株式会社貴瞬は、「無価値という言葉を世界からなくす」を理念に掲げ、宝石・貴金属のリユース事業で急成長を遂げている企業だ。同社は、二次流通市場でほとんど値段がつかず見過ごされてきた色石にフォーカスし、新たな付加価値を生み出している。
最大の強みは、仕入れから鑑別、加工、販売までの全工程を自社で一貫して行う垂直統合型のビジネスモデル。徹底したシステム化や職人育成による高度なバリューアップ、そして高い棚卸し回転率を武器に、海外展開も積極的に推進している。
資本金1000万円からスタートし、売り上げ1000億円規模を見据えるまでに至ったビジネスの軌跡と独自の戦略、そして宝飾業界の未来に向けた展望について、代表取締役の辻瞬氏に聞いた。
メディア露出の戦略と「無価値」をなくす理念
── 近年、さまざまなメディアで貴瞬が取り上げられる機会が増えていますが、その背景にはどのような戦略や意図があるのでしょうか?
辻氏(以下、敬称略) 弊社もおかげさまで成長を続けており、社会的な影響力も大きくなってきました。そこで、まずは「貴瞬」という会社を知っていただくことが、お客様の安心と信頼につながると考えています。
十周年という節目を迎えたころから、メディアを通じて弊社の取り組みをお伝えする機会を設けました。
── メインで扱う色石には、ダイヤモンドや貴金属のような明確な相場が存在しないため、情報がオープンになることでデメリットが生じるのではないか、という懸念もありますがその点については?
辻 確かに、情報を出すことがデメリットになる側面もあるかもしれません。しかし、弊社のビジネスモデルの根幹には「リフレーミング」という考え方があります。これは、物事の価値を異なる側面からとらえ直すことで、新たな価値を生み出すという考え方です。
色石の価値を広く伝えることは、むしろ私たちの理念である「無価値という言葉を世界から無くす」につながると考えております。無価値なものがなくなることこそ、私たちにとって望ましい状況なのです。
貴瞬が扱う色石の価値とは
── 辻社長は、10年以上の販売員としての経験を経て、2014年に株式会社貴瞬を創業しています。独立を決断した最も大きな理由は、何だったのでしょうか?
辻 サラリーマン時代に、現在の事業モデルに近い提案や企画を行っていましたが、社内ではなかなか実現できませんでした。独立は、やりたいことを実現するための手段であり、気づいたら会社を設立していた、というのが正直なところです。
── 具体的に、どのようなことを実現したかったのでしょうか?
辻 私が最も注力したかったのは、二次流通市場でほとんど価値が見過ごされていた色石の活用です。ダイヤモンドやプラチナには日々の相場がありますが、色石、特に「中古色石」は、ほとんど値段がつかず、創業前はゴミのように扱われていました。
私は、こうした石にもっと付加価値をつけられないかと考え、独立したのです。
── 創業当初、色石に大きな付加価値をつけて販売するというマーケットは、まだ確立されていなかったのでしょうか?
辻 その通りです。色石に付加価値をつけることは非常に難易度が高く、現在でもそうですが、マーケットとして確立されていたわけではありませんでした。しかし、私はそこに挑戦し、価値をつけることに注力しました。
── 資本金1000万円でスタートし、どのように仕入れを開始したのですか?
辻 テレアポで地道に活動しました。指輪やネックレスから外された石はありませんか、と質店やリサイクルショップなどに一件一件電話をかけ、石を探すことから始めています。現在もその活動は続いていますが、当時はまさに手探りの状態でした。
急成長を支える「高い棚卸し回転率」
── 創業からわずか10年足らずで、売り上げ1000億円規模を目指せるほどの急成長を遂げています。その中で、最も大きな戦略的決断は何だったのでしょうか?
辻 成長に伴い、毎年さまざまな決断に迫られていますが、近年の戦略的な投資として最も大きいのはシステムへの投資です。
宝石業界はアナログな部分が多く、仕事でリソースを割く場面は商品の売買がメインになりがちですが、弊社は仕入れから販売までを一気通貫で行う垂直統合型のビジネスモデルを構築しています。このすべてのプロセスをシステム化することに、注力しました。
具体的には、Salesforceを基盤としたシステム開発を進め、在庫管理などを行っています。これは、将来を見据えた大きな設備投資でした。
── 垂直統合モデルや職人を雇用しての加工といった取り組みは、在庫リスクや人件費の観点から見ても、大きなリスクを伴うように思えますが?
辻 私はこれをリスクとはとらえていません。むしろ、バリューチェーン全体に付加価値をつけることで参入障壁を高め、貴瞬独自の強みを確立できると考えています。これは、生存戦略として必然的に行ってきたことです。
── 2018年には香港での展示会出展など、海外展開も積極的です。海外市場への進出は、どのような意図があったのでしょうか?
辻 弊社の顧客の約8割は海外のバイヤーでしたので、海外展開は必然の流れでした。関税や物流、金融といった障壁はありましたが、一つ一つ課題をクリアしながら進めてきました。
今後も海外展開はさらに加速させる方針です。日本人が「無価値」と考えていた色石に、海外のバイヤーが新たな価値を見出すことで、私たちの理念である「無価値という言葉を世界から無くす」にもつながるでしょう。
── これまでの事業で「失敗した」と感じる経験はありますか?
辻 生意気に聞こえるかもしれませんが、この事業においてはあまり負けた経験がありません。それは、失敗を失敗ととらえず、成功への過程としてとらえているからです。
最終的に必ず成功させるという強い意志を持って、成果が出るまでやり続ける。そのように考えているため、失敗とは思わないのです。
── 急成長を続ける企業にとって、資金繰りは大きな課題となることが多いですが、貴瞬はどうでしたか?
辻 創業当初の資本金1000万円という状況から、キャッシュフローの高速回転がビジネスモデルの基本となりました。1000億円を回すためには、非常に速い棚卸し回転率が不可欠であり、これは世界的に見ても珍しいビジネスモデルだと自負しています。
辻代表が語る貴瞬ならではの垂直統合モデル
── 自社の強みや独自性について、あらためて教えてください。
辻 弊社のビジネスは、仕入れから販売まですべてBtoBで行っています。国内に眠る宝石を、海外の宝飾品プロフェッショナルであるバイヤーに販売するというスタイルです。バイヤーとはパートナーに近い感覚で協業しており、事業を展開しています。
── 他の買取業者やリユース事業者と比較して、差別化できる点は何でしょうか?
辻 垂直統合モデル、具体的には仕入れから販売まで一貫して行っている点が挙げられます。また、色石そのものに注力していることも強みです。同業他社と比較しても、この一貫したモデルで事業を展開している企業は少ないと認識しています。
── 他社が参入しにくい、あるいは参入できない理由は何でしょうか?
辻 弊社のビジネスモデルは、生存するために進化してきたものであり、再現性が非常に難しいのです。仕入れ、鑑別、加工、販売のすべてに専門的な知識と経験が必要であり、これらをつなぎ合わせることで初めて価値を発揮します。単に一部の工程を真似しても、全体としての価値は生まれません。
── 加工部門では、職人の育成にも力を入れているのですか?
辻 はい。宝石の加工や鑑定には高度な専門性が求められ、職人の育成には長い年月が必要です。宝飾業界全体で職人のなり手が減っている現状もあり、弊社では職人の教育や育成にも力を入れています。
これらの取り組みも含め、一貫したバリューチェーンを構築していることが、貴瞬の強みとなっています。
── 垂直統合モデルの中で、最も重要な部門はどこでしょうか?
辻 商品開発部門、すなわちバリューアップの部分が、弊社の「頭脳」です。ここで、仕入れた石に最大限の価値を引き出すための加工や鑑別を行っています。
Salesforceを導入したのも、商品開発部門へのフィードバックを強化するためです。販路や仕入れの情報を元に、より価値の高い商品を生み出すための開発を進めています。
── それは、価値が定まっていない色石に価値を決めていく機能を持つからでしょうか?
辻 その通りです。売る側、買う側、それぞれを独立させての実行は可能ですが、それらをつなぎ合わせ全体として価値を発揮させるためには、この商品開発部門が不可欠です。脳があっても手がなければ何もできないように、すべてのプロセスが連携して初めて機能します。
「小学生が憧れるような宝石業界に」
── 今後の目指す方向性について教えてください。
辻 これまで商品の仕入れ、販売に注力してきましたが、今後はリユース業界全体のプラットフォームとなることを目指します。オークションや海外展開も含め、自社のプラットフォームを確立し、より多くの宝石に新たな価値を提供したいと考えています。
── 成長に伴う組織面での課題はありますか?
辻 事業の成長に組織が追いついていない側面はあります。そのため、教育投資には特に力を入れており、新卒社員の育成や外部人材の採用を積極的に行っています。また、制度設計や組織開発にも注力し、仕組みだけでなく人の成長も重視しています。
── AI技術の進歩は、事業にどのような影響があるのでしょうか?
辻 弊社では、生成AIの開発も進めています。自社で蓄積した膨大な仕入れ・販売の記録は、他社にはない独自のビッグデータです。これを活用し、仕入れ、販売、商品開発のすべての部門にフィードバックすることで、ビジネスモデルをさらに強化します。
また、RFIDの導入なども進め、在庫の流動性や透明性を高めることで、金融機関からの信頼獲得にもつなげます。
── AI活用は、宝石の鑑別や加工といった専門性の高い分野にも影響を与えるのでしょうか?
辻 宝石の鑑別や加工には、長年の経験と専門知識が必要です。しかし、AIを活用することで、これらのプロセスを効率化し、より多くの宝石に価値を提供できると考えています。特に、情報の非対称性が生じやすい宝飾品業界において、AIによる透明性の向上は重要です。
── 今後、「無価値という言葉を世界から無くす」という理念の実現に向けて、どのような展望がありますか?
辻 宝石だけでなく、世の中にはまだ「無価値」と見なされているものが数多く存在します。それらに新たな価値を見出し、提供できるプラットフォームを構築したいです。現代のテクノロジーを駆使し、知識や組織力を結集させることで、この理念を実現します。