交通事故で車が全損になった場合、「全額修理費が出るものだと思っていた」「車両価格がもっと高く評価されるはずだ」と感じる人は少なくありません。しかし、実際の賠償実務では全損事故の賠償額は事故前の車両価値を基準に算定されるため、提示額が想像より低くなるケースが多くあります。そこで本記事では、全損事故における賠償額の仕組みや請求できる金額の内訳、提示額に納得できない場合に確認すべきポイントについて、2026年時点の最新情報をもとに整理します。

全損とは?物理的全損と経済的全損の違い

事故
(画像=「Car Me」より引用)

「全損」とは交通事故によって車両が大きく損傷し、修理を前提とした対応ができない状態を指します。全損には、状況に応じて次の2種類があります。

ひとつは、事故によって車が大破し、構造的に修理が不可能と判断される「物理的全損」です。フレームが大きく歪んでいる場合などがこれに該当します。

もうひとつは、修理自体は可能でも、修理費用が事故時点の車両の時価額(再取得価額)を上回る場合に判断される「経済的全損」です。
たとえば、中古車市場で10万円程度の価値しかない車に対して、修理費が15万円かかるケースでは、修理後に走行できる状態になるとしても、経済的合理性の観点から「経済的全損」と扱われます。

全損事故で請求できる賠償額の基本ルール

レッドブック
(画像=「Car Me」より引用)

全損事故に遭った場合、被害者は加害者側の保険会社、または自身が加入している車両保険から賠償を受けることになります。
法律上、車両損害に対する賠償額の基準となるのは原則「事故時点における車両の時価額」です。

この時価額とは、事故直前に同程度の車を中古車市場で購入するために必要な金額(市場価格)を指し、車両本体価格に加えて、購入時にかかる消費税相当額も損害として認められます。

ただし、賠償の対象は車両の価値だけではありません。
車を買い替える際に通常必要となる「買替諸費用」についても、合理的な範囲で損害として請求できます。具体的には、登録手続き費用、車庫証明費用、廃車手数料、リサイクル料金、環境性能割などが挙げられます。

一方、自動車税や自賠責保険料については、廃車時に未経過分の還付を受けられる制度があるため、原則として賠償の対象外とされています。

全損時の賠償額はいくらになるの?算定の考え方

全損事故における賠償額は、一般に次のような考え方をもとに算定されます。

「賠償額」=「車両時価額」+「認められる買替諸費用」ー「事故車(スクラップ)売却代金」

ここでいう「車両時価額」とは、事故直前に同程度の車を再取得するために必要な金額を指し、実務上は消費税相当額も含めて評価されるのが一般的です。

また、事故車を保険会社などが引き取る場合には、売却代金を別途差し引かず、時価額の算定に織り込まれた形で処理されることもあります。(所有権移転や査定の扱いによって異なる場合があります。)

つまり、全損事故の賠償では「事故直前に車が持っていた経済的価値」と「それを回復するために通常必要となる費用」が補償の対象になる、という考え方が基本になります。

なお、保険会社から提示される時価額は、レッドブックなどの平均的な価格資料を基準に算定されることが多く、必ずしも実際の中古車市場価格と一致しない場合があります。そのため、提示額に疑問を感じた場合は、中古車情報サイトなどで同種・同条件の車両価格を確認することが重要です。

車両の「時価額」はどのように決まるのか?

全損事故における賠償額の基準となる「車両の時価額」は、事故当日における市場価値をもとに算定されます。

具体的には、同じ車種・年式・走行距離・装備条件の車を、中古市場で購入するために必要な金額が目安になります。

保険会社が参考にする主な資料

保険会社は、時価額を算定する際に次のような価格資料を参考にするのが一般的です。

  • レッドブック(中古車価格資料)
  • オークション相場
  • 過去の取引データ

これらはいずれも平均的な取引価格をもとにした資料であるため、実際の中古車販売価格より低めに算定されることがあります。その結果、被害者が想定していた金額との差が生じるケースも少なくありません。

中古車販売価格と必ずしも一致しない理由

中古車情報サイトなどで確認できる販売価格は、販売店の利益や保証費用、整備費用などが上乗せされた金額です。一方、保険会社が用いる価格資料は、「純粋な車両価値」を基準にしているため、両者が一致しないのは珍しいことではありません。

ただし、同条件の車両が中古市場で実際に取引されている事実が確認できる場合、その価格は時価額を裏付ける有力な資料になります。

初度登録から10年以上経過している場合

レッドブック1
(画像=「Car Me」より引用)

初度登録から10年以上経過した車両については、価格資料が乏しくなる傾向があり、保険会社からは新車価格の一定割合(例:10%前後)を基準とした金額が提示されることがあります。

もっとも、これはあくまで便宜的な算定方法にすぎません。旧車や人気車種、状態の良い車両など、市場で一定の需要がある場合には、実際の中古車取引価格をもとに時価額を主張できる余地があります。

修理費が時価額を「少しだけ」上回る場合でも全損扱いになる?

「修理費が時価額を数万円上回るだけでも、全損として扱われてしまうのか」という疑問を持つ人も多いでしょう。

実務上は、修理費が時価額を超えている以上、金額差の大小にかかわらず、経済的全損として処理されるのが原則です。そのため、差額がわずかであっても、修理費全額が認められるケースは多くありません。

例外的に修理費が考慮されるケースはある?

もっとも、次のような事情がある場合には、修理費を前提とした解決が検討される余地が生じることもあります。

  • 修理費が時価額をわずかに超える程度である
  • 修理方法の見直しによって費用を抑えられる可能性がある
  • 当事者双方が修理による解決に合意している

ただし、これらはあくまで例外的な取り扱いであり、保険会社が必ず応じなければならないものではありません。

思い入れや感情的価値は評価される?

長年乗ってきた車や、思い入れのある車であっても、感情的な価値は賠償額には反映されません。
評価の基準となるのは、あくまで事故時点での客観的な市場価値です。

提示された時価額に納得できない場合は?

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(画像=「Car Me」より引用)

保険会社の提示額に疑問を感じた場合は、次のような資料を用意して確認・交渉することが重要です。

  • 同車種・同年式・同程度の走行距離の中古車販売例
  • オプション装備や修復歴の有無など、条件が近い車両情報
  • 複数サイトでの価格比較

感覚的に「安い」と主張するのではなく、客観的な市場データをもとに説明することが、時価額の見直しにつながりやすくなります。

では、修理費用がこの時価額をわずかに上回った場合でも、必ず「全損」として処理されてしまうのでしょうか。次は、経済的全損の判断ラインと、その例外的な考え方について見ていきます。

全損事故の賠償で知っておきたいポイント

全損事故の賠償額は、事故時点における車両の時価額を基準に算定されます。また、修理費がこの時価額を上回る場合には、原則として経済的全損として扱われることになります。
そのため、保険会社から提示された金額に疑問を感じた場合は、感覚的に判断するのではなく、算定の根拠となる資料を確認したうえで冷静に交渉することが重要です。

全損事故は、金額面だけでなく精神的な負担も大きいものです。仕組みを正しく理解して対応することで、不利な条件で示談してしまうリスクを抑えやすくなります。