
「親も高齢になり、そろそろ実家のことを考えないと…」 「もし、親の家を相続することになったら、どうすればいいんだろう?」
多くの人が、いつかは向き合うことになる「親の家」の問題。いざその時が来ると、何から手をつけて良いか分からず、漠然とした不安を抱えてしまうものです。思い出の詰まった家だからこそ、後悔のない選択をしたいですよね。
この記事では、親の家を相続する際の4つの選択肢(住む・売る・貸す・空き家にする)について、それぞれのメリット・デメリットを徹底比較します。さらに、避けては通れない手続きや税金の話についても、できるだけ分かりやすく解説していきます。
- 親の家を相続する際は、まず「相続人の確定」「家の権利関係の確認」「資産価値の把握」を行い、現状を正確に理解することが重要。
- 相続後の選択肢は「住む」「売る」「貸す」「空き家」の4つで、それぞれメリット・デメリットや費用・手間・税金の負担が異なる。
- 手続きとしては相続登記が義務化されており、相続税や譲渡所得税、固定資産税などの税務対応も必要。特例の活用で税負担を軽減できる場合がある。
- 後悔のない選択には、経済面だけでなく家族の思い出や生活スタイルも考慮し、親が元気なうちに家族で話し合い、情報共有を行うことが重要。
相続が始まる前にまず確認すべき3つのこと
「親の家をどうするか」を考える前に、まず現状を正確に把握することが重要です。本格的な検討に入る前に、最低限、次の3つのことを確認しておきましょう。
①相続人の確定:誰が相続するのか?
まず、誰が財産を相続する権利を持っているのか(法定相続人)を確定させる必要があります。民法で定められた相続の順位は以下の通りです。
常に相続人:配偶者(夫または妻)
第1順位:子(子が既に亡くなっている場合は孫)
第2順位:父母(第1順位の子や孫がいない場合)
第3順位:兄弟姉妹(第1順位、第2順位の相続人がいない場合)
しかし、最も優先されるのは「遺言書」の存在です。親が遺言書を遺している場合、原則としてその内容に従って相続が行われます。まずは遺言書の有無を確認しましょう。
②登記情報の確認:家の権利関係はどうなっているか?
意外と見落としがちなのが、家の名義です。法務局で「登記事項証明書」を取得し、家と土地の所有者情報を確認しましょう。「父親名義だと思っていたら、祖父の名義のままだった」「土地は父親、建物は両親の共有名義だった」といったケースも少なくありません。権利関係が複雑だと、手続きも煩雑になります。
③資産価値の把握:家の現状はどうなっているか?
家の資産価値を把握することも大切です。
・住宅ローンの残債
ローンが残っている場合、それも相続財産(マイナスの財産)となります。
・家の状態
築年数、傷み具合、修繕履歴などを確認しましょう。
・立地
最寄り駅からの距離や周辺環境は、売却や賃貸の際の価格に大きく影響します。
これらの情報を集めることで、各選択肢をより現実的に検討できるようになります。
親の家、4つの選択肢のメリット・デメリット
現状を把握できたら、いよいよ具体的な選択肢の検討です。それぞれのメリット・デメリットを見ていきましょう。
①自分が住む
【メリット】
・住居費の節約:家賃や住宅ローンの負担がなくなり、経済的な余裕が生まれます。
・思い出の継承:慣れ親しんだ家や地域で暮らし続けられます。
・安心感:親が同居している場合はもちろん、近所付き合いが既にある環境は心強いものです。
【デメリット】
・ライフスタイルの不一致:通勤・通学に不便、部屋数が合わないなど、現在の生活と合わない可能性があります。
・費用の発生:リフォームや修繕にまとまった費用がかかることがあります。
・税金の負担:毎年、固定資産税・都市計画税の支払いが必要です。
・相続トラブルの種:自分が家を相続することで、他の兄弟姉妹との間で不公平感が生まれ、トラブルに発展するケースがあります。
【こんな人におすすめ】
・実家の立地や環境に不満がない人
・将来的にマイホームの購入や住み替えを検討している人
・リフォーム費用などを捻出できる経済的余裕がある人
②売却する
【メリット】
・現金の確保:まとまった現金を手にでき、他の相続人と公平に分割しやすいです。
・維持管理からの解放:固定資産税の支払いや、建物のメンテナンスといった手間とコストから解放されます。
・トラブル回避:「不動産」という分けにくい財産を「現金」に換えることで、相続トラブルを防ぎやすくなります。
【デメリット】
・思い出がなくなる:思い出の詰まった家が物理的になくなることに、寂しさを感じるかもしれません。
・手間と時間:不動産会社選びや内覧対応など、売却活動には手間と時間がかかります。
・希望価格で売れないリスク:市況や家の状態によっては、想定より低い価格でしか売れない可能性もあります。
【こんな人におすすめ】
・誰も家に住む予定がない人
・家の維持管理をしたくない人
・相続財産を現金で公平に分割したい人
③賃貸に出す
【メリット】
・継続的な収入:家賃収入という不労所得が期待できます。
・資産として維持:家を手放さずに済むため、将来自分で住んだり、価値が上がったタイミングで売却したりする選択肢を残せます。
【デメリット】
・空室リスク:常に入居者がいるとは限らず、収入が不安定になる可能性があります。
・維持管理コスト:入居者募集の広告費、設備の修繕費、管理会社への手数料などが発生します。
・トラブル対応:家賃滞納や入居者間の騒音トラブルなどに対応する必要があります。
・確定申告の手間:不動産所得を得るため、毎年確定申告が必要です。
【こんな人におすすめ】
・実家が駅近など、賃貸の需要が見込めるエリアにある人
・不動産経営に興味があり、勉強する意欲がある人
・維持管理コストをまかなえる資金的余裕がある人
④空き家のままにしておく
【メリット】
・実質的なメリットはありません
【デメリット】
・維持費の発生:誰も住んでいなくても、固定資産税や光熱費の基本料金、庭の手入れ費用などがかかり続けます。
・資産価値の低下:家は人が住まないと急速に劣化が進みます。
・リスクの増大:放火や不法侵入といった防犯上のリスク、台風などでの倒壊リスクが高まります。
・税金が最大6倍に:適切な管理がされていない「特定空き家」に指定されると、固定資産税の優遇措置が適用されなくなり、税額が最大で6倍に跳ね上がる可能性があります。
この選択肢は、百害あって一利なしです。 何も決められないまま放置することは、最も避けるべき選択だと覚えておきましょう。
【手続き・税金】選択肢ごとに徹底解説!
ここからは、少し専門的になりますが非常に重要な「お金」と「手続き」の話です。
①相続発生後の共通手続きと税金
どの選択肢を選ぶにしても、相続が発生したら以下の手続きと税金の検討が必要です。
・相続登記(名義変更)
親名義の不動産を自分の名義に変更する手続きです。2024年4月1日から義務化され、正当な理由なく怠ると過料が科される可能性があります。司法書士に依頼するのが一般的です。
・相続税
相続財産の総額が基礎控除額を超える場合に課税されます。
【基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数】
相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に申告・納税が必要です。
②選択肢別の手続きと税金
【住む】
・税金の種類:固定資産税、都市計画税
・税金の特例:相続税の計算において、土地の評価額を最大80%減額できる「小規模宅地等の特例」が適用できる可能性がある。
【売る】
・税金の種類:譲渡所得税(売却して得た利益に対してかかる税金)
・税金の特例
居住用財産の3,000万円特別控除
自分が住んでいた家を売る場合に、利益から最大3,000万円を控除できる。
被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除
相続した実家を一定の条件のもとで売却した場合に、利益から最大3,000万円を控除できる。
【貸す】
・税金の種類:不動産所得にかかる所得税、住民税
・経費計上:固定資産税、修繕費、損害保険料、管理会社への委託料などを経費として計上し、所得額を圧縮することができる。
【空き家】
・税金の種類:固定資産税、都市計画税
・注意点:前述の通り、「特定空き家」に指定されると、土地の固定資産税の軽減措置(最大1/6)が適用されなくなり、税負担が激増する。
まとめ
親の家の相続は、考えるべきことが多く、簡単な問題ではありません。後悔のない選択をするためには、まず「相続人は誰か」「家の権利関係」「資産価値」という現状を正確に把握することから始めましょう。その上で、「住む」「売る」「貸す」そしてリスクの高い「空き家」という4つの選択肢のメリット・デメリットを、ご自身の状況と照らし合わせてじっくり比較検討することが大切です。また、税金は大きな負担になり得ますが、活用できる特例がないかを確認することも忘れてはなりません。
しかし、何よりも重要なのは、お金の話だけでなく、家族の思い出という感情的な側面も絡み合うデリケートな問題だからこそ、親が元気なうちに家族みんなで情報共有をしながら話し合いを始めることです。
(提供:ACNコラム)