1881年創業の造船所「大阪鉄工所」をルーツに持ち、現在は環境プラントや社会インフラを手がける総合エンジニアリング企業、カナデビア。2024年10月に社名を変更した同社はDX(デジタルトランスフォーメーション)を重点施策に掲げる。長年の課題である「技術伝承」と「人材不足」に対し、ITのプロと現場のプロが両輪となって挑む。デジタルを「利益の源泉」ととらえ、内製化と人材育成を強力に推進する同社のDX戦略に迫るべく、 ICT推進本部の橋爪宗信・取締役 ICT推進本部長と、近藤守・執行役員 ICT推進本部 副本部長に話を聞いた。
目次
造船から環境インフラへ。140年超の歴史で培った「挑戦のDNA」
── まずお二人の経歴や、ICT推進本部におけるミッションについて教えてください。
橋爪 カナデビアは、1881年に創業した大阪アイアンワークス(大阪鉄工所)が発祥で、以前は日立造船という社名でしたが、現在は造船もしておらず、日立グループでもなくなってから久しいため、カナデビアと社名変更しました。
主力は環境事業で、ごみ焼却発電プラントの設計、建設、運営等を手掛けています。ごみ焼却発電プラント以外も上下水処理の設備、橋梁、シールドマシン(トンネルを掘る機械)など、さまざまな機械を作ったり、エンジニアリング工事をするような事業が生業です。
ICT推進本部は、いわゆる情報システム部にあたる部署ですが、今は情報システム部としての機能は半分ぐらいで、あとは事業や働き方を変革するデジタル推進部門という位置付けです。私が責任者をしていますが、7年前まではNTTデータにいました。その経験とスキルを活かして、カナデビアの成長に貢献すべく取り組んでいます。
近藤 私が入社したのは1989(平成元)年で、昨年の春まで、主力事業である環境事業本部一筋でした。主に、都市ごみ焼却発電施設の設計や開発といった、現在の本流の事業に関わっていました。
昨春にICT推進本部に移り、今のタスクは、事業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進していくこと。特に環境事業本部は会社の大きな収入源ですから、そこのDXを進めていくのが私のミッションだと理解しています。
── 造船業から社会のさまざまなインフラを扱う現在に至るまで、大きな変革の歴史の中で、御社の独自の強みとはどこにあると分析されていますか?
近藤 端的に言うと、いろいろなものに挑戦するということが強みだと思います。造船から始まって、その技術を使ってプラント機器を作る、発電設備に行くといったことです。
また、本業とはちょっと距離のあるような、“飛び地”のようなところにも挑戦する精神が、1881年以降、根強くあることも強みだと思います。たとえば、「楽天トラベル」という名前でホテルの予約システムがありますが、あれは当社が開発した「旅の窓口」というシステムを楽天に事業譲渡したものです。また、小林製薬の「杜仲茶」も、当社が売却しました。
経営課題は「技術伝承」と「人材不足」。DXで属人化からの脱却図る
── プラント事業、社会インフラ業界において、現在最も大きな課題は何でしょうか?
近藤 人材が不足していることと、技術の伝承というところが、二つの大きな課題です。
2000年代に会社としても危うい時期がありました。採用ができなかったし、採用した人が辞めていった時期です。このため現在の人員構成も歪(いびつ)で、働き盛りである40代から50代中ほどという人が他の世代に比べて少ないのです。
さらに、技術を持った諸先輩方が退職されている。今、技術の伝承が非常に危ういと感じています。トップライン(売上)を上げるには、生産性の向上というのは必須です。
── その課題に対して、DXを使って具体的に取り組んでいることは何ですか?
近藤 技術の伝承に関しては、属人化といいますか、人に頼っている部分が大きいです。それをどうやって形式知化するか、データベースに残すかという取り組みを二年ほど前からやっています。
人材のほうは、従来は新卒採用中心でしたが、最近では経験者採用にも力を入れて、いい人材の確保に取り組んでいます。
「事業DX」「企業DX」「DX基盤」の三本柱。利益の源泉は内製化する
── 御社のDX戦略は「事業DX」と「企業DX」の二本柱で構成されているそうですが、この2つのDXの違いについて教えてください。
橋爪 非常にシンプルな戦略です。二本柱ではなく、実は「事業DX」「企業DX」、そして「DX基盤」というものを足して、三本柱で取り組んでいます。
まず「事業DX」は我々の商品です。製品やサービスを、ITやデジタルの力と融合させて、さらにお客様に喜んでいただけるようなものを提供していくルートです。
たとえば、機械を収めた後もお客様との接点を続かせるために、IoTなどを活用しています。IoTによって、機械を納めた後、お客様が我々の機械や設備をどう使われているのかが私たちに見えます。すると使い方の指南もできますし、いわゆる「壊れる前に直す」予兆保全も可能です。
次に「企業DX」ですが、これは私たちの働き方です。ホワイトカラーの働き方もさることながら、環境設備の設計、メンテナンス、現地の工事といったところは、きわめて労働集約な仕事の仕方をしています。
たとえば生成AIなどを使うと、労働集約なところから“ノウハウドリブン”といった形で、生産性を上げていける。もちろん、デジタルの前にBPR(業務プロセス改革)もやっています。この会社は古い会社なので、ハンコ文化などがあるので、そういうところからまず着手し、その後にデジタルでさらに省力化、自動化をやっていく。
三本目の「DX基盤」が一番重要です。事業DXや企業DXをやっていくときの基本的な方針として、「自分たちでできるところはやる」という方針、つまり「内製」をとっています。
なぜならば、先ほど言ったような、データ分析やノウハウに関わる部分は、我々の今後の未来における「利益の源泉」になると思っているからです。利益の源泉になるところは自分たちで作る。
私はよく「魚の取り方は教えてもらうけど、魚は自分で取る。井戸の掘り方は教えてもらうけど、井戸は自分で掘る」と言います。根幹となる考え方、ノウハウは自分たちで作ろうというのが今の方針です。「ものづくりとエンジニアリングに強みのあるカナデビアも、デジタルも強みにするんだ」とずっと言っています。
現場の「自動化」ニーズがDXを加速。人が人にしかできない仕事へ
── 事業DXの具体例として、ごみ焼却発電施設における「ごみクレーンの自動化」があるそうですが、これはどのような課題を解決するために導入したのでしょうか。
近藤 日本の人口は減っているので、ごみ焼却発電施設で働く人も減るわけですから、そこをいかに自動化するかに着目しているわけです。
ごみを燃やすところは一応、自動化はされているのですが、ごみは不均質なものですので、化学プラントのように安定していません。人が制御に介入しなければならないこともよくあるのですが、人がいなくなるとそういうこともできなくなります。
人に頼らない仕組みにしながらも、今までと同じように安定的で衛生的にごみを処理しながら、しっかりとエネルギーも回収できるようにする。そのために、AIを使って自動化していこう、クレーンを自動化できるようにしようという取り組みです。
今は既に、我々の会社からクレーンを遠隔操作できないかというところまで踏み込んで、開発を進めています。
── 新しいデジタル技術を導入する上で、先ほどハンコ文化のお話もありましたが、導入に対する大きな壁となったのはどのような点でしたか。
橋爪 この会社は壁がとても厚いんですね。冗談ではありますが、組織の壁は30mぐらいあると思います(笑)。
また、それぞれの機種、製品、サービスが、何十年もかけて今の状態になっていて、それぞれ担当者には自分なりの成功体験がある。「このやり方でここまでやってきたんだ」という誇りもあって、簡単には変えられません。典型的なJTC(ジャパニーズ・トラディショナル・カンパニー)だなと思います。
ただ、私は(新卒ではなく)外から来て7年間いて思うのですが、逆にそういう状態だからこそ可能性があるということです。
ここ数年間ずっとやってきたのは、勉強してもらうこと。DXの人材育成を真剣にやっています。これも作戦があって、「デジタルを導入しましょう」と言ってやっても反発がある。そこで、「DXはDよりもXが大事」と私自身が明言して、「D(デジタル)よりも先にX(変革)やりましょう。そのためにはデジタル使ったほうが楽ですよ、面白いですよ」という言い方をしています。
最初の施策としては「DXリーダー研修」を開いて、優秀な層を選抜して受けてもらいました。
DX人材の育成をやってきて、今年で累積500人くらいが受けることになります。研修が終わったら、学びの場である「DXコミュニティ」に入ってもらい、そこで定期的にいろいろなノウハウや情報を伝え続けてきました。
そのうちに、リーダー層の人たちはデジタルに抵抗感がない人材になってきました。そうやって下地を作っていくと、デジタルというものに対しても前向きにとらえ、自分ごととして取り組む人たちが増えてきました。
── そのDXリーダー研修から多くの事業アイデアが生まれたそうですが、現場から上がってきたアイデアを実現するための、重要なポイントは何でしょうか。
橋爪 一番求めているのは「自走」です。黙っていても、各本部の事業部門からデジタルを活用したビジネスアイデアが出て、自分たちのオンリスクでどんどんとやってもらえばいい。
そのDXリーダー研修の中で、デザインシンキングの手法を使ってビジネスアイデアを生み出すというワークショップがあります。
研修は発表して終わりで本当はいいのですが、発表した中には「本当にやりたい」と思う人たちも増えてきたので、そのネタを、全社の予算をつけて、実現できるようにしています。研修だけでやっているのでは、単なるアイデアレベルの話ですが、予算をつけて構想レベルにまで、リサーチしたり分析したりして、事業構想を練ってもらう。そのためのコストを確保する手配を我々がしています。
その結果、年間10件ほどの、割とリアリティのあるビジネスアイデアが出てくるようになりました。その後は、そのアイデアを本当にビジネスにしたければ、それぞれの本部の投資で進めてくださいという形です。
── DXの取り組みを通じて、実感されている成果は何ですか?
橋爪 たとえば、私はRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)をやっているのですが、たとえば「このプロセスをRPA化したい」という要望があったら、「今どれぐらいの時間かかってますか?」と申告してもらい、削減見込みをカウントします。
その結果として、今、現時点で年間7万8千時間の削減効果が一応あると見込まれています。
よく言われるのは、「このRPAとかAIとかやると、どれだけ人が減ってしまうのか」ということですが、これまでに人を減らしたことはありません。7万8千時間削減していますが、その分、人が減らされたことはないんです。やることが減った分、何かしら他のことをやっているんです。
技術の継承をAIでどう進めるか
── 昨今の「人手不足からの技術の継承」というところは、どこの業界も同じような課題を持っていますが、ここにはどのような形で取り組まれているのですか。
近藤 ごみ焼却発電施設では、一つは「標準化」です。ただ、その標準化も、標準書だけ、標準化されたシステムだけを作っていたら、技術の伝承になりません。
その標準化をするに至った過程、その考え方をしっかり書き残してもらう。私が環境事業本部にいるときは、そんなことをやってもらっていました。
技術の伝承という意味では、我々がプラントを建設、運営する中で、想定していない不具合などが起こりうるのですが、それを解決する手段、原因、解決の仕方を、データベースとして残すようにしていました。
ただ、昨今の生成AIが出てきて、今まで作っていたデータベースの作り方で、本当にAIがちゃんと読み込んでくれるのかという不安があり、不具合の情報に関しては「構造化」するために、AIでも読みやすいデータベースを作り直しているところです。
橋爪 当社はAIの活用がとても進んでいると思います。生成AIはこれからですが、それ以前の機械学習、画像認識(コンピュータビジョン)などはほとんどすべて内製でできています。(AIのコンペティションで)ディープラーニング大賞を獲ったりしていますが、あれもIT企業に頼んでるわけではなく、全部自分たちでやっています。
特にすごいのは「ファジー」(制御理論)を一生懸命やっていたことです。ファジー学会の元会長が顧問で在籍していましたし、機械学習やAIが出たときに、研究所の「知能化機械センター」で、自分たちで作るという取り組みをずっとやっていた。
その人たちのノウハウは非常に優れていて、NTTデータやIBMの人たちにも間違いなく負けないぐらいの技術力があります。
ただ生成AIは大規模すぎて作れないので、作るのではなく、使いこなすものだと考えています。ノウハウみたいなところを、どうやってその生成AIを経由して我々の耳に入るようにさせるか。そういう「カナデビアエージェント」をどう作っていくのかが重要です。
ここを真剣に考えると、「仕事をすればするほどノウハウがたまる」という仕掛けが作れそうに感じているんです。それを私たちは間違いなく、必ずここ数年の中で、そういうプラットフォームを作っていく取り組みはしようと思っています。
「グローバルデジタルカンパニーになる」
── 最後に、御社がDXを通じて目指す未来像を教えてください。
近藤 ITでできることはITに任せて、もっと人が「考える仕事」をしなければいけないと思っています。事業部門からの依頼事項は、「AIがやってくれるんだったら、全部書類をAIに作らせられないのか」といったことです。
「楽をする」というとおかしいですが、ITでできることに時間を費やすのではなく、価値を創造する仕事を増やすことを、ITを使って実現したいですね。
橋爪 お客様から選んでいただける、新たな付加価値のあるサービス・製品を永遠に作っていかないといけません。
我々の強みである製造業の長年培った技術をもっと先鋭化するルートとデジタルを掛け合わせて、もっとお客様にとっての付加価値を高めることをやらなければいけない。
さらに、我々はもっと利益・収益を上げていきたいですし、働いている社員たちにとって「働き甲斐があって、働きやすくて、働きたくなるような職場」にしないといけない。ここでデジタルが使えます。
この会社の事業・サービスは簡単にパターン化ができません。ごみ焼却発電施設でさえ一品一様のようなものですから。
我々は大きくて重いものを、お客様の欲しいものを作ってきました。未来においても、お客様が欲しがっているものを未来も予測して、バシッと提案して作れる。しかも、それが非常に効率のよい仕掛けを社内で作っていく。デジタルはここを補完できる、イネーブラーになる大きな技術だと思います。
主戦場は間違いなく海外です。スローガンとして、「カナデビアは将来的にグローバルデジタルカンパニーになるんだ」と言っています。製造業でも、ものづくりやエンジニアリングだけではなく、デジタルも同じぐらいの付加価値を生み出せるようにしていければ、未来は明るいと思っています。