この記事は2026年6月5日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「世代間の賃金格差が縮小した背景」を一部編集し、転載したものです。


世代間の賃金格差が縮小した背景
(画像=beeboys/stock.adobe.com)

(厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)

前回は、深刻化する人手不足や長期化する物価高への対応から、2026年の春季労使交渉(春闘)では高い賃上げ率が実現していることを紹介した。一方で、こうした賃上げの恩恵は、若年層に集中している。

厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」から、5歳ごとに分類した年齢階級別の所定内給与(基本給)の伸びを見ると、25年は44歳以下の年齢層で前年比4%前後の伸びを確保しているが、45歳以上の年齢層では2%前後の伸びにとどまっている。そもそも賃金上昇率は若手層の方が高めになる傾向が示され、特に15年以降から、44歳以下の賃上げ率の上昇幅が大きくなっている。

若年層を中心とした賃金上昇が進んだことで、世代間の賃金格差は縮小傾向にある。図表は、25~29歳の賃金を100とし、各年齢層の賃金水準を年ごとの曲線(賃金カーブ)で示している。これを見ると、直近10年ほどで賃金カーブのフラット化が進んでいることが分かる。その背景には、①人口動態の影響、②就職氷河期世代(大卒であれば、1970年から84年生まれ)の存在、③年功序列型から成果主義型への移行──がある。

①については、日本人人口は10年をピークに減少に転じているが、出生数は世代ごとに波がある。年代別の日本人の人口動態を見ると、いわゆる団塊ジュニア世代(1971年から74年生まれ)が人口のボリュームゾーンであり、その後は人口減少が進み、特に若年層は人材不足となっている。そのため賃金は、労働需給の観点から団塊ジュニア世代では伸びにくいものの、若年層では初任給の引き上げなどに伴って上昇している。

②については、バブル崩壊や97年の金融危機による不景気の下、企業が新卒採用の枠を極端に狭めたことで、その前後の世代よりも、キャリアを通じ賃金が低水準に抑えられてきた。この就職氷河期世代が、賃金水準が最も高くなる50代に差し掛かってきたことで、賃金カーブのピークも低水準にとどまっている。

③については、これまで勤続年数や年齢などをもとに、年功序列型の雇用形態が多くの企業で採られてきた。だが、近年は労働市場の流動化などの影響で職務や能力、成果によって賃金を決定する成果主義型への移行が進み、年齢が賃金に与える影響が低下しつつある。

今後は、団塊ジュニア世代や就職氷河期世代の定年退職に伴い、賃金カーブは能力や成果をより反映した合理的なものに向かうと考えられる。就業年数に応じて積み重なるスキルが身に付いていれば、フラット化が進んできた賃金カーブは、再びスティープ化に向かう可能性がある。

世代間の賃金格差が縮小した背景
(画像=きんざいOnline)

伊藤忠総研 副主任研究員/高野 蒼太
週刊金融財政事情 2026年6月9日号