東京住宅サービス株式会社

1959年創業の東京住宅サービス株式会社は、官公庁や上場企業を主要顧客とし、団地や公共施設の改修工事を通じて建物の資産価値を守り続けてきた。

2022年に代表取締役に就任した石引賢一氏は、ITコンサルタントとしてのキャリアを歩んだ後、家業を承継。アナログな管理体制が残る現場に丁寧なデジタル化を導入し、東日本大震災による危機を乗り越え、強靭な経営基盤を構築している。

伝統と革新を両立させ、次世代の建設業のあり方を追求する石引氏に、その足跡を聞いた。

石引賢一(いしびき けんいち)──代表取締役
1986年、東京都生まれ。2009年、青山学院大学経済学部卒業後、株式会社ベイカレント・コンサルティングに入社。ITコンサルタントとしてDX推進に従事、さまざまなプロジェクトを経験。2011年、東京住宅サービス株式会社へ入社。IT・会計の知見を生かし業務改善・効率化に携わる。2022年6月、同社代表取締役に就任。
東京住宅サービス株式会社
1959年、創業。建造物の改修工事と暮らしのサポートを専門とする。官公庁や上場企業を主な顧客とし、大規模修繕から日々の細かな修理まで、建物の資産価値を守るためのニーズに対応。 企業サイト:https://www.toujuu.co.jp/

目次

  1. 「プロ」を顧客にしたから磨かれた技術力
  2. ITコンサルとは真逆の環境だった家業承継で気をつけたこと
  3. 東日本大震災をきっかけに強靭な経営体制を構築
  4. 若手が入りたくなる会社へ変革し平均年齢は32歳に
  5. 中核事業を成長させ生き残りを図る

「プロ」を顧客にしたから磨かれた技術力

── さまざまな建物の修繕を行っているそうですね。

石引氏(以下、敬称略) メイン事業は、団地などの改修工事です。創業当時は団地の清掃業を請け負っていました。そこから派生して、団地内の小規模な修繕を手がけるようになりました。

そこからさらに、12年から17年に一度行われる大規模修繕へと事業を拡大。外壁修繕などの大きな案件を請け負うなかで、実績を積み上げています。それが評価され、市役所や学校といった官公庁の工事も増えました。

最近では、民間の案件も少しずつ増えています。病院や民間企業の工場、オフィスなどの改修も手がけています。現在は、官民問わず幅広い建物のメンテナンスを担う状況です。

── 団地の管理規模はどの程度でしょうか?

石引 管理戸数は、小規模修繕を含めると約7000戸にのぼります。一方、団地だけでなく、オフィスビルや工場など特定の施設に限定せず、さまざまな建物の資産価値を守るのが弊社の役割です。

── 強みはどこにあると考えていますか?

石引 最大の強みは、長年培ってきた「信用」と「技術力」です。特に官公庁の工事で求められる基準は、極めて高い。発注者側も建築のプロであるため、常に厳しい目線でチェックされます。

民間工事の場合、お客様が建築のプロではないケースも少なくありません。そのため、技術力が不足していても表面化しないことがあります。しかし、弊社はプロを相手に長年実績を積み重ねてきました。

厳しい環境で磨かれた経験値こそが、他社にはない優位性です。「東京住宅サービスなら安心だ」といっていただける信頼関係があります。この信頼を基盤に、高品質な施工を継続して提供します。

ITコンサルとは真逆の環境だった家業承継で気をつけたこと

── 家業である東京住宅サービスを承継する前は、ITコンサルタントをしていたそうですね。

石引 はい。父が経営者であることは知っていましたが、家では仕事の話を一切しない人でした。当時はウェブサイトもなく、当時はどのような仕事をしているのか詳しく理解していませんでした。ただ、経営には興味があったため、IT系のコンサルティング会社に入社しています。

コンサルタントとして、さまざまな企業のプロジェクトに携わるのは刺激的でした。そのままキャリアを積む道もありましたが、父から声がかかったのです。「そろそろ戻ってこないか」といわれ、挑戦してみようと決意しました。

── 入社当時、業界や社内の文化にギャップは感じませんでしたか?

石引 IT業界とのギャップは、想像以上に大きかったです。前職では最先端のツールを使い、業務効率化を徹底するのが当たり前でした。しかし、弊社では紙の帳票が主流で、あらゆる管理がアナログでした。

たとえば、工事の受付内容や売上金額が書かれていたのは、手書きのノートでした。給与明細も手書きのものが配布されており、非効率な部分が目立ちました。官公庁の仕事という性質上、紙の書類が必要な側面もありますが、改善の余地は多分にありました。

── アナログな環境を、どのように変えていったのでしょうか?

石引 一つひとつの業務を、丁寧にデジタル化しました。

ただし、急激な変化は現場の反発を招きます。「これが正解だから変える」とトップダウンで押しつけることは避けました。

入社前に、前職の社長から「二代目経営者の心得」を教わったことがあります。それは「必ず先代を立て、リスペクトを忘れるな」という言葉でした。また、今の会社があるのは、これまで支えてくれた社員の方々のおかげです。

その歴史を尊重した上で、現場に寄り添いながら効率化を進めました。今、新しいツールを導入する際も、なぜこれが必要なのかを丁寧に説明します。現場の負担を減らすための改善であることを、時間をかけて浸透させました。

東日本大震災をきっかけに強靭な経営体制を構築

── これまで直面した最大の困難について教えてください。

石引 私が入社した直後に起きた、東日本大震災の影響です。震災直後は建物のクラック(ひび割れ)補修などで一時的に多忙を極めました。

しかし、その後、状況は一変します。

発注者である公的機関の予算が、すべて東北の復興支援に回されました。その結果、東京近郊の工事案件が1年半以上にわたってほぼ停止しました。「2ヵ月後には工事を再開する」という話が何度も延期される日々が続きました。

── 1年半も案件が止まるのは、経営的にかなり厳しい状況ですね。

石引 はい。入社したばかりで、いきなり赤字に直面し、精神的にも追い詰められました。いつ工事が再開するのか、会社がいつまで持つのか、先が見えない状況です。しかし、この時期をただ耐えるだけでなく、内部固めの時間ととらえました。

案件が少ないからこそ、コスト削減や業務フローの見直しに注力しました。IT化による効率化を加速させ、無駄を徹底的に削ぎ落としたのです。「何があっても揺るがない強靭な体制」をつくるための、大きなきっかけとなりました。

── 震災の教訓が、現在の経営に生きていますか?

石引 ええ。当たり前のことを、仕組みで確実に実行する重要性を学びました。たとえば、弊社では毎月200件ほどの小規模工事が発生します。以前は、写真の不備や書類の差し戻しにより、請求漏れが年間数百万円も発生していました。

現場の人間は真面目なので、まずは目の前の工事を完結させようとします。

しかし、事務作業が後回しになると、協力会社への支払いは発生するのに売り上げが立ちません。これは会社にとって大きな損失であり、非常にもったいないことです。

そこで、書類が滞らないような業務フローを仕組みとして構築しました。現場の人間が施工に集中できるよう、事務的なサポート体制を整えています。こうした地道な改善の積み重ねが、現在の安定した経営基盤につながっています。

若手が入りたくなる会社へ変革し平均年齢は32歳に

── 従業員の平均年齢が32歳とのこと、若い社員が増えた理由は何ですか?

石引 私が入社した当時は、年配の方が多く、若手がほとんどいない状態でした。求人を出しても、1年間で応募が2人、しかも50代の方のみということもありました。しかし、建物を長く維持する仕事だからこそ、将来を担う若手の育成が不可欠です。

そこで、採用活動と組織風土の改革に力を入れました。「自分自身が働きたいと思える会社」を目指し、環境を整えます。大手企業に負けない魅力をつくるため、人材育成の仕組みをゼロから構築しました。

── 具体的にはどのような育成を行なっているのでしょうか?

石引 特に力を入れているのが、国家資格である「1級建築施工管理技士」の取得支援です。入社段階から「全員に取得してもらう」と明言し、意識改革を図りました。以前は無理やり受験させている雰囲気がありましたが、今は違います。

社員が自ら進んで申し込み、勉強する文化が定着しました。その結果、弊社の合格率は平均の2倍以上という高い水準となっています。資格を持つことで社員の自信につながり、活気のある組織へと変わりました。

── 若手が活躍する組織になったことで、採用にも好影響が出ていますか。

石引 はい。「やる気のある若手が集まる会社で働きたい」という応募が増えました。建設業界は、長時間労働や厳しい現場環境といったイメージが根強くあります。しかし、弊社は効率化とワークライフバランスの両立を追求しています。

職人気質の方にありがちな「背中を見て覚えろ」というスタイルも、あらためました。技術を見える化し、マニュアルを整備することで、若手が早く成長できる環境をつくります。こうした取り組みが、若手人材の確保と定着につながっています。

中核事業を成長させ生き残りを図る

── 今後の事業展開や、業界の展望についてどのように考えていますか?

石引 基本的には、現在の改修工事事業を軸に成長を続けます。住宅リフォーム市場は年々拡大しており、今後も成長が見込まれる分野です。一方で、建設業界の高齢化と人手不足はますます深刻になります。

これからは、AIがホワイトカラーの仕事を代替する時代になります。しかし、現場で手を動かす「エッセンシャルワーカー」の仕事は、AIにはできません。手に職をつけ、現場を支える人たちの価値が、相対的に高まると確信しています。

── 業界再編の動きも加速しそうですね。

石引 後継者不足による合併や統廃合は、今後さらに増えるでしょう。その中で、弊社は独自のポジションを確立し、生き残る必要があります。自社開発した業務システムの外販なども検討しましたが、まずは本業を極める決断をしました。より多くのお客様に質の高いサービスを届けることが、弊社の使命です。そのためにも、新社屋の建設を含めた大型投資を行い、人が集まり、育ち、根づく環境をつくっていきます。

業界全体を見渡すと、インフレの影響で修繕コストは上昇し、発注側の予算不足も深刻化しています。そうした環境だからこそ、価格だけでなく、実績と信頼で選ばれる業者の存在意義が増していく。コツコツと誠実に仕事を続けてきた会社が正当に評価される、そんな業界になってほしいと思っています。