1968年、日本初の焼肉レストランとして大阪で産声を上げ、「焼肉定食」の文化を全国に広めたパイオニア「大同門」。しかし、BSE問題の直撃と、それに伴うメインバンクの融資方針の激変という二重苦に抗えず、2006年に民事再生法の適用を申請するに至った。
この絶体絶命の窮地に立ち上がったのが、創業者の長女であり、AIマーケティング企業(現・シルバーエッグ・テクノロジー)を共同創業して東証上場へと導いた実績を持つフォーリー淳子氏である。
彼女はなぜ、一時は距離を置いていた家業を自らの手で「買い戻す」という重い決断を下したのか。組織に蔓延していた「負け癖」の払拭から、老舗のDNAを守りつつ進める生成AIの現場活用、そして店舗という枠を超えたチャネル展開によるブランドビジネスへの転換まで──。
激風に耐え抜き、100年企業への足場を固める同社の再建軌跡と、変化の時代を生き抜く老舗経営の勝算に迫った。
企業サイト:https://www.daidomon.com/company/
目次
「肉屋の娘」が「大同門」ブランドを取り戻すまで
── AI関連の企業を経営される一方、2010年に家業である大同門を買い戻し、代表取締役に就任したそうですが、されました。まずは、買い戻しを決断された経緯について教えてください。
フォーリー氏(以下、敬称略) 大同門は私の父と母が一代で築き上げた会社ですが、BSE問題の発生や、当時のメインバンクによる融資方針の激変に抗うことができず、民事再生法を申請することになりました。
私は長女ということもあり、民事再生の手続きに携わることになったのです。それまでは家業とはまったく無関係な分野で自分の事業をしていましたが、手続きを通じて会社の内情をつぶさに見ることになりました。
── 実際に内部を見て、どのようなことを感じましたか。
フォーリー 大同門という名前に刻まれた自分たちのDNAのようなものを強く感じました。両親が守り続けてきた味はもちろんですが、それ以上にブランドが築いてきたコミュニティや、関わってくださる多くの方々の思いに触れたのです。
このブランドをなくしたくないという消極的な理由ではなく、なんとか取り戻して新しく再生したいという強い思いが芽生えました。その結果として、会社を買い戻し、現在に至る道を選んだのです。
── 幼少期から両親が働く姿を見ていたことも、その決断につながったのでしょうか。
フォーリー 小さいころは「肉屋の娘」と呼ばれることに抵抗があり、むしろ家業とは距離を置いていました。
しかし、民事再生という大きな地殻変動に直面したとき、自分の中で大同門の存在がいかに大きかったかを再認識したのです。
組織に広がる「負け癖」を払拭し成功体験を積み上げる
── 再建にあたっては、社員の意識改革など多くの困難があったのではないですか?
フォーリー 当時の状況を例えるなら、大地が枯れ果てて、まったく植物が育たないような状態でした。
どのような組織でも同じことが言えますが、勝つという経験をしないと、人は勝つことを忘れてしまいます。いわゆる「負け癖」がついてしまっていた。「どうせ何をやっても変わらない」という諦めの言葉が、社員の口から自然と出てくるような状況でした。
── そのような状況から、どのようにして信頼を回復し、立て直しを進めたのでしょうか。
フォーリー 社長に就任した際、社員一人ひとりと話をしましたが、一度言葉を交わしただけでは何も変わりません。会社が実際に変わる姿を具体的に見せない限り、信用してもらうことはできないと考えました。
そこで、初期段階で取り組んだのが、新店舗の出店です。「肉バル」という新しい業態の店舗をオープンしました。
── 新店舗の出店で社員にはどのような影響があったのでしょうか?
フォーリー 「自分たちの会社は、まだ新しい店を出せる力があるんだ」という事実は、非常に大きな希望となりました。
自分たちはできる、まだやれるという姿を具体的に示すことが、再建初期においてもっとも効果的な施策だったと感じています。
残念ながら、その後のコロナ禍の影響で一部の店舗は閉鎖を余儀なくされましたが、あのときに見せた「攻めの姿勢」は、組織の空気を変える大きな一歩となりました。
創業の理念を現代に翻訳し「新しい価値」を創造する
── 改革を進める一方で、あえて「変えなかったこと」や、守り続けている伝統について教えてください。
フォーリー 創業時から大切にしている企業理念は変えるべきではないと考えています。
もともとは「感謝・報恩の心を信条とする」という古風な言葉でしたが、現代の若い人たちにも伝わるように表現を整えました。「家族や仲間と楽しく過ごせる場所を提供する」という言葉に置き換えましたが、根底にある創業の思いは一貫しています。
また、父がよく口にしていた「新しいことをやらないと価値がない」という教えも大切にしています。
── 「新しいことをやる」という姿勢は、具体的にどのような背景から生まれたのでしょうか。
フォーリー 多くの焼肉店は、精肉店が母体となってレストランを始めるケースが一般的です。
しかし、学究肌だった私の父は、日本の食生活に新たな創造をもたらすことを目的として、その手段として焼肉を選びました。
同じことを繰り返すのではなく、常に新しい価値を日本の食文化にもたらすことが私たちの使命です。この考え方は、今も大同門の根幹にあります。
── 味や技術の面で、守り続けているこだわりはありますか。
フォーリー 食材やメニューは時代に合わせて変化しますが、自家製の「もみだれ」で肉を揉み、つけだれで召し上がっていただくという根本的なスタイルは変えていません。
職人が守り続けてきた技術と味の伝統は、大同門のアイデンティティそのものです。
AI活用で店長の経験を補佐し中小企業の生産性を向上させる
── AI企業の共同創業者でもありますが、その知見は現在の経営にどのように生きていますか。
フォーリー 私が大同門に入ったころと現在では、AIを取り巻く環境は劇的に変化しました。
今のAIは、中小企業にとって非常に大きなチャンスであると考えています。
ChatGPTなどの生成AIを活用することはもはや当然ですが、重要なのは、それがどのように損益計算書(PL)に良い影響を与えるかという視点です。企業の成長や競争力の鍵は、実利に結びつくAIの使い方にあります。
── 飲食店の現場において、AIをどのように活用できるのでしょうか?
フォーリー 現場のスタッフがすぐにAIを使いこなすのは難しい面もありますが、究極的には「店長の経験と勘」をAIが補佐する仕組みが必要です。
たとえばオンラインショップの運営では、すでにAIを活用した効率化を進めています。
人間とAIが協働することで、一人では成し得なかった成果を出せます。店長の質による売上のばらつきを抑え、全体の底上げを図るために、AIをどう活用すべきか研究を続けています。
老舗ブランドのポジショニングを再定義し100年企業を目指す
── かつては60店舗近くあった規模を縮小し、現在は再拡大を目指しているとのことですが、今後の拡大戦略について教えてください。
フォーリー 単に店舗数を増やすことだけが目的ではありません。「大同門」というブランドがどのような価値を世の中に提供できるかを重視しています。
レストラン運営だけでなく、物販やECサイトを通じた展開にも力を入れています。たとえば、他社と協力して焼肉おにぎりを開発したり、生協(コープ)様で味付け肉を扱っていただいたりしています。
── 飲食店という枠を超えた、ブランドビジネスとしての展開ですね。
フォーリー そのとおりです。関西で58年続いた老舗ブランドとして、肉を中心とした価値をどのように届けるか。 ダイニングレストランという形態にこだわらず、多様なチャネルで大同門の味を楽しめるポジショニングを確立したいと考えています。
── 最後に、100年続く企業にするための展望は?
フォーリー 私が講演などでよく使う言葉に「疾風に勁草を知る(しっぷうにけいそうをしる)」というものがあります。
激しい風が吹いて初めて、折れない強い草が見分けられるという意味です。
大同門は一度倒れかけましたが、買い戻したことで見えてきたものがあります。 100年企業になるために必要なのは、第一に「人が育つ組織」であることです。
── 人が育つ組織、そして味の継承ですね。
フォーリー はい。人の心が荒んでしまうと、味も技術も続きません。
味と技術を正しく継承し、かつ、それを時代に合わせてどう届けるか。このバランスを取り続けることが、永続する企業への道だと確信しています。
そのための基盤を築き上げることが、私の最後の仕事であると考えています。大同門が次の40年、50年と愛され続けるよう、しなやかな強さを持って挑戦を続けます。
- 氏名
- フォーリー淳子(ふぉーりー じゅんこ)
- 社名
- 大同門株式会社
- 役職
- 代表取締役社長

