外食・フードサービスを対象とするM&Aが活発だ。今年は9月末までで27件(適時開示ベース)と月平均3件で推移し、年間最多だった前年(32件)を上回る勢いだ。目立つのが業態の多様化。インバウンド(訪日観光客)の急増を背景に人気のラーメンを新業態として取り込むケースが増えているほか、居酒屋が洋食レストランに進出する動きもある。
串カツ田中、最大規模のM&A
串カツ田中ホールディングスは9月半ば、郊外型のイタリアンレストランを運営するピソラ(滋賀県草津市)を買収すると発表した。95億円で全株式を12月1日付で取得する。串カツ田中として最大規模のM&A。主力の串カツ専門店に続く新業態の開発に力に入れており、その起爆剤としたい考えだ。
ピソラは関西を中心に、東海、関東に約60店舗を展開し、窯焼きビザや生パスタを売り物とする。2025年5月期業績は売上高72億2000万円、営業利益2億4500万円。
串カツ田中は昨年8月、てんぷら店「天のめし」の1号店を京都市にオープン。今年は3月にとんかつ店「厚とん」を都内に開き、5月に冷蔵総菜の宅配サービス「つくりおき.jp」に乗り出すなど、新業態の立ち上げが相次いでいる。
フレンチレストランに進出したのは、「九州筑豊ラーメン山小屋」を展開するワイエスフードだ。アジアンテイブル(横浜市)から東京・恵比寿のフランス郷土料理店「ロティサリーブルー」に関する事業を9月1日に取得した。
ワイエスフードはラーメン単一業態からの脱皮を課題とし、今年は焼肉店の買収も手がけた。
“激戦区”のラーメン業態
“激戦区”の様相を呈するのがラーメンだ。M&A Onlineが上場企業の適時開示情報をもとに、外食・フードサービスを対象とする2025年のM&A件数を調べたところ、9月末時点で27件を数え、このうちラーメン店をターゲットとする案件が7件と4分の1を占める。
横浜家系ラーメン「壱角家」などのガーデンは9月初め、都内で4店舗を展開する味噌ラーメンブランドの「萬馬軒」事業をグッドクリエイト(東京都渋谷区)から取得することを決めた。同社にとって味噌ラーメンは新ジャンルとなる。
博多ラーメン「一風堂」を展開する力の源ホールディングスも今年4月、味噌ラーメン8店舗を東京都と神奈川県で経営するライズ(東京都大田区)を子会社化した。
「京都北白川ラーメン魁力屋」を主力ブランドとする魁力屋は「肉そばけいすけ」、「札幌みその一期一会」などを19店舗運営するグランキュイジーヌ(東京都中央区)を7月に傘下に収めた。
魁力屋はラーメン市場について、外食の他業態と比較しても寡占化が進んでおらず、シェア拡大の余地が大きいとし、優良ブランドの取り込みに向けてM&Aにアクセルを踏み込む構えだ。