この記事は2026年5月27日に配信されたメールマガジン「アンダースロー:内需からの物価上昇圧力が弱い日本は新たな投資枠の拡大で挽回するチャンス」を一部編集し、転載したものです。

アンダースロー
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目次

  1. 内需からの物価上昇圧力が弱い日本は新たな投資枠の拡大で挽回するチャンス

内需からの物価上昇圧力が弱い日本は新たな投資枠の拡大で挽回するチャンス

  • 高市政権では、積極財政でグローバルな経済政策の潮流の変化に乗るため、プライマリーバランスの黒字化目標から、より柔軟な財政目標に変え、グローバルな産業政策の競争を勝ち抜き、国力の強化に取り組むとみられる。高市政権下で初となる骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針、7月の予定)で、どのような財政目標に変化していくのかが注目される。社会・経済の課題解決のため「危機管理投資」と「成長投資」など官民連携で投資を拡大していくことを明確にし、それを可能とする財政目標に改革し、中長期的なスパンでの投資戦略を示すことで、企業の予見可能性と成長期待を高めることが期待される。国内支出の拡大で、企業を貯蓄超過から投資超過に回復させ、日本経済を「コストカット型経済」から「成長型経済」へ移行させる。

  • 財政支出は、人件費などの経常的支出と、将来の成長や所得を生む投資的支出に分けて考えるべきだろう。財政規律として、経常的支出は税収・税外収入の範囲内に収めることはあり得る。しかし、投資的支出は国債発行で行い、実施の可否は、財源の有無ではなく、利払い負担以上の将来の便益を生むのかどうかで判断されるべきだ。歳出から、投資的支出を除いたものを、経常的収支と定義することができる。プライマリーバランスの黒字化目標から、投資的支出を除いた経常収支を税収・税外収入・投資的支出の収益と中長期的にバランスさせる目標に転換すれば、財政規律に配慮しながら、投資的支出の拡大も可能となる。この投資的支出の枠を、「新たな投資枠」として、経常的支出の予算とは別枠で、どれだけ大きくできるのかが、政府の戦略投資へのコミットメントを示すことになる。

  • 当初予算で、多年度の新たな投資枠を生み、予算編成は現状の延長線ではなく、抜本的に見直されることで、17戦略分野を中心とする新たな投資が生み出されることになる。現状の延長線の予算編成では、新たな投資が入る余地は、既存の支出を削る必要があり、困難であった。2026年度の当初予算の経常的支出は84.3兆円となる。税収・税外収入は92.7兆円である。例年、税収が過小に見積もられ、歳出の不用額と合わせて、7兆円程度の余剰が生まれる。2026年度には、経常的収支はほぼバランスに近づいていると言える。戦略投資の拡大余地は、かなり大きいことになる。戦略投資の拡大を可能にする、より柔軟性のある財政規律の枠組みに修正することが、日本経済を「コストカット型経済」から「成長型経済」に移行させる上で重要となるだろう

  • 内需があまりに強く、国内からの物価上昇圧力が強ければ、戦略投資による投資需要の拡大が需給ギャップを押し上げ、短期的なインフレ懸念を悪化させるリスクとなる。日銀が重視している特殊要因を除く物価指標でみると、4月の生鮮食品・エネルギーを除く消費者物価指数は前年同月比+2.2%と、昨年7月の+3.6%のピークから失速、食料・エネルギーを除く消費者物価指数も+1.4%と、昨年11月の+1.9%のピークから失速し、2%の物価安定目標を下回っている。加重中央値も+0.6%と、昨年5月の+1.7%から失速幅はかなり大きい。原油価格の上昇によるグローバルなインフレ懸念の中、内需からの物価上昇圧力が強い他の先進国と比較すると、内需からの物価上昇圧力が弱い日本は戦略投資を拡大する余地は大きく、挽回するチャンスである。政府・日銀の連携で、国力を回復するチャンスでもある。


これまでの経済政策は、新自由主義的な思想で運営されてきた。小泉・竹中路線、または構造改革路線と言われる。政府の関与をできるだけ小さくして、効率的な民間経済の自由度を高める思想だ。政府の関与を小さくするため、プライマリーバランスの黒字化目標という財政健全化路線と親和性があった。しかし、現在のグローバルな経済政策の潮流は、多様化する中長期の社会・経済の課題を解決するための官民連携の投資と需要の拡大に変化している。そして、官民連携の戦略投資の競争はグローバル規模で激しさを増している。成長産業や新技術への政府の投資が拡大していることが、グローバルに財政赤字が減少しない理由でもある。

先進国でプライマリーバランスの単年度の黒字化目標という硬直化した財政運営をしているのは日本だけである。一般的には、財政収支は一定の赤字に収める柔軟な運営をおこなう。プライマリーバランスの黒字化目標は、将来の成長や所得を生む戦略投資であっても、税収の範囲内で行う制約となる。財政収支を一定の赤字に収めるのであれば、経常的な支出は税収・税外収入の範囲内に収めても、戦略投資は国債の発行で賄い、持続的に拡大させることが可能となる。戦略投資のグローバルな激しい競争の中、日本だけ、無用な足かせをはめて戦えば、競争に敗れ、国力の低下の原因となってしまう。

高市政権では、積極財政でグローバルな経済政策の潮流の変化に乗るため、プライマリーバランスの黒字化目標から、より柔軟な財政目標に変え、グローバルな産業政策の競争を勝ち抜き、国力の強化に取り組むとみられる。高市政権下で初となる骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針、7月の予定)で、どのような財政目標に変化していくのかが注目される。社会・経済の課題解決のため「危機管理投資」と「成長投資」など官民連携で投資を拡大していくことを明確にし、それを可能とする財政目標に改革し、中長期的なスパンでの投資戦略を示すことで、企業の予見可能性と成長期待を高めることが期待される。国内支出の拡大で、企業を貯蓄超過から投資超過に回復させ、日本経済を「コストカット型経済」から「成長型経済」へ移行させる。

財政支出は、人件費などの経常的支出と、将来の成長や所得を生む投資的支出に分けて考えるべきだろう。財政規律として、経常的支出は税収・税外収入の範囲内に収めることはあり得る。しかし、投資的支出は国債発行で行い、実施の可否は、財源の有無ではなく、利払い負担以上の将来の便益を生むのかどうかで判断されるべきだ。歳出から、投資的支出を除いたものを、経常的収支と定義することができる。プライマリーバランスの黒字化目標から、投資的支出を除いた経常収支を税収・税外収入・投資的支出の収益と中長期的にバランスさせる目標に転換すれば、財政規律に配慮しながら、投資的支出の拡大も可能となる。この投資的支出の枠を、「新たな投資枠」として、経常的支出の予算とは別枠で、どれだけ大きくできるのかが、政府の戦略投資へのコミットメントを示すことになる。

当初予算で、多年度の新たな投資枠を生み、予算編成は現状の延長線ではなく、抜本的に見直されることで、17戦略分野を中心とする新たな投資が生み出されることになる。現状の延長戦の予算編成では、新たな投資が入る余地は、既存の支出を削る必要があり、困難であった。2026年度の当初予算の経常的支出は84.3兆円となる。税収・税外収入は92.7兆円である。例年、税収が過小に見積もられ、歳出の不用額と合わせて、7兆円程度の余剰が生まれる。2026年度には、経常的収支はほぼバランスに近づいていると言える。戦略投資の拡大余地は、かなり大きいことになる。戦略投資の拡大を可能にする、より柔軟性のある財政規律の枠組みに修正することが、日本経済を「コストカット型経済」から「成長型経済」に移行させる上で重要となるだろう。

内需があまりに強く、国内からの物価上昇圧力が強ければ、戦略投資による投資需要の拡大が需給ギャップを押し上げ、短期的なインフレ懸念を悪化させるリスクとなる。日銀が重視している特殊要因を除く物価指標でみると、4月の生鮮食品・エネルギーを除く消費者物価指数は前年同月比+2.2%と、昨年7月の+3.6%のピークから失速、食料・エネルギーを除く消費者物価指数も+1.4%と、昨年11月の+1.9%のピークから失速し、2%の物価安定目標を下回っている。加重中央値も+0.6%と、昨年5月の+1.7%から失速幅はかなり大きい。原油価格の上昇によるグローバルなインフレ懸念の中、内需からの物価上昇圧力が強い他の先進国と比較すると、内需からの物価上昇圧力が弱い日本は戦略投資を拡大する余地は大きく、挽回するチャンスである。政府・日銀の連携で、国力を回復するチャンスでもある。

投資的支出を除いてを財政規律を考えることは、ノーベル経済学賞受賞者である米コロンビア大学のジョセフ・スティグリッツ教授からお墨付きを得ている。スティグリッツ教授は、クリントン政権下の1995~1997年に大統領経済諮問委員会(CEA)の委員長を務めていた時期に、同様の発想で将来の成長に繋がる、インフラなどの「投資的支出」を別勘定とすることを提案したという。しかし、結果的に「投資的支出」の定義を明確にできず、あらゆる歳出を「投資的支出」として扱うよう求める各所からの要求の収拾がつかず、残念ながら頓挫してしまったという。そこで、日本には建設国債という枠組みがあることを伝えたところ、投資的支出を定義するうえで非常に便利だとし、投資的支出を除いて財政規律を考えるアイディアに強い賛同をもらった。新たな投資枠も投資的支出の範囲を明確にする。グローバルでは、将来の成長や所得を生む投資的投資は、経常収支と分別して考えることは一般的な考えである。

図1:財政収支のイメージ

財政収支のイメージ
(出所:クレディ・アグリコル証券)

図2:消費者物価のコア指標

消費者物価のコア指標
(画像=出所:日銀、クレディ・アグリコル証券)

会田 卓司
クレディ・アグリコル証券 東京支店 チーフエコノミスト
松本 賢
クレディ・アグリコル証券 マクロストラテジスト

本レポートは、投資判断の参考となる情報提供のみを目的として作成されたものであり、個々の投資家の特定の投資目的、または要望を考慮しているものではありません。また、本レポート中の記載内容、数値、図表等は、本レポート作成時点のものであり、事前の連絡なしに変更される場合があります。なお、本レポートに記載されたいかなる内容も、将来の投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。投資に関する最終決定は投資家ご自身の判断と責任でなされるようお願いします。