
トータルソリューション事業を軸に、ゲームなどのコンテンツプロパティ事業まで手広く展開する株式会社エクストリーム。同社は自社のコア領域に絞り込んだ「規律あるM&A」を重ね、東京・大阪・名古屋をはじめ地方や海外へ拠点を広げながら順調な拡大を続けている。
その裏で徹底されているのが、慎重かつ独自のM&A戦略だ。
しかし、同社の代表取締役社長CEOである佐藤昌平氏は「M&Aは成長のための目的でも魔法のツールでもなく、あくまで縁と運である」と言い切る。
安易なM&A依存に陥ることを厳に戒め、まずは自社を磨きオーガニックな成長を達成することを最優先とする同社。買収後も無理な統合を迫らず、互いの文化や美意識を尊重しながら時間をかけて融和を進める「独自のPMI手法」とその経営哲学について、詳しく話を聞いた。
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3つの事業軸と独自の成長基盤
── 御社の事業概要と、現在のビジネスモデルについて教えてください。
佐藤 当社は2026年で21年目、期で言うと22期目の会社です。東京、大阪、名古屋にオフィスがあり、社員数は単体で約600人、連結では子会社も含めて800人を超えてきた状態です。業績としては、今期は売上高130億円、営業利益13億円を予定しています。
当社の事業の1つ目が「デジタル人材事業」で、当社の技術者がお客様の現場に常駐してサービスを提供するBtoBのビジネスです。これが売上高70億円超で、全体の約60%を占めています。
2つ目が「受託開発事業」です。お客様の課題をお聞きして解決に向けた最適な体制を構築し成果物を納品します。さらに、その後の運用・保守を行うBtoB事業で、売上高は約40億円、全体の約30%を占めています。お客様の課題に対しコンサルティング、要件定義、設計などの上流工程を得意とする株式会社エクスラボ&コンサルティングや、200人超規模体制を擁するベトナム・ハノイにあるEXTREME VIETNAM Co.,Ltd.がこの事業に属しています。今年度からこの2つの事業を統合し「トータルソリューション事業」としています。
3つ目が「コンテンツプロパティ事業」で、これはBtoCのビジネスです。グループ会社でゲームソフトの開発・販売を行ったり、過去のゲームタイトルのライセンスを提供して収入を得たりしています。
たとえば株式会社DRAGAMI GAMESが手がける『ロリポップチェーンソー』は北米やヨーロッパで非常に人気が高いタイトルですし、エクストリームがIPを保有するメサイヤゲームスの『ラングリッサー』は中国の企業と組んで展開したスマホ向けアプリが東アジア全体で大ヒットしています。
── IT・ゲーム業界における昨今のM&Aの潮流をどのようにとらえていますか。
佐藤 デジタル人材やエンジニアの不足が深刻化する中で、日本全体の後継者問題なども含め、当社にとっては追い風が吹いていると感じています。
他社の事例で参考にしているところとしては、やはりソフトバンクですね。携帯電話サービスをはじめ、M&Aを成長の大きなエンジンとして時代の変化を具現化されている点は非常に勉強になります。規模が違うのでそのまま真似できるわけではありませんが、時代の流れをM&Aでとらえる姿勢は見習うべき部分があります。
逆に、当社が気をつけているのは「自分たちのノウハウがない門外漢の領域には手を出さない」ということです。例えば突然、全く関係のない飲食店に出資するようなことはせず、自分たちの事業領域に合致するスコープのなかでM&Aを進めています。
同業領域への「規律あるM&A」と明確な判断基準
── M&Aにおける具体的なスコープと、直近の事例の狙いについて教えてください。
佐藤 当社のM&Aのスコープは明確で、デジタル人材事業、もしくは受託開発事業という、自分たちが展開している事業と同一もしくは近しい領域でシナジーが生まれる企業様です。
たとえば受託開発の強化においては、お客様の現場に技術者を出すだけでなく、社内にノウハウを蓄積して熟成させ、直接サービスを提供できる体制を作るために受託開発会社をグループに迎えてきました。
また、株式会社DRAGAMI GAMESに関しては、もともと角川ゲームスから事業や権利を移管する形で新会社を設立し、子会社化した経緯があります。BtoCのゲームビジネスはボラティリティが高いため、BtoB事業が強いエクストリーム本体の社内文化に直接混ぜるのではなく、独立した子会社として持つほうが適切だと判断しました。
直近で子会社化した株式会社アットアイパスなども同様です。当社は日本の主要都市に拠点を構築する戦略を進めており、福岡をはじめとする主要エリアでの拠点をしっかりと確立する目的でM&Aを実行しました。
── 買収を検討する際の定量・定性面での判断基準や、撤退のルールは?
佐藤 定量面では、まずバランスシート(貸借対照表)の純資産の状態や、直近3年間の損益計算書(損益の推移)を厳しく確認します。
当社には独自で活用しているM&Aの判断ツールがあり、数式や関数を用いて財務データや取引先、従業員数などの情報を当てはめ、譲渡価格とのバランスが見合うかを冷静に試算しています。ここで定量的に見合わなければ、基本的には進めません。
定性面で最も重要なのは、経営者の方々と目線が合うかどうかです。経営者がどのような未来を想像されているのか、当社の目指す方向性と合致するかどうかを重視します。
撤退や見送りの判断も明確で、ツールでの試算結果が合わない場合や、描いている未来や価値観が異なる場合は、たとえ案件の紹介を受けてもお断りしています。
2026年という時代はAIの台頭など大きな転換点になり得ますから、そこから5年後、10年後に向けて同じ変化のイメージを共有できるかどうかが極めて重要です。
M&Aは目的ではない──「縁と運」とオーガニック成長
── 成長戦略におけるM&Aの位置づけについて、社内ではどのように定義していますか。
佐藤 M&Aは成長のための大事な手法の一つですが、決して「目的」ではありません。M&Aは「縁と運」によるものが非常に大きいからです。
例えば、社内で「今年はM&Aを〇件やる」といった計画を立てて追ってしまうと、件数を合わせるために本業と関係のない会社をM&Aをしてしまうような、間違った方向に行きかねません。そのため、M&A自体を経営の目的にすることは厳に避けています。
当社が最も大切にしているのは、まず自力で成長する「オーガニックな成長」です。
たとえるなら、M&Aは結婚と同じです。「結婚中毒」のようになって相手を探し回るのではなく、まずは自分自身を磨き、自社をしっかり成長させることが先決です。自分たちが健全に成長し、魅力的な企業であって初めて、良い相手と出会ったときに価値観や美意識が共鳴し、素晴らしい縁や運に恵まれるのだと考えています。
門戸は常に開いていますが、無理に計画として追うことはしません。
文化と美意識を合わせるPMI
── 買収後のPMI(経営統合)において、異なる文化やルールを融合させるための工夫について教えてください。
佐藤 買収した会社とは、育ってきた環境が違うわけですから、異なるルールや文化を持っているのが当たり前です。
もちろん、上場企業グループに入る以上、守るべきコンプライアンスや法律についての理解は深めていただきます。しかし、親会社だからといって「すべてこちらのルールに合わせなさい」と無理やり押し付けてしまっては、その会社がもともと持っていた良い部分や強みが損なわれてしまいます。
そのため、当社ではすぐに文化を移植しようとせず、ある程度の「助走期間」を設けるようにしています。時間をかけながら、お互いの価値観や美意識、経営の美学といった定性的な部分を少しずつ合わせるプロセスを大切にしています。
具体的な取り組みとしては、役員の相互派遣を行っています。当社から役員を派遣するだけでなく、エス・エー・エス株式会社の社長やエクスラボ&コンサルティングの社長には、エクストリーム本体の取締役にも就任してもらっています。
「親会社だから、子会社だから」という上下意識はまったく持っておらず、有能な経営者であれば双方の視点を広げて活躍してもらうというフラットな姿勢をとっています。
また、現場レベルでも、当社のエンジニアを受託開発の子会社やDRAGAMI GAMESなどのプロジェクトに参画させ、一緒に仕事をする環境を作っています。同じプロジェクトで成功体験も失敗体験も共有しながら、現場同士で自然と交流や一体感が生まれるようにしています。
── これまでM&Aで大きな失敗がないとのことですが、その要因は何だと考えていますか。
佐藤 無理な統合を急がず、コミュニケーションを密にとり続けているからだと思います。M&Aの実行前には、トップ同士で2回、3回とインタビューや対話を重ね、お互いの意思を確認します。そしてM&Aを行った後も、現地の経営陣や現場を任せている人たちとコミュニケーションを多く取り、お互いの価値観や美意識を合わせ続けています。
唯一、PMIで苦労するとすれば「成長スピードや時間軸のズレ」かもしれません。当社は上場企業としてグロース(成長)を約束しているため、目指す地点へ到達するための移動スピードが速く、自分自身もせっかちな部分があります。ゆっくり家族的に成長する会社も素晴らしいですが、当社のスピード感に合わせてもらうためには、「ここを目指すんだ」という目標や想いを、根気強くメッセージとして伝え続けるしかありません。
── 過去には、出資していた企業の株式を売却・譲渡された事例もありました。ポートフォリオの見直しに関する考え方を教えてください。
佐藤 かつてEPARKテクノロジーズという会社を共同で展開していた事例ですね。当時は単なる受託にとどまらない大きなビジョンを掲げてスタートしましたが、お互いの力不足もあり、当初描いていたビジョンをそのまま具現化することが難しくなっていきました。
ただ、決して喧嘩別れをしたわけではありません。共同で役員を出し合って会社を推進する形からは距離を置き、円満に資本関係を整理しました。現在でもそのグループ企業様は当社の大切なお客様であり、当社のエンジニアが相手方のサービス開発に協力するなど、非常に良好なお付き合いが続いています。
事業としてやりたい方向性にズレが生じたときは、お互いにとって最適な距離感を冷静に判断することが重要だと考えています。
── 数々のM&Aに向き合い、意思決定を重ねる中で「これだけは絶対に自分に言い聞かせている」という最大の自戒や軸は何でしょうか。
佐藤 繰り返しになりますが「M&Aは目的ではなく、オーガニックな成長を助けるための手段に過ぎない」ということです。
まずは自社の本業をしっかり成長させ、自分磨きを行うこと。その上で、素晴らしい縁と運を大切にしながら、慎重に、そしてお互いの美意識を合わせて進めることが、結果として良いM&Aにつながるのだと確信しています。
- 氏名
- 佐藤昌平(さとう・しょうへい)
- 社名
- 株式会社エクストリーム
- 役職
- 代表取締役社長CEO