株式会社大賀薬局

福岡を拠点に120年以上の歴史を持つ大賀薬局。創業以来、時代の変化に対応し、常に新たな事業領域を開拓している。5代目社長の大賀崇浩氏は、地域に根ざした「老舗ベンチャー薬局」として、エンターテインメントと医療を融合させた独自のブランディング戦略「オーガマン」を始め、支持を得ている。さらに、人と動物と環境の健康を一体的にとらえる「ワンヘルス」を掲げ、次なる100年を見据えた挑戦を続けている。そのビジョンとは──。

大賀 崇浩(おおが・たかひろ)── 代表取締役社長
1982年、5月生まれ。東京理科大学卒業後、大手商社を経て2008年に入社。調剤薬局事業本部長、ドラッグストア事業本部長などに従事した後、2016年4月に代表取締役副社長、2017年9月に5代目の代表取締役社長に就任。2019年10月には、「薬剤戦師オーガマン」としてデビューを果たし、医療費削減のため、残薬問題の啓発を行っている。
株式会社大賀薬局
1902(明治35)年創業。福岡県を中心に、全6県で調剤薬局、ドラッグストア、化粧品専門店121店舗を展開。理念は「地域の皆様にとって有益であり、安心して健やかに過ごすことができるための場所として存在し続けること」。人と動物と環境のよりよい共生を目指すワンヘルスを推進し、2024年には動物向け薬品の調剤をスタートさせ、人と動物の健康を守る企業を目指している。

目次

  1. 創業120年超、時代を先取りする変革の歴史
  2. ドラッグストアの先駆者から事業承継へ
  3. 「オーガマン」誕生秘話とヒーローの大義
  4. エンタメが起こす行動変容と地域一体企業
  5. 「ワンヘルス」で描く未来と子供に尊敬される企業

創業120年超、時代を先取りする変革の歴史

── 創業は120年ほど前になりますね。

大賀氏(以下、敬称略) 1902年に福岡県筑紫野市で創業したと聞いています。私の曽祖父にあたる大賀可壮が14歳のときに「大賀商店」という、いわゆるよろず屋を始めました。化粧品や雑貨、薬など何でも扱う100坪ほどの店で、近隣への配達も行っていたそうです。当時から深夜0時まで店を開いていたと聞きますので、今でいうアマゾンとコンビニを融合させたような業態を目指していたのかもしれません。

その後、薬の卸問屋を経て薬局業に至ったのは、私の祖父母の時代です。特に祖父は帝国陸軍の少佐で、アメリカで見た医薬分業の仕組みに感銘を受け、「これがこれから日本でも来る」と確信しました。祖母は当時、日本に薬剤師100人もいない時代に薬剤師になった人物で、競泳のオリンピック候補選手から薬剤師に転身した異色の経歴の持ち主です。

祖父が51歳で亡くなった後、祖母が社長を引き継ぎます。祖父の「現状維持は後退でしかない」という教えのもと、当時珍しかった調剤薬局のチェーン化を進め、7店舗、8店舗と増やしていきました。1961年から医薬分業が始まったばかりの時代で、医師が薬を出すほうが儲かるため、薬局の普及は進んでいませんでしたが、祖母は先見の明を持って事業を拡大したのです。

ドラッグストアの先駆者から事業承継へ

── 調剤薬局のチェーン化から、さらに店舗を拡大したのですね。

大賀 祖母が調剤薬局の礎を築き、次に私の父がアメリカで見たロードサイドの大型ドラッグストアの業態を日本に持ち込みました。「セルフで薬を買う時代が来る」と確信し、西日本で初めてロードサイド型の大型ドラッグストア「宇美店」を開設しました。当時の役員全員の反対を押し切っての挑戦でしたが、これを成功させ、ドラッグストアのチェーン展開が始まります。

父は「木馬館」という化粧品バラエティーショップも立ち上げました。主要ブランドをあえて外し、「マイナーの集合はメジャーに勝つ」という考えで、50年ほど前にそういった業態を作ったのです。木馬館は今も福岡ではかなり知られており、福岡の女性のトレンド発信地のような存在でした。

しかし、ドラッグストア事業も大手資本の参入により成長に歯止めがかかり、当社は厳しい状況に陥ります。私が大手商社に勤めていたころ、父から「帰ってきて手伝ってくれないか」と声がかかりました。それまで事業承継の話は一切されたことがなかったので、驚きました。父は43歳のときに脳梗塞で倒れており、社長を引き継ぐときに「判断力や思考力が落ちているのは分かっていたが、社内のためにそれを出さなかった」と打ち明けました。それが事業失速の一因になったと私はみています。

私が戻ったタイミングは本当にぎりぎりで、あと1、2年遅れていたら、当社は買収されていたかもしれません。

「オーガマン」誕生秘話とヒーローの大義

── 5代目社長に就任されてから、独自の取り組みとしてヒーローの「オーガマン」を始められました。

大賀 実はヒーローになりたいという個人的な欲求からスタートしています。幼少の頃からヒーローが好きで、変身ごっこをしていました。大学時代に母に勧められて仮面ライダーシリーズを再び見るようになり、「いつかヒーローに関わりたい」「ヒーローになりたい」という気持ちが募っていきました。社長にならないとヒーローにはなれないと思っていたので、35歳で社長を引き継いだときに「よし、ヒーロープロジェクト始動」と決めました。

ただ、ヒーローに変身しても、それだけではただのコスプレ社長です。ヒーローである以上、「戦う大義」が必要です。オーガマンは医療費を削減するためのヒーロー。もともと薬剤師という職業は、医師が薬を出しすぎないようにチェックし、患者さんの負担にならないよう薬を減らすために生まれた職業です。

そこで、薬局・薬剤師の目的、彼らが働く大義こそがオーガマンの大義であると考えました。この「戦う大義」と造形をしっかり作り込み、オーガマンを立ち上げたのです。

エンタメが起こす行動変容と地域一体企業

── オーガマンは今やブランディングやマーケティングにもつながり、高い認知度を誇るとうかがっています。どのようなイノベーションが起こったのでしょうか。

大賀 当社の店舗を回っていると、道を歩いている親子が「大賀薬局」の看板を見て、「オーガマンの家がある」と言うのです。薬局の看板を見て子供がそんな反応をするなんて、普通は考えられませんよね。子供は薬が好きではありませんから。

しかし、オーガマンというヒーローを使うことで、「楽しく薬が飲めるようになった」「手洗いをきちんとできるようになった」など、子供たちの行動変容を起こせるコンテンツができたことが最大のイノベーションです。

幼稚園などでの手洗い、うがい啓発活動では、オーガマンが帰った後に手洗い場に行列ができるほどです。今まで誰もできなかったことを、ヒーローを組み合わせることで人の行動を変えることができる。これが一番のイノベーションだと私は考えています。

行動変容は「恐怖」か「エンタメ」によってしか起こりません。私は楽しくエンタメを使って行動変容を起こすことで、健康増進や衛生観念の向上につなげ、唯一無二の薬局になれると確信しています。エンタメコンテンツを持つ薬局は日本に当社しかありませんから、全国大手資本と戦ううえでも圧倒的な強みになります。

オーガマンが活躍する特撮ドラマ「ドゲンジャーズ」(九州朝日放送)も6期目を迎え、幼いころに見ていた子どもたちが今、中学生・高校生になっています。その子どもたちが将来、大賀薬局で働きたいと思ってくれるかもしれません。これは継続することの強さだと感じています。

「ワンヘルス」で描く未来と子供に尊敬される企業

── 今後の事業展開や構想について聞かせてください。

大賀 現在、当社が掲げているのは「ワンヘルス・リーディングカンパニー」という中期目標です。その一つが2年前にスタートした動物の調剤薬局事業。ワンヘルスとは、人と動物と環境の健康を一体的にとらえる考え方です。人間だけの市場は人口減少で縮小していきますが、ペットは家族の一員として単価が上がっており、15歳以下の人口よりもペットの人口の方が多いのが現状です。動物も人間と同じように医療を受ける権利があると考え、この領域に目を向けました。

2025年3月には動物病院をM&Aで取得し、動物病院事業と動物の調剤薬局事業を展開しています。獣医師が自由に薬を出し、薬価の2〜3倍程度で販売されるケースも少なくありません。保険制度のない自費診療のため、結果として10倍くらいに感じられることもあります。この状況は、かつての人の医療制度に近いといえます。

また、もう一つ力を入れたいのが「プライマリーケア」、つまり予防医学の領域です。今の日本の医療制度は持続可能ではないため、病気になる前の予防に注力することで、事業領域を拡大していきたいと考えています。

当社の基本戦略は、全国展開ではなく「地域一体薬局」として地域に深掘りしていくことです。ドゲンジャーズのように、地域企業同士が連携し、相互送客しあう独立した経済圏を九州で構築したいと考えています。将来的には、この「ドゲンジャーズ経済圏モデル」を他の地域へ輸出することも視野に入れています。

── 今後はどんな会社にしていきたいですか。

大賀 「子どもに尊敬される企業」にしたいと思っています。仕事をしていて一番うれしかったのは、娘が誕生日にくれた手紙に「お父さんのチャレンジを尊敬している」と書いてあったことです。自分で背中を見せることは、子育てで一番大事なことだと考えています。子供たちが喜んでくれることが、私の仕事の一番の目的であり、やりがいです。

これを社員にも感じてほしいと思っています。実際に「お父さん、オーガマンと一緒に働いているの、すごい!」と子どもに言われる社員もいます。子どもたちに「お父さん、大賀薬局で働いているの?やばいじゃん、すごいじゃん!」と言われるような会社にしていきたいです。

氏名
大賀 崇浩(おおが・たかひろ)
社名
株式会社大賀薬局
役職
代表取締役社長

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