株式会社ベル・フルール

日本におけるプリザーブドフラワーの先駆者として、業界を牽引し続ける株式会社ベル・フルール。グラフィックデザイナーの経歴を持つ代表取締役社長の今野亮平氏は、自らを単なる「お花屋さん」ではなく、予算や制約のなかで最高の価値を生み出す「フラワーデザインカンパニー」と定義する。

同社は、コロナ禍に赤字ブランドだった「エミリオ・ロバ」の買収を決断。セール廃止やSDGs商品の創設といった「解体と再生」のアプローチを断行し、わずか3年で劇的な黒字化を成し遂げた。

デジタルとアナログを融合したフラットな組織改革や、三重県名張市の製造拠点を巻き込んだ地方創生にも注力する今野氏。「花」という世界共通言語を通じ、伝統を守りながら「花のルイ・ヴィトン」や「エルメス」のような世界基準のブランドを目指す同氏の、情熱に満ちたデザイン経営の全ぼうに迫った。

今野亮平(こんの りょうへい)──株式会社ベル・フルール 代表取締役社長 フラワーデザイナー
1977年、東京都生まれ。大学・専門学校卒業後、グラフィックデザイナーとして活動。2003年、母・今野政代氏が創設したフラワースクールを母体とするベル・フルールの経営に参画し、自身もフラワーデザイナーとして活躍。2006年には日本フラワーデザイン大賞(生花部門)で第1位を受賞した。2018年に株式会社ベル・フルール代表取締役社長に就任。現在は、フラワーギフト事業や空間デザイン事業、スクール事業を展開しながら、花を通じた新たな価値創造に取り組んでいる。
株式会社ベル・フルール
1981年創業のフラワーデザインカンパニー。日本におけるプリザーブドフラワー業界の先駆者として、プリザーブドフラワーやアーティフィシャルフラワーを用いたギフトの企画・制作・販売をはじめ、フラワースクールの運営、ブライダル装花、商業施設や企業空間のディスプレイ・装飾など幅広い事業を展開。花の新たな価値を提案し続け、個人・法人を問わず多くの顧客から支持を集めている。
企業サイト:https://www.belles-fleurs.com/

目次

  1. デザイン理論を花の業界へ持ち込む
  2. デジタルとアナログの融合、赤字ブランド買収の狙い
  3. 「解体と再生」による新たな価値の創造
  4. 「名張クオリティ」を世界へ発信する
  5. 「花のルイ・ヴィトン」を目指す世界戦略
  6. 法人需要における圧倒的な費用対効果

デザイン理論を花の業界へ持ち込む

── グラフィックデザイナーを経て、2003年にベル・フルールへ参画したとのことですが、デザイン理論を花の業界に持ち込んだことで得た気づきや、現在のブランドづくりへのつながりを教えてください。

今野亮平氏(以下、敬称略) 根本的に、私たちは自分たちのことを「お花屋さん」だとはまったく思っていません。カテゴリーとしてはそこに含まれますが、あくまで「フラワーデザインカンパニー」です。

最大のポイントは、花を通してデザインを提供するデザイン会社であるという点です。

私の肩書きはフラワーデザイナーです。フラワーアーティストと呼ばれることも多いのですが、あえてデザイナーと名乗ることにこだわっています。

アーティストは「自分の作りたいもの」を表現しますが、デザイナーは制限の中でクリエイティビティを発揮する存在です。

顧客のニーズや予算、ビジネス上の目的といった制約の中で、いかに最高の価値を生み出すかを重視しています。

また、コンテスト作品とプロダクト(商品)は別物です。かつて日本一を受賞した経験もありますが、エキセントリックな作品をそのまま商品にしても、お客様はついてこれません。 現代のインテリアに調和しつつ、お客様が少し背伸びをして「見たことはないけれど買ってみたい」と感じる世界観を大切にしています。

私たちのデザインの特徴は、すべての要素に説明責任を持つことです。葉の一枚、花の一輪をその位置に配置する意味を、作り手が明確に持っています。このこだわりを言語化し、お客様に伝えるところまでが私たちのデザインです。

デジタルとアナログの融合、赤字ブランド買収の狙い

── 作り手のこだわりを、どのようにお客様へ届けているのでしょうか。販売スタッフの役割についても教えてください。

今野 私たちは販売スタッフを「コンシェルジュ」と呼んでいます。単に物を売るのではなく、お客様に寄り添い、そのニーズに最適な提案をする役割です。

富裕層や知識層のお客様は、花が綺麗であることは当然として、その背景にある知識や理論にも興味を持たれます。

そのため、コンシェルジュには「言葉の武器」を身につけてもらいます。

私が新作をデザインしたときは、その構成や比率、意図をすべて動画で撮影し、社内で共有します。スタッフはそれを見て勉強し、自分の血肉としたうえでお客様に説明します。

この仕組みにより、入社一週間の若手もベテランもフラットに最新の知識を共有できます。かつてのアパレル業界のような年功序列ではなく、全員が同じ情報を武器に戦うワンチームを目指しています。ベテランがゴールを守るのではなく、若手が中堅を突き上げ、チーム全体が進化する組織が理想です。

オンラインショップでも、発売の二週間前から商品の魅力を文字で伝えます。実店舗のコンシェルジュは、商品が届く前に動画やウェブサイトでインプットを完了させます。

デジタルツールを駆使して知識を共有し、接客というアナログな場で最高のアウトプットを行う。このデジタルとアナログの融合が、私たちの強みです。

── 2020年にエミリオ・ロバを買収しています。当時は赤字ブランドであり、さらにコロナ禍という困難な時期でしたが、どのような勝ち筋を見出していたのでしょうか。

今野 買収のオファーがあったのは、ちょうどコロナが世界中に広がり始めた時期でした。周囲からは猛反対されましたが、私が決断しなければこのブランドは消えてなくなるという状況でした。

私は「誰もやっていないこと」に挑戦することに、運命的な魅力を感じるタイプなのです。現場を視察して感じたのは、スタッフの働く姿勢や素材の質は非常に素晴らしいということでした。

しかし、デザインの統一感やMD(マーチャンダイジング)戦略がバラバラで、店舗ごとの「お任せ状態」が課題でした。そこで私が行ったのは、ブランドの「北極星」を作ることです。

北極星とは、どこにいても全員が見ることのできる共通の指針です。「パリ生まれのブランドだが、日本の高い技術で展開するエミリオ・ロバ」という定義を明確にしました。

そして、店舗ディスプレイ(VMD)を徹底的に整えました。毎月1日と15日には、各店舗からディスプレイの画像を送ってもらい、私が直接チェックします。地域ごとの文化や店長の個性を尊重しつつも、ブランドとして守るべき「主」(しゅ)の部分を統一しました。

言葉遣いや接客の基本も再徹底し、全員が同じ目線でブランドを体現できるようにしたのです。

「解体と再生」による新たな価値の創造

**── ブランド再生の過程で、具体的にどのような改革を行ったのでしょうか。

今野 私が大切にしている言葉に「解体と再生」があります。現状を一度壊し、新しい価値を再構築することです。

エミリオ・ロバでは、まず「セールありきの売り上げ」を解体しました。以前はセールの時期だけ売り上げが上がる体質でしたが、それはブランドの価値を削る行為です。

そこでセールを廃止し、代わりに「SDGs商品」という新たなカテゴリーを創設しました。 わずかな傷がある素材などを活用し、作る責任と使う責任を果たす商品として提案したのです。

この取り組みは、単なる在庫処分ではありません。「物にも魂がある」という考えのもと、生まれてから死ぬまで責任を持つという姿勢の表れです。

お客様にその背景を丁寧に説明することで、今では「SDGs商品のファン」も生まれています。結果として、3年で不良在庫は完売し、ブランドの利益率は劇的に向上しました。

また、三重県名張市にある自社工場を拠点とした「名張エキスポ」というイベントも開催しています。

以前は隠していた製造拠点をあえて公開し、「名張クオリティ」としてブランディングしました。地元の方々や学生を巻き込むことで、地域に誇りを持ってもらう活動へと発展しています。

「名張クオリティ」を世界へ発信する

── 地域を巻き込んだ活動が、ブランドの価値をさらに高めているのですね。

今野 名張エキスポには、今では3000人を超える方々が集まります。地元の高校生とコラボレーションしてファッションショーを行ったり、大手企業に協賛いただいたりしています。外から来た私だからこそ、名張の美しい風景や職人の技術が宝物に見えたのです。

作り手である工場のメンバーも、自分たちの作った花がお客様に喜ばれる姿を直接見ることで、目が輝くようになりました。

以前はミーティングでも発言が少なかったスタッフが、今では自ら提案をしてくれます。 心理的安全性を築き、一人ひとりの能力を引き出すことも、経営というデザインの一部です。

私は「変化はスタンダード」だと考えています。現状維持は衰退の始まりです。人事異動も意図的に行い、組織に新陳代謝を促します。

なぜその異動が必要なのか、本人のキャリアにどうつながるのかを、ディレクターが丁寧に説明します。

スタッフ一人ひとりの人生に興味を持ち、愛を持って接することを忘れません。今の日本では、踏み込んだコミュニケーションが避けられる傾向にありますが、私たちはあえてパーソナルな部分も大切にします。家族の状況やライフステージの変化に寄り添うことで、長く活躍できる環境を整えています。

「花のルイ・ヴィトン」を目指す世界戦略

── 将来のビジョンについて教えてください。

今野 私の夢は、ベル・フルール、エミリオ・ロバを「花のルイ・ヴィトン」や「エルメス」のような世界的なブランドにすることです。

花は世界共通言語です。銀座の店舗には多くのインバウンドのお客様が訪れますが、国籍を問わず、美しいものへの感動は共通しています。

日本には四季があり、繊細な美意識があります。この「日本発の美意識」を、プリザーブドフラワーやアーティフィシャルフラワーという形で世界に発信したい。

まずはアジア圏から着実に進出し、将来的にはエミリオ・ロバの発祥の地であるフランスでもブランドを復活させたいと考えています。

和菓子の「とらや」さんのように、伝統を守りながらも世界で評価される存在が理想です。 「大切な方への贈り物ならベル・フルール」というステータスを確立したい。

それは単に高いものを売るということではなく、贈る方の想いや文化的な背景までを届けるということです。

私は120歳まで生きるつもりでいますので、このビジョンの実現に向けて歩みを止めることはありません。「神は細部に宿る」という言葉のとおり、リテールの細部までこだわり抜き、世界中の人々に愛されるブランドを築き上げます。

法人需要における圧倒的な費用対効果

── 世界的なブランドを目指す一方で、国内のビジネスシーンや法人需要に向けては、今後どのような価値を提案していきたいですか。

今野 経営者の方々にぜひ知っていただきたいのは、プリザーブドフラワーの「費用対効果」の高さです。

多くの企業では、お祝いに胡蝶蘭を贈ることが慣習となっていますが、実は受け取る側にとって負担になることも少なくありません。水やりや枯れた後の処分など、管理に多大なコストと手間がかかるからです。

私たちの提案する「ベルデコ」などの法人向けサービスは、水やりが一切不要で、数年にわたって美しさを保ちます。

企業のロゴを花で表現したオリジナルデザインは、他社との差別化にもなり、贈った相手の記憶に長く残ります。これは、単なる装飾ではなく、戦略的なビジネスツールです。

また、個人のお客様向けには「メゾン」というオーダーメイドサービスも展開しています。 ご自宅のインテリアやサイズに合わせ、世界に一つだけの作品を作り上げます。カッシーナの家具や高級時計を選ぶように、花も自分だけのこだわりを持って選んでいただきたい。

花は、空間の質を変え、人の心を豊かにする力を持っています。サステナブルであり、かつ高いデザイン性を持つ私たちの花が、皆様のビジネスやライフスタイルに新たな価値をもたらすことを確信しています。

興味を持たれた方は、ぜひ一度私たちの世界観に触れてみてください。

氏名
今野亮平(こんの りょうへい)
社名
株式会社ベル・フルール
役職
代表取締役社長 フラワーデザイナー

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