「働くをもっと面白くするデザインカンパニー」をビジョンに掲げ、デジタル技術で人の能力を最大限に引き出すAX・DXを推進しているワークスアイディ株式会社。同社が提供するBPaaS(Business Process as a Service)の特徴は、単なるコンサルティングに留まらず、実行運用支援まで一貫して伴走する点だ。BPaaSの真髄、コロナ禍での進化、AI時代の働き方、そして組織成長の壁を乗り越えるためのユニークな取り組みに迫った。
コロナ禍で広がったBPaaSとは?潜在的課題を深く掘り起こす伴走型アプローチ
──BPaaSというサービスの特徴を教えてください。
池邉氏(以下、敬称略) 多くのコンサルティング会社は、コンサルして終わりなのに対し、当社のBPaaSというサービスの特徴は、コンサルティングの後に実行運用支援を提供し、クライアントに継続して寄り添う点です。
BPaaSという言葉は、BPO(Business Process Outsourcing、人が行う部分)とSaaS(Software as a Service、モデル)を組み合わせたものがもともとの発端です。
たとえば企業がSFAを導入しても、従業員が使いこなせず有効活用できないケースがあります。そうした場合、期待した機能を当社がBPOとして運用支援するのがBPaaSの始まりです。世界的に伸びていますが、日本ではまだ聞き慣れない言葉かもしれません。
コロナ禍でテレワークが一般的になり、BPaaSの考え方は一気に広まりました。これはIT部門のマネジメントサービスプロバイダーという考え方にもつながります。
BPaaSをご依頼いただくのは、エンタープライズやミドルエンタープライズ以上のクライアントが中心です。当社の強みは、プロセスの始まりから終わりまでEnd to Endで一貫して深くお付き合いしていく点にあります。
最近では、AIプラットフォームの構築も手掛けています。これはデジタル経営資源をAIで構築するものです。クライアントの全体像を把握し、フロントエンドでどのようなツールを使い、バックエンドでどのようなデータを持っているかをうかがいます。そのうえで、どのような課題を解決したいのか、省力化、省人化、効率化したい領域はどこかを明確にします。その内容に応じて、AIアシスタントやAIエージェントといった概念でシステムを構築します。
これは「ビルディングブロック」という考え方で、Amazonなどが始めたものです。ブロックを積み上げるように、右側のデータと左側のインターフェースの間に、実現したいAIの形をデザインしていくというアプローチです。
当社はAI活用の伴走支援として、事業化支援、基盤整備、そして統制のためのガバナンス構築など、クライアントの要望に応じて一つひとつの課題にフィットする形でサービスを提供しています。これは最近のトレンドでもあります。
── BPaaSは具体的にどのように進めるのでしょうか?
池邉 まず、クライアントの課題をフックに、さらに踏み込んだ潜在的な課題を見つけることが最初の重要な取り組みです。
たとえば、クライアントが「傘が欲しい」とおっしゃったら、ソリューション軸で考えるならば、「ロンドン傘はいかがですか?」「ビニール傘もあります」「丈夫な折りたたみ傘はいかがでしょう?」と、あらゆる傘を提案することになります。これは表面的な課題に応えるアプローチです。しかし、当社はもう一歩踏み込み、「なぜ今、傘が欲しいのですか?」と問いかけます。
「忘れてしまうから」という答えに対し、「なぜ忘れるのですか?」「朝バタバタしていて天気予報を見ないからです」という潜在的な理由をたどります。それなら玄関にセンサーを設置し、降水確率50%以上のときに音を鳴らしたり、スマートフォンに警告通知を送ったりする仕組みを導入すれば、傘を忘れずに済むのではないでしょうか。このように、その日必要な傘をお渡ししつつ、根本的な解決策としてIoTセンサーを設置しに行く、といったアプローチです。
── 競合との差別化ポイントや、ニッチな領域における勝ち筋は?
池邉 当社として推奨するアプリケーションやシステムはありますが、基本的にはクライアントに寄り添った形でのご提案を重視しています。
たとえるなら、トヨタ自動車の営業担当者がクライアントに車を提案する際、トヨタ車しか紹介しないでしょう。しかし当社は、さまざまなメーカーの車を取り扱う販売店のように、ポルシェから日産まで、特定のこだわりなくクライアントの既存インフラに最も馴染むものを提案することを心がけています。これが当社の強みです。
ただ、このアプローチは諸刃の剣でもあり、社内にノウハウのストックがたまりにくいという課題もあります。そのため最近は、「伊勢丹モデル」という考え方で厳選しています。伊勢丹に置いてあるものは良いものだと思っていただけるように、当社が選定するツールは間違いないという信頼を築くため、ツールの選定には極めて慎重を期しています。
大手SIerと競合する際、彼らはベンダーロックインを志向しがちですが、当社はローコードアプリケーションやRPAを駆使し、既存の素材を最大限に活用してビジネスプロセスの自動化(BPA)を目指すことを心がけています。
コンサルティングとBPOの融合、社内ラジオで理念浸透
── コンサルティング会社のサービスとも差別化できていると。
池邉 コンサルティング会社は、最近ようやく実行支援を強化し始めましたが、多くはコンサルティングで終わり、その後のBPOがセットになっていません。当社が「BPaaS」と呼ぶゆえんです。コンサルティングは手離れが良いのですが、その後の実行、運用、保守は地道な作業であり、クライアントからの要望も高まります。
当社の創業が人材派遣業であった経験が、このBPaaSに活かされています。大手コンサルティング会社が人材紹介業のように「人を紹介して終わり」なのに対し、当社は「紹介した後、いかに継続してもらうか」が勝負でした。このコンセプトがBPaaSにも適用され、クライアントと長くお付き合いし、テクノロジーと人が伴走していくところまでを一気通貫で提供しています。これが当社の強みです。
ただ、このような人材を多く確保できれば事業をさらに拡大できますが、経営課題でもあり、諸刃の剣であるのが現状です。それが「隠れた優良企業」と言われるゆえんかもしれません。
── 人材確保の難易度の高さが課題とのことですが、これまでぶつかってきた壁や、それをどのように乗り越えてきたかを教えてください。
池邉 社員数が増えるにつれて「伝言ゲーム」に苦労してきました。創業当初は言葉にせずとも思いが自然に共有できていましたが、人数が増えるほどその思いを組織全体で同期させることは難しくなります。個々に割ける時間は限られ、いかに一つの思いを効果的に伝えるかが課題です。「言いました」「書いてあります」だけでは不十分で、「伝わる」ことが重要です。
まず、10人、30人、50人という「人数の壁」があり、100人を超えるとまた異なる課題が出てきます。それ以降は、常に「あと一歩、もっと伝えられたら」という思いが尽きません。
社内報も発行していますが、最近ユニークだと評価された取り組みは「社内ラジオ」です。社内向けのインナーブランディングを担当している者が中心となって企画しています。
── 社内ラジオですか。どのような内容なのでしょうか。
池邉 社員をゲストに招き、その人の人となりをうかがった後、最後に「あなたの思う『働くをデザインする』とは何ですか?」と問いかけます。まるで『プロジェクトX』のように、個々の社員の「働くをデザインする」という理念を深掘りし、浸透させるための番組です。
ラジオは、インターネットの登場で一度は衰退が予測されながらも、今なお元気なメディアです。情報を「伝える」うえで、耳から入る言葉は心に響きます。収録型なので、ランチ時間、通勤途中や帰宅後など、いつでも自由に聞くことができます。このラジオを通じて理念浸透を図りました。長く続けた結果、聴取者からマンネリ化の指摘もあり、そこから番組形式を工夫していった経緯もあります。
柔軟な資本政策とAX(AIトランスフォーメーション)への注力
── 今後の資本政策について教えてください。
池邉 事業においては、それぞれの知見やノウハウを高めるため、他企業との積極的な協業関係を当然ながら目指しています。そうした戦略の中で、当社を知っていただくための選択肢としてIPOも考えています。
大手企業との資本提携・協業関係からも多くを学びました。サービス軸やプロダクト軸で、スタートアップを含むさまざまな企業と連携することで、新たな勢いが生まれることも理解しています。したがって、資本政策については柔軟に考えているというのが現状です。
── 今後5年程度のスパンでは、BPaaSに注力し、ブラッシュアップしていく考えですか?
池邉 2030年頃までは、BPaaSに加えAX(AIトランスフォーメーション)を主軸に据える構想です。AIエージェントやAIアシスタントの導入により、かつて人材派遣で対応していた領域をAIで代替し、省力化・省人化を実現する時代が到来するでしょう。
BPaaSに固執するというよりも、その時代時代に合った「働くをデザインする」というビジョンのもと、新たな労働力を創造していくことを引き続き考えていきたいです。
── 「働くをデザインする」というビジョンにおいて、AIを活用した未来の働き方についてどのように考えていますか?AIや技術の発展によって、人の働き方はどのように変わっていくでしょうか。
池邉 まず職種で言えば、不安を感じた人に伴走する仕事は引き続き残るでしょう。
たとえば交通事故で人が倒れた緊急時に、電話口で自動音声案内に「お急ぎの方は1を」と言われても困りますよね。ECサイトで商品が買えても、問題が起きたときにどこに相談すれば良いかわからないという課題がある限り、困ったときに人に寄り添う役割は重要です。テクノロジーは極限まで進化すると思いますが、ラストワンマイルは人が担うと考えています。
「働くが楽になる」ことと、「働く人が不安になっていることを助けてあげる」という、気持ちが楽になるお手伝いをする業務領域は、今後も残るでしょう。
「失敗は成功の母」と言われるように、人は失敗から学び、素晴らしいものを生み出します。AIに負けないよう、積極的に小さな失敗を積み重ね、そこから学ぶ強さを持っていれば、AIが進化したとしても、失敗から学べる人には活躍の場が引き続きあると理解しています。
- 氏名
- 池邉 竜一(いけべ りゅういち)
- 社名
- ワークスアイディ株式会社
- 役職
- 代表取締役社長