テレビ番組制作の老舗である株式会社シオンのグループ会社として、メディア業界に特化した人材サービスを展開する株式会社シオンステージ。同社は、200人を超えるAD(クリエイター)の番組配属事業を主軸としながら、業界特有の構造課題に切り込む独自のビジネスモデルで躍進を遂げている。
タフな現場で培った度胸やスキルを他業種へ活かす「ADのセカンドキャリア支援」や、夢を追う若者の生活基盤を担保する「タレントのたまごの派遣」など、関わる全員が恩恵を受ける「四方よし」の仕組みは、人材不足に悩む現代の各業界からも高い注目を集める。
旅行会社や大手派遣会社を経て異業種から転身し、前社長の突然の急逝に伴い突如トップの座を引き継いだ山口裕之代表取締役執行役社長。社内のハレーションを誠実な「挨拶」と「対話」で推し進め、2023年には東証プライム上場企業のグループ入りも果たした。自ら保育士資格を取得し、シニア層の活躍や女性社員の働きやすさを見据えた「保育事業」という新たなステージへ挑む山口氏に、同社の強みと未来への展望を聞いた。
企業サイト:https://sionss.co.jp/
目次
テレビ業界を支える200人のクリエイターと多角的な事業展開
── 御社の主な事業について教えてください。
山口氏(以下、敬称略) 当社のメイン事業は、自社で新卒採用した社員をADとして各テレビ局に配属する事業です。当社では彼らを「クリエイター」と呼んでいます。現在は200人を超えるクリエイターが、情報番組、スポーツ、バラエティなど、さまざまなコンテンツの現場で活躍しています。
二つ目の柱は、テレビ番組や企業のPR動画制作事業です。グループ会社の株式会社シオンはバラエティ番組制作の老舗ですが、当社はBSやCSの番組制作を多く手がけています。制作会社としてのノウハウを活かし、質の高い動画コンテンツを提供しています。
三つ目は、テレビ業界に特化した人材サービス事業です。具体的には、ADのセカンドキャリア支援や、現在注目されている「タレントのたまご」の派遣サービスなどを展開しています。これらの事業を通じて、業界特有の課題解決に取り組んでいます。
ADの価値を再定義するセカンドキャリア支援と「三方よし」の仕組み
── ADのセカンドキャリア支援とは、具体的にどのようなサービスですか。
山口 ADの仕事に限界を感じた社員に対し、テレビ業界以外の職種を紹介するサービスです。
通常、AD派遣会社では、本人が辞めたいと言えばそのまま退職となることがほとんどです。しかし、ADを経験した人材は、他業界から見れば非常に魅力的な要素を兼ね備えています。
彼らは20代中心で体力があり、フットワークも軽く、現場での取材を通じて高いコミュニケーション能力を磨いています。何より、厳しい現場で培われた「胆力」や「度胸」があります。
当社は提携する転職エージェントと協力し、彼らの適性に合った案件をメニューとして提示します。本人のメンタル面を考慮し、職場見学などの段取りも当社が整えます。ADの約9割が女性ということもあり、他業界からは非常に喜ばれる人材です。一社目か二社目の紹介で転職が決まるケースが多く、高い成約率を誇ります。
この仕組みは、会社にとってもメリットがあります。社員が辞めることで売り上げがゼロになるのではなく、紹介手数料という形で収益が発生します。
また、「次の職場まで斡旋してくれる会社」という評判が広がれば、企業イメージの向上にもつながります。
「タレントのたまご」派遣が解決する芸能界と企業のミスマッチ
── 「タレントのたまご」の派遣サービスが注目されている理由を教えてください。
山口 タレントの卵の方々が抱える「急なオーディションと仕事の両立」という課題を解決したからです。彼女らにとってオーディションは最優先事項ですが、前日に急に決まることも珍しくありません。
そのため、一般企業では休みが取りづらく、生活基盤が安定しないという悩みがありました。
そこで当社は、派遣先企業に対し「オーディションを最優先すること」を事前に確約してもらいます。派遣先はアパレルメーカーの接客販売などが中心です。タレントのたまごは笑顔がよく、言葉遣いも優れているため、店舗側からも非常に重宝されます。
週2日から3日の勤務でも、時給は東京都の最低賃金より高く設定しています。週20時間以上の稼働で社会保険にも加入できるため、生活の安定につながります。芸能プロダクションにとっても、所属タレントの生活を支援でき、トラブルのリスクも軽減できるため、大きなメリットがあります。
このサービスは、スタッフ、派遣先、芸能プロダクション、そして当社の「四方よし」の図式になっています。現在は大手を含む十数社の芸能プロダクションと業務提携しており、今後も拡大する予定です。
人材の確保が難しい20代から30代の優秀な層を、効率的にマッチングできるのが強みです。
異業種からの転身と突然の社長就任を支えた「挨拶」と「対話」
── 山口社長のご経歴は、テレビ業界では珍しいのではないでしょうか。
山口 私のキャリアは、新卒で入社した旅行会社から始まりました。10年間、営業と添乗員を兼務し、世界中を飛び回る日々を過ごしました。
転機は、当時2歳だった娘に、久しぶりに帰宅した自分の顔を忘れられかけたことです。父親としてこのままではいけないと痛感し、転職を決意しました。
形のない商品を売る経験を活かそうと考え、当時右肩上がりだった人材派遣業界に飛び込みました。大手派遣会社などで経験を積み、2016年に旧シオンスタッフサービスに入社しました。
テレビ業界の知識はまったくありませんでしたが、もともとテレビが大好きだったことが入社の動機です。
2019年、私を採用してくれた前社長が突然逝去されました。グループの会長から「あなたが社長をやりなさい」と指名され、考える間もなく引き受けることになりました。当初は業界未経験の私が社長になったことで、社内でのハレーションもあり、苦労の連続でした。
立て直しの原動力となったのは、会長のサポートと、私が大切にしている「挨拶」や「対話」です。昭和の営業スタイルかもしれませんが、人間性を重視し、誠実に向き合うことを徹底しました。
朝礼を導入してオンとオフの切り替えを促し、社員の顔色や体調を把握する習慣を定着させました。
保育士資格の取得と事業所内保育園の設立で見据える未来のステージ
── 今後の展望や、新たに取り組みたい事業について教えてください。
山口 テレビ業界のAD配属事業は、市場規模として上限が見えつつあります。そのため、テレビ業界以外への人的サービスをさらに強化する必要があります。
その一つとして、私が個人的に強い関心を持っているのが保育事業です。
今年1月、独学で保育士の資格を取得しました。現在、保育現場の人手不足は深刻です。 そこで、タレントのたまごやシニア層を「保育補助」として派遣するサービスを計画しています。
資格がなくてもできる業務を分担することで、保育士の負担を軽減します。
特にシニア層は人生経験が豊富で、若い保育士や親御さんへのアドバイスもできます。60歳以上であれば派遣の抵触日制限もないため、安定して働いてもらえます。やりがいを持って働ける場を提供することは、私のミッションの一つです。
将来的には、自社で事業所内保育園を設立したいと考えています。女性ADが多い当社において、結婚や出産後も安心して働ける環境を整えるためです。
私が園長となり、社員の子供を預かる。そんな「未来へつなぐ感動のステージ」を、これからも社員とともに作り上げます。
- 氏名
- 山口 裕之(やまぐち ひろゆき)
- 社名
- 株式会社シオンステージ
- 役職
- 代表取締役執行役社長

