創業100年を迎える環境エンジニアリングカンパニー、朝日工業社。設備工事業と機器製造販売事業を両輪とし、空気・水・熱の科学に基づく高度な技術で「最適空間」を創造し続けている。
建設業界が直面した「2024年問題」や人手不足といった課題に対し、同社はBIM活用やクラウド型作業日報、AIによる安全管理など、多岐にわたるDX推進で生産性向上と働き方改革を両立してきた。
技術本部長の木村隆志氏と工事統括部長の木村明彦氏に、その具体的な取り組みと、社員の働きがいを追求する組織づくりの秘訣を聞いた。
環境エンジニアリングカンパニーとしての強み
── お二人の現在の役職および仕事について教えてください。
木村隆志氏(以下、敬称略) 当社は、設備工事事業と機器製造販売事業の2つの事業の柱を有しています。設備工事事業では、主に「空気調和設備工事」と「給排水衛生設備工事」を行い、近年はプラント設備工事にも注力し、企画・提案から施工、保守メンテナンス・リニューアル工事までお客様の施設に対するエンジニアリングをワンストップで提供しています。
一方、機器製造販売事業では、半導体・FPD・電子分野向けの製造装置などの先端産業向けに精密環境制御機器を開発・製造・販売しています。また、設備工事事業と連携した空調関連装置の製造を通じて、グループ総合力の向上に努めています。
海外の拠点としては、台湾とマレーシアに設備工事事業の子会社を展開し、国内では全国に10拠点と北海道に子会社を有しています。また、技術研究所は現在千葉県習志野市に所在しますが、本年9月22日に茨城県つくば市に新しく「つくば技術研究所」が竣工し、12月上旬の稼働開始を予定しています。
私は技術本部長として、全社の技術全般を統括しています。技術本部では技術戦略の立案・推進、全社への研究開発の指導・推進、技術支援および技術指導、品質・安全監理、さらには人材育成の取り組みを担当しています。
木村明彦氏(以下、敬称略) 私は本店工事統括部長として、東京を中心とした首都圏エリアの工事部門の安全品質管理、人員配置調整、現場DX関連などを管轄しています。
── 18万件以上の施工実績と独自の特許技術があるそうですが、強みや特徴について教えてください。
木村隆志 弊社の強みは、設備工事事業に加え機器製造販売事業というメーカー機能を併せ持っており、半導体やFPD製造環境で使用される精密環境制御機器などの開発設計・製造・販売を行っている点です。
また、フィルムなどを均一に乾燥させるドライヤ装置の開発設計・製造・販売も行っています。設備工事事業と機器製造販売事業の両輪でお客様の要望にも柔軟に対応できることは大きな強みだと考えています。
また、技術研究所では高付加価値植物の研究を進めています。たとえば、コメにワクチンを組み込んだ“飲む”ワクチンである「コメ型経口ワクチン」の開発を千葉大学様と共同で進めており、これは他社にはない取り組みです。
植物関連に関しては、今後も積極的に取り組み、当社の強みの1つとして成長させていきたいと考えています。
もう1つの強みは、当社の社風でもある「誠実さ」です。社員が皆、真面目であり、誠実であることは大きな財産であり強みです。さらに、全社間での交流が年々活発になってきており、全社一丸となって同じ目標に向かえる体制であることも、当社の大きな強みだと考えています。
人材不足・労働時間制限の中で必須のDX
── 建設業界では「2024年問題」が転換期と言われていました。人材不足や働き方改革といった業界課題について、どのようにとらえていますか?
木村隆志 人材不足や担い手不足については、建設業界の大きな課題と考えています。加えて、時間外労働の上限規制は、建設業の課題解決のためにもしっかり対応しなければならないと考えています。
木村明彦 現場では、ベテラン社員、若手社員がともにワークライフバランスを意識した働き方を積極的に取り組んでいくことで、若手社員の現場に対する印象も変わり、人材不足という建設業の大きな課題の解決につながっていくことが期待されます。
また、人材不足という点では、若手社員に早く成長してもらうことが差し迫った課題です。解決方法としては、デジタルツールを活用した教育を進めています。私たちが10年かかった技術習得を、5年、あるいは3年で可能にできると考えており、いかに早く、この教育システムを標準化できるかが課題と捉えています。
DX推進の具体策で手ごたえを感じたものは?
── DXの具体的な取り組みについてうかがいます。BIM(Building Information Modeling※)について、設計から維持管理までライフサイクル全体での活用を掲げていますが、将来的にどのような顧客価値につながると考えていますか?
※Building Information Modeling…設計から施工、維持管理に至るまで、建物のあらゆる情報を3Dモデルに集約し、活用する仕組み
木村明彦 BIMは各社でビジョンが異なりますが、各社ともに現状ではまだ部分的な活用にとどまっています。
本来は設計から維持管理まで一気通貫で活用すべきですが、業界としてデータ活用の統一化をしなければ、それぞれがバラバラにシステムを確立してしまい、本来の目的が達成されない可能性があります。
当社では「ASAHIワークフロー」という基盤を作成し、現場にあった形で独自のBIMを構築しているところです。
最終的には、お客様の維持管理にまでBIMデータを活用することを目指していますが、現状ではまだそこまでには至っていません。
木村隆志 BIMが完璧にできあがれば、建物全体のエネルギーが見える化され、無駄なエネルギーを削減することも可能であり、お客様にとって大きなメリットになります。
── 現場の生産性向上については、ウェアラブルカメラや自動墨出し機などを導入しているそうですが、具体的な改善実績はありますか?
木村明彦 ウェアラブルカメラはベテラン社員と若手社員のリアルタイムでの技術相談に活用する目的で導入しましたが、当初はうまく使いこなせませんでした。現在は、教育動画の作成に活用しています。
自動墨出し機は、業務効率向上とコスト削減のため、大型現場で採用を進めています。
最も大きく進展したのは、作業日報のクラウド化です。以前は手書きやExcelでのアナログな運用で、協力会社様に現場事務所で記入していただいたり、朝礼でサインをもらったりと、手間がかかっていました。これをクラウド化し、協力会社様が携帯からすべての書類をデジタルで登録、確認できるようにしました。また、熱中症チェックシート・高所作業車等の各種点検表もすべてクラウドから行えるようにしました。
このシステムにより、協力会社様だけでなく、当社管理側も業務効率化が図られ、危険な作業などを把握し、フォローできるようになりました。また、作業員数などのデータ分析も行え、施工管理に有効活用できています。今後は継続的に機能を追加していき、さらなる効率化を目指します
木村明彦 安全面では、作業員の健康情報をウェアラブルデバイスからクラウドに転送し、異常があれば管理者のPCや携帯にアラームが届くシステムの導入を検討しています。
ツールの導入にベテラン社員のとまどいは?
── 部署間の連携や風通しを良くするために工夫されていることは?
木村隆志 本社が中心となり各事業店とのコミュニケーションを活発に行うことに加え、各事業店の課題や問題を一緒になって解決するように心がけています。
木村明彦 加えて、近年変わってきたのは、本社が主体となり、各事業店の部会(安全、品質、設計、DX、購買、CAD)を横断的に推進したことです。各店の責任者が全国的な打ち合わせを部会ごとに頻繁に開催するようになり、各事業店の方向性が一致するようになりました。これは大きくプラスに働いています。
── デジタルツールの導入にあたって、ベテラン社員から戸惑いの声や抵抗はなかったのでしょうか。その場合、どのように説得したのでしょうか?
木村明彦 ベテラン社員は、慣れないデジタルツールの習得に苦慮しているので、デジタルツールにより自分の仕事がどれだけ楽になり、生産性が向上するのかを、研修会で丁寧に説明する機会を設け理解していただきました。
このデジタルツールは協力会社様にも理解していただく必要があるため研修会でDX推進の方向性を伝えました。若手社員においては、すぐにデジタルツールを使いこなし、喜んでくれています。
その結果、若手社員がデジタルツールの使い方をベテラン社員に教えるといった、若手とベテラン社員の会話が生まれるなど、良い効果がでています。クラウド型作業日報も当初は協力会社様やベテラン社員から抵抗がありましたが、2年で9割以上が利用するようになり、今ではベテラン社員も喜んで使ってくれています。
また、継続的な教育も重要です。半年から1年ほどは、分からないことがあればすぐに問い合わせができる手段を用意して教育を続けました。今では、使いこなせる社員が増えたことで、我々が教えることが減り、現場で自然と普及が進んでいます。
現場に近いDX・AI活用が急務
── 中期経営計画で「デジタルファーストの働き方」を掲げていますが、現場だけでなく社内全体にDXが浸透してきたという実感はありますか?
木村隆志 浸透してきていると思いますが、まだまだやるべきことは多くあります。今後はさらにスピードアップして取り組んでいかなければならないと考えています。そのためにも、社員全員に同じ意識を持ってもらい、全社一丸となって取り組んでいく体制づくりに努めたいと思います。
デジタルやDXを活用する目的は、社員がモチベーション高く、能力を最大限発揮するために、長時間労働を減らして、休日や休暇をしっかり取得できる環境をつくることと考えています。社員一人ひとりがやる気をもたなければ、社員も会社も成長しないからです。
── AIやドローン、ロボットといった次世代技術の活用について、今後の計画はありますか?
木村明彦 AIについては、「現実に近いDX」と「未来に向けたDX」に分けられると考えています。我々はまず、現場に近いところでAIを活用するのが急務です。たとえば、現場で毎朝行うKY(危険予知)活動では、職長と作業員が危険について話し合いますが、これをAIで録音・採点し、危険予知が十分に行われているかを評価する取り組みを行っています。
このように、まずは現実的なAIの使い方を実践し、そのうえで未来に向けた活用を考えていく段階です。
── 現場の社員に期待することは?
木村隆志 社員には、現場第一の視点で、お客様の困りごとや「こんな技術があれば助かる」といった声を吸い上げてほしいと伝えています。また、社員自身も「この工場ならこんなものがあればお客様は喜ぶだろう」と考えながら現場を見てほしい。そうした現場からの声が本社に届けば、機器事業部や研究所で具体的な技術開発をより加速できます。
── DX導入によって、社員の働きやすさや若手のフィードバックにポジティブな変化はありましたか?
木村隆志 デジタル化の推進やAIの導入、そして現場での具体的な取り組みは、社員の目にも明らかで、業務のやり方が進化しつつあることを実感していると思います。
木村明彦 当社では「BIM/XD」というiPadを活用した進捗・発注・機能試験管理ツールと、クラウド型作業日報を前面に押し出しています。まず、部長・課長クラス約30名にDX研修を実施し、管理職のDXマインドを醸成しました。その目的は、データ活用の基礎を身に付けることで管理職が自ら問題を見つけ変革を主導していけるようになることです。
これはプラスに働いており、管理職の姿を見た若手社員も、会社や部署が変わったことを実感しています。これによりエンゲージメントが高まり、それぞれが問題意識を持って業務に取り組めていると感じています。
── 最後に今後の展望・目標を教えてください。
木村明彦 社員のエンゲージメントが高く、成長性や将来性に期待できる会社をめざして進み続けたいと考えています。
木村隆志 社員が能力を最大限に発揮できる環境づくりが重要と考えています。そのためにも、デジタルツールの導入やDXを積極的に推進し、社員ならびに協力会社の皆様が働きやすく、ストレスのない環境をつくっていきたいと考えています。そして、ワクワクする未来をつくっていきたいと思います。