2017年にエクスペリサス株式会社を設立した丸山智義氏は、「日本の素晴らしい文化や地域資源を守り、後世に残したい」という強い思いを抱いてきた。その実現のため、同社では日本の伝統文化に共感を寄せる訪日富裕層に特化した、高付加価値な旅・体験を提供する。
ビジネスでの強みは、富裕層に売れるコンテンツをつくり続ける「商品開発力」と、世界8,000社以上の富裕層向け旅行会社とネットワークを持つ「販売力」。さらに、単に体験を提供するだけでなく、将来的にはプラットフォーマーのポジションを目指す。
エクスペリサス代表の丸山氏に、海外富裕層向けビジネスにおける勝ち筋を聞いた。
企業サイト:https://about.xperisus.com/
コロナ禍の危機を自治体・企業向けビジネスで脱する
── 会社を立ち上げたきっかけを教えてください。
丸山氏(以下、敬称略) エクスペリサスの設立は、2017年1月です。長野県の限界集落に父方の実家があり、私自身もその周辺地域で生まれ育ちました。毎年人口は減少しておりますが、非常に素晴らしい観光資源が数多く存在しており、こうした素晴らしい文化や地域資源を守り、後世に残したいという思いがずっとありました。
私の地元に限らず、日本の人口減少が続く中で、大きく成長しているのがインバウンド市場です。その中でも、日本の文化を深くリスペクトする富裕層をターゲットに、ビジネスを展開したいと考えました。
傾向として富裕層は、日本の伝統文化に敬意を払う人が多い。彼らに日本へ来てもらい、日本のファンになってもらうことで、地方創生に貢献できると考えました。
富裕層の送客は、オーバーツーリズムの問題を回避しながら地域の経済に貢献することができる、非常に有効なビジネスモデルになると確信しております。
── 創業から現在の富裕層向けビジネスが一定の完成を見るまで、どのような経緯があったのでしょうか?
丸山 創業当初から、富裕層向けの高付加価値体験コンテンツを開発し、それを世界中の富裕層旅行会社経由で富裕層に販売するというビジネスモデルで事業を拡大しております。また東京オリンピックを控え、富裕層の訪日が増加するフェーズを見据え、資金調達も実施いたしました。
しかし、コロナ禍により海外からの渡航が完全にストップするという、未曽有の事態に直面します。
この困難な状況下で、私が尊敬する経営者の言葉である「不確実性の高い状況で売り上げを伸ばせるのが真の経営者だ」を胸に、事業継続を決意しました。コロナ禍でも成長できるビジネスとして自治体や企業向けソリューション提供に注力し、結果として増収増益を達成しました。
コロナ明けには、再びアクセルを踏むためにシリーズAの資金調達を実施。現在、富裕層インバウンド旅行市場でナンバーワンを目指し、事業拡大に邁進しています。
── 顧客に提供する、エクスペリサスならではの旅行やプランはありますか?
丸山 当社の体験は伝統文化の継承を支援する関係者との信頼関係に基づき、非常にクローズドなものが多いですが、企業と共同開発したオープンな体験もあります。
たとえば、三菱地所様と連携した「時速10キロメートルの体験」は、東京駅周辺の特色あるエリア(銀座、日本橋、有楽町、丸の内)を効率的に巡る人力車体験です。歩くと時間がかかり、かといってタクシーでは一瞬で終わってしまう距離を、最も効率的に楽しめる速度として考案しました。
また、山口フィナンシャルグループ様との取り組みは、東京、京都、大阪だけでなく、地方の隠れた観光資源を発掘することに注力しています。主要観光地のようなオーバーツーリズムの状況を避けたい富裕層や、アジア圏の食への関心が高い層に、山口県や福岡県、広島県といった地域を提案するものです。
これは、地方創生を実現するための重要な取り組みです。
── 実際に顧客から注文を受ける流れを教えてください。
丸山 当社のビジネスモデルは、BtoBtoCです。
富裕層は自身で旅行の手配をすることは少なく、専門の富裕層向け旅行会社に依頼します。私たちはその旅行会社から依頼を受け、旅行プランを作成し、再び旅行会社経由で富裕層に提案。お客様が日本に来られた際の現地対応も、当社が行います。
富裕層旅行業界では「プライベートトラベルデザイナー」と言われる方々が、富裕層の対応をしております。将来的にはこのトラベルデザイナーの機能をプラットフォーム化する方針です。
「商品開発力」と「販売力」がコアコンピタンス
── 丸山代表個人の話として、日常の経営はどのような思いで取り組んでいるかについても教えてください。
丸山 経営者として私が大切にしていることは、三つあります。
一つ目は、「合理的であること」です。感覚的な意思決定ではなく常に合理的に、長期的な目標を見据えて判断することが重要だと考えます。もちろん情理は非常に大切ですが、経営者である以上、合理的な組織運営が最も重要だと考えております。
二つ目は、「スピード感を持ってやり抜くこと」です。スタートアップはIRRが大切だと考えており、この考えは、今のフェーズにおける会社成長の基盤だと考えております。
三つ目は、「平等性と公平性」です。感情に起因する不平等や、立場を利用した不公平な扱いは、組織に害を与えます。誰に対しても平等かつ公平な立場で接することが、経営者として大切だと考えています。
これらの原則は、創業後にさまざまな困難を経験する中で、自分自身の原理原則として確立したものです。
── コロナ禍では危機的状況だったそうですが、それを跳ね除けるほどの成長の源泉はどこにありますか?
丸山 当社の成長ドライバーは大きく二つあります。
一つ目は、「高付加価値な体験の数と質」です。私たちは、富裕層に売れるものをつくり、そのニーズに基づいてさらに売れるものをつくるという、製販一体型のビジネスモデルを創業当初から構築してきました。これにより、データに基づいた非常に強いコンテンツ提供能力を有しています。
二つ目は、「販路」です。現在、全世界で8,000社以上の富裕層向け旅行会社とのネットワークを持っています。この「商品開発力」と「販売力」という二つの強みを高いレベルで維持できていることが、当社の競争優位性です。
今後は、この2つのコアコンピタンスをさらに伸ばしていく予定ですが、特に強化するのが販売力です。直近で調達した資金も活用し、海外マーケティングを行い、世界中の富裕層向け旅行会社のハブとなることを目指します。将来的には、データに基づいた「データドリブンカンパニー」として、事業全体の競争優位性をさらに高める計画です。
── スピードを重視していますが、そのための組織づくりはどのようにしているのですか?
丸山 組織の強みは、「人」と「仕組み」にあります。スピード感を重視する上で、長時間労働ではなく、稼働時間内での生産性向上を目指しています。そのため、採用には非常にこだわり、優秀な人材の獲得が不可欠です。
また、スピードは個人の意志だけでは実現できません。仕組み化とカルチャーを定義することが重要です。
当社の採用基準に合致する人材の採用にこだわり、仕組みの構築と合わさることで、組織全体の業務品質とスピードが向上すると考えております。個人の力だけに頼るのではなく、仕組みが推進力となり、組織を加速させるモデルを構築して参ります。
── 活躍している人材はどのような人でしょうか?
丸山 現在、活躍しているのは「地頭が良く」「チャーミング」な人です。旅行業界はステークホルダーが多く、コミュニケーションが複雑になりがちです。そのため、社内外で良好な関係を築ける人材が不可欠です。高いEQを持ち、パーパスに共感できる方と一緒に働きたいと考えています。
プロダクト開発の基盤となる「公式」とは?
── エクスペリサスはどのような経営戦略で、事業を進めているのでしょうか?
丸山 当社の経営戦略は先ほど触れた2つのコアコンピタンス、「商品開発力」と「販売力」です。今後はそこに加え、「スピード感」「データ」の強化が重要だと考えております。その実現のため、IT投資を積極的に行っております。
── BtoBtoCのビジネスモデルの中で、どのようなマーケティングを進めていきますか?
丸山 今後は、グローバルな営業活動を加速させて参ります。展示会への積極的な参加などを通じて、世界中の富裕層向け旅行会社とのネットワークを拡大し、海外エージェントに対する営業活動の多角化を推進いたします。
海外の富裕層を獲得することは容易ではありませんが、当社はすでにコロナ禍以前から海外の富裕層向け旅行会社との信頼関係を構築しており、強固な基盤を持っています。
── 商品開発はどのように行っているのでしょう?
丸山 当社のプロダクト開発には、明確な「公式」(フォーミュラ)があります。たとえば、アメリカやヨーロッパの富裕層には特定の嗜好性があるため、そのフォーミュラに基づいてコンテンツを制作しています。
具体的には、「日本固有の観光資源」×「希少性」×「品質管理」の三点が基本です。
希少性は、時間的限定性、数量的限定性などさまざまな要素があり、何がどの国の富裕層に響くかを分析します。そして品質管理で、動線設計や質の高いガイドの選定など、国ごとに顧客満足度を最大化できるポイントを考慮します。
顧客体験の「プラットフォーム」を目指す
── 2025年は4月、7月に3億円超え、10月には5億円超えと累計で12.4億円の資金調達を行いました。
丸山 今回の資金調達は、当初の目的通り成長のための投資に活用します。具体的な投資内容は非公開ですが、ランニングコストの確保ではなく、あくまで事業成長のための投資として位置付けております。
── さらなる資金調達として、IPOは視野に入っている。
丸山 構想していますが、旅行業ではなく「プラットフォーマー」として上場することが目標です。
国外の富裕層を何十万人も送客できるような、社会インフラに近いビジネスモデルの構築を目指しています。現在の富裕層の送客規模では経済的インパクトは限定的ですが、より多くの富裕層を受け入れられるシステムを構築すれば、大きな経済効果を生み出せるでしょう。
目標達成に向け、事業拡大と投資を継続し、プラットフォーマーへのシフトチェンジを迅速に進めます。
- 氏名
- 丸山智義(まるやま ともよし)
- 社名
- エクスペリサス株式会社
- 役職
- 代表取締役

