この記事は2026年2月27日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「人手不足を背景に強気の賃上げ要求を掲げる労組」を一部編集し、転載したものです。
(日本銀行「全国企業短期経済観測調査」(短観))
2026年の春闘に向け、労働組合は強気の賃上げ要求を打ち出している。今年の要求は単なるインフレ対応にとどまらない。人材の確保を巡って企業間の競争が激しくなるなか、それを追い風に賃上げを毎年の慣行(ノルム)に変えていこうとする意図がある。それが端的に示されているのが、全国組織である日本労働組合総連合会(連合)の方針だ。
連合は26年の春闘について、ベースアップ3%以上に定昇相当分を加えた「賃金上昇率5%以上」(中小企業の労組は6%以上)の要求を掲げ、25年に続く5%台の賃上げ実現を目指す姿勢を明確にしている。26年はインフレの鈍化が見込まれていることから、昨年並みの賃上げが実現すれば、実質賃金の上昇率はプラスになる可能性が高い。加えて連合は、インフレを上回る賃上げを「ノルムとして定着させる必要がある」と主張している。来年以降も高い賃上げを継続することで、実質賃金を1%上昇軌道に乗せ、新しい「賃上げノルム」として定着させたい意向だ。
労組が強気の要求に踏み出せる背景にはいくつかの要因がある。第一の要因は、深刻な人手不足だ。人手不足の状況を示す日銀短観の雇用人員判断DIを見ると、人手不足を示すマイナス幅がバブル期に肩を並べる歴史的な水準に達していることが分かる(図表)。
これは、景気の良し悪しに左右されない構造的な人手不足(図表の非景気要因部分)である可能性が高い。少子高齢化や働き方改革に伴う労働時間短縮の影響により、日本の労働供給量は慢性的に不足する事態に陥っているとみられる。今後はAI(人工知能)やロボット技術の導入によって人手不足の一部は和らいでいく可能性もあるが、賃上げをしなければ人が集まらない状況は当面続くだろう。
第二の要因は、インフレの長期化である。名目賃金が上がってもそれ以上にインフレが進めば、実質賃金は減少する。インフレの長期化によって家計の購買力が目減りする年が続いたことが、強気の賃上げを正当化している。
第三の要因は、格差是正に対する問題意識だ。賃上げが大企業中心の動きにとどまれば、賃金の二極化が進む。労組が中小企業についてより高い賃上げを掲げているのは、大企業との賃金格差を少しでも縮めたい狙いがある。中小企業としても、労働者がより高い賃金を求めて転職してしまうと、人手不足がさらに深刻になるという問題意識があり、労組は強気の要求をしやすい。
もちろん、強気の要求が満額で実現するとは限らない。人手不足が続く限り、強気の賃上げ要求は正当化されやすい。ただし、それが実現するためには、企業の体力や価格転嫁力がどれだけあるかが重要になる。
みずほリサーチ&テクノロジーズ 上席主任エコノミスト/井上 淳
週刊金融財政事情 2026年3月3日号