この記事は2026年3月6日に配信されたメールマガジン「アンダースロー:原油価格が高騰-物価高対策は帳消しになってしまうのか?」を一部編集し、転載したものです。

アンダースロー
(画像=years/stock.adobe.com)

目次

  1. アンダースロー:原油価格が高騰-物価高対策は帳消しになってしまうのか?
    1. 原油高騰に伴うエネルギー価格上昇の影響についてはどうご覧になっていますか?
    2. 日本経済は、景気後退のリスクが出てくるのでしょうか?
    3. 物価高対策への影響についてはどうでしょうか?
    4. 日銀の利上げへの影響についてはどうお考えでしょうか?
    5. 混乱が長期化すれば、景気が低迷する中で物価高が進む「スタグフレーション」に陥る恐れがあるのでしょうか?
    6. 高市政権の対応についてはどうお考えでしょうか?

アンダースロー:原油価格が高騰-物価高対策は帳消しになってしまうのか?

  • 原油高騰に伴うエネルギー価格上昇の影響についてはどうご覧になっていますか?
  • 日本経済は、景気後退のリスクが出てくるのでしょうか?
  • 物価高対策への影響についてはどうでしょうか?
  • 日銀の利上げへの影響についてはどうお考えでしょうか?
  • 混乱が長期化すれば、景気が低迷する中で物価高が進む「スタグフレーション」に陥る恐れがあるのでしょうか?
  • 高市政権の対応についてはどうお考えでしょうか?

以下は会田がコメンテーターとして出演している文化放送の「おはよう寺ちゃん」の内容の一部をまとめ、加筆・修正したものです。

原油高騰に伴うエネルギー価格上昇の影響についてはどうご覧になっていますか?

問(寺島):アメリカとイスラエルが開始したイランへの大規模攻撃。イランは、アメリカ軍が駐留するUAEやサウジアラビアをはじめとする湾岸諸国を攻撃して、石油・天然ガス施設に被害が出ています。日本政府は事態の長期化を懸念しています。日本は原油の9割以上を輸入に依存していますが、そのうち8割ほどが、イランに面した原油ルートの要衝です。「ホルムズ海峡」を経由して運ばれますが、原油高騰に伴うエネルギー価格上昇の影響についてはどうご覧になっていますか?

答(会田):エネルギーの自給率の低い日本は、原油価格が大きく上昇すると、海外に支払う額が大きくなり、景気を冷え込ませるリスクになります。国内の需要が弱くても、エネルギー価格の上昇のコストを、企業は製品に転嫁します。コスト・プッシュの悪い物価上昇となります。生活コストが上昇した消費者は、購入数量を減らし、企業収益を下押すことで、賃金にも抑制圧力がかかります。コスト・プッシュの悪い物価上昇でも、それを抑え込もうと日銀が拙速な利上げをすれば、企業は投資を減らしてしまい、将来の供給能力が減退し、国力が更に落ちてしまうことになります。

日本経済は、景気後退のリスクが出てくるのでしょうか?

問(寺島):資源エネルギー庁によると、国内の石油備蓄は去年12月末の時点で計254日分あり、すぐに途絶えることはないといいます。ただ、問題は価格で、原油価格の指標となるアメリカWTIの先物価格は一時、1バレル=77ドル台をつけ、およそ8カ月ぶりの高水準となりました。来週以降に日本のガソリン価格へ大きく波及する見通しで、実体経済への影響も強く懸念され始めています。1バレル=80ドルを超えると日本経済は、景気後退のリスクが出てくるのでしょうか?

答(会田):原油価格が20%上昇すると、日本の実質GDP成長率は0.3%程度下押されることになります。日本の実力の成長率である潜在成長率は0.4%程度しかありません。経済成長がほとんどできないことになります。景気後退のリスクがあると判断されれば、2026年度の政府予算が国会を通過した後、政府は経済対策の補正予算をすぐに実施して、経済を支えることになるとみられます。2026年度の政府予算には予備費が1兆円しかありません。今年の1-3月期の電気・ガス料金負担軽減策と同規模の支援が夏場に実施された場合、0.5兆円程度となります。それ以外の追加策や災害のための支出に備えておくことを考慮すると、補正予算を組まなければ、家計を十分に支えられないとみられます。

物価高対策への影響についてはどうでしょうか?

問(寺島):アメリカとイスラエルによるイランへの攻撃を受け、原油価格が急騰しているわけですが、高市政権による物価高対策が動き始めている中、原油高はそれを帳消しにしかねないのでしょうか?

答(会田):1月からガソリンの暫定税率が廃止されています。1月から3月のエネルギーコストの補助金も出されています。これらの対策がなければ、原油価格の上昇によって、日本経済は景気後退になっていたとみられます。これまでの対策の効果は原油価格の上昇で既に帳消しになったとみるべきです。エネルギー価格の上昇は、3-6か月程度の時間をかけて、物価を押し上げていきます。原油価格が高止まれば、政府は、夏のエネルギーコストの大きな上昇に対する追加の対策をする必要があります。また、食料品の消費税率の引き下げを、2027年度ではなく、2026年度中に実施する必要が出てくる可能性があります。消費税率引き下げに対する反対の声は急速に小さくなっていくとみられます。

日銀の利上げへの影響についてはどうお考えでしょうか?

問(寺島):アメリカとイスラエルによる攻撃、それにイランが報復する形でエネルギー価格の高騰が続けば、日銀が模索する追加利上げの判断にも影響が及びそうです。先行きの不透明感が増したことから、日銀の追加利上げが遠のいたとの声も出始めていますが、会田さんはどうご覧になっていますか?

答(会田):4日の国会で、植田日銀総裁は、原油価格の上昇によって交易条件が悪化し、「景気や基調的な物価上昇率に下押し圧力となる可能性がある」と語っています。高市政権は、日銀に対して、物価安定と強い経済成長の両立という、二つの責務を与えています。コスト・プッシュで物価は上昇しますが、経済成長が弱くなるリスクが高まるわけですから、日銀の追加利上げが遠のくのは当然です。

混乱が長期化すれば、景気が低迷する中で物価高が進む「スタグフレーション」に陥る恐れがあるのでしょうか?

問(寺島):トランプ大統領は演説で、イランでの軍事作戦について「4〜5週間と予測していたが、それよりはるかに長期にわたって実行する能力がある」と述べています。混乱が長期化すれば、景気が低迷する中で物価高が進む「スタグフレーション」に陥る恐れがあるのでしょうか?

答(会田):植田日銀総裁は、原油価格の上昇が続く場合は、中長期的な予想インフレ率の上昇につながり、基調的な物価上昇率を押し上げる可能性にも言及しています。利上げを諦めたくないというのが本音でしょう。その日銀の利上げに前のめりの姿勢が、景気不安につながり、株式市場に余計な下押し圧力をかけている可能性があります。日銀が拙速な利上げをした場合、国内の需要が冷え込みます。その物価押し下げ効果は小さく、原油価格の上昇のコスト・プッシュの圧力の方が大きく、景気が低迷する中で物価高が進む「スタグフレーション」に陥るリスクとなります。よって、コスト・プッシュの物価高に対しては、日銀ではなく、政府が財政政策で家計と企業を支える必要があります。

高市政権の対応についてはどうお考えでしょうか?

問(寺島):高市総理は「責任ある積極財政」を掲げているわけですが、原油価格の高騰が長期に渡って続いた場合、どうすべきなのでしょうか?

答(会田):企業が投資を減らしてしまい、将来の供給能力が減退し、国力が更に落ちてしまうことを避ける必要があります。供給能力がインフレ圧力を安定化させる力になるからです。官民連携の成長投資と危機管理投資を拡大することで、エネルギーコストの上昇に対する強靭な経済基盤をつくることを急がねばなりません。投資が実を結ぶまでは時間がかかるため、その間は、積極財政の力で、減税と給付金などで、家計をしっかり支援していく必要があります。家計の貯蓄率は史上最低の水準まで低下していて、家計は困窮しています。財源がないから家計支援の政策ができないという、これまでの行き過ぎた緊縮志向の呪縛を乗り越えられなければ、政権の支持率を下げるリスクとなります。


会田 卓司
クレディ・アグリコル証券 東京支店 チーフエコノミスト
松本 賢
クレディ・アグリコル証券 マクロストラテジスト

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