日本の食は世界に誇れる文化でありながら、少子高齢化に伴う後継者不足という深刻な課題に直面している。こうした中、食産業に特化した事業承継プラットフォームを展開するのが、2021年設立のまん福ホールディングス株式会社だ。
同社は、地域で長く愛される飲食店などの「ローカルヒーロー」を次々とグループ化し、大手外食チェーンとは一線を画すアンチチェーン戦略で第二の創業を支援している。
外資系コンサルティングファームや株式会社あきんどスシローなどの経営を経て、食ビジネスの課題解決に挑む代表取締役社長CEOの加藤智治氏に、これまでのキャリアや事業の強み、日本の食文化の多様性を未来へつなぐためのビジョンについて聞いた。
企業サイト:https://manpuku-hd.jp/
目次
加藤社長がさまざまな経験を積んだ背景にあるもの
── さまざまな業種、企業で経験を積まれてきましたが、ご自身のキャリアを振り返りどのような道のりを歩んだと感じていますか?
加藤氏(以下、敬称略) 私のバックグラウンドは、いわゆる「雑草」のようなものだと感じています。両親はともに高学歴ではなく、一人っ子の私には良い学校に行かせたいという思いを持っていました。
地元の塾に通わせてもらい、勉強に励んだ結果、大学に入ることができました。努力すれば結果がついてくる勉強の世界は、スポーツで活躍するよりも大変ではないと感じています。
大学院修了後は、理系的な思考を仕事に生かしたいと考え、外資系の金融機関やコンサルティング会社に進みました。しかし、金融の世界は自分には合わず、1年で退職しています。
その後、25歳で第二新卒として、当時流行していたマッキンゼー・アンド・カンパニーに入社しました。
── マッキンゼーでは、入社からマネージャー昇進までの期間が当時の最短記録となったそうですね。
加藤 ええ。周りは年下ばかりでしたが、ここで結果を出そうと必死に努力し、4年弱でマネージャーに昇進しました。
また、マッキンゼーでの経験を通じてコンサルティングと経営は異なるものだと痛感し、経営者になりたいという思いを強くしました。クライアントである大企業の経営者や幹部の方々と接する中で、私もその立場になりたいと強く思うようになったのです。
正直なところ、キラキラしたキャリアや高収入も魅力的でしたが、それ以上に実務を通じてチームで目標を達成する事業会社の経営者になりたいという思いが勝りました。
そこで28歳のとき、事業会社の経営に携わるキャリアを選択し、フィールズ株式会社に入社しています。同社の創業社長が、「28歳で経営など、生意気なことを」といいながらも、私を採用してくれたのです。
食やスポーツといった自分が好きな領域に関わりたいという思いから、スポーツ関連のグループ会社の取締役に就任しました。4年間そこで鍛えられ、ステップアップしたいと考えたときに、マッキンゼー時代の先輩から回転寿司のスシローの話をいただいたのです。
33歳で、当時ユニゾンキャピタルが出資していたスシローに社長室長として参画しました。これが、現在の食産業への道のりの始まりです。
数ある世の中の業種で、なぜ「食」を選んだのか?
── マッキンゼーでのコンサルティング業務と、実際に事業会社の経営幹部として現場に入ることの違いは感じましたか?
加藤 マッキンゼーでは論理的思考を基盤とした課題解決が中心でしたが、実際の企業経営はそれだけでは成り立ちません。企業には多様なバックグラウンドを持つ人々がおり、経営には戦略だけでなく日々のオペレーション、組織運営など、多岐にわたる課題が存在します。
最も大きな違いは、人は理屈だけでは動いてくれないということです。組織はそうした人間関係の中で動くのだと痛感しました。
マッキンゼーで学んだ論理的思考も役立ちましたが、それだけでは周囲の協力を得られません。ビジネスパーソンとしてのリーダーシップを発揮し組織を動かすためには、それ以外の要素も不可欠だと感じました。
これが、経営コンサルタントと経営者の最大の違いだと考えています。
── スポーツと並んで食がお好きだったとのことですが、食産業に特化されたきっかけや原体験について教えてください。
加藤 昔から、食べるのが好きなのです。価格帯を問わず美味しいお店を調べ、食べに行くのが趣味でした。妻からは「グルメの本ばかり読んでいる」といわれるほどです。食ビジネスに惹かれたのは、まず自分が好きで、そして面白そうだと思ったからでした。
食ビジネスの特徴は、人間の根源的な欲求である「食べる」という行為を対象としている点です。これは魅力的であると同時に難しさも伴いますが、マーケットは非常に大きい。
また、BtoCビジネスの中でも食は特別なものだと感じています。レストランでお客様がお金を支払い、お店を出る際に「ありがとう」「美味しかったです」といわれる。お客様がお店に対して感謝を伝えるという関係性は、他の産業ではあまり見られないものです。
お客様から感謝されることは、自己肯定感にもつながり、素晴らしい仕事だと感じます。
さらに、日本食は世界に誇れる文化です。ミシュランの星付きレストランの数は世界トップクラスであり、日本は世界一グルメな国だと認識されています。日本人にとって当たり前のような食事が、世界から見れば特別なものなのです。
AI時代になっても、人がつくった食事を人に提供することの価値はますます高まると考えており、食産業は素晴らしい可能性を秘めていると感じます。
まん福の食産業特化型事業承継プラットフォーム
── そのような食への情熱とこれまでの経験を生かして、2021年に食産業特化型の事業承継プラットフォームであるまん福ホールディングス株式会社を創業しています。どのような課題意識からこの事業を始めたのでしょうか?
加藤 起業のきっかけは、「自分がやりたいこと」「やれること」「社会的な意義があること」の三つが重なるビジネスを立ち上げたいという思いがあったからです。日本の少子高齢化が進む中で事業承継問題、特に後継者不足は大きな社会課題となっています。これに対し、私の経験を生かせるのではないかと考えました。
事業承継プラットフォームのモデルとしては、アメリカの「Danaher(米国企業で、ライフサイエンスや工業分野の企業を内包する)」のようなバイアンドホールド戦略を参考にしました。Danaherは製造業に特化し、M&Aを繰り返して成長してきた巨大企業です。
このモデルを日本の事業承継に応用し、特に自分が最も関心があり社会的なインパクトも大きい食産業に特化することにしました。
── 「ローカルヒーロー」と呼ばれる地域に根差した飲食店などを中心に事業承継を進めています。具体的に、どのような支援を行っているのでしょうか?
加藤 ローカルヒーローとは、地域で長年愛され続けているローカルチェーンや老舗などを指します。大手外食チェーンが拡大する中で、こうしたローカルヒーローは大手との競争や後継者不足といった課題に直面しています。
一方、私たちはM&Aを繰り返して事業を拡大していく「ロールアップモデル」を採用していますが、これはあくまで手段であり、目的ではありません。私たちのミッションは、「日本の食の多様性を未来につなぎ、世界に広げる」ことです。
その手段としてM&Aやロールアップを選択しています。大手企業のカーブアウト案件やファンドのエグジット案件ではなく、後継者がいない、社歴が数十年から百年近いローカルヒーローの会社を私たちが承継し、私たちのメンバーが後継者となって第二の創業を支援します。
一社では生き残りが難しい再生型の案件でも、グループとしてスクラムを組めば将来にわたって生き残れる支援が可能です。
「アンチチェーン戦略」でローカルヒーローを支援
── わずか5年で16社をグループ化し、売上高約140億円規模へと急成長しています。このスピード感を実現するための強みは何でしょうか?
加藤 私自身、スシローでの経験がありますが、メンバーの中にも外食企業で執行役員や現場を経験した者が多いため、オーナー様との間に信頼関係を築きやすいことが強みだと考えています。
創業初年度に5社とそのオーナー様が私たちに事業を託してくださったのは、実績がない中で信頼していただけたからこそです。M&Aでは金額や提案力も重要ですが、最終的には「このチームに託していいのか」とオーナーに思っていただけるかどうかが鍵となります。
私たちは、ファイナンス面だけでなく、オペレーション経験の豊富なメンバーが集まった「オペレーター集団」としての強みがあります。
── 事業承継する企業に対して行う施策を教えてください。
加藤 これまで15社の経験を通じて、苦い経験や失敗もしてきました。それらを基に、まん福流のPMI(Post Merger Integration、合併後統合)の手法を標準化。現在、16社目となる会社でより長期的な視点でのPMI手法を構築しています。
必ず行っていることの一つは、全従業員との個人面談です。実際に働いている方々を深く理解しようと努めています。
また、最近1年ほど意識しているのは、「アンチチェーン戦略」です。ローカルヒーローである中小企業が大手の外食チェーンと同じことをしても勝てません。スシロー出身者や大手出身のメンバーがいると、どうしても大手の手法を取り入れがちですが、それはローカルヒーローが持つ強みを削ぐことにもなりかねません。
そのため、私たちは「アンチチェーン」を掲げ、大手外食チェーンがやらないことを徹底します。具体的には、人による差別化と地域密着です。仕入れに関してもセントラルバイイングではなく、地元の生産者に近いところから仕入れる「足で稼ぐ仕入れ」を重視します。
店内調理やお客様への人的なサービスも大切です。地域のニーズや季節のイベントにも寄り添い、愛される店づくりを目指しています。
日本の食文化の多様性を未来へつなぐ
── まん福ホールディングスの急成長は目覚ましいものがありますが、現場で最も変化したと感じる点は何でしょうか?
加藤 間違いなくいえるのは「経営層の若返り」です。これは働く方々、特に若手や中堅層にとっては希望になるはずです。それ以外の点については、まだ発展途上であり、今後さらに力をつけたいと考えています。
── 今後のビジョンとして、2029年までにグループ売上高300億円規模を目指しているとのことですが、日本の食文化において最も果たしたい役割は何でしょうか?
加藤 「まん福というグループがあったことで、日本の食文化の多様性が守られたよね」といわれるようになりたいと考えています。私たちは、売上規模の拡大だけを目的としているわけではありません。ローカルヒーローと呼ばれる、大手外食チェーンとは対極にある中小企業が集まった、唯一無二の集団になりたいのです。
現在、16社のグループとなり、少しずつ知名度も上がり、ご紹介いただく案件も増えてきました。今後は、全国をカバーする7〜8つの「共和国」をつくり、どの地域のローカルヒーローでも事業承継のお役に立てるようにしたいと考えています。
将来的には資本提携だけでなく、業務提携などさまざまな形での関わり方も可能になるでしょう。一社で生き残ることが難しい企業が、私たちにジョインしてチームとなり、共に生き残る。コスト削減や商品開発、ブランディングなど、過去の成功・失敗事例を共有しながら、大手チェーンのスモール版ではない独自の価値提供を目指していきます。
── 日本の食産業、食文化への思いを教えてください。
加藤 日本の食は世界一であり、食文化に関わる方々に心から敬意を持っています。しかし、日本の食は今、生産者の減少やレストランの倒産増加、担い手の不足など、危機に直面しています。
国の支援も少ない産業だからこそ、業界関係者全員で手を取り合い、未来に最高の食文化を引き継ぐことが必要です。事業承継という形にこだわらず、同じ志を持つ方々と意見交換をしながら、共に日本の食の未来を築いていきたいと考えています。
- 氏名
- 加藤智治(かとう ともはる)
- 社名
- まん福ホールディングス株式会社
- 役職
- 代表取締役社長CEO

