この記事は2025年12月5日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「政治・財政不安に沈むフランス、現況は27年大統領選まで継続か」を一部編集し、転載したものです。


政治・財政不安に沈むフランス、現況は27年大統領選まで継続か
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フランスの政治・財政不安は、長期化の様相が強まっている。背景には、フランスがEUの財政ルールの順守に向け、財政健全化の取り組みが求められていることがある。セバスティアン・ルコルニュ首相は、財政赤字をGDP比4.7%に抑える2026年度予算案(フランス政府予算は1~12月)を10月に議会に提出したが、審議は難航している。

難航の要因には、24年の下院選挙から少数与党の状況が続いていることや、ルコルニュ首相が野党と調整して予算を成立させる意向を示していることがある。フランスでは、憲法の規定を活用することで、議会の採決を経ずに予算を成立させる方法がある。ただし、こうしたルコルニュ首相の判断に対して、議会が内閣に不信任案を提出する可能性もあり、政権にとってはリスクを抱えることになる。実際、バルニエ元首相はこの方法によって退陣に追い込まれた。

野党の協力を得て予算を成立させるのは容易でない。極右や極左政党との連携が難しいことを考えると、右派の共和党や左派連合の中でも、中道寄りの社会党等の協力が必要となる。しかし、右派と左派という政治スタンスの異なる政党との調整は困難な状況にある。ルコルニュ首相は、10月に提出された不信任案を否決させるため、年金支給開始年齢の引き上げを27年の大統領選までは見送ることで社会党の協力を得た。

ほかにも、社会党は富裕層増税を求めている。一方の共和党は、富裕層増税に反対し、歳出削減を要求しており、右派と左派では政策の乖離がある。両党の協力を取り付ける具体的な落としどころを見つけるのは難しい。

財政健全化の取り組みが順調に進まないことを見込み、格付け機関のフィッチは9月に、S&Pは10月にそれぞれフランス国債を格下げした。フランス国債金利水準は、同国より格付けの低いギリシャを上回り、イタリアと同程度で推移している(図表)。

一方で、25年7~9月期のフランスのGDP(季節調整済み)は、前期比0.5%増と市場予想を上回る成長を達成した。航空関連の輸出増加など一時要因もあるが、企業投資や消費も堅調だった。しかし、購買担当者景気指数(PMI)を見ると、ドイツやスペインなどの主要国が持ち直すなか、フランスは好不況の境目となる50を下回っている。

少数与党かつ与党支持率が低い現況では、抜本的な解決策の見通しは立たない。当社は、27年のフランス大統領選までは、現在の状況が続くとみている。EU第2位の経済大国であるフランスの政治・財政不安の長期化は、同国経済の減速や金融市場の不安定化にとどまらず、EUの政策決定にも影響を与えるだろう。

政治・財政不安に沈むフランス、現況は27年大統領選まで継続か
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三菱総合研究所 主任研究員/綿谷 謙吾
週刊金融財政事情 2025年12月9日号