株式会社ユーグレナ

微細藻類ユーグレナ(和名・ミドリムシ)を武器に、ヘルスケアからバイオ燃料まで事業を広げてきた株式会社ユーグレナ。赤字を抱えながらも、青汁のキューサイを約400億円で共同買収し、マレーシアでは総額2000億円規模のバイオ燃料プラントに挑むなど、規模に臆さないM&Aで非連続の成長を重ねてきた。

だがその歩みは、順風満帆な足し算ではない。「買収は手段でしかない。成否を分けるのはPMIだ」と語り、大胆さと慎重さのバランスに腐心してきたのが、2013年の入社以来ほぼすべてのM&Aとファイナンスを担い、現在は取締役 代表執行役員 Co-CEO 兼 財務担当である若原智広氏である。

逆境を越えるM&Aの実像と、CFOから経営者へと視座が変わって見えてきたものを聞いた。

若原智広(わかはら・ともひろ)──取締役 代表執行役員 Co-CEO 兼 財務担当
2013年に入社し、M&A・資金調達・IR・管理会計・広報・新規事業等の財務・経営戦略領域を担当。2021年に執行役員CFiO(最高財務責任者)、2024年に代表執行役員 Co-CEO 兼 CFiOに就任し、2026年より現職。ユーグレナ参画以前は、UBS証券株式会社で12年勤務。株式資本市場部を経て、投資銀行本部、債券資本市場部にてエグゼクティブ・ディレクターを務め、数々のM&Aや資金調達業務に従事。
株式会社ユーグレナ
2005年に世界で初めて微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)の食用屋外大量培養技術の確立に成功。「人と地球を健康にする」というパーパスのもと、事業成長が社会課題の縮小につながるという「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」体現に向け、基本戦略として位置付けているバイオマスの5F(Food, Fine Chemical, Feed, Fertilizer, Fuel)に沿った形で、ヘルスケア事業、バイオ燃料事業、アグリ事業等を推進。2014年より、バングラデシュの子どもたちに豊富な栄養素を持つユーグレナクッキーを届ける「ユーグレナGENKIプログラム」を、継続的に実施している。 企業サイト:https://www.euglena.jp/
本企画について「M&A新時代 〜荒波を越える成長戦略〜」
予測困難な時代の荒波が押し寄せる今、自社の可能性を広げる一つの選択肢として「M&A」を活用する企業が増えています。本企画では、外部とのシナジーを自社のエンジンに変え、次なるステージへ挑むリーダーにインタビューを実施。M&Aという選択をした背景や、実際に進める中で感じた葛藤をどう整理し、今の形に繋げてきたのか、その一歩一歩のプロセスに焦点を当てます。 本企画は、買い手企業支援に特化したM&Aアドバイザリーを展開するByside株式会社との共同企画です。同社の知見も交えながら、企業がどのようにM&Aを成長へ繋げているのかを紐解く連載として構成いたします。
Byside株式会社企業サイト:https://byside.co.jp/

目次

  1. ■ミドリムシから始まった、非連続の成長
  2. ■400億円の共同買収を「どう実現するか」
  3. ■買収は入り口、成否を分けるのはPMI
  4. ■CFOから経営者へ、変わったM&A観
  5. ■M&Aは恐れず、しかし慎重に

■ミドリムシから始まった、非連続の成長

── まず若原取締役の経歴と御社について教えてください。

若原 もともとは外資系の証券会社で12年ほど、M&Aや株式・債券による資金調達の支援をしていました。

ユーグレナに入社したのは2013年8月、ちょうど上場した直後です。上場市場を活用して資金調達やM&Aを加速したいので入らないか、と誘われました。

以来、経営企画や財務を歴任し、2024年からはCo-CEOを兼務しています。ただ一貫した軸はM&Aとファイナンスで、上場後の案件はすべて関わってきましたし、ハンズオンで深く入ったものもあります。

会社としては、社長の出雲が学生時代にバングラデシュで栄養失調問題に触れ、それを解決する素材として出会ったのがミドリムシでした。その後、世界で初めて食用屋外大量培養技術を確立し、ヘルスケアを軸に事業を立ち上げ、黒字化して上場した。そこからバイオ燃料へと広げてきた、という流れです。

上場時はヘルスケアがほぼ大半で、それで黒字化して上場を果たしました。バイオ燃料は上場来の悲願で、いわば足元の利益を掘りながら未来に投資し続けてきた事業です。M&Aの目的も、この二つの軸に沿って変わってきました。

── M&Aの位置づけは、ステージによって変わってきたのでしょうか。

若原 そうですね。上場直後はまだ売上数十億円のちっぽけなベンチャーで、ミドリムシを自分たちで本格展開するために、周辺の会社を集約するM&Aを積極的にやっていました。

その後は、ヘルスケアD2C企業のM&Aを推進し、デジタルマーケティングのノウハウを吸収するとともに、多様なブランドを抱えるグループへと進化していきました。調子のいいブランドに投資を集中し、不調なブランドは投資を抑える、ブランドポートフォリオ経営が可能となりました。ミドリムシ一本足打法から脱却したという意味ではうまくいっています。

ブランドを多様化することによる収益の安定は得られる一方で、ブランドの融合にはチャレンジがある。そこは今も感じているところです。

■400億円の共同買収を「どう実現するか」

── 直近で印象的なのがキューサイの買収です。当時の御社の規模からすると、かなり大きな決断だったのでは。

若原 キューサイは約400億円の案件で、当時の当社の売上は130億円ほど、しかも赤字でした。

まず出雲(充・代表取締役社長)が、青汁というものを世の中に広げたキューサイをすごくリスペクトしていた。ミドリムシという誰も食べたことのないものを広げようとする自分たちのチャレンジと、重なるものがあったんだと思います。規模が大きいからこそ学ぶものも得られるシナジーもある、と。

キューサイは青汁のイメージが強いですが、実際の主力はコラリッチをはじめとする化粧品ブランドで、約37万人という通販の顧客基盤を持っていました。そこに当社のデジタルマーケティングを掛け合わせれば、という絵も描けたわけです。

当時、私はCFOでしたから、やると決めたのは経営で、私はどう実現するかを考える立場でした。

正直に言えば、当初は単独で100%やろうとしたのですが、シンプルにお金がない。銀行もそんなには貸せない。それでも出雲には「絶対にやるべきだ」という強い意志がある。ならばどうやったらできるかと試行錯誤して、たどり着いたのが共同出資のスキームでした。

アドバンテッジパートナーズのファンドや東京センチュリーと組み、まず当社は13%弱で入って、そこからファイナンスを重ね、コールオプションで49%まで引き上げて連結子会社化しました。振り返れば、この案件で売上も利益も大きく広がり、それがエネルギー事業を進めるうえでのパートナーからの信頼にもつながったと感じています。

── 慎重派だったという若原様の考え方も、この案件で変わったのでしょうか。

若原 結果的にはやってよかったと思っています。企業が次のステージに行くには、経営として「決める覚悟」が大事だと。あのままやっていなければ、今ももっと小さいままだったでしょうし、利益も稼げなかったかもしれない。自分の大胆さが足りなかった、という反省はあります。

ただ、だからといって同じ規模の案件を何個もやるかというと、それは危険です。あの頃は複数の企業が大型案件に取り組んでいましたが、全部がうまくいったわけではない。当社としても、そうならなくてよかったという結果論の面もあります。うまくいったから次もどんどん、では危ない。慎重さと大胆さのバランスこそ、M&Aには大事だと改めて思っています。

とはいえ、やると決めた案件を「お金が集まらなかったのでできませんでした」で終わらせるのは違う。それをやりきるのがCFOの仕事です。

今マレーシアで、ペトロナス、イタリアのEniと組んで、バイオ燃料の商業プラントを建設しています。当社のコミットで100億円規模、案件全体では2000億円規模という超巨大なプロジェクトで、「本当にできるの?」と言われながらも、スキームを工夫してやりきってここまで来ました。

最初は「こんな大きな会社とうちが本当に?」と思ったものですが、やるかと腹を決めてやって、無事に形にすることができた。このプラントはSAF(持続可能な航空燃料)と次世代バイオディーゼル燃料を需要に応じて柔軟につくれる設備で、2028年下期までの稼働を目指しています。

当初5%だった当社の出資も、コールオプションで段階的に引き上げていく設計で、結果的に15%出資で完了しました。大企業と対等に組むには、規模で見劣りする分、スキームと覚悟で勝負するしかありません。

■買収は入り口、成否を分けるのはPMI

── キューサイのPMIでは、どんな壁に直面しましたか。

若原 我々単独だと、どうしても慎重になりすぎたと思います。改革のための先行投資を、PEファンドの知見を借りてかなり大胆にやりました。

買収後の数年は業績が大きくは改善しませんでしたが、単独ならPL(損益)を意識して「もっと地道にやろう」「投資を抑えて利益を出そう」と弱気になっていたかもしれない。経営人材を送り込み、組織や人材配置もどんどん変えていくダイナミックさは、PEファンドならではでした。

逆に言えば、我々のようなベンチャーのM&Aの課題は、やはり人材です。大きな会社にどんどん人を送り込めるだけのプールが必ずしもない中で、いかに人を張るかが問われます。採用して社外から連れてきて送り込むことに、我々はまだ慣れていない。そこは単独でやるほど、大きな課題になります。

── PMIで最も大切にしていることは何でしょうか。

若原 買収そのものは手段でしかなくて、成功したかどうかはPMIで決まります。買収した会社がちゃんとバリューアップできたか、グループ全体の成長が加速したか。そこがすべてです。

だから人をしっかり張って、コミットする。事業部との連携がある案件のほうが人を張りやすく、結果的にPMIもスムーズに進むケースが多かったと感じます。

逆に、事業との接点がない“飛び地”のM&Aは難易度が高い。営業や研究の現場でつながる糸がないので、経営戦略や財務の部門から関係を立ち上げなければならないんです。だからこそ、最初に「何のためにやり、何を目指すのか」という目的・目標と、PMIのプランをどこまで具体的に描けているかが、すごく大事な要素になります。

もう一つは、自身の過去の経験からの反省点でもありますが、最初に正直に話すことです。上場企業の子会社になれば、これまで100%自分たちのものだった会社に、いろいろな制約が出てきます。そこに気を使ってリップサービスで良いことばかり言うと、一緒になってから「話が違う」となる。だから制約もちゃんと事前に伝える。

そして気を使いすぎないことです。遠慮して中途半端になると、シナジーも中途半端になり、お互い後々不幸になる。最初にきちんと仕切って人を送り込むほうが、スピーディーで、成果が出れば相手の会社の人たちもハッピーになれる。

── 一つの組織になれた、と感じる瞬間はどんな時ですか。

若原 発表直後は、どうしてもよそよそしいですよね。ですが、PMIが進んでグループとしての意識ができてくると、こちらが訪ねたときの反応も変わります。

「もっとユーグレナのことを知りたい」「もっと来てほしい」と言われたり、同じグループだからこそ互いのチャレンジが参考になり、モチベーションにつながると言ってもらえたりします。

カギはやはりコミュニケーションです。M&A担当者自身は案件の直後は事務手続きで密に関わるのに、それが終わると連絡がパタッと止まりがち。この人がその会社の窓口だと決めて、必要なサポートを続けることが大事だと思います。

■CFOから経営者へ、変わったM&A観

── 今後のM&Aの方向性についても教えてください。

若原 原点回帰で、ミドリムシをどう世の中に広げるか、という観点で考えています。

一つは肥料・飼料系です。今この領域の売上は20億円ほどですが、2030年に100億円へ伸ばすには、やはりM&Aしかない。工場を新設するより、取得したほうが成長スピードは速いですし、農家向けの販売チャネルもあわせて獲得できる。成熟産業でバリュエーションも高くない領域なので、ロールアップしていく考えです。

ヘルスケアは、ミドリムシをB2Bで機能性素材として売り込む方向へ広げたい。正直に言えば、買収したブランドのお客様にミドリムシ商品を、というのは思ったほど簡単ではありませんでした。そのブランドのファンは、そのブランドの商品が好きなのであって、そこへ別のものを載せようとしても響きにくい。ブランドポートフォリオとしては安定した収益基盤になっている一方で、素材の融合は別問題だと痛感しました。

だからこそ、逆に相手のブランドを立てつつ「裏方」としてこっそり入れるやり方を、もっと磨いていきたい。たとえば、通販のグループ会社において、当社が展開する睡眠・疲労感・ストレスに関する機能性表示商品向け素材としてミドリムシを採用してもらい、そのブランドのお客様に「実はこれユーグレナでした」という形でお届けする、といったことが出来そうです。また、2026年5月に事業を譲り受けた「金のユーグレナ」も、免疫に関する機能性表示食品向け素材として、今後導入を広げていく余地があります。目立たないやり方のほうが、かえって広がる可能性がある。

中期的には、ミドリムシが機能性素材として広く認知され、選ばれる存在を目指していきたい。将来的には、微生物の製造販売を手がける会社のM&Aや、海外M&Aも選択肢です。

── CFOから経営者になって、M&Aへの向き合い方は変わりましたか。

若原 CFOの頃は、どうすればこの案件ができるか、どうリスクを最小化するかに行きがちでした。経営になってからは、何のためにやるのか、やった後どうするかを、すごく考えるようになりました。

キューサイは「やると決められた案件をどう実現するか」でしたが、金のユーグレナの事業譲受など、経営として自分で「やると決めてやる」案件も出てきた。そこは大きな変化点で、こういう案件をもっとやりたいと思っていますし、CFOからCo-CEOになったからこそ見えてきた、悩みであり学びですね。

■M&Aは恐れず、しかし慎重に

── M&Aに悩む経営者へメッセージを送るとしたら、どんな言葉が思いつきますか。

若原 M&Aは難しいし、課題もリスクもある。それでも、時間を買い、新しい広がりや学びが得られる、間違いなく有効なツールです。次の成長ステージへ進むには、あまり慎重になりすぎてもいけない。恐れず、しかし慎重に、やっていきましょう、ということですね。

一方で、どんどんやろうという経営者には、慎重なスタンスもお伝えしたいです。

シナジーが出るのは買収そのものではなくPMIですから、その覚悟がないなら、やらないほうがいい。やってから苦労します。単に売上を足し算で増やしたいという発想なら、なおさらやめたほうがいい。結局あとで苦しむことになります。組むべきところは組み、大胆さと慎重さのバランスをとる。それが逆境を越えるM&Aだと考えています。

氏名
若原智広(わかはら・ともひろ)
社名
株式会社ユーグレナ
役職
取締役 代表執行役員 Co-CEO 兼 財務担当