静岡県焼津市を中心に地域密着型の住宅事業を展開する株式会社山田工務店。
ゼネコンでの現場監督経験を経て家業を継いだ山田耕治代表取締役は、大型建築主体のモデルから住宅リフォーム、そして新築事業へと舵を切り、着実な成長をリードしてきた。
同社は「現場の整理整頓」の徹底による高品質な施工や、「30分圏内」に絞り込んだ高密度なエリア戦略、さらには独自の社内教育制度によって顧客との強い信頼関係を構築している。
創業100周年に向け、売上高100億円と地域貢献を見据える同氏に、事業転換のリアルと地域密着経営の勝ち筋を聞いた。
企業サイト:https://www.happy-yamada.com/
目次
父の反対を押し切り家業を継承した決意の背景
── 家業を継ぐまでの歩みについて、先代からは会社をたたむよう言われたそうですが、それでも継承を選ぶにいたった経緯を教えてください。
山田氏(以下、敬称略) 私は長男として生まれ、周囲から「跡取り」としての期待の言葉をかけられながら育ちました。自分自身もそのつもりで勉強し、大学卒業後はゼネコンに入社して現場監督として経験を積みました。
入社して8年が経過したころ、父が体調を崩しました。当時の建設業界は新築着工棟数が減少しており、父も住宅の受注に苦労していたようです。父が会社をたためと言ったのは、息子に苦労をさせたくないという親心だったのでしょう。
しかし、私は、もともと商売そのものに強い興味を持っていましたし、自分がこの会社を大きくするのだという決意をすでに固めていたからです。
当時、私は駅前の大きなビルの現場監督を担当していました。その仕事に区切りがついたタイミングで、山田工務店への入社を決めました。先に土木の仕事をしていた弟が入社しており、兄弟で力をあわせる体制が整いました。
── 前職のゼネコンで培った現場監督としての経験は、現在の経営にどのように活かされていますか。
山田 現場監督としての経験は、経営のあらゆる場面で役に立っています。当時の山田工務店は社員がほとんどおらず、組織としての形がまだ整っていない状態でした。
私は「会社を大きくしたい」という夢を抱いていたため、ゼネコン時代の仕組みを積極的に取り入れました。経営計画の立て方や就業規則の整備、現場ごとの実行予算の管理方法など、組織運営の基礎を学びました。
また、職人の皆さんとの付き合い方も現場で学びました。静岡県立大学の薬学部といった大規模な現場を経験し、共同企業体(JV)での仕事を通じて、大きな組織がどのように動くのかを肌で感じたことは大きな財産です。
当時の会社員時代に築いた人間関係は、今でも大切にしています。人とのつながりや組織の仕組みを学んだあの8年間がなければ、現在の山田工務店の成長はなかったと確信しています。
ゼネコン型から住宅特化へ舵を切った「やりがい」の発見
── 入社当初はゼネコンのような大型建築を目指していたそうですが、そこから住宅事業へと大きく舵を切った転機は何だったのでしょうか。
山田 入社後は、自分が営業から設計、現場監督までをすべてこなして大型案件を受注していました。確かに利益は出ましたが、完成しても心からの達成感や面白さを感じることができなかったのです。
施主の皆様から感謝の言葉をいただいても、どこか自分の求めているものとは違うという違和感を覚えていました。そんなとき、父が担当していた新築住宅の受注が途絶え、代わりに修繕工事の依頼が増え始めました。
トイレの改修や雨漏りの修理など、一つひとつは小さな仕事です。
しかし、これらの困りごとを解決すると、お客様が本当に喜んでくれます。「どこに頼めばいいか分からなかった」という声を直接聞くたびに、大きなやりがいを感じました。
当時は汲み取り式から水洗トイレへの移行期で、ウォシュレットも普及し始めたころでした。需要が非常に多く、お客様の生活に密着した仕事を通じて、社員と一緒に成長する喜びを知りました。
── お客様の声を直接聞くことが、事業の原点になったのですね。そこからどのように新築住宅事業へと広げていったのでしょうか。
山田 リフォームの仕事を丁寧に行うなかで、お客様から「新築もお願いしたい」という相談をいただくようになりました。
しかし、昔ながらのやり方では通用しないと考え、全国の優れた会社を回って勉強しました。
腕のいい職人がいると聞けばどこへでも足を運び、その仕事ぶりを一日中観察しました。そこで気づいたのは、優れた大工には「整理整頓」という共通の習慣があることでした。
このノウハウを自社の職人たちに共有し、誰でも高い品質で仕事ができる仕組みを整えました。すると、職人の皆も達成感を得て定着し、良い仕事が次のお客様を呼ぶという善循環が始まりました。
仕事が楽しくなり、仲間である社員も増えていきました。お客様の喜びを自分たちの喜びとする姿勢が、現在の多角的な住宅事業の礎となっています。
「整理整頓」がもたらす信用と独自の社内制度
── 最も大切にしている「信用と信頼」について、具現化するためにどのような取り組みをしているのですか。
山田 「現場のきれい」を徹底しています。整理整頓ができている人は、仕事の質も高い。これは社員も職人の皆さんも共通です。挨拶ができない、身の回りが汚いといった基本が疎かな状態では、良い仕事はできません。
月に一度、私が全現場を回る「社長パトロール」を実施しています。抜き打ちではなく、あらかじめ日程を伝えてから行います。職人の皆さんに「きれいな現場を見せてほしい」とお願いするためです。
現場の玄関には人工芝を敷き、仮設トイレにも人工芝を敷き、毎日清掃して臭いが出ないように管理します。お客様がいつ来ても気持ちよく迎えられる状態を保つことが、信頼につながると考えています。
この「きれい」という基準は、社内のオフィス環境にも適用しています。当社はフリーアドレス制を採用しており、帰宅時には机の上に物を一切残さないルールを徹底しています。
考え方をシンプルに保つことが大切です。現場をきれいにし、身の回りを整え、誠実な挨拶をする。この当たり前のことを徹底することが、組織を強くし、お客様からの信用を築く唯一の道だと考えています。
職人の皆も、今では「自分の現場を見てほしい」と言ってくれるようになりました。社長パトロールの際に、屋根を傷つけないよう段ボールで養生している姿を見たときは、本当に嬉しく思いました。
「30分圏内」に限定するエリア戦略の真意
── 営業エリアを「30分以内に訪問できる範囲」に限定しているそうですが、拡大を急がない「狭く深く」の戦略にはどのような意図がありますか。
山田 これは建築という商品の特性に基づいた判断です。住宅の品質・性能を維持するためには、迅速なメンテナンスが欠かせません。不具合が生じた際、すぐに行けない距離では責任を果たせないのです。
以前、遠方の案件を引き受けたこともありましたが、移動に時間がかかり、お客様をお待たせしてしまうという失敗を経験しました。その反省から、現在のエリア戦略を貫いています。
大手メーカーであれば広域展開も可能でしょうが、私たちのような地域密着型の会社は、密度を濃くすることで住宅の品質・性能を担保します。お客様の困りごとに即座に対応できる距離こそが、私たちの生命線です。
この方針を貫くことで、地域の方々から「近くにはっぴいさんがいてくれて助かる」という声をいただけるようになりました。評判を聞いて遠方から依頼されることもありますが、まずは拠点を構え、責任を持てる体制を作ってから進出するようにしています。
── 職人を「パートナー」と呼び、非常に大切にされている点も印象的です。
山田 家づくりには、図面を書く人から大工まで、延べ3,000人近い人が関わります。協力業者であるパートナーの皆さんたちの力がなければ、お客様に満足いただける住まいは完成しません。
私たちは、職人の皆さんが安全に、そして気持ちよく働ける環境づくりを重視しています。建前の際にお弁当や飲み物を用意するのはもちろん、落下防止の安全ネットをきれいに張るなど、細かな配慮を欠かしません。
会社が職人さんを大切にすれば、職人の皆さんもそれに応えて良い仕事をしてくれます。実際、職人が施主となって家を建ててくれるケースも多く、これはプロに認められた証として誇りに思っています。
お客様、パートナーの皆さん、そして私たちの三方が満足できる関係性を築くこと。それが、地域で長く商売を続けさせてもらうための絶対条件です。
創業100周年に向けた地域貢献と「はっぴい」の継承
── 創業70周年を迎え、次の100周年に向けたビジョンを教えてください。
山田 会社を始めたころは、潰さないことで精一杯でした。しかし、規模が大きくなるにつれ、地域社会にどのような貢献ができるかを考えるようになりました。
納税や献血、寄付といった活動に加え、最近では社員が体を動かして参加する地域貢献にも力を入れています。焼津港まつりへの協賛や、静岡県立こども病院への支援など、地域の子どもたちの未来を応援する活動を継続しています。
社員が「この会社で働くことで自分も豊かになり、地域にも貢献できている」と実感できる組織にしたい。100周年のころには、地域貢献で真っ先に名前が挙がるような会社でありたいと願っています。
売上高100億円という目標も、より大きな地域貢献を実現するための手段です。地元の皆様から「はっぴいさん」と親しまれ、頼りにされる存在を目指して、一歩ずつ歩みを進めます。
── 次世代へのバトンタッチについても、すでに見据えていますか。
山田 現在、幹部社員たちが自ら経営計画書・経営方針書を作成するなど、次世代のリーダー育成が進んでいます。私が大切にしてきた「狭く深く」という方針は、幹部たちも同じ思いで共有しています。
時代が変わっても、私たちが大切にしている「はっぴい」という言葉に込めた想いは揺るぎません。お客様のはっぴい、地域のはっぴい、そして自分たちのはっぴい。この感覚を全員が持ち続けることが重要です。
お客様からのアンケートを大切に読み、厳しい意見には真摯に向き合い、お褒めの言葉を励みにする。こうした社内の循環を絶やさず、より強い思いを持ってお客様を受け止められる会社になってほしいと考えています。
── 変化が激しい現代において、経営者が地域で生き残り、壁を乗り越えて持続的な成長を遂げるために最も必要な心構えとは何でしょうか。
山田 たしかに今の時代は変化が激しく大変ですが、工夫と努力を重ねることで必ず乗り越えることができます。誠実な対応を心掛け、新たな取り組みに対してトライアンドエラーを繰り返し、一歩ずつ前進することが大切です。
私自身も多くの失敗を経験してきましたが、そのなかで見つけた一つの成功を拾い集めてここまで来ました。多くの方に助けられています。会社を経営できるという、特別な機会を与えられているということに感謝しています。
工夫と努力を惜しまなければ、道は必ず開けます。
- 氏名
- 山田 耕治(やまだ こうじ)
- 社名
- 株式会社山田工務店
- 役職
- 代表取締役

