この記事は2026年6月16日に配信されたメールマガジン「アンダースロー:植田「アヘッド・オブ・ザ・カーブ」」を一部編集し、転載したものです。
植田「アヘッド・オブ・ザ・カーブ」
6月の金融政策決定会合で、日銀は政策金利(無担保コールレートオーバーナイト物)を0.75%から1.00%に引き上げた。政府が日銀に事実上のデュアル・マンデート(「強い経済成長」と「安定的な物価上昇」の両立)を課している中、地政学上のリスクの高まりによる交易条件の悪化で、名目成長率は急減速するとみられる。弱い内需によって国内からの物価上昇圧力はまだ弱い中、日銀が利上げに踏み切り、年後半の経済成長率の減速につながるだろう。中小企業と中小金融機関の資金繰りに圧力がかかり、信用サイクルを下押すからだ。2006年の実質GDP成長率は+0.3%と、+0.5%程度の潜在成長率を下回るだろう。結果として、2026年の利上げの回数は1回で従来の予想から変化はない。
日銀の拙速な利上げによる景気減速の重しによって、2027年の利上げの回数の予想は3回から2回に減少する。2027年に消費税の食料品の税率が0%近傍まで下げられることと、地政学上のリスクの後退によって原油価格が低下したことが、景気の持ち直しへの動きにつながるだろう。利上げは6か月に1回の緩やかなペースとなるだろう。2027年の実質GDP成長率は+0.5%と、潜在成長率なみにとどまるとみられる。「強い経済成長」と「安定的な物価上昇」の両立のデュアル・マンデートについての情報発信を更に強くしていくとみられ、日銀は利上げにより慎重となり、「強い経済成長」をより意識していくことになるだろう。2027年度から政府の戦略投資の拡大を含む政府予算が執行されることで、設備投資サイクルに勢いがつき、2028年の実質GDP成長率は+1.4%まで大きく加速するとみられる。今回利上げに反対した浅田審議委員と次回金融政策決定会合から参加する佐藤綾野審議委員はデュアル・マンデートに対する理解が深い。
政府が重要視する需給ギャップとネットの資金需要が示すファンダメンタルズの状態、そして米国の長期金利で、日銀の政策金利(無担保コールレートオーバーナイト物)を推計し、マクロ・フェアバリューは0.15%程度となる。現行の政策金利である1.00%よりかなり低い。日銀は、「消費者物価の基調的な上昇率が2%の「物価安定の目標」を超えて上振れていくリスクがある」ことを利上げの理由としているが、マクロファンダメンタルズでは、そのリスクはほとんどないことが示される。政府が重視するファンダメンタルズ対比の推計では、日銀は「ビハインド・ザ・カーブ」(利上げの遅れ)ではなく、逆に「アヘッド・オブ・ザ・カーブ」(拙速な利上げ)となっていることで、6月の利上げは景気減速につながると判断できる。マクロ・フェアバリューとの誤差の幅は、1.25標準誤差を超え、緊縮で知られた三重野・白川総裁以来のこととなる。
日銀は、6月の金融政策決定会合で長期国債買入れの減額計画の中間評価を実施した。2027年4月時点で日銀の国債買入れ額は月間2.1兆円程度となる予定であった。2027年4月以降の月間買入れ額は2兆円程度とほぼ据え置き、年間24兆円程度とする。年間買入れ額の必要な最低限の規模は、マクロとして重要な成長通貨供給の概念を考慮する必要がある。成長通貨供給とは、経済成長に伴う通貨需要の増加に対応するため、日銀が長期国債を買入れ、市場に資金を供給する考え方である。国債買入れの目的も正常化するのであれば、名目GDPの拡大に合わせて日銀は成長通貨を供給する必要が生じることになる。
仮に成長通貨供給が過少となれば、経済の通貨需要が強まった際に、過度な金利上昇を通じた金融環境の引き締まりで不用意に経済成長を損なってしまうリスクとなる。名目GDP成長率3%を前提にすれば、年間20兆円程度の買入れ額が目安となるが、2027年4月以降の買入れがさらに減額されることとなれば、日銀からの成長通貨供給が経済成長の伸び率を下回る可能性があった。高市政権が強い経済を実現するための、官民連携の危機管理投資・成長投資を長期にわたり実施するためには、長期の資金供給が必要であり、日銀の長期国債買入れによる成長通貨供給もその一環となる。
6月の金融政策決定会合で、日銀は政策金利(無担保コールレートオーバーナイト物)を0.75%から1.00%に引き上げた(7対1、反対:浅田審議委員、欠席:植田総裁)。政府が日銀に事実上のデュアル・マンデート(「強い経済成長」と「安定的な物価上昇」の両立)を課している中、地政学上のリスクの高まりによる交易条件の悪化で、名目成長率は急減速するとみられる。弱い内需によって国内からの物価上昇圧力はまだ弱い中、日銀が利上げに踏み切り、年後半の経済成長率の減速につながるだろう。中小企業と中小金融機関の資金繰りに圧力がかかり、信用サイクルを下押すからだ。2026年の実質GDP成長率は+0.3%と、+0.5%程度の潜在成長率を下回るだろう。結果として、2026年の利上げの回数は1回で従来の予想から変化はない。
日銀の拙速な利上げによる景気減速の重しによって、2027年の利上げの回数の予想は3回から2回に減少する。2027年に消費税の食料品の税率が0%近傍まで下げられることと、地政学上のリスクの後退によって原油価格が低下したことが、景気の持ち直しへの動きにつながるだろう。利上げは6か月に1回の緩やかなペースとなるだろう。2027年の実質GDP成長率は+0.5%と、潜在成長率なみにとどまるとみられる。「強い経済成長」と「安定的な物価上昇」の両立のデュアル・マンデートについての情報発信を更に強くしていくとみられ、日銀は利上げにより慎重となり、「強い経済成長」をより意識していくことになるだろう。2027年度から政府の戦略投資の拡大を含む政府予算が執行されることで、設備投資サイクルに勢いがつき、2028年の実質GDP成長率は+1.4%まで大きく加速するとみられる。今回利上げに反対した浅田審議委員と次回金融政策決定会合から参加する佐藤綾野審議委員はデュアル・マンデートに対する理解が深い。
政府が重要視する需給ギャップとネットの資金需要(企業貯蓄率+財政収支、GDP比)が示すファンダメンタルズの状態、そして米国の長期金利で、日銀の政策金利(無担保コールレートオーバーナイト物)を推計し、マクロ・フェアバリューを算出する。公表されている直近の1-3月期の需給ギャップ+0.5%(4QMA)と昨年10-12月期のネットの資金需要+2.4%が示す弱いファンダメンタルズ、4.5%の米国の長期金利を前提とすると、日銀の政策金利のマクロ・フェアバリューは0.15%程度となる。現行の政策金利である1.00%よりかなり低い。日銀は、「消費者物価の基調的な上昇率が2%の「物価安定の目標」を超えて上振れていくリスクがある」ことを利上げの理由としているが、マクロファンダメンタルズでは、そのリスクはほとんどないことが示される。
政府が重視するファンダメンタルズ対比の推計では、日銀は「ビハインド・ザ・カーブ」(利上げの遅れ)ではなく、逆に「アヘッド・オブ・ザ・カーブ」(拙速な利上げ)となっていることで、6月の利上げは景気減速につながると判断できる。マクロ・フェアバリューとの誤差の幅は、1.25標準誤差を超え、緊縮で知られた三重野・白川総裁以来のこととなる。海外景気の急減速が加わるなどして、2027年に景気が後退した場合、デュアル・マンデートを軽視した日銀には大きな責任を生じるとみられる。デュアル・マンデートを明確に日銀法に明記する改正につながるとみられる。
日本銀行法第四条(政府との関係)には、「日本銀行は、その行う通貨及び金融の調節が経済政策の一環をなすものであることを踏まえ、それが政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない。」とされている。政府の経済政策の基本方針は、「責任ある積極財政の考え方の下、戦略的に財政出動を行うことで強い経済を構築する」ことだ。政府が金融政策の手段の独立性を尊重しながら、日銀に連携を求めるのは当然だ。
高市首相は、今国会の施政方針演説で、サナエノミクスは投資拡大であることを明確に示した。これまでの経済停滞は、人口動態の悪化よりも、官民の国内投資の不足に原因があるとした。高市政権の方針は官民連携の戦略投資による「成長型経済」への移行と、「強い経済」の実現である。高市政権は、戦略分野と分野横断的課題への対応を中心に、将来の経済成長をもたらす投資をはじめ、足元で必要な政策を果断に実施するための歳出を躊躇しない方針だ。戦略投資を、当初予算で、多年度・別枠で管理する「新たな投資枠」を設けることが検討されている。
高市政権となり、危機管理投資と成長投資による成長期待は高まっているものの、企業が国内投資を本格化させ、実質賃金が上昇し、内需の拡大で自然利子率の上昇と日本への資本の流入には時間を要する。それまでの期間は、官民連携の戦略投資の拡大と円安水準の維持によって、企業投資の国内回帰や海外資本の日本への投資を促し、設備投資サイクルを押し上げることが、異常であったこれまでのプラスの企業貯蓄率から正常なマイナスに転換することに繋がるだろう。
設備投資サイクルが上向きで、供給能力が向上する期待の中での円安はネガティブではない。円安の家計の負担は、財政政策で支えられる。足元ではプラスの企業貯蓄率が示すように、構造的な経済停滞圧力からは完全に脱却できていない。拙速な利上げで上向きにある設備投資サイクルが腰折れれば、中立金利に向けた、内需の拡大に沿った利上げの動きは出遅れ、円安圧力がさらに強まる結果に繋がるだろう。設備投資サイクルが下向きで、供給能力の棄損のリスクの中での円安を止めるのは困難である。
戦略投資の拡大を織り込んだ2027年度以降の政府予算の積極財政によって、設備投資サイクルが加速し、実質GDP成長率が+0.5%程度の潜在成長率を大きく上回る中、デュアル・マンデートを意識しながら日銀は緩和的な金融環境の維持に努めるだろう。2028年には政策金利は2%に達し、物価目標対比で実質マイナス政策金利を脱するだろう。2028年には、企業の国内支出が十分に拡大し、資金需要が回復することで、企業貯蓄率は正常なマイナスに転換し、日本経済は構造的な経済停滞を脱するとみられる。2029年に政策金利はターミナルレートの2.25%に達するだろう。
日銀は、6月の金融政策決定会合で長期国債買入れの減額計画の中間評価を実施した。2027年4月時点で日銀の国債買入れ額は月間2.1兆円程度となる予定であった。2027年4月以降の月間買入れ額は2兆円程度とほぼ据え置き、年間24兆円程度とする。年間買入れ額の必要な最低限の規模は、マクロとして重要な成長通貨供給の概念を考慮する必要がある。成長通貨供給とは、経済成長に伴う通貨需要の増加に対応するため、日銀が長期国債を買入れ、市場に資金を供給する考え方である。成長通貨供給は量的金融緩和以前に実施されており、当時は日本銀行券発行の伸びに対応した買入れを行っていた。国債買入れの目的も正常化するのであれば、名目GDPの拡大に合わせて日銀は成長通貨を供給する必要が生じることになる。仮に成長通貨供給が過少となれば、経済の通貨需要が強まった際に、過度な金利上昇を通じた金融環境の引き締まりで不用意に経済成長を損なってしまうリスクとなる。
名目GDP成長率3%を前提にすれば、年間20兆円程度の買入れ額が目安となるが、2027年4月以降の買入れがさらに減額されることとなれば、日銀からの成長通貨供給が経済成長の伸び率を下回る可能性があった。高市政権が強い経済を実現するための、官民連携の危機管理投資・成長投資を長期にわたり実施するためには、長期の資金供給が必要であり、日銀の長期国債買入れによる成長通貨供給もその一環となる。よって、2027年4月以降も、買い入れ予定額の維持が必要であると判断されたとみられる。一方、日銀が保有する国債の償還が月間6兆円程度ある。償還と買入れの差は、日銀のバランスシートの縮小となる。政府との資金のやり取りの償還がありバランスシートは縮小するが、民間からの国債買い入れによって、民間に成長通貨供給をする国債買い入れの額も重要である。
コールレート(%)=-0.18 -0.13 ネットの資金需要(%GDP、1Qラグ)+ 0.30 需給ギャップ(4QMA、1Qラグ)+0.12 米国債10年金利; R2=0.84
図1:コールレートのマクロ・フェアーバリュー推計誤差
図2:企業貯蓄率と国内設備投資サイクル
図3:日銀の見通し
図4:CACIBの見通し
出所:クレディ・アグリコル証券)
図5:日銀の政策金利
図6:日本経済見通し
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