SDPジャパン株式会社

日本の医療制度が抱える構造的な課題や経営上の矛盾に対し、独自の解決策を提案するのが、SDPジャパンだ。

クリニックチェーン経営支援の経験を持つ代表取締役社長の永用万人氏は、患者の手術待機期間の原因を総合病院の医師の割り当て不足と特定。この解決のため、手術に特化したクリニックの設立支援に着手した。設備投資をSDPジャパンが行い、手術に長けた医師が医療行為を担う分業体制を構築することで、医師は本来の業務に集中し、手術が必要な患者により早期に適切な対応を行うことを可能にした。

ターゲットは成長市場である整形外科と循環器内科に特化し、優秀な医師のスカウトから集患業務までを内製化する同社の戦略は、大企業が回避する手術のど真ん中という「ブルーオーシャン」での競争を可能にする。永用氏に、戦略の詳細を聞いた。

永用万人(ながよう かずひこ)──代表取締役社長
1959年生まれ、鹿児島県出身。1985年、鹿児島大学卒業後、建設会社での勤務を経て株式会社WDI&JEMへ入社。外食業界で店舗支配人や取締役を歴任。その後、株式会社ボイスメールに入社し、営業職を経て取締役に就任。この経験を経て独立し、スペースリンク株式会社、しまうまプリントシステム株式会社、データCAPS株式会社、きりんカルテシステム株式会社、データ・リファイナリー株式会社を創業。2014年1月SDPジャパン株式会社を創業。
SDPジャパン株式会社
2014年設立。医師が技術に集中できる環境と、患者が適切な治療にたどり着ける導線を一体的に支援し、医療提供の在り方そのものの変革を目指す。都市部を中心に、マーケティング、施設プロデュース、経営支援、資材調達までを包括的に手掛け、手術特化型医療機関の拡大を推進。名医の技術と患者をつなぐユニークなポジションを確立。
企業サイト:https://www.sdp-japan.com/

目次

  1. 「スーパードクター」のプロデュースとはどういうことか?
  2. 手術特化型の発案の裏にある医療の課題
  3. 経営を成功させるため「矛盾を狭める」ことに力を尽くす
  4. 支援先の医療機関をブランドとして成立させる

「スーパードクター」のプロデュースとはどういうことか?

── 「SDP」はスーパードクタープロデュースの略とのことですが、それは何なのか、事業の展開について教えてください。

永用氏(以下、敬称略) はい。もともとこの事業を立ち上げたきっかけは、私が以前、首都圏で約40拠点を展開するクリニックチェーンを経営支援したことにあります。その中には、手術まで半年待ちになるほどのスーパードクターと呼ばれる医師もいることを知りました。

なぜそこまで待たなければならないのかを調べたところ、大病院や大学病院は多くの診療科を抱える総合病院であるため、各科の医師のオペ室の割り当てが少なくなり、結果として患者さんが待たされる状況があることを突き止めました。

さらに、日本の医療制度では、厚労省の意向により大病院への初診を制限し、紹介状の持参を促す動きが進んでいます。これにより、かかりつけ医の重要性が増す一方で、専門性の高い医療を提供する大学病院や大病院は、風邪のような一般的な疾患の受け入れを控えるようになりました。

そこで、手術に特化したクリニックの設立を支援し、手術の上手な医師だけにお声をかけ、クリニックに就業してもらうことで、患者さんも喜び、スタッフのスキルも向上し、皆がハッピーになるのではないかと考えたのです。

また、日本の医療機関は、医療法によって「営利を目的としてはならない」と定められ、剰余金を出資者や構成員に分配することは禁止されています。適正な収益がなければ医療の質は維持できないにもかかわらず、利益を自由に活用できないという制度上の制約があるため、医療提供体制の持続性には構造的な矛盾が生じています。こうした問題を解決したいという思いも、今回の取り組みの背景にありました。

さらに、大学病院に勤務する医師の給与は他の医療機関と比べて低い傾向があることは各種調査や報道でも指摘されています。大学病院医師の主たる給与が800万円未満にとどまるケースや、十分な給与が支払われない「無給医」の実態が労基署の是正勧告として報じられた事例もあります。そのため、多くの医師が生活を支えるために外勤・アルバイトに頼らざるを得ない状況が存在しています。

こうした制度的・構造的な制約の中で、医師が本来の医療に専念できる環境をつくることは、日本の医療を持続可能にするためにも避けて通れない課題だと考えています。

状況打破のため、私たちは手術に特化した医療機関の設立を支援し、設備投資は私たちが行い、手術の上手な医師には医療法人を設立してもらい、医療行為も医師が行うという分業体制を構築しました。最近でいう「異業種連携」という言葉にも通じる、この方向性でスタートしたのがSDPジャパンです。

── なるほど。医師は経営者ではないという側面もありますが、その経営の部分はどのようにサポートするのでしょうか?

永用 経営できる医師もいますが、患者さんと手術に集中すると、部下の人事評価や仕入れの原価低減など、経営全般に時間を割くことが難しくなります。それよりも、本来の業務に集中する方が良いというのが、私たちのコンセプトです。

手術特化型の発案の裏にある医療の課題

── 医療業界で、しかも手術に特化するとなると、参入障壁は非常に高いように思います。医療に参入されたきっかけは何だったのでしょうか?

永用 医療業界に入った最初のきっかけは、私が「しまうまプリント」を経営していたころ、知人が小児科医を紹介してくれたことです。

その医師は、まだ大学医局に勤めていたころに、エビデンスに基づいた治療をしたいと考えていました。たとえば、小児科では抗生剤の体内残留などが問題となることがありますが、保護者の要望に応じて抗生剤を処方せざるを得ない状況などがあるといいます。

しかし、その医師は「風邪はちゃんと寝ていれば治る」という考えを持ち、抗生剤を安易に処方しない、より良い治療をしたいという思いがあり、私と一緒になって事業をスタートしました。それが、医療業界に入ったきっかけです。

参入障壁の高さは、まさにその通りです。クリニックチェーンを経営支援していた際に、この手術特化型のモデルを思いつき理事会に提案したところ、小児科医からは「手術はリスクが高い」と猛反対されました。医療業界は仕事が非常に細分化されており、内科系の小児科医はオペができない人が多いのです。

また、整形外科と循環器内科に特化する方針を検討し、まず整形外科分野で手術ができるクリニックを支援しようとした際、関節手術を専門とする医師からは「脊椎手術は高度なリスク管理が求められる領域だ」と強い反対を受けました。しかし、脊椎手術の第一線で活躍する医師に相談したところ、「それは50年前の認識で、現在は医療機器と手術技術が大幅に進歩しているため、適切な設備と技量があれば安全性は確保できる。ただし、技量の低い術者では今でも事故が起こる」と指摘されました。

実際、低侵襲脊椎手術(MISt)の普及、術中3Dナビゲーションやロボット支援技術、内視鏡下脊椎手術などにより現代の脊椎手術の安全性は過去と比較して大きく向上しています。

「脊椎手術が危険」という古いイメージは現代医療には当てはまりません。しかし同時に、前述の名医が指摘したように 術者の経験・技量によってリスクが大きく変わるのも事実です。だからこそ、適切な設備投資と専門医の確保が不可欠だと改めて感じました。

── 経済性があり命を救うクリニックを、どう実現するのでしょうか?

永用 私たちがターゲットとする整形外科と循環器内科の市場は、毎年10%ずつ伸びています。

その理由は二つあります。一つは、受診者のボリュームゾーンである70代が、今後15年以上にわたって増加し続けることです。もう一つは、これまで手術を控えていた層も、手術を受けて質の高い生活を送りたいと考えるようになったことです。

この成長市場において、手術に特化した病院やクリニックを展開するところはまだありません。私たちが競争する場は、ブルーオーシャンなのです。

そこで、私たちは、スーパードクターを私たち自身がスカウト支援する点が大きな特徴です。人材紹介会社ではなく、当社支援先医療機関が求める技量の基準に合致するかを判断し、スカウト支援します。

同時に、患者自らの意思で医師を選び、最適な治療にたどり着ける集患の導線づくりも内製で行っています。来年4月には新潟で開院する不整脈クリニックの支援も進めており、医師の採用から集患計画まで、私たちのチームが一貫して担っています。

こうした医師支援と患者導線の両輪を自社で完結できる点こそ、私たちの強みです。

── 他社ではあまり見られない手術特化型という点について、参入障壁の高さ以外に民間企業が着手しない理由は何でしょうか?

永用 二つ理由があります。

一つは、手術という領域が組織にとってリスクも運営負担も大きく、参入しづらい点です。
手術は高度な安全管理が求められ、訴訟リスクやレピュテーションリスクも大きいため、大きな組織ほど参入を避ける傾向があります。

もう一つは、高い手術技量を持つ医師をスカウトし、組織として機能させることの難しさです。
専門性を持つ医師が力を発揮できるよう、その強みを生かす体制を設計するには専門的なノウハウが欠かせません。

こうした複雑な領域だからこそ、私たちのようなベンチャーが挑戦できるのだと思います。

── 医師のマネジメントやスカウトが大変だというお話がありましたが、それがうまくいくのはどのような理由からでしょうか?

永用 それは、手術をする医師という存在を深く理解しているからだと思います。医師は、ある意味で選ばれた存在です。若いころから「先生」と呼ばれ、エリート意識を持つ人も少なくありません。さらに手術の腕に自身を持つ医師の中には、強い自負心や使命感を抱いている方も少なくありません。

そうした医師たちをどうマネジメントするかにはノウハウが必要であり、私たちも多くの経験を積んできました。彼らが何に価値を置き、どんな環境で力を発揮できるのかを理解し、その思いと組織としての方向性をすり合わせていくことが重要です。

── 経営者としてのこだわりや大切にされることは何でしょうか。

永用 私が代表を務めた会社では、必ず市場で日本一になることを目指してきました。

その旗印のもと、外部資本も積極的に活用してきました。SDPジャパンは累計で70億円ほどの資金を調達してきました。投資家の方々にしっかりとリターンをお返しするためにも、日本一になることが重要であり、投資家の方々がキャピタルゲインを得られる状態を実現することにも強い思いがあります。

── これまで数多くの企業を創業され、培われてきたご経験からくるものなのですね。

永用 はい、失敗ばかりですが、一回の勝利が大きければ生き残っていけると思います。

経営を成功させるため「矛盾を狭める」ことに力を尽くす

── 現在注力している整形外科、循環器内科といった領域を今後どのように伸ばすのでしょうか? また、他の領域への拡大の可能性についても教えてください。

永用 経営において最も重要なのは、最終的に利益を出すことです。利益を出すためには、売り上げを伸ばすか経費を削減するかの二つしかありません。

医療業界では、材料費が非常に高いという課題があります。たとえば、人工股関節やカテーテルといった手術で用いる材料は、売り上げに占める割合が非常に高いのです。どう購入するか、あるいは安く自分たちでつくれるかが、今後の課題です。

黒字化できた背景には、手術件数の増加に伴い体制がより洗練され、運営の効率化が進んだことが大きいと考えています。組織としての仕組みづくりが整い、さまざまな部分で無駄が減っていったことが寄与しました。今後も、医療の質を高めながら持続的に運営できるよう、改善を続けていく必要があります。
事業をより伸ばすためには、拠点を全国に広げる必要があります。現在、私たちが支援する拠点は8つですが、これを50拠点まで増やしていきたいと考えており、毎年数ヵ所を新規に支援開始する計画です。

── 数と質はトレードオフになる部分もあるかと思いますが、その点はいかがでしょうか?

永用 経営とは、矛盾をどれだけ狭められるかということです。たとえば、従業員は「できるだけ短い時間で、より高い給与を得たい」と考えますが、経営者としては「もっと高い精度で働いてほしい」と考えます。どちらに転んでも組織は持たないため、その矛盾点を近づけることが経営です。

お互いが気持ちよく同じ方向を向いて一生懸命やり、給料も上げ、利益も出す。それが経営の理想だと考えます。そのために、売り上げを伸ばし、スタッフの給料を上げるための具体的な施策を実行する必要があります。

たとえば、10人のチームで10件の医療機関の支援を担当していた場合、それを5倍に増やすため単純に50人必要だと考えるのではなく、作業の効率化やDXによるシステム化、あるいは現場に任せられる業務の切り分けなどを通して、30人で済むように工夫することが経営です。

── マーケティングに関して、医師向け、患者向けなど、さまざまな方向性があるかと思いますが、今後、特に力を入れていきたい分野は?

永用 スーパードクター個人のブランディングを強化することが、重要だと考えています。一人ひとりの医師の技術や特徴を前面に出し、患者さんの関心を集めることが私たちの最大のミッションです。

美容医療のように、劇的な変化を全面に出した広告は自由診療だからこそ可能ですが、私たちの支援先医療機関が扱うのは保険診療です。広告表現には厳しい制約があります。
そのため、こうした制約を前提にしながら医師の専門性や姿勢をどう伝えるかがブランディングの核心だと考えています。

── 他の診療科にも展開する可能性はありますか?

永用 私たちのコアは手術であり、そこから離れるべきではないと考えます。現在の整形外科と循環器内科の分野を背骨として、さらに伸ばすことで、まだ大きな成長余地があります。
その上で、他の診療科やオペ周辺領域にも取り組んでいきます。この領域の市場規模は1兆円ともいわれており、まずはここでしっかりと実績を残すことが重要です。日本での展開が一段落したら、海外展開や材料メーカーとの連携なども視野に入ってくるでしょう。

支援先の医療機関をブランドとして成立させる

── 医師以外の、SDPジャパンの組織はどのように進化させる考えですか?

永用 創業から10年が経ち、創業メンバーも入れ替わり、次のステージに入っています。各業界のプロフェッショナルが集まり、成長スピードが格段に上がりました。これまで10年かかったことが、2年程度で展開できる組織になってきたと感じます。今後の10年は、このスピードで伸びるでしょう。

課題は、組織は人である以上、常に出てくるものです。評価制度や人間関係など、常に透明性を高める努力を続ける組織でありたいと思います。20歳の新入社員が「この会社にいたい」と思えるような、年功序列だけでなく、成果を出した者が評価され、正しい意見をいえる組織を目指します。

── ここまでも話に出たように、医療はお金もかかります。ファイナンスの状況について、教えてください。

永用 外部資本は十分集まったため、前回2025年3月のラウンドで終了としました。
並行して、幸い、金融機関からの評価も高まり、融資なども積極的に受けられるようになりました。手術特化型の医療機関の開発には1か所あたり医療機器だけで6億円ほどかかりますが、間接金融である銀行融資やリースなどを組み合わせて資金調達しています。土地・建物については流動化しており、すべて投資家に所有していただいています。これまで都市部を中心に展開してきましたが、2026年を皮切りに今後は地方都市への展開を加速し、地域格差のない次世代型医療モデルを全国に支援していきます。

── 患者さんに対してのブランディングをどう考えていますか?

永用 あくまでSDPジャパンは医師と医療機関を支援している側ですので、患者さんにとっては医療機関がブランドです。
ユニクロのように、どこに行っても一定水準以上のサービスが受けられるとわかっているブランドは、消費者に安心感を与えます。同じように、全国どこでも同水準の手術を提供するネットワークとして我々の支援している医療機関の名前を見れば安心できる、という状態を目指しています。医療機関のブランドを醸成支援するのも我々の大切な役目の一つです。

氏名
永用万人(ながよう かずひこ)
社名
SDPジャパン株式会社
役職
代表取締役社長

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