西華産業株式会社

1947年に設立され、まもなく創業80周年を迎える西華産業株式会社。旧三菱商事の財閥解体に伴う門司支店の独立をルーツに持ち、エネルギーや産業機械などの分野で日本のインフラを支え続けてきた名門機械商社だ。

同社は現在、2030年度をターゲットとした長期経営ビジョンを掲げ、目標とする営業利益120億円の達成に向けて、オーガニックな成長に加えて「戦略的M&A」を強力に推進している。

過去の苦い失敗経験から独自の「投資管理フレーム」を構築し、着実にシナジーを生み出す同社のM&A戦略とはどのようなものか。代表取締役社長執行役員の櫻井昭彦氏に、事業領域拡大に向けたM&Aの判断基準と、買収後のPMIのリアルについて聞いた。

櫻井昭彦(さくらい あきひこ)──代表取締役社長執行役員
1959年1月10日 愛知県生まれ。1989年、西華産業に入社し、2009年から2011年まで西曄貿易(上海)有限公司の董事長を務めた。2018年4月の社長就任当初より不採算事業の撤退を含め体質の健全化に努め、企業風土改革の努力を続けてきた。
西華産業株式会社
1947年10月、北九州門司に設立。『社業の発展を通じ社会に貢献する』という社是に則り、エネルギー(火力・原子力)分野や各種プラントをはじめ、幅広い産業のニーズに応える機械・設備を提供する、安定した社会インフラを支える機械総合商社。三菱重工業代理店としての信用力、2000社を超える取引先を持つネットワーク、グループ会社のニッチ分野での高い競争力を強みとして、事業運営を行っている。
西華産業株式会社企業サイト:https://www.seika.com/
本企画について「M&A新時代 〜荒波を越える成長戦略〜」
予測困難な時代の荒波が押し寄せる今、自社の可能性を広げる一つの選択肢として「M&A」を活用する企業が増えています。本企画では、外部とのシナジーを自社のエンジンに変え、次なるステージへ挑むリーダーにインタビューを実施。M&Aという選択をした背景や、実際に進める中で感じた葛藤をどう整理し、今の形に繋げてきたのか、その一歩一歩のプロセスに焦点を当てます。 本企画は、買い手企業支援に特化したM&Aアドバイザリーを展開するByside株式会社との共同企画です。同社の知見も交えながら、企業がどのようにM&Aを成長へ繋げているのかを紐解く連載として構成いたします。
Byside株式会社企業サイト:https://byside.co.jp/

目次

  1. ■財閥解体の歴史から始まる西華産業の歩みと現在地
  2. ■「2030年度営業利益120億円」に向けた戦略的M&Aの全容
  3. ■取引先2000社に眠るM&Aのシーズと、「身の丈」の判断
  4. ■過去の失敗から生まれた独自の「投資管理フレーム」
  5. ■一律ではないPMIと、CMSによるグループガバナンス
  6. ■M&Aを成功に導くために必要な地道な取り組み

■財閥解体の歴史から始まる西華産業の歩みと現在地

── もうすぐ創業80周年だそうですが、これまでの歴史と、主な事業概要について教えてください。

櫻井 当社は1947(昭和22)年10月に設立し、来年で創業80周年を迎えます。戦前の旧三菱商事が財閥解体によって約160社に分かれた際、北九州門司にあった支店を母体として設立されました。

2026年3月末時点で、資本金約67億円、純資産約547億円、従業員数は連結で1500人を超え、国内外に全153拠点、グループ会社33社を抱える規模に成長しています。

主な事業内容は、エネルギー事業、産業機械事業、そしてプロダクト事業の3本柱です。

エネルギー事業は、三菱重工業の火力・原子力など発電設備関連の販売やアフターサービスを行う当社の基幹事業です。産業機械事業は、化学、鉄鋼、食品、繊維など様々な分野へ生産設備等を販売しています。そしてプロダクト事業は、それら産業機械のなかで特に競争力のある製品を幅広い業界に展開しており、主にM&Aによって加わったニッチトップなグループ会社が中核を担っています。

当社はカタログ商品を右から左へ流すビジネスではなく、お客様の要望に合わせて最適な設備を見つけ、提案していく「対面営業」主体のビジネスモデルを強みとしています。

── 80年という長い歴史の中では、幾度も経営の危機や転換点があったと思います。現在の戦略につながったのは、いつの、どういった出来事ですか。

櫻井 設立当時の財閥解体に端を発する大きな波がありました。当時、旧三菱重工業も3つの会社(西日本重工業、中日本重工業、東日本重工業)に分割され、我々は九州を地盤として長崎や広島の設備を中心に代理権を得て販売していました。

しかし1953年、その3社が合併して新生「三菱重工業」が誕生した際、それぞれが持っていた代理店を統合する動きが起きました。

その過程で、当社は三菱商事の「二次代理店」という位置づけになり、事実上の格下げを経験したのです。それから約60年間にわたり、三菱重工の製品を扱う上では収益的にも厳しい時代が続きました。

ただ2023年、三菱商事が国内の三菱重工業の販売代理権を返上したことで、当社は三菱重工業の火力に係る「一次代理店」へと格上げされると同時に、原子力の代理権も獲得するという大きな転換期を迎えました。

この長年の苦難のなかでも、当社の社内には「基幹事業を固めつつも、新たな事業領域を広げていこう」というベンチャースピリットや、機械商社としてのDNAが脈々と受け継がれ、それが現在の戦略的な投資へと繋がっているように思います。

■「2030年度営業利益120億円」に向けた戦略的M&Aの全容

── 現在、M&Aを積極的に活用しているそうですが、これまでにどのような企業をグループに迎え入れてきたのでしょうか。狙いについても教えてください。

櫻井 当社は2023年に、2030年度をターゲットとする長期経営ビジョンを策定しました。当時の連結営業利益は約40億円でしたが、まずはこれを65億円に引き上げる目標を掲げました。

脱炭素や環境への意識が高まり、2030年は「エネルギーの潮目」になると言われていました。

基幹事業であるエネルギー事業を取り巻く環境が大きく変わるなかで、戦略的な事業投資を行って事業領域を広げていく必要があったのです。幸いにも、先ほど申し上げた一次代理店への復帰や、これまで手付かずだった原子力事業への参画などもあり、初年度から目標の65億円に近しい数字を達成することができました。

そこで現在では、2030年度の目標営業利益を120億円、経常利益を125億円へと大幅に引き上げています。この120億円の内訳は、既存事業の成長で85億円、戦略的な投資・M&Aによる成長で35億円を創出する計画です。

具体的なM&Aの実績としては、まず基礎収益力を上げるための「補完的M&A」として、スタンダード市場に上場している高圧バルブメーカーのTVEや、同じく上場企業で消火設備メーカーの日本フェンオールへの出資比率を引き上げ、持分法適用会社としました。

また、FRP船を製造する長崎の田中造船を子会社化し、当社が扱う船舶用エンジンとともに船機一括で販売できる体制を整えました。

さらに昨年12月には、塗装機械や圧造機械などのトップメーカーである旭サナックを子会社化しました。売上高150億円、営業利益18億円規模の競争力のある企業であり、今後当社の収益拡大に大きく寄与するはずです。

── 上場企業へのマイノリティ出資(持分法適用会社化)も成功させている印象です。買収先企業とのシナジー創出について、具体的にどのような効果が出ていますか。

櫻井 M&Aの第一の目的は、やはり営業シナジーの創出による収益性の向上です。

実際、持分法適用会社としたTVEや日本フェンオールに関しては、関係強化によって西華産業が取り扱う製品の販売量が、TVEで約2.5倍、日本フェンオールで約1.5倍と大きく伸びています。

営業収益の拡大だけでなく、持分法投資損益としての利益取り込みも実現しています。また、我々はプライム上場企業として、東京証券取引所からも求められている「株価や資本コストを意識した経営」に真摯に取り組んでいます。

そうした当社の経営管理の仕組みやガバナンス強化のノウハウをグループ会社にも共有し、各社の経営体制の高度化にも貢献できていると考えています。

■取引先2000社に眠るM&Aのシーズと、「身の丈」の判断

── 今後も事業拡大のためにM&Aを続ける方針だと思いますが、対象企業の選定基準やアプローチの手法を教えてください。

櫻井 当社のビジネスは対面営業が基本ですが、情報収集の手法がウェブにシフトするなど、ビジネス環境や営業スタイルは常に変化しています。

100年、200年と続く企業を目指すには、従来の「トレーディングビジネス(卸売)」だけではいずれ限界が来ると個人的にも強い危機感を持っていました。そのため、製造メーカーをグループに迎え入れ、メーカーとしての機能を内包することで事業領域を広げる必要があります。

対象企業の選定についてですが、当社には既に様々な分野で取引のあるメーカー様が2000社以上存在します。

つまり、ゼロから外部へ探しに行かなくても、当社の持つ情報資産やネットワークの中に、十分に対象となるシーズ(種)が存在するのです。

実際に、M&Aを行ったTVEや日本フェンオール、旭サナックも、もともと我々が代理店として長くお付き合いのあった企業でした。

── M&Aを検討する企業経営者の多くは、対象先の選定やPMIの難しさに悩んでいます。御社のように多数の取引先があるなかで、どのような判断基準で買収に踏み切っているのか、もう少し詳しく教えてください。

櫻井 当社が戦略的M&Aを推進すると公言しているため、金融機関などから多数の案件を紹介していただきますが、最大の悩みでありハードルとなるのは「買収後に適正な事業運営ができるか」、つまり「経営人材の不足」です。

たとえば、素晴らしい技術を持つ中小の機械専業メーカーから、後継者不在の相談があったとします。

しかし、我々は商社であり、生産管理や原価管理、工程管理といった製造業特有のノウハウを持つ人材を社内に豊富に抱えているわけではありません。自分たちに運営ノウハウがない事業に手を出せば、間違いなく失敗します。

ですから、我々の「営業力」という強みが活かせる分野であり、かつ既存事業に隣接する領域に対象を絞っています。「身の丈に合わない」経営資源を要求される案件には、いくら魅力的に見えても手を出さない。このバランスをしっかりと見極めることが、判断の絶対的な基準になっています。

■過去の失敗から生まれた独自の「投資管理フレーム」

── 順調に見えるM&A戦略ですが、過去に失敗したご経験や、そこから学んだ教訓があれば教えてください。

櫻井 もちろん、痛い失敗の経験もあります。2000年頃、多くの企業が「事業領域の拡大」を声高に叫んでいた時代、当社も電子関連事業への投資を試みました。

ですが、結果的には多大な損失を出し、撤退を余儀なくされました。原因は明確で、当社が得意とする分野ではなかったこと、そして現場の「やりたい」という意気込みが先行し、客観的な分析や投資後のモニタリングが極めて不十分だったことです。この後始末には2020年頃まで数年がかりの時間を要し、本当に痛い目に遭いました。

この苦い経験から、当社は投資の妥当性や透明性を担保し、規律を徹底するための「投資管理フレーム」を構築したのです。

── その「投資管理フレーム」とは具体的にどのような仕組みなのでしょうか。

櫻井 まず入り口の検討段階で、当社の長期経営ビジョンや経営戦略と整合しているか、計画の条件設定は妥当か、当社が投下できる経営資源で運営可能かを厳しく審査します。ここで戦略から外れていれば、すぐに検討を止めます。

投資決定の段階ではさらに踏み込み、リターン水準の精査に加え、ダウンサイドシナリオの分析、そして投資後のモニタリングを行うためのKPIを明確に設定します。

そして投資実行後は、半年後にレビューを行い、事前の計画条件との差異や経営資源の投入状況を確認し、その後も定期的なモニタリングを継続します。

これは単に損失だけ監視するネガティブなものではなく、「もっと追加投資すればさらに収益が拡大できるのではないか」というポジティブなモニタリングも含んでいます。

以前は基準がなく、撤退の判断にも時間がかかって傷口を広げてしまいましたが、今はこのフレームがあることで、進退や軌道修正の判断が明確かつ迅速に行えるようになりました。

■一律ではないPMIと、CMSによるグループガバナンス

── グループに迎えるのが付き合いのある企業とはいえ、買収後のPMI(経営統合)では、企業文化の違いなどで苦労することがあるのでは?

櫻井 企業文化の親和性は非常に重要です。当社のビジネスはエネルギーなどの社会インフラ系が多く、ヨーロッパで水中ポンプを販売するツルミヨーロッパなども、ダム工事や地下鉄工事などインフラ向けが中心です。

そのため現在の収益は比較的安定していますが、一方で、かつて失敗した電子関連事業や半導体業界は、事業環境の変化や業績の変動が激しい業界です。こうしたビジネスは、本業の収益を毀損する恐れがあり、当社の「安定」を重んじる企業文化には合いません。

昨年子会社化した旭サナックは、過去に合弁会社を作って一緒に事業を展開していた歴史があり、お互いの企業文化をよく理解していましたし、業績推移も当社に近い安定的なものでした。

入り口の段階で「当社の文化に合わない」と判断される案件は弾かれます。そのため、外からは「冒険していない」と見られるかもしれませんが、それが当社の自然なM&Aのスタンスなのです。

── グループ会社に対する人材の派遣や、ガバナンスの効かせ方について、どのような方針ですか?「人材がいないからM&Aを断念する」という経営者も多いですが、どう乗り越えているのでしょうか。

櫻井 グループ会社への人材派遣は、一律に行うものではありません。基本方針は「管理しに行く」のではなく、「適正な事業運営のために足りないリソースを、親会社として代替・補完する」というものです。

経営が自立してしっかり回っている子会社には、役員を一人も派遣していないケースもあります。

逆に、経営戦略の策定やガバナンス構築が弱ければ、当社から適切なスタッフや役員を送り込みます。

一方で、ガバナンスや資金効率向上の要として、国内のグループ会社には「キャッシュ・マネジメント・システム」(CMS)を導入しています。各社が個別に余剰資金を抱え込むのではなく、西華産業グループ全体で資金を1ヶ所にプールし、必要な時に必要なだけ引き出せる仕組みです。

これにより、グループ全体の資金効率が飛躍的に向上するとともに、親会社が資金の流れをしっかりと管理することで、強力なガバナンスを効かせることにもつながっています。人材派遣だけでなく、こうした様々な仕組みを組み合わせることがグループ経営のカギだと考えています。

■M&Aを成功に導くために必要な地道な取り組み

── 最後に、M&Aの活用を検討しながらも、一歩を踏み出せずに悩んでいる経営者にメッセージをお願いします。

櫻井 事業領域を広げ、会社を成長させるためには、人材の多様化も欠かせません。当社でも、M&Aや新規事業、コーポレート機能の高度化に対応できる特殊な知識や技能を持つ人材を外部から採用できるよう、数年前から人事制度の抜本的な改革を進めています。

従来の年功序列的な制度では、そうしたプロフェッショナルな人材は獲得できません。また、完全に独立した社外取締役を6人お迎えし、高い視座からの厳しい意見やサジェストを経営判断に積極的に取り入れています。

M&Aには、「これをやれば成功する」という魔法の杖はありません。自社の戦略との整合性を確認し、身の丈に合った案件を選び、投資後の管理フレームを運用し、人事制度を整え、CMSのような資金管理システムを徹底する。そうした地道な取り組みをいくつも重ね合わせることで、初めて成就するものです。

当社もまだまだ不勉強な部分が多く、機関投資家や金融機関の皆様からご提言をいただきながら、キャピタルアロケーションの最適化など財務基盤の安定を図りつつ、M&Aを強力な成長戦略として真摯に取り組みたいと考えています。

氏名
櫻井昭彦(さくらい・あきひこ)
社名
西華産業株式会社
役職
代表取締役社長執行役員