2004年に徳島県で創業し、現在ではグループで全国9都府県100以上の施設で介護サービスを展開する株式会社エクセレントケアシステム。2025年10月、創業者である父からバトンを受け継ぎ、代表取締役CEOに就任したのが大川寛正氏だ。
同社は長男の大川氏を筆頭に、現場を知り尽くす次男、マーケティングに長けた三男の三兄弟による分業体制を築いている。また、大川氏は前職の医療機器メーカーでの経験を活かして株式会社エクセレントケアサポートを設立。自社の施設を実証実験の場とし、介護現場の課題をテクノロジーで解決する独自の製品開発にも注力している。
大川氏に、同社の成長の軌跡や組織改革、そして介護・医療・テクノロジーを高度に融合させた未来構想について、聞いた。
企業サイト:https://www.excare.co.jp
父から兄弟への事業承継ではどう分業しているか
── 徳島で創業し、大都市圏で事業展開するまでの流れについて教えてください。
大川 弊社の創業は2004年です。私の父である現会長が徳島県で事業を始めました。エクセレントケアシステムは、徳島県で初めて介護付き有料老人ホームという介護サービスを展開した会社になります。
その後、関西、関東の都市部へと事業を拡大し、現在はグループ全体では9都府県で100を超えるサービス、約70施設を運営する規模に成長しました。
私のキャリアとしましては、大学院修了後に医療機器メーカーに入社。研究職やプロジェクトマネージャーとして新商品の企画から開発、工場への製造移管、そして、最終的な販売にいたるまで、製品開発の全工程に一貫して携わってまいりました。
その後、2020年にエクセレントケアシステムに入社しています。同時に、介護現場の課題をテクノロジーで解決するための企画開発会社として、株式会社エクセレントケアサポートを設立しました。そして2025年10月に、創業者である父が65歳を迎えた節目に会長へ退き、私が代表取締役CEOに就任しました。
── 現在、兄弟で経営を担っているそうですが、それぞれの役割分担や意思決定のプロセスについて教えてください。
大川 弟が二人おり、私を含めて三兄弟で経営にあたっています。長男である私が代表取締役CEOとして、財務戦略やファイナンス、ガバナンス、新規事業開発などを担当しています。
次男の文也は代表取締役COOです。十数年、介護現場で経験を積み、施設長やエリアマネージャーを歴任してきた現場のプロフェッショナルです。彼の強みを生かし、介護現場のオペレーション、品質管理、人材教育といった部分を担っています。
三男の翔は代表取締役CMOとして、マーケティング、ブランディング向上、人材獲得などを担当。若さと最先端の知識を生かして、活躍しています。
最終的な意思決定は、私がCEOとして責任を負う形になりますが、三兄弟で密に連携を取りながら進めています。
施設運営だけでなく最新テクノロジーを使った製品開発も
── 会社の強みについて教えてください。
大川 創業以来、培ってきたホスピタリティを基盤とした質の高いケアは、私たちの揺るぎない強みです。
さらに近年では、株式会社エクセレントケアサポートを通じて、介護現場の課題をテクノロジーで解決することに注力しています。エクセレントケアサポートでは、スタートアップやベンチャー企業、各種メーカーに実証実験の場として介護施設を提供し、共に新製品や新機能を開発しています。
よって、介護現場の目線に立った製品を開発し、介護業界へ販売することも可能です。また、最先端のテクノロジーを自社施設に実装する力も、私たちの大きな強みであると考えています。
── 介護業界におけるテクノロジー導入は、コスト面でのハードルが高いという課題があると思います。
大川 おっしゃる通り、介護施設が単独で最新のテクノロジーを導入することは容易ではありません。
しかし、国がICT機器や生産性向上に資するテクノロジーの活用に対して、補助金という形で手厚い支援を行っています。補助率は費用の半分から5分の4に及ぶこともあり、これを活用して業界全体で積極的に展開を進めています。
また、介護現場の処遇改善に関する補助事業にも予算がつけられており、こうした公的な支援を最大限に活用していくことが重要です。
── 医療機器メーカーでのご経験が、介護現場の課題解決という新たな事業につながったきっかけは何だったのでしょうか?
大川 エクセレントケアシステムに入社した際、介護現場の疲弊を目の当たりにしたことが大きな転機となりました。これだけ重要な役割を担う方々が、業界の外からは正当に評価されていない、そんな現状に強い違和感を覚えたのです。
そこで、介護を「テクノロジーを活用した最先端の領域」として再定義したいと考えました。そのためには、外から何かを言うだけではなく、私たち自身が現場で使える製品を企画・開発し、その効果を実証しなければならないと決意しました。
今取り組んでいるのは、単なるメーカーとの連携ではありません。現場を持つ私たちだからこそできるマーケティング的アプローチを軸に、現場のニーズを的確に製品へと反映させる仕組み作りです。そうしたプロセスを通じて、現場の負担を減らすと同時に、業界の可能性を広げていきたいと考えています。
需要があっても経営の難易度が高い介護業界のリアル
── これまでに壁にぶつかった経験を教えてください。
大川 最大の転機であり壁だったのは、全国へと施設を急速に展開する過程での「組織の限界」でした。
現場の力が施設単体に留まってしまい、組織としての一体感が薄れていた時期です。
この課題を突破するため、従来の施設ごとの縦割り管理を廃止し、エリア全体を面でサポートするマネジメント体制へと移行しました。同時に、現場の負担を軽減し、サービス品質を担保するために、広報、システム、品質管理、人材開発といった間接部門を戦略的に強化。各専門部署が現場を力強くバックアップする体制を整えることで、拡大に耐えうる土台を築いてきました。
また、長年の課題である介護士不足に対しても、テクノロジー導入による職場環境の可視化や、SNSを駆使した採用ブランディングなど、旧来の業界の枠を超えたアプローチを仕掛けています。
── 介護業界は需要が伸びる一方で倒産件数も多いという矛盾を抱えていますが、今後どのような会社が残っていくと思いますか?
大川 この業界で勝ち残るための要因は、「入居者の獲得」と「人材の採用」、この二点に集約されると確信しています。残念ながら、素晴らしい介護技術を持ちながらも、この経営の要である二点がうまく機能していない会社が非常に多いのが現状です。
そのため弊社では、これまで培ってきた採用や入居獲得のノウハウを生かし、M&Aによる事業再生にも力を入れています。
市場の変化に対応し続けるには、それ相応の「経営体力」が不可欠であり、また、自社の強みを的確に発信できる「広報力」と、着実に成果を上げる「営業力」を兼ね備えた会社こそが、この業界で選ばれ続けるはずです。
── 入居者獲得に苦慮する会社が多いとのことですが、需要が大きいのにと、意外に感じました。
大川 業界全体として「紹介を待つ」という受動的なスタイルが定着しているのが実情です。近隣の居宅介護支援事業所や病院に頼り切り、自ら選ばれるための営業活動を行う文化が根付いていない施設が非常に多いと考えています。
もちろん、この仕事が地域社会を支える大切な役割であることは間違いありません。ただ、どんなに良いケアを提供していても、それを知ってもらうための努力を怠れば、本当に必要としている方には届きません。
弊社では、M&Aした施設に対し、まずはこの「選ばれるための仕組み」を徹底して導入します。自社の強みを的確に発信し、地域のニーズと結びつけることで、短期間での収益改善を実現しています。
これからの介護施設に求められる医療面の役割
── 未来の構想について教えてください。
大川 今後、5年から10年で介護・医療・テクノロジーを高度に融合させたプラットフォームを確立したいと考えています。テクノロジー面では、既存のICT機器の標準化や販売に加え、AIシステムの開発などを積極的に進め、業界内外に展開したいと考えています。
また、医療との連携は非常に重要です。全国的に病院や診療所のベッド数が減少する中で、高齢者の受け皿としての介護施設に求められる医療的ケアの役割が変化するだろうと予測しています。
高齢者が入院できない状況において、介護施設が医療的ケアを担う必要性が高まっており、医療機関との連携を強化し介護医療のドミナント戦略を進めたいと考えています。
── 定量的な目標や、外部資本の活用についても教えてください。
大川 定量的な目標として、今後5年から10年で現在の施設数を1.5倍から2倍へと拡大させる計画です。しかし、単なる規模の追求ではありません。
これからの成長戦略の核となるのは、医療、薬局、紹介サービス、人材派遣など、介護を支える周辺事業を包括的に網羅する「エコシステムの構築」です。これら関連事業のM&Aを積極的に推進することで、経営の多角化と効率化を加速させていきます。
あわせて外部資本の活用については、この成長スピードを維持するための重要な戦略的手段と位置づけています。資金調達だけでなく、提携先の持つ経営資源や知見を積極的に取り入れることで、スケールメリットを最大化させます。
── 介護業界への投資やAIと人の手との関係性について、どのような展望を持っていますか?
大川 介護業界における技術活用の展望は、「人が介在すべき領域」と「機械が代替・補完すべき領域」の境界を明確にすることにあると考えています。
たとえば、ベッドから車椅子への移乗といった身体介助は、今後も人の手による丁寧なケアが不可欠です。一方で、単なる記録業務やルーチン作業はもちろん、ときにはAIが人間以上に優れたコミュニケーション能力を発揮し、入居者様の心に寄り添う場面も出てくるでしょう。
確かに、AIは人間のように「肌の温もり」を伝えることはできません。しかし、事務的な対応や効率化はAIに任せ、空いた時間を人が「心を通わせるケア」に充てることこそが理想の形だと考えています。
また、こうしたテクノロジー活用による生産性向上は、現場の待遇改善に直結させます。少人数でより高い成果を生み出せる組織へと進化させ、浮いたリソースを介護士の給与還元へと回す。これが、私たちが目指す持続可能な介護モデルです。
- 氏名
- 大川寛正(おおかわ ひろまさ)
- 社名
- 株式会社エクセレントケアシステム
- 役職
- 代表取締役CEO

