株式会社ティーケーシン

滋賀県での味噌・醤油づくりに始まり、創業120年を超える食の総合メーカー、株式会社ティーケーシン。産業給食、料亭向けの総菜OEMと事業の形を変えながら歴史を重ね、四代目の小澤讓氏の代では、冷凍食品への大胆なシフトとフランス乳製品ブランドの日本展開に踏み切った。

同社に、代々受け継がれる「不変の技術」は存在しない。その時代のニーズに最適な「食」を編集し、常に最新の技術をアジャストさせていく……その姿勢こそが、老舗を生き延びさせてきた核心である。

BtoBを主軸に有名ホテルや星付きシェフの黒子を務めながら、虎ノ門ヒルズへの出店や女子サッカーチームの運営でブランド価値を高め、ジェンダーもボーダーも問わない組織づくりを進める。為替差損による厳しい経営状況を無借金経営へと転じた経験も糧に、小澤氏はいまカリスマに頼らない「組織の力」への移行を急ぐ。伝統を守るとは、変わり続けること。その真意を聞いた。

小澤 讓(おざわ じょう)──代表取締役
大学を卒業後、商社へ入社。その後、家業を継ぎ、現在に至る。時代のニーズをとらえた「冷凍おせち」事業の確立や、フランスの乳製品ブランド「ベイユヴェール」の日本展開など、食の多角化を推進。その後に代表権を持つ会長に就き、現在は組織の仕組み化と次世代育成に注力している。
株式会社ティーケーシン
創業120年を超える食の総合メーカー。滋賀県での味噌・醤油製造に始まり、産業給食、総菜製造を経て、現在は冷凍食品(おせち、オードブル、弁当)の製造販売および海外ブランドの輸入販売を展開。BtoBを主軸に、有名ホテルや料亭のOEMも数多く手がける。
企業サイト:https://tk-shin.co.jp/

目次

  1. 時代に合わせた「食」の編集と120年の変遷
  2. 冷凍技術が切り拓くおせち事業の新たな可能性
  3. BtoB戦略を加速させるフラッグシップ店舗の役割
  4. 多様性が生む組織の活力とボーダーレスな人材採用
  5. 大きな損失を糧に築いた無借金経営と未来への展望

時代に合わせた「食」の編集と120年の変遷

── 120年以上の歴史の中で、「食の編集者」として事業を広げてきたとのことですが、さまざまな決断をする中で、大切にしている判断軸を教えてください。

小澤氏(以下、敬称略) 私は四代目として、35年ほど経営に携わっています。初代や二代目の活躍した時代は、私が生まれる前ということもあり、当時の詳細は直接は存じません。

もともとは滋賀県で味噌、醤油、漬物の製造を行い、一部ではビールの代理店業務も手がけていました。

二代目は大阪へ進出し、銀行や新聞社向けの産業給食、あるいはパンの製造を開始しました。三代目は総菜事業を拡大し、そして私の代で海外での食品製造や冷凍食品への挑戦を始めました。

代々「食」というキーワードは一貫していますが、その時代のお客様のニーズに合わせた開発を続けています。

私たちの核となるのは、特定の品目に固執しない姿勢です。「永遠に味噌だけを作り続けなさい」といった教えは過去にもありません。

その時代に最適な「食」を開発し、顧客を発掘することこそが、私たちの編集の軸です。時代に合わせたものを作るという一点において、一貫した思想を守っています。

── 技術の継承についてはどのように考えていますか。

小澤 私は大学で食品化学を専攻しましたが、初代から現在まで引き継いできた「不変の技術」というものは、実は存在しません。

食品の保存技術や加工技術は、時代とともに常に進化しています。この変化に対応し、その時々の最新技術を駆使して食品を作ることが、正しい姿だと考えています。

かつては冷蔵設備が普及していなかったため、常温保存が可能な醤油や味噌に特化していました。

しかし現在は、食品の冷凍化が急速に進んでいます。「伝統の技術を継承しています」と言えば聞こえはよいかもしれませんが、変化を拒めば時代に取り残されます。

私たちは、常に新しい技術を取り入れることを正解としています。初代は瓶詰めや缶詰め、二代目はチルド、そして私の代では冷凍に特化しました。

お客様のニーズを的確にとらえ、そこに最新の技術をアジャストさせていくことこそが、私たちの強みです。

冷凍技術が切り拓くおせち事業の新たな可能性

── 事業の柱である冷凍おせちやOEM、海外ブランド展開の戦略について教えてください。

小澤 もともと初代は調味料などの素材、二代目はブランドのない産業給食、三代目は料亭向けのOEM加工を主軸としていました。

私の代では、そこにブランドを付与することで、認知度の向上と拡販のしやすさを追求しています。

海外ブランドを扱う理由は、国内市場に留まらず、国際的なブランド展開を目指しているためです。まずは海外の優れたものを日本で販売することから始めました。

これが実現できれば、次は日本の食文化をフランスなどの海外へ届けるという、双方向の国際的な動きが可能になります。

── 現在は冷凍おせちが売り上げの大きな割合を占めていますね。

小澤 おせちという言葉で一括りにしていますが、実際にはオードブルや冷凍弁当など、カテゴリーは多岐にわたります。

もともと三代目が手がけていた総菜は、国内の有名ブランドのOEMとしておせち料理にも採用されていました。冷凍おせちに注力した理由は、海外での安価な製造に対抗し、国内でしか作れない価値を追求した結果です。

また、従来のチルドおせちは年末に製造が集中していましたが、冷凍化によって一年を通じて計画的に製造できるようになりました。

これにより、販売期間や配送範囲が飛躍的に広がりました。時代の変化に合わせた冷凍技術の活用が、ビジネスモデルの転換を可能にしました。

── 原材料の調達など、昨今の地政学的リスクについてはどう考えていますか。

小澤 コスト高の影響は顕著に現れています。おせちの重箱やオードブルの容器、そして食材の約8割を海外からの輸入に頼っているため、厳しい状況であることは間違いありません。

しかし、こうした外部環境の変化も、私たちが乗り越えるべき課題の一つとしてとらえています。

BtoB戦略を加速させるフラッグシップ店舗の役割

── 虎ノ門ヒルズなどの一等地への出店は、どのような戦略に基づいているのでしょうか。

小澤 私たちはBtoBを主体とするメーカーです。有名シェフや高級ホテル、料亭などのOEMを数多く引き受けていますが、私たちはあくまで「黒子」として活動しています。 具体的な名前は出せませんが、ミシュランの星を持つシェフのパートナーも務めています。

店舗展開の真の狙いは、売上の追求ではなく、BtoBのお客様に対するブランディングです。 一等地にお店を構えることで、私たちの技術やブランド価値を可視化し、信頼を構築するフラッグシップとしての役割を持たせています。

── 利益を追求する店舗運営ではないということでしょうか。

小澤 店舗単体でのビジネススケールは決して大きくありません。

私たちの目的は、メーカーが末端の店舗に挑戦することで、お客様の心理を深く理解することにあります。 百貨店やネット販売での展開を有利にするための、ブランド構築の一環です。

── フランスのブランド「ベイユヴェール」との提携も、その戦略の一部ですね。

小澤 フランスで高く評価されているチーズやバターのブランドですが、日本での展開にあたっては、私自身が直接現地へ赴き、飛び込みで交渉を行いました。

特別な人脈があったわけではありません。私たちの情熱と、これまでの実績を誠実に伝えることで信頼を得ました。

私たちは、大手企業に対しても同様に飛び込みで提案を行います。「おかしな会社ではない」と証明するための準備は入念に行いますが、最終的には直接当たって砕けろの精神で道を切り拓きます。

多様性が生む組織の活力とボーダーレスな人材採用

── 組織運営や人材獲得において、大切にしている考え方を教えてください。

小澤 ジェンダーレス、そしてボーダーレスな組織作りを基本としています。私自身、海外経験が長いため、日本の中小企業にありがちな固定概念にとらわれたくありません。 女性の取締役や社長の登用も当然のことと考えていますし、国籍も一切問いません。

私自身が中国語や英語を話すこともあり、海外での採用活動も積極的に行います。今年も台湾へ直接出向き、3人採用しました。

沖縄から北海道まで、あるいは世界中から面白い人材を集めることが、組織の活性化につながります。

── 多様な人材が集まることで、どのようなメリットがありますか。

小澤 社内には元宝塚の団員や、アナウンサー、元プロサッカー選手など、非常に個性豊かな人材が揃っています。

こうした多様なバックグラウンドを持つ人々がフラットに意見を交わすことで、組織に活気が生まれます。

女子サッカーチームの運営を始めたのも、もともとはサッカーに関わる社員が多かったことがきっかけです。

チームが活躍することで社内が活気づき、若い人材が集まりやすくなるという副次的な効果もありました。

現在は社団法人として独立させ、私たちはメインスポンサーという立場ですが、多くの選手が当社の社員として働いています。 偏差値や過去の経歴だけで判断するのではなく、多様な個性を尊重する姿勢が、長く続く組織の基盤となります。

── 生産性の向上についてはどのように考えていますか。

小澤 生産性はカテゴリーによって異なります。ホテル向けのOEMなどは手作業が多く、単純な効率化は馴染みません。

一方で、BtoBの主力製品については、設備の自動化や大量生産による効率化を追求しています。

おせちや弁当の事業は、AIや機械化が難しい領域もありますが、生産ロットを増やすことで全体の生産性を高めています。多様な人材がそれぞれの強みを発揮し、適材適所で活躍することが、結果として組織全体の力を引き上げます。

大きな損失を糧に築いた無借金経営と未来への展望

── 昨年、社長の座を譲り、会長に就任したそうですが、その意図を教えてください。

小澤 中小企業は、経営者のカリスマ性や個性に依存しがちです。

しかし、売上高を大きく伸ばし、扱う商品の流通規模も年々拡大する中で、組織として動く仕組み作りが必要だと判断しました。

現在は代表権を持つ会長として、カリスマに頼らない「組織の力」で仕事をする体制への移行を進めています。

── 次の100年に向けて、変えてはならない核は何でしょうか。

小澤 「顧客満足の追求」だけです。それ以外はすべて変えてもよいし、むしろ変えなければならないと考えています。

食品業界において、自己変革を止めれば企業の継続は不可能です。日々、過去の成功を壊し、新しいものを作り続けるスクラップ・アンド・ビルドの精神が不可欠です。

── これまでの経営判断の中で、苦い経験はありますか。

小澤 過去に為替ヘッジの失敗で、多大な損失を出したことがあります。 原材料の輸入コストを安定させるためのデリバティブ取引でしたが、想定外の円高により、10年間にわたって高い買い物をし続けなければならなくなりました。

この影響で自己資本が低下し、資金繰りに困窮した非常に苦しい時期を経験しました。 しかし、その地獄のような状況の中で、私はコンサルティング業務や大学講師など、あらゆる仕事を引き受けました。

── その経験が現在にどうつながっていますか。

小澤 苦境の中で必死に動いた結果、食品業界内外に膨大な人脈が築かれました。それが現在の事業拡大の大きな資産となっています。 売上を大幅に伸ばしたことで、会社を存続させることができました。

現在はほぼ無借金の経営を実現し、自己資本比率も極めて高い水準にあります。 あのときの失敗があったからこそ、今の強固な財務体質とネットワークが存在します。

── 今後の成長に向けた課題はありますか。

小澤 地政学的リスクや、日本固有の災害リスクには常に注意を払っています。 特におせちのような季節性の高い商品は、年末に災害が起きれば甚大な影響を受けます。

業界全体で保険の仕組みを作るなどの対策を模索していますが、リスクの高さから実現は容易ではありません。

だからこそ、内部留保を厚くし、自らの力でリスクを乗り越えられる体制を維持することが重要です。

私たちはこれからも、お客様の満足のために変身し続けます。伝統に甘んじることなく、常に新しい挑戦を続けることこそが、次の100年を切り拓く唯一の道だと確信しています。

氏名
小澤 讓(おざわ じょう)
社名
株式会社ティーケーシン
役職
代表取締役

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