この記事は2026年3月13日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「実質賃金増加のカギを握る食料インフレの行方」を一部編集し、転載したものです。


実質賃金増加のカギを握る食料インフレの行方
(画像=Suriyo/stock.adobe.com)

(総務省「消費者物価指数」など)

2023年以降、春闘での賃上げ率は上昇し、賃上げは「ノルム」として定着しつつある。しかし物価も上昇しており、家計が実感する購買力、すなわち実質賃金は目減りしている。名目賃金が伸びても物価の伸びが上回れば、家計の生活は苦しくなる。そのため、連合(日本労働組合総連合会)は実質賃金を「1%上昇軌道に確実に乗せる」ことを方針に掲げ、企業側も「賃上げの継続」だけでなく「実質賃金の上昇」の必要性を公言することが増えている。

賃金上昇率がインフレ率を上回る状況が常態化するためには、第一に前回まで述べてきたとおり賃上げがノルムとして定着すること、第二に20年代に入って経験したような高いインフレが落ち着くことが必要となる。今回は後者のインフレに焦点を当てたい。

22年に始まった日本のインフレは、その前年の輸入物価の上昇によってもたらされた。当初はエネルギー価格の上昇が日本の物価を押し上げ、輸入食品の価格上昇や円安進行も国内のインフレ圧力を高める要因となった。食品価格の上昇はその後も続き、特に25年はコメ価格が例年の2倍に跳ね上がったことがインフレ率を押し上げた。その結果、25年は年間を通じてインフレ率の半分以上が食品価格の上昇によってもたらされる「食品インフレ」が続いた(図表)。

実質賃金の今後の推移を展望するに当たって、この食品価格の動向が重要となる。そして、その食品価格のカギを握るのが輸入食品の価格だ。

食品の多くを輸入に依存する日本では、輸入食品の価格変動がタイムラグを伴って国内の食品価格に影響を及ぼす構造となっている。25年の輸入食品の価格(年平均)は前年比で3.6%上昇にとどまり、24年の半分程度の上昇率まで低下したことを考えると、26年は食品価格の押し上げ圧力が徐々に和らいでいく可能性が高い。国内の供給不足が原因となったコメ価格の高騰も、コメが増産に転じたことで価格がさらに上昇する懸念は薄らいでいる。

このように26年は食品価格の一服によるインフレ鈍化が見込まれる。夏場までは物価高対策による電気・ガス料金の補助や私立高校の授業料の無償化なども後押しするだろう。その結果、インフレ率は1%台で推移し、26年前半は実質賃金が増加する可能性は高い。

ただし、物価高対策によるインフレ圧力の緩和は、あくまで一時的なものでしかない。対策効果が薄れる年後半には、インフレ率は再び2%前後に戻るだろう。実質賃金の上昇を新たなノルムとして定着させるためには、経営側・労働者側の双方が、2%前後の物価上昇を上回る賃金の引き上げに向けた取り組みを継続していく必要がある。

実質賃金増加のカギを握る食料インフレの行方
(画像=きんざいOnline)

みずほリサーチ&テクノロジーズ 上席主任エコノミスト/井上 淳
週刊金融財政事情 2026年3月17日号