東伸運輸株式会社

1965年の創業以来、愛知県を拠点に自動車部品のジャストインタイム(JIT)輸送の心臓部を担ってきた東伸運輸株式会社。同社は、わずかなミスがライン停止に直結する極限の環境下で磨き上げた「出荷精度99.997%(ppm単位)」という圧倒的な品質力を武器に、業界で確固たる地位を築いてきた。その驚異的な精度を支えているのが、体で覚え込ませる独自の「訓練道場」による徹底したアナログ教育だ。

しかし、同社の挑戦は強固な現場力だけに留まらない。2040年の売上高100億円達成を見据え、デジタルに精通した専門チームによるAIツールの自社開発や、運行効率を飛躍的に高めるトレーラー中継拠点の構築など、物流業界の「2024年問題」を打開するイノベーションを次々と形にしている。

激変するモビリティ社会への危機感を原動力に変え、リアルな拠点とデジタルの融合をけん引する片桐徹社長に、同社が描く未来の戦略と組織開発の要諦を聞いた。

片桐 徹(かたぎり とおる)──東伸運輸株式会社 代表取締役社長
1964年、神奈川県生まれ。1986年3月、信州大学農学部を卒業後、日本水産株式会社(現・株式会社ニッスイ)入社。食品製造や生産管理、低温物流の現場で経験を積む。1996年6月、結婚を機に東伸運輸株式会社へ入社。創業者からの薫陶を受けつつ、現場実習を経て組織開発、人事、安全品質、営業部門を歴任。物流センターの開設やISO取得、バス事業・旅行代理店の立ち上げなど多角化を推進し、2023年6月に代表取締役に就任。趣味はゴルフ、読書、音楽鑑賞、筋トレ。
東伸運輸株式会社
1965(昭和40)年に貨物運送業として創業。愛知県を拠点に、自動車部品のジャストインタイム(JIT)輸送と倉庫業を主軸として成長を遂げる。現在は国内外に9拠点、関連会社3社を擁し、物流の枠を超えてバス事業や旅行業など新領域にも進出。企業スローガン「JUST IN TOSHIN」を掲げ、ppm単位の出荷精度を実現する高度な品質管理体制と、AIの自社開発による物流DXを強みとする。2040年までに売上高100億円を目指す「百億宣言」を推進中。
企業サイト:https://toosin.co.jp/

目次

  1. 自動車部品のJIT輸送を軸に多角化を推進
  2. 組織の「新陳代謝」を促す組織開発と人材育成の苦心
  3. AIへの危機感から始まった物流DXとツールの自社開発
  4. 出荷精度99.997%を支える「訓練道場」のアナログな力
  5. 2040年売上高100億円達成に向けたデジタルと拠点の融合

自動車部品のJIT輸送を軸に多角化を推進

── 東伸運輸の事業概要について教えてください。

片桐氏(以下、敬称略) 当社は愛知県に本拠を置いていて、自動車部品のジャストインタイム(JIT)納品を事業の軸としています。トヨタ自動車の生産量増加に合わせ、地元の情報を生かして倉庫とトラックを順次増やしてきました。単なる倉庫ではなく、受発注の情報処理を行い、倉庫内作業と配送をリンクさせる「物流センター」としての機能を高めてきたことが特徴です。

輸送、入出庫作業、そして拠点開発を三位一体で回すことで、お客様に選ばれる体制を構築しました。現在は県外にも営業所を構えるほか、2000年ごろからはバス事業や旅行業にも進出し、多角化を図っています。「運ぶ」というキーワードをもとに、さまざまな方向へ事業を展開してきました。

── 2040年に売上高100億円を目指す「100億宣言」を掲げています。非常に攻めの姿勢を感じますが、ここに至るまでの道のりには苦労もあったのでしょうか。

片桐 そうですね、私は創業者の一人娘との結婚を機に、食品会社から転身して当社に入りました。前職では生産管理や工場の製造管理を担当していましたが、物流業界はまったく異なる世界です。創業者は不動産開発や拠点の拡大には非常に長けていましたが、人事労務管理については「言葉の意味もわからない」というほど無頓着でした。

そのため、私が組織開発や人材開発を一手に引き受けることになりました。組織を拡大するうえで、もっとも苦労したのはやはり「人づくり」です。これは今も昔も変わらない永遠の悩みですが、人材開発と組織開発がうまくかみ合ったことで、現在の事業展開が可能になったと考えています。

組織の「新陳代謝」を促す組織開発と人材育成の苦心

── 組織開発において、具体的にどのような壁に直面し、どう乗り越えてきたのでしょうか。

片桐 ジョブローテーションやOJT、そして多くの社員が敬遠しがちなOff-JTをどのように組み合わせるか、常に試行錯誤の連続です。新しい仕組みを導入しようとすると、必ず組織内からの抵抗や壁に直面します。

しかし、そこで歩みを止めてしまえば組織は死んでしまいます。常に新陳代謝を促すことは非常に厳しい作業ですが、それを継続してきたからこそ、今の東伸運輸があります。

── 従業員からの抵抗があるなかで、組織を抜本的に変えるための工夫はありますか。

片桐 適材適所の配置やローテーションには失敗も挫折もつきものです。特に近年はジェネレーションギャップが激しく、人間理解の重要性を痛感しています。

たとえば、昨日のニュースで流れたような出来事が、組織内でもいつ起こるかわかりません。時代の変化に自分たちがついていけるのかという疑問を常に持ち、人間に対する理解を深める努力をしています。

当社の強みである出荷精度は、ppm(100万分の1)単位でコントロールされています。この精度は、結局のところ「人の教育」によって成立するものです。人材の生かし方を仕組み化し、日々の業務に落とし込むことに、もっとも心血を注いできました。

AIへの危機感から始まった物流DXとツールの自社開発

── 時代の変化という点では、AIやDXへの取り組みも積極的に行っていますね。

片桐 ここ4、5年は、とにかくAIへの対応に注力してきました。ChatGPTが登場する以前から、ディープラーニングや自動運転、ドライバーレス時代の到来を予見させる動きがありました。特に当社はバス事業も手がけているため、モビリティ社会の変化には敏感です。

「個人が車を所有せず、すべてが自動運転で完結する時代が来れば、自動車部品の輸送という当社の仕事は消えてしまうのではないか」という強い危機感を抱きました。この危機感は決して妄想ではなく、あり得る現実です。コロナ禍の間、私はそのようなことばかり考えていました。

── その危機感が、現在のDX推進につながっているのですね。

片桐 ChatGPTの登場は衝撃的でした。世の中が一変すると確信し、すぐにAIの専門家を紹介してもらい、社内のデジタルに関心がある人材を集めて「物流DXチーム」を立ち上げました。

当時はPythonなどのプログラミング言語を学ぶことから始めましたが、現在は外部からも専門人材を採用し、自社でツールを開発できる体制を整えています。

驚かれるかもしれませんが、展示会に出展されているような物流管理ツールの多くは、当社の規模でも自社開発が可能です。実際に開発した配送ルート最適化ツールなどは、すでに荷主様から高い評価をいただき、実用化の手応えを感じています。

── 物流業界の大きな課題である「2024年問題」に対し、中継拠点の構築も進めています。

片桐 中継拠点の構想については、先日、日本ロジスティクス協会の発表会でも入選し、品川で講演を行いました。世間では「高速道路のそばに立派な倉庫を建てて中継する」という華やかなイメージを持たれがちですが、実態はもっと泥臭いものです。

当社が評価されたのは、兵庫県にある空き地を活用したトレーラーの中継拠点です。高価な施設を作るのではなく、今あるリソースを最大限に活用し、トレーラーのヘッドを付け替えたり、ドライバーが交代したりできる場所を確保しました。現在は広島でも拠点の取得を進めています。広島は九州と関西の中間地点であり、ドライバーが日帰りで運行できるため、非常にニーズが高いのです。

── 理想論ではなく、現場のニーズに即した現実的な解決策を提示していると。

片桐 物流の現場は、一つひとつの積み重ねです。魔法のようなブレークスルーは起きません。草刈りをしながらトレーラーの運行を支えるような、地道な努力の連続です。ただ、そこに自社開発したデジタルツールを組み合わせることで、乗り合わせや混載の効率を飛躍的に高めることができます。この「リアルな拠点」と「デジタルの力」の融合に、当社の大きなチャンスがあると考えています。

出荷精度99.997%を支える「訓練道場」のアナログな力

── 自動車部品輸送で培ったノウハウは、他産業へも展開できるのでしょうか。

片桐 当社の出荷精度99.997%という数字は、トヨタ自動車のお膝元である愛知県で、ジャストインタイムの厳しい要求に応え続けてきた結果です。部品の間違いがラインを止めてしまうという強迫観念に近い緊張感のなかで、品質を磨き上げてきました。

この品質を支えているのが、独自の「訓練道場」です。ここでは座学ではなく、徹底して「体で覚える」教育を行います。現場のミニチュア版を再現し、バーコードリーダーの当て方から、荷物のバランスによる違和感の察知まで、フィジカルな感覚を叩き込みます。

── 「体で覚える」という教育方針には、どのような意図があるのでしょうか。

片桐 人間は、頭で理解しただけではミスを防げません。訓練道場では、あえて間違いを仕込んだゲーム形式のトレーニングも行います。答えを教えるのではなく、自ら問いを立て、考え、体感させる。このアナログでフィジカルな教育こそが、ppm単位の品質を実現する基盤です。

この教育体制や現場の規律正しさは、大手物流企業の方々が見学に来られても驚かれるほどです。「こんな現場は見たことがない」という言葉をいただくたびに、20年間積み上げてきたものの価値を再確認します。現在は、この高品質な物流を維持したいという大手企業からの引き合いも増えており、当社のノウハウが広く社会に求められていると感じています。

2040年売上高100億円達成に向けたデジタルと拠点の融合

── 現場の改善提案制度についても、AIの導入で変化しているそうですね。

片桐 これまではボトムアップ形式で、全社員に改善提案を推奨してきました。

しかし、AIの登場によってそのあり方も180度変わろうとしています。現在は、動画解析やAIを用いた問題抽出など、テクノロジーを活用したトップダウン的な改善手法へのトレーニングを進めています。

──最後に、2040年の目標に向けた意気込みを聞かせてください。

片桐 売上高100億円という数字は、あくまで一つの指標にすぎません。私たちが目指すのは、日本の物流を効率化し、持続可能なものにすることです。そのためには、拠点を展開する不動産開発力と、AIを使いこなすデジタル開発力の両輪が不可欠です。

物流DXという抽象的な言葉を、具体的なツールやサービスとして体現できる企業でありたい。自分たちが開発したツールでお客様が喜び、感動してくれる。そんな経験を積み重ねることで、社内の士気も高まっています。人材の悩みは尽きませんが、この勢いを大切にしながら、日本の物流を支える存在としてさらなる発展を遂げる決意です。

氏名
片桐 徹(かたぎり とおる)
社名
東伸運輸株式会社
役職
代表取締役社長

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