この記事は2026年4月10日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「ドイツの財政拡張策が始動も経済への波及に3つの障害」を一部編集し、転載したものです。


ドイツの財政拡張策が始動も経済への波及に3つの障害
(画像=Hastuti/stock.adobe.com)

ドイツ政府は2025年3月、1兆ユーロ(約160兆円)超の投資・防衛力強化策を打ち出した。そして、25年後半以降、その強化策のための政府資金が動き始めている。

まず、財政拡張パッケージの目玉として5,000億ユーロを計上した「インフラ・気候中立基金」は、25年秋に稼働が確認された。政府による投資額は、25年1~3月期が112億ユーロ、4~6月期が97億ユーロと横ばいだったが、7~9月期が168億ユーロ、10~12月期が420億ユーロと加速している。25年10~12月期の政府投資額は、同期の名目GDP(国内総生産)の4%弱に及ぶ。また、防衛支出額も25年7~9月期には191億ユーロだったが、10~12月期には368億ユーロと倍近く拡大している。

こうした財政拡張策は歳出増加につながったものの、ドイツ国内における財生産を明確に拡大させるには至っていない。そこには、三つの障害が存在する。

第一が、行政手続きの遅滞だ。政府投資支出は、補助金の給付や融資・出資などの金融取引が中心であり、政府自身による投資の実施は1~2割に過ぎない。金融取引に際して支出決定のみならず、認定手続きなどが生じてしまい、相当の時間を要している。

第二に、製造業の不振だ。製造業の中で、財政出動関連セクターといえる金属製品や自動車以外の輸送用機器では25年末に生産が増加したものの、自動車や一般機械、化学などの生産低迷が打ち消し材料として作用している。

第三が、製造業の構造的なボトルネックの存在だ。金属製品や電気機械、輸送用機器(自動車を除く)、コンピューター・電子・光学機器における受注残の積み上がりが特に目立つ。しかも、受注残高が積み上がっているセクターの稼働率がおおむね低い。

稼働率の低さは構造問題、すなわちエネルギーや原材料価格・人件費の高騰による採算の悪化、技術者・熟練労働者の不足、長期的な投資低下による生産設備の不足や老朽化といったボトルネックの存在を示唆する。投資強化の目的の一つはドイツ経済が抱える構造問題の打破とされる。しかし、皮肉にも構造問題の存在が、投資強化プロセスの進捗を阻害している。

こうした構造問題の存在などを踏まえると、財政パッケージの景気刺激効果は、時間をかけてゆっくりとドイツの実質GDPに波及する見込みである(図表)。現時点では、財政拡張策が必ずしも即効薬になり得ていない。

ドイツの財政拡張策が始動も経済への波及に3つの障害
(画像=きんざいOnline)

SMBC日興証券 チーフマーケットエコノミスト/丸山 義正
週刊金融財政事情 2026年4月14日号