日常生活で当たり前のように利用しているインターネットバンキングや銀行アプリ。その裏側で、24時間365日止まることなく日本の金融インフラを支え続けているのが、株式会社NTTデータだ。

かつての電話・FAXによる残高照会から、デバイスが進化する中で、同社はどのように顧客と銀行をつないできたのか。そして、API連携やAI、デジタル通貨といった新しいテクノロジーが台頭する今、日本の金融市場はどこへ向かうのか。

NTTデータ 第三金融事業本部 e-ビジネス事業部長の磯村大誠氏に、日本の決済システムの中枢を担う同社の取り組みや、これからの金融インフラの未来について話を聞いた。

目次

  1. 日本の決済インフラ支える使命、「ANSER」の歴史は46年
  2. 24時間365日システムを止めない時代の苦労
  3. 協業が支える「API連携」とエンベデッド・ファイナンス
  4. デジタル通貨との「適材適所」と、銀行が溶け込む未来

日本の決済インフラ支える使命、「ANSER」の歴史は46年

── NTTデータといえば、日本を代表するIT企業ですが、規模感や金融領域の取り組みについて教えてください。

磯村氏(以下、敬称略) NTTデータ全体で見ますと、現在は70カ国以上に拠点を持ち、約20万人の従業員のうち7〜8割が海外で働くグローバルカンパニーとなっています。

その中で、日本国内における私たちのアイデンティティは、やはり「社会全体のインフラ」に近い領域を支えさせていただいている点にあります。

金融領域では、銀行様の勘定系システムを始め、クレジットカードや銀行間送金、決済といった、日本の決済活動の根幹を成すシステムの構築・運用を私たちが担っています。表立ってNTTデータの名前が出ることは少ないですが、「金融」というキーワードの後ろには必ず私たちがいる、そんな存在です。

── e-ビジネス事業部が手がける「ANSER」(アンサー)は、非常に息の長いサービスですね。

磯村 はい。ANSERはサービス開始から約46年になります。

46年前といえば、銀行と利用者をつなぐツールは「電話」と「FAX」でした。電話回線を通じて銀行のホストコンピューターにアクセスし、残高照会や振り込みの指示ができる仕組みを共同利用型で提供し始めたのがスタートです。

そこから時代が進み、デバイスがパソコンに変わり、回線も専用線やISDNからインターネットへと進化しました。インターネットバンキングを共同利用できるインフラを提供し、現在ではスマートフォンアプリの開発も広く手がけています。デザインやUI/UXは銀行様ごとに作り込んでいますが、裏側の共通的な仕組みは私たちが提供しているケースが多いです。

デバイスは変われど、「利用者と銀行の勘定を安心・安全につなぐ」というコアな方針は一貫して変わっていません。

24時間365日システムを止めない時代の苦労

── デジタル化が進む中で、金融機関のお客様からの相談内容にはどのような変化がありましたか。

磯村 最も大きいのは、「とにかく24時間365日、確実に残高照会や資金移動ができる状態にしてほしい」というご要望です。

30年前であれば、銀行の窓口は15時に閉まり、振り込みが反映されるのは翌日というのが当たり前でした。

しかし最近は、24時間取引ができて当然という世界になっています。

さらに、便利になればなるほど、お金が動くシステムとして「安心・安全」、つまりセキュリティの確保がDX推進と常にセットで求められます。

また、法人のお客様の中にはまだまだFAXなどの仕組みを使っているところもあり、そうした法人の事務負荷をいかにデジタル化していくか、というご相談も増えています。

── 今後日本の金融市場が発展していく上で、壁になる課題は何だと考えていますか。

磯村 トランザクション(取引)の回数と量が爆発的に増えることです。これまで月1回まとめて行われていたような決済が、今ではあらゆる取引がリアルタイムで銀行の残高に反映されるようになりました。取引一つひとつが小口化し、そのすべてを銀行が受け止めなければなりません。

さらに、これまでは人間が関与する取引だったのである程度予想ができましたが、今後はAIやコンピューターによる自動化された資金移動が増えると考えられます。

人間の関与が薄れ、コンピューター同士が会話をして取引を進めるようになると、今までの予想モデルが通用しなくなります。どんなに大量のトランザクションが来てもしっかりお応えできるインフラを作っていくことが、大きな課題になると考えています。

協業が支える「API連携」とエンベデッド・ファイナンス

── コンピューター同士の取引が増える中で、銀行の機能を外部とつなぐ「API」の重要性が高まっていると思います。API連携は、社会にどのような価値を提供するのでしょうか。

磯村 APIとは、コンピューターやソフトウェア同士が会話をするための接点です。このAPIを通じて銀行の機能を外部システムとつなげていく部分において、現在、オープンソースやクラウド製品を開発・販売に強いSIerである、 サイオステクノロジー社と一緒に取り組みを進めています。銀行様がAPIを導入しようとする際、技術的なハードルがあると思われがちですが、同社のようなパートナーも含めてしっかりと体制を組んで提供しているため、技術的な面でチャレンジできないケースは実は少ないと考えています。

── 銀行の機能を外部サービスに組み込む「エンベデッド・ファイナンス」(組込型金融)の普及にも、そのAPIが不可欠ですね。

磯村 おっしゃる通り、エンベデッド・ファイナンスはまさにど真ん中の領域です。企業が自社のサービスの中に銀行の機能を組み込んで提供する際、裏側ではAPIを使って銀行のシステムと連携します。

ここでネックになりやすいのは、技術面もさることながら「どうビジネスモデルを描くか」という点です。単純にAPIを公開し、その利用料だけで収益を得ようとするとビジネスとして難しくなります。銀行様にとっては、企業とのエンゲージメントを高め、本業である融資や資金調達といった領域まで踏み込んでいくことが重要ではないかと考えております。

私たちとしても、単に仕組みを提供するだけでなく、どのようなユースケースを描き、ビジネスモデルとして確立していくかをお客様と一緒に考えていくことが求められています。

デジタル通貨との「適材適所」と、銀行が溶け込む未来

── デジタル通貨やステーブルコイン、トークン化預金といった新技術と、既存のシステムはどのように共存していくのでしょうか。

磯村 ポイントは「適材適所」だと思っています。デジタル通貨やブロックチェーンは、これまでの「堅牢なシステムで中央集権的に元帳を管理する」という従来の思想とは根本的に異なります。

ただ、一般の消費者からすれば「この取引はステーブルコインで」といちいち裏側のシステムを意識して使い分けるのは負担です。消費者が意識しなくても自動的に最適なテクノロジーが選ばれ、より早くスムーズな取引ができる世界を作ること。そこに私たちが貢献できる部分は大きいと思っています。

── デバイスの進化や新技術の台頭によって、「銀行」の姿は今後どのように変わっていくのでしょうか。展望や見通しを教えてください。

磯村 昔は「店舗に行く」など、私たちが銀行に「赴く存在」でした。それがスマホアプリの登場で、自分のすぐそばにいる存在になりました。

今後はさらに、個人であればスマホの中に、法人であれば企業の購買活動や業務システムの裏側に「自然に溶け込んでいる存在」になっていくと思います。最前面に銀行の看板が出る必要はない時もあると思います。

私たちはインフラを担う立場として、そうした技術の進歩を先取りし、一歩先を行く存在でありたいと考えています。

しかし同時に、金融機関様にサービスを提供する以上、「安心・安全」を守るという部分は絶対に揺るがしてはなりません。金融機関様がこれまで積み上げてこられた信頼に傷をつけてはなりません。攻めの姿勢で新しいテクノロジーを取り入れながらも、金融機関をしっかりとサポートする。常にこの両輪を回し続けながら、これからの日本の金融市場を支えていきたいと考えています。