この記事は2026年8月21日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「AIブームで迫られる米利上げ、債券市場の構造不況の脱却も」を一部編集し、転載したものです。


AIブームで迫られる米利上げ、債券市場の構造不況の脱却も
(画像=takasu/stock.adobe.com)

2020年のコロナ禍を底に、米10年金利が6年連続で上昇基調にある(図表)。長期にわたるリターン低迷に加えて市場のボラティリティーが高止まりし、債券と株式が同時安になる場面が増えている。もはや「債券はリスク資産のヘッジ手段とはならない」といった構造不況論も耳にするようになった。

この背景には、長期金利のベースとなる中立金利が主要国で上方シフトし、市場も中央銀行も新たな均衡点を見つけられていないことがあろう。コロナ禍までのおよそ40年、長期金利および中立金利は景気サイクルを経るごとに低下してきた。

だが20年代に入り、中立金利は上方シフトした可能性が高い。エネルギーを含むサプライチェーンの分断やAI活用による潜在成長率上昇、量的・質的緩和の多用による信用スプレッドの下方シフトが主な理由だ。

一方、新しい均衡点を見つけにくくしている主因はAI(人工知能)産業の急拡大だろう。中立金利は、金融引き締め(緩和)を続けた場合、景気やインフレが減速(加速)方向へ転換し始める直前の水準である。これは経済全体での平均値に過ぎず、産業・企業ごとで状況は異なる。

利上げを進めた場合に起こる経済活動の変調や金融ショックは、まず期待成長率に劣る産業で確認されることが多い。裏を返せば、AIのように新興で期待成長率が高い産業では、中立金利までの利上げではその勢いが落ちづらく、消去法的に資金が集中しやすい。

もちろんそれ自体は、経済の新陳代謝を促し成長力を高めるため望ましい。だが、産業間格差が著しく大きい場合、結果的に弱い方の産業に寄せた金融政策運営になりやすい。

AI活用が広がる過程では、生産性向上効果と同時に一時的なインフレ抑制効果も表れるだろう。それが、中央銀行に積極的な利上げを躊躇させる一方、賃金上昇とインフレの格差拡大、つまり実質賃金の上昇を招く可能性が高い。だが、最終的には株高も相まって消費が過熱し、インフレを押し上げよう。

米連邦準備制度理事会(FRB)のケビン・ウォーシュ議長は、AIによるインフレ抑制効果の信奉者だが、量的緩和(QE)により供給された過剰流動性が金融市場をゆがめているとも主張する。政策運営がハト派・タカ派いずれの方向に振れるのかは予断を許さない。

最終的にAI産業も含め経済・インフレの勢いを止めるべく、現在推計している中立金利(3.1%)よりもはるかに高く、23年のピーク水準(5.375%)をも超える利上げを迫られるだろう。その時点では、AIに対する市場評価がピークアウトし、関連企業の資金調達に対して投資家の目線が厳しくなるはずだ。

筆者は、株価下落とクレジット・スプレッド拡大がAI産業発の金融ショックにつながり、経済全体を景気後退へ導くとみる。債券市場が構造不況から脱するのはその頃合いだ。

AIブームで迫られる米利上げ、債券市場の構造不況の脱却も
(画像=きんざいOnline)

野村証券 チーフ・ストラテジスト/松沢 中
週刊金融財政事情 2026年8月25日号