この記事は2025年8月8日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「対米自動車輸出は数量で横ばいも、日系企業の収益は大幅に悪化」を一部編集し、転載したものです。


対米自動車輸出は数量で横ばいも、日系企業の収益は大幅に悪化
(画像=Ivan Kurmyshov/stock.adobe.com)

(財務省「貿易統計」ほか)

財務省の貿易統計によれば、2025年4~6月期の米国向け輸出数量指数(季節調整値)は前期比プラス0.4%となった(図表)。トランプ関税下でも、数量ベースの米国向け輸出は横ばい圏で踏みとどまっている。

一方、米国向けの輸出価格指数は3月の前年比8.4%から4月に同▲3.0%とマイナスに転じた後、5月が同▲9.8%、6月が同▲9.9%と低下幅が大きく拡大した。輸出価格低下の一因は円高だが、為替レートの変動以上に輸出価格指数は低下している。

4月から25%の追加関税が課せられていた米国向け自動車輸出では、輸出金額が4月に前年比▲4.8%と4カ月ぶりの減少となった後、5月が同▲24.7%、6月が同▲26.7%と減少幅が大きく拡大した。数量は4月が同11.8%で二桁増となった後、5月が同▲3.9%、6月が同3.4%と横ばい圏の動きとなっている。つまり、輸出価格の低下が輸出金額の大幅減につながっているのだ。

貿易統計の輸出価格指数は円ベースのため為替変動の影響が含まれるものの、日本銀行が公表する企業物価指数では、契約通貨ベースと円ベースの輸出物価指数が公表されている。北米向け乗用車の輸出物価指数を契約通貨ベースで見ると、3月の前年比▲1.5%から4月が同▲8.1%、5月が同▲18.9%、6月が同▲19.4%とマイナス幅が急拡大している。

関税引き上げによる輸出への影響は「価格競争力低下に伴う数量の減少」と「数量の落ち込みを緩和するための輸出企業の価格引き下げ」に分解できる。すなわち、米国向け自動車輸出は、価格の大幅な引き下げによって数量ベースの落ち込みを回避できている。米国に輸出する自動車は日本の海外子会社が米国で販売しているケースが多く、日本の親会社が米国でのシェアを維持するために、関税引き上げ分のコストを負担していることが推察される。

そのため、国内の企業収益は急速に悪化している公算が大きい。日銀短観(25年6月調査)では、自動車の25年度の経常利益計画が前回(3月)調査から大幅に下方修正(▲24.9%)され、前年度比▲23.4%の大幅減益計画となった。輸出の伸びが若干下方修正されたことに加え、売上高経常利益率が前回調査から大幅悪化(▲3.05ポイント)となったことが経常利益を大きく下押しした。

収益の大幅悪化を伴う値下げによるシェア維持には限界がある。実際、すでに日本の主要自動車メーカーは米国での販売価格を引き上げ始めている。米国での値上げは、日本車の価格競争力低下を意味する。自動車の追加関税は25%から12.5%に引き下げられたが、既存の関税率(2.5%)と比べれば、大幅な引き上げに変わりはない。今後、米国向け自動車輸出は数量ベースで落ち込むことが避けられないだろう。

対米自動車輸出は数量で横ばいも、日系企業の収益は大幅に悪化
(画像=きんざいOnline)

ニッセイ基礎研究所 経済調査部長/斎藤 太郎
週刊金融財政事情 2025年8月12日号