この記事は2025年11月7日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「関税強化など米国の政策変更が日本企業に及ぼす影響」を一部編集し、転載したものです。


関税強化など米国の政策変更が日本企業に及ぼす影響
(画像=Twt24/stock.adobe.com)

(日本政策投資銀行「設備投資計画調査」)

日本政策投資銀行が今年8月に公表した「2025年度設備投資計画調査」では、米国の関税強化の影響を受けやすいと考えられる製造業の25年度の設備投資計画は、前年度比21.0%増と堅調だった。米国の関税強化への対応についても、多くの企業が「影響精査中」または「特に影響なし」と回答している(図表)。6月の調査実施時点では、関税強化の影響はまだ顕在化していなかったといえる。

米国による関税強化を受け、日本国内での生産縮小や米国現地での生産拡大など、サプライチェーンの大幅な見直しが懸念されていた。しかし、本調査では「原材料・部品の調達先変更」「生産・輸出拠点変更」「米国以外への販路開拓」といった対応を取る企業の割合は全体的に高くなかった。現時点でサプライチェーンの根本的な見直しは限定的といえる。

一方、自動車や一般機械、電気機械など米国への輸出比率が高い加工業種のみに注目すると「米国での販売価格引き上げ」の割合は25.1%、「不確実性による投資先送り」は15.3%であり、素材業種(それぞれ13.2%、5.6%)と比べて高い水準を示している。関税強化の影響が長期化するなか、こうした企業の今後の対応については注視する必要がある。

他にも、米中対立などを背景に中国拠点を縮小する企業の動きが顕著となった。例えば、サプライチェーン見直しの内容として「海外拠点国内回帰」を挙げた企業の割合を見ると、中国拠点を縮小する企業が17.1%であったのに対し、そうでない企業は6.0%にとどまった。

ただし、中国拠点を縮小する企業では「需要地での事業拡大」(32.9%、そうでない企業は23.5%)、「海外拠点の一層の分散・多様化」(25.0%、同11.5%)の割合が高い結果となった。中国へのサプライチェーン上の依存が高いと指摘される日本企業は中国への過度な依存から脱却すべく、日本も含めて全世界を対象にサプライチェーンの多様化を図っていることが示唆された。

脱炭素については、トランプ政権の消極姿勢を受け、日本企業の対応の後退も懸念された。だが、脱炭素の取り組みを進める上での課題について「国際的な政策の不確実性」を挙げた企業の割合は14.0%と、全選択肢の中で「その他」に次いで低かった。逆風下でも、調査時点では、脱炭素の取り組み方針に大きな変化は見られない。

以上より、現時点では、米国の政策変更の影響が全体としてまだ顕在化していないと評価できる。ただし、関税強化などによって世界経済が減速した場合、日本企業も大きな影響を受けることが予想される。今後の日本企業の動向を見極める上で、関税強化などがいかに実体経済に影響を及ぼすかに注視する必要があろう。

関税強化など米国の政策変更が日本企業に及ぼす影響
(画像=きんざいOnline)

日本政策投資銀行 産業調査部 調査役/高田 裕
週刊金融財政事情 2025年11月11日号