金田 燎弥氏
この背景は、本インタビューで金田さんが語ってくれた「技術がもたらす未来像」をプロンプトに、生成AIが描画したイメージです。

研究開発を担うR&D部門のエンジニアの素顔を映す企画「エンジニアのヨコガオ」。今回は、2023年入社の金田燎弥が登場します。学生時代からAIの研究をしてきたAIエンジニアが語ったのは、アンバランスな「根性」と「離島」について。彼の人物像に迫ります。

金田 燎弥(カネダ リョウヤ)
株式会社CAC Holdings R&D本部
大学で主に自然言語処理のAIを研究。卒業後、2023年に株式会社シーエーシーに入社し、R&D本部に配属。画像分析AIの開発や改善をはじめとしたAI開発業務に従事する。AI プラットフォーム『OCTOps』での工数把握AIや、リモートワーカー向けモニタリングアプリ『まもりも』でのAI処理を担当している。

スマートなイメージだったAI。背景には愚直さ

金田 燎弥氏

――中学生の頃にプログラミングをはじめたそうですね。

中学3年で部活のバスケットボール部を引退して暇な時間が増えたんです。自宅にパソコンがあって、ゲームばかりでは親の目も気になりますし、お金をかけずにできることを探してプログラミングに出会いました。

もともと数学や論理的なことが好きだったので、プログラミングの「論理的に動く」点が自分に合っていたのだと思います。当時、気軽に始めるにはちょうどいい趣味でした。ゲームエンジンで簡単なゲームを作ったり、サイトを手軽に構築したりと、作って動かすサイクルがとても楽しく感じました。

――大学では、自然言語処理やAIの研究に進まれました。

単にプログラミングが面白くて性に合っていたので、大学では情報工学を勉強しようと。中でもAIを選んだのは、大学に入学した2019年頃は第三次AIブームで、最先端の分野に触れられるのが楽しそうといった理由です。

学生時代は、ある文章が小説なのか新聞記事なのかを識別するAIや、文章の違和感を検知するAIの研究、いわゆる自然言語処理の分野を研究していました。自然言語でいえば最近はチャットボットが話題です。実はあのチャットボットの裏では、それぞれの単語や文字などを数字として扱い、さまざまな計算を行っています。AIをやるぞ!と意気込んで研究室に入ったら、まさか数式の勉強から始まることになったのは、正直驚きました。

それまでのイメージでは、いわゆる「Deepでポン」(*1)というように、パッとやれば、ボンとできるような、もっとスマートで簡単に結果が出ると思っていたのですが、実際に使いこなそうと思うとどうしてもポンというわけにはいかず、愚直な努力が必要だと実感しました。

*1「Deepでポン」はテック界隈、特に機械学習やデータ分析に携わる人たちの間で広まったミーム。とりあえずディープラーニングに頼ってポンと結果を出してしまおうという軽いノリを皮肉をこめて言っている。

――就職先としてCACを選んだのはなぜでしょうか。

学生時代の研究を強みとして、AIに熱心に取り組んでいるIT企業に絞って就職活動をしました。その中で、当社のソリューションコンセプトでもある「HCTech」は印象的でした。日々、AIが進化する中で人間味を大切にしているのが魅力的だなと。AIに対して「怖い」という印象を持つ人もいるなかで、人を軸に据えた温かみのある考え方に共感したのです。

CACを選んだ理由は他にもあって。ずばり安定感です。新社会人としての就職にあたって、やっぱり会社としての歴史や規模が大きいことに安心感を覚えましたし、エンジニアの在籍年数が長い点からも、「きっと働きやすい環境なのだろう」と感じました。実際に入社してみても、その印象は変わっていません。

課題解決に必要なことの1つは「根性」

金田 燎弥氏

――所属しているR&D本部では、どのような業務を担当しているのでしょう。

ひと言で言えばAIの開発と性能向上です。リリースされているものでは、カメラの映像を活用したAI導入・運用プラットフォームの『OCTOps』での工数把握AIの開発や、リモートワーカー向けのモニタリングアプリ『まもりも』ではAI処理を担当しました。現在取り組んでいるのは、工場にAIを導入する際の実用化検討などです。

その他、1、2カ月だけヘルプでプロジェクトに関わるようなことも多いです。学生時代からAIを研究していたこともあり、それなりにスキルはあるので、「この部分のAIの改善を手伝って欲しい」というようなラフなオーダーをされることがあります。

――根っからのAIエンジニアという印象ですが、もしAI関連ではないシステム開発や運用を任されたらどうしますか?

うーん、AIの仕事がいいなと思う反面、AI以外の分野も興味はあります。初めて触った言語がJavaということもあり、一時はシステム開発の本を読み漁ったりもしていました。

――AIを「研究」から「業務」として扱うようになって感じる難しさはありますか?

結構あります。研究では主に精度を追求すればよかったのですが、業務で使うAIはユーザーの要望や課題が多様で、数値的な精度だけでは不十分なことがあります。実際の業務が行われる現場では、精度が良くても処理に時間がかかり過ぎたり、リアルタイムで使えないといった課題が出てきたりします。

研究は「精度」で良かったのですが、業務となると人が使うことを前提とした「実用性」を考える必要があるのが難しいところです。

――“難しさ”に直面したとき、どのように解決しますか?

正直なところ、「根性」です(笑)。一見すると難しそうなユーザーの要望も、まずはやってみることが大切です。解決の方法に決まったパターンはないので、手探りで取り組むしかありません。

上司や先輩にも頻繁に相談しています。自分ひとりでは限界があるので、詳しい方々に疑問を投げかけて助言をもらうようにしています。CACの、特にR&D本部は比較的相談しやすい環境があるので、チャットや週次の定例会議などをうまく活用して問題解決をしています。

――仕事を通して、エンジニアとして成長を感じるのはどんなときですか?

日々、感じます。というより半ば強制的に成長させられている気がします(笑)。毎日のトライアンドエラーを繰り返すことで、着実に前に進んでいる実感があります。

あるAIモデルの開発をした際、当初、既存のAIをベースとしてAIを作ろうと思ったのですがうまくいかず、結局、ゼロから作らなければなりませんでした。1から開発する中で毎週、毎日というレベルで挫折を経験しましたが、その度に方針を考えたり助言を受けたりして、少しずつ改善を繰り返しました。約3カ月間、本当に苦労の連続で、とにかくドタバタしましたが、最終的に形にできたときは、自分の成長を強く感じました。とても濃密な3カ月でした。

課題に対して次々とアイデアを出す柔軟性と、最後までやり抜く根気強さは、この3カ月でかなり身についたと感じています。

――先ほども「根性」という言葉が出てきました。もともと根性はあるタイプですか?

そこまで強いとは思いませんが、中学・高校でバスケットボール部に入っていて、体力的にもかなり鍛えられたはずです。部活での経験と体力は、人生において踏ん張る時に役立っていると思います。

ヘリで上陸する離島で味わった冒険心

金田 燎弥氏

――現在、感じるAIの魅力や可能性についてお聞かせください。

現在のAIは人が行う多くの作業を効率的に支援できる段階にあって、そこが魅力です。今後さらに期待される可能性としては、人だけでは考えられないような思考の領域に到達しうるということではないでしょうか。例えば、AIで新しい科学の分子構造を発見する研究など、人の思考回路を超える成果を出すようなことがすでに始まっています。

それから学生時代に取り組んでいた自然言語処理の分野では、最近話題のLLM(大規模言語モデル)に興味があります。新しいモデルが出ると実際にそのモデルと雑談したり、哲学的な問いを投げかけたりして、どんな回答が返ってくるのかを、わくわくしながら遊んでいます。モデルによって癖があって面白いです。

――プライベートでは旅行が好きで、特に離島によく行かれるそうですね。

離島は好きです。八丈島や種子島、北海道の利尻島や礼文島にも行きました。最近はおなじように旅行好きな友人と青ヶ島という伊豆諸島の南端に位置する島にも行きました。青ヶ島は島の周囲が断崖絶壁で港はあるんですが、なんと私たちは八丈島からヘリで上陸しました。到着したときには、冒険心が刺激されました。

旅行は気分転換できますし、普段の生活では体験できないことを求めて、行った先で新しいことを見たり感じたりすることでリフレッシュしています。離島は、特に非日常感を味わえるのがいいんです。

――最後に、ご自身が考える理想のエンジニア像を教えてください。

お客様が抱えている課題を聞きながら、表面的なニーズだけでなく潜在的なニーズまで見極めた上で、専門的な知見を活かした技術的な解決策と結び付けられるようなエンジニアになりたいと思っています。

そのためにはお客様の業務内容を深いところまで理解する必要があるので、丁寧なコミュニケーションを心がけていきたいと思います。加えて、週末などには興味のある技術分野の本を購入して少しずつ知識を蓄えています。

最近は、ネットワーク関連やホワイトハッカーについての本を多く読んでいます。すぐに実務に直結するわけではありませんが、エンジニアとして技術の幅を広げておくことは重要だと考え、継続して取り組んでいます。

金田 燎弥氏

一見すると優男の金田さんですが、小学校では陸上、中学高校ではバスケ部で汗をかいてきたからか、言葉の端々に芯の強さが滲み出ていました。日々、成長を感じるという意欲的な毎日を送る金田さんの5年後、10年後が楽しみでなりません。

▽技術者が気になる技術

衛星通信が気になります。具体的には「スターリンク」のような技術です。旅行が好きなのですが、より非日常な感覚を味わうべく、新幹線や船では行けないような場所へと、旅行先のセレクションのハードルがどんどん上がっていて、電波が届かない場所へ行くことが多いんです。

僻地に行った際、スターリンクのような衛星通信がポータブルWi-Fiのように小型で安価に使えるようになったらいいなと。キャンプ場などで通信ができたら友達とリアルタイムで情報共有ができて面白いですし、山奥などで道に迷った場合でも、常に通信が確保されている安心感があります。そうすれば、旅の可能性も面白さもさらに広がるのではないでしょうか。

金田 燎弥氏

(提供:CAC Innovation Hub