エッジAIカメラとは? 導入メリットや注意点を事例つきで解説
(画像=miss irine/stock.adobe.com)

端末自体にAI技術を搭載したエッジAIカメラは、様々な業界で導入が進められています。例えば製造業では、工場内の異常や在庫状況を把握するのに加えて、作業工数や設備状態を解析できるシステムも登場しました。

実際にエッジAIカメラはどういった場面で役立ち、どのような導入効果を期待できるのでしょうか。本記事では、エッジAIカメラのメリットや注意点に加えて、実際の活用事例を紹介します。

エッジAIカメラとは?

エッジAIカメラとは、末端デバイス(エッジ)であるカメラ本体にAI処理機能を搭載したシステムです。機器自体にAIを搭載することで、千分の一秒単位のようなリアルタイムに近い解析と、高いセキュリティを実現しやすい特徴があります。

従来のネットワークカメラ(IPカメラ)では、映像データの解析や異常検知などを人の目や別のシステムで行う必要がありました。一方で、エッジAIカメラはデータを自ら解析できるため、人や別のシステムの介在を減らせます。また、別のシステム(クラウド)へのデータ送信を最小限に抑えることで、通信コストの削減やプライバシー保護につながる側面もあります。

すでに製造現場や駐車場、無人店舗などへの導入事例があり、今後も多くの業界で活用が見込まれています。

クラウドAIとの違い

以下の表は、エッジAIカメラとクラウドAIカメラの違いを比較したものです。

比較項目 エッジAIカメラ クラウドAIカメラ
エッジ(カメラ)の役割 エッジで映像データを取り込み、AIで解析を行う エッジで映像データを取り込みクラウドに送信する
ネット接続 必要時、解析データのみクラウドに送信。オフライン処理が可能。 映像データ送信のためエッジとクラウドの接続が常に必要
クラウドの役割 解析データの蓄積 映像データの解析と解析データの蓄積
処理速度 クラウドを介さないため、リアルタイムに近い処理が可能 クラウドと通信をする分だけタイムラグがある
映像データのセキュリティ 映像データがエッジに分散し集中しないため、データ漏洩のリスク範囲を限定できる 常時接続する通信、映像データが集約されるクラウドのセキュリティ対策が必要
導入コスト
(カメラの費用)
カメラに高性能なプロセッサやソフトウェアを搭載する必要があるため高額になりやすい AIでの解析をクラウド上で行うため、カメラ自体は比較的安価
導入シーンの例 リアルタイム性が求められる駐車場の監視、購買行動の分析をする小売店など ネットワークインフラが整った生産現場、数千店舗の映像データを集約するチェーン店本部など
機器自体にAIが搭載されているのがエッジAIカメラ
機器自体にAIが搭載されているのがエッジAIカメラ
リアルタイムに近い解析と、高いセキュリティを実現しやすい

エッジAIがクラウドに送る「メタデータ」とは、AIのデータ処理によって抽出・分析されたデータです。つまり、エッジAIカメラは画像データそのものではなく、画像データに付随する情報のみをクラウドに送信するため、タイムラグや通信負荷を抑えやすい特徴があります。

エッジAIカメラの導入メリット

エッジAIカメラの導入は、長期的に見るとコストの削減につながります。クラウドAIに比べると情報漏えいのリスクも低いため、セキュリティの向上にも寄与します。ここからは、エッジAIカメラの具体的な導入メリットを3つ紹介します。

<エッジAIカメラの導入メリット>
1.リアルタイム解析や低遅延処理が可能
2.不安定なネット環境でも機能する
3.情報漏えいのリスクが低い

1.リアルタイム解析や低遅延処理が可能

エッジAIカメラは機器内でAI処理を行うため、リアルタイムに近いデータ解析が可能です。低遅延処理を実現しやすいことから、主に工場や交通監視といった迅速なレスポンスが求められる現場での活用が進められています。さらに、クラウドに送信するデータ量を抑えられるため、クラウド利用料や通信料の削減にもつながります。

ハードウェア性能の向上により、エッジAIの処理速度はよりリアルタイムに近づくことが予想されます。さらに将来的には超低遅延・超広帯域の5G通信と組み合わされ、少ないタイムラグで膨大なデータをクラウドに送信し、高度な推論をさせることも可能になると思われます。

2.不安定なネット環境でも機能する

エッジAIカメラのAI処理機能は、インターネット接続がないオフライン環境でも動作します。そのため、インフラが十分に整備されていない現場や、通信が不安定なリモート地域への導入も可能です。

例としては、山間部や島嶼部(とうしょぶ)、新興国地域、自然災害の復旧地域などが挙げられるでしょう。現場でのAI処理はオフラインで継続しつつ、メタデータが蓄積したときにクラウドと一時的に連携したり、ディスクで必要なデータを移送したりなど、様々な運用方法を模索することができます。

3.情報漏えいのリスクが低い

クラウドへの通信量を抑えられる点は、システム全体のセキュリティを高めることにもなります。

2020年~2021年にかけて、IoTカメラの販売・サポートを行っていたA社で、映像データの大規模な漏洩事件が起こりました。A社のネットワークに大規模なセキュリティ侵入があり、ハッカー集団は管理者レベルのアクセス権を獲得。A社は顧客データの暗号化や、複雑なパスワードの要求といったセキュリティ対策を講じておらず、結果として15万台のライブカメラ映像が漏えいしています。

クラウドに保存するデータ量を増やすと、不正アクセス時の被害が拡大するのに加えて、通信時にサイバー攻撃を受けたときのリスクも高まります。また、クラウドにすべてのデータを集約すると、一度の侵入で関連する多くの情報が外部に晒され、被害が大きくなる可能性があります。

一方、エッジAIカメラはデータを端末ごとに分散するため、仮に1台が侵害されても被害の範囲を限定しやすいというメリットがあります。ただし、端末ごとのトラブルに目が届きにくく、物理的な攻撃や不正アクセスがあった場合には対応が遅れてしまうことには注意が必要です。

エッジAIカメラの活用事例

エッジAIカメラは日々進化しており、現在では物体検出や異常検知のほか、以下のような機能をもつシステムも登場しました。

<エッジAIカメラの機能例>
・姿勢推定(映像に映りこんだ人の姿勢を推定する)
・転倒検知(高齢者や障がい者の転倒をすばやく検知する)
・物体追跡(人や物体の動きを追跡する)
・物体カウント(車両や農作物などの数をカウントする)
・感情分析(人の目線や表情から感情を解析する)

ここからは、実際にエッジAIカメラが活用されている事例を紹介します。

1.駐車場の空車状況を把握/エコモット株式会社

エッジAIカメラ単体の事例としては、駐車場の監視システムが挙げられます。

例えば、エコモット株式会社が開発した『MRM-900』は、駐車場内で停止している自動車を検知し、リアルタイムの空車状況を解析するエッジAIカメラです。走行中の車も種類別に識別できることから、交通量やスピードの調査にも活用されています。

NVIDIA製GPUの搭載によって高い処理能力を実現しており、将来的には自動車走行中の路面状況を解析し、道路の剥離や劣化を検知するような活用シーンも想定されています。

参考:エコモット株式会社 エッジAIカメラ | エコモット - IoT・AIソリューションカンパニー

2.顧客の滞留・属性データから購買行動の分析/HMS株式会社

エッジAIカメラを店舗に設置すると、顧客の滞留時間や動線、年齢などの属性情報をリアルタイムで解析できます。この解析データを活用することで、売り場のレイアウトや商品配置を変えるといった改善策を検討しやすくなります。

例としては、HMS株式会社が開発した『StoreSence』があります。『StoreSence』はエッジAIに対応した顧客属性解析サービスで、店前通行量や入店客数、属性情報を掛け合わせたデータ解析が可能です。

参考:HMS株式会社 小売・サービス業向けクラウドサービス「StoreSence(β版)」 リリースのお知らせ

3.工場の作業工数をリアルタイムで解析/株式会社シーエーシー

『OCTOps』の構成図
『OCTOps』の構成図

エッジAIカメラではありませんが、株式会社シーエーシーが開発した『OCTOps』でも、AIによるリアルタイム解析を実現できます。

『OCTOps』は映像を取りこむWebカメラと、AI処理を行うエッジマシンを組み合わせたソリューションです。すぐに利用できる汎用的なAIアプリケーションが提供されているのに加え、独自のAIアプリケーションを追加することで、各企業の生産現場や倉庫などに必要な独自のタスク処理でも活用できます。

例えば、製品や従業員の滞留時間から作業工数を把握したり、在庫の個数・場所をリアルタイムで一元管理したりするシステムを構築可能です。物流業や建設業への展開も目指しているため、エッジAIに関心がある企業様はぜひお問い合わせください。

参考:株式会社シーエーシー CAC、製造業の現場などを効率化するAI導入・運用プラットフォーム「OCTOps」を提供開始

エッジAIカメラの注意点

エッジAIカメラは導入コストが高く、現場によってはカメラ機器の設置に工夫が求められます。クラウドAIと比べた場合のデメリットも理解したうえで、導入の計画を立てることが重要です。ここからは対策も含めて、エッジAIカメラの注意点を3つ解説します。

<エッジAIカメラの注意点>
1.クラウドAIよりもカメラのコストが高い
2.用途や目的に合ったカメラが必要
3.カメラの設置場所の工夫が必要

1.クラウドAIよりもカメラのコストが高い

エッジAIカメラの処理能力を高めるには、高性能なプロセッサが必要です。また、カメラ自体にAIを搭載する必要があるため、クラウドAIに比べるとカメラのコストが高い傾向にあります。

安価な製品は1万円程度ですが、交通量の調査など多くの対象物を検知したり、滞留率などのデータをリアルタイムで解析したりする場合は1台あたり3~5万円が目安になります。画素数やプロセッサ、搭載されているAIによって価格帯は変わるため、必要な要件・機能を判断してから選びましょう。

2.用途や目的に合ったカメラが必要

エッジAIカメラを選ぶ際には、適した設置環境や対応するAIモデル、通信帯域なども確認することが重要です。例えば、雨風にさらされる導入環境では防水性能、埃が多い環境下では防塵性能が求められます。

処理能力や価格を比較するだけでは、当初の目的を達成できない場合があります。各カメラの特性や耐久性、拡張性なども併せて確認し、導入環境に最適なエッジAIカメラを選びましょう。

3.カメラの設置場所の工夫が必要

エッジAIカメラは、設置方法やカメラの向き、カメラ自体の視野角により、データを取りこめる範囲や精度が変わります。

エッジAIカメラの購入前には設置計画を考えましょう。事前に導入現場を視察・確認することで、必要なサイズや視野角が分かることもあります。対象物が映らない場所に設置すると、正しい解析結果を得ることは難しくなります。温度などの環境や明るさの影響も受けるため、設置場所は慎重に決めることが重要です。

また、エッジAIカメラの設置後には動作を確認し、必要に応じて微調整を行います。細かい作業が難しい現場では、あらかじめリモートから角度を自由に調整できる機器を選ぶなどの工夫をしましょう。

エッジAIカメラを導入することでトータルコストが抑えられる

リアルタイムに近いデータ解析が可能なエッジAIカメラは、迅速なレスポンスが求められる現場で効果を発揮します。また、AIによる高度なデータ解析をその場で実行できるため、人的工数の削減や業務効率化につながるだけでなく、情報漏えいのリスクを軽減します。

近年では物体カウントや感情分析といった複雑な処理も可能となり、小売・製造・物流・医療など、様々な業種での活用が拡大しています。初期コストこそ高めですが、長期的な視点で見るとトータルコストを抑えられるでしょう。

現場改善やDX推進を検討中の企業は、今こそエッジAIカメラの導入を検討してみてはいかがでしょうか。

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