフランスは、ユーロ圏の制約により、持続可能な財政健全化の実現を果たす必要がある。今後4年間で毎年GDP比1%に相当する規模の財政緊縮化が必要になるが、同国史上、これほどの規模で財政緊縮化が進められた例は他にない。

経済成長もままならない中で、財政規律を守りながらいかに財政政策を執行しようとしているのか。その一つの希望になるのが防衛ファンドだ。フランスの防衛産業は、九つの大手グループと4,500社の中小企業で構成されており、就業者数は約25万人にも達する。

フランス政府は3月に、防衛セクターへの投資需要の高まりに応え、資金投入のためのファンドの創設を発表した。詳細は今後公表されるが、ファンド運用はフランス公共投資銀行であるBPIフランスが担い、最低投資額500ユーロで個人投資家から資金を集め、その資金を防衛セクター株などに投資する(当初5年は投資資金を解約できない)。フランスで、こうした防衛産業に対する資金投下を税金や国債発行(借金)によらず、国民からの投資で実施できれば、日本にとっても防衛財源のヒントになるかもしれない。

ただし、防衛ファンドによる調達資金は4億5,000万ユーロ(約720億円)に過ぎない。マクロン大統領の「GDP比3.0%の防衛費」を目指すためには追加で30億ユーロ(約4,800億円)が必要とされており、このままではまったく足りない。

フランスの財政健全化に向け、富裕層を対象とした増税を恒久化することも政策の選択肢になり得る。だが、景気が低迷している中で、消費に水を差したくない政府の意向を考えると付加価値税や社会保険料の引き上げも考えにくい。歳出削減に軸足を置くしかないが、解散総選挙が可能になる7月7日が近づいており、ドラスティックな決断はできそうにない。現時点で、フランスが混沌状況から抜け出せる道筋は見えない。

低い成長率と財政不安で先行き不透明なフランス経済
(画像=きんざいOnline)

BNPパリバ証券 チーフクレジットストラテジスト/中空 麻奈
週刊金融財政事情 2025年6月3日号