元プロサッカー選手・元日本代表である鈴木啓太氏は、幼少期に母から「人間は腸が一番大事」と教えられて育ち、また現役時代の経験で「腸を整えること」の大切さを痛感。その経験をスポーツ界や応援してくれたファン・サポーターのヘルスケアに活かすことで、恩返ししたいとの思いから、引退とほぼ同時にAuB(オーブ)を創業した。
「すべての人を、ベストコンディションに。」というミッションのもと、10年にわたり腸内細菌の研究を続けている同社は、トップアスリートの腸内環境データを基盤に、サプリメントから食品、生活雑貨、検査サービスまで多角的な腸ケア商品を展開。大手企業とは異なるアプローチで、パーソナルヘルスケア市場における腸活の可能性を追求し、人々の健康を根本から支える未来を描いている。
投資やビジネスに関する情報をアクティブに収集し、行動に移す投資家やビジネスエグゼクティブを「ビジネスアスリート」として、長い視点での腸活・健康につながるケアが必要だと説く鈴木氏に、ビジネスの概要、今後の展望について聞いた。
目次
アスリートの腸内環境が示す「理想」
── 創業からの事業変せんについて教えてください。
鈴木氏(以下、敬称略) 我々は、理想的な腸内環境を持つアスリートと一般の方との違いを仮説のもとに研究を進めてきました。その甲斐もあって、アスリートと一般の方とでは腸内細菌叢が異なっていることが明らかになりました。このデータをもとにプロダクトを作り、事業をスタートさせたのは、会社設立から5年目に入ったころです。
現在、当社は11期目で、腸活のためのプロダクトやサービスを開発していますが、大きな観点で言えば「コンディショニング」が極めて重要だと考えています。
DXやAIなどテクノロジーが発達する現代において、人々が興味関心を持つのは、やはり健康であり、より良いコンディションを保ち、自分の好きな時間、仕事はもちろんのこと、そういったことに時間を費やしたいというニーズにシフトしていくでしょう。パーソナルヘルスケアが注目されるなか、その可能性が腸内細菌にはあると私たちは考えています。
── 商品は腸内細菌を活用したサプリなどですか?
鈴木 プロダクトとしては、腸ケアをメインとしたサプリメントの開発を中心に、腸に優しい食品や腸内細菌の検査サービスなどを提供しています。さらに、今年7月にはおなかに優しい食品を集めたセレクトブランド「aub food pantry(オーブ フードパントリー)」を立ち上げました。「さしすせそ」といった基礎調味料や米糀の甘酒、炊飯用のオーツ麦なども販売しており、サプリメントの領域からより多くの方にお試しいただきやすい食の領域へと少しずつ広げています。
アスリートと一般の方の腸内環境の違いについてですが、一般的に腸内には約100兆個の菌がおり、種類で言うと約1000種類いると言われています。これらの腸内細菌は、多様性に富んだ腸内環境が望ましいとされています。
たとえば、ビフィズス菌や乳酸菌といった善玉菌がたくさんいれば良いというわけではなく、さまざまな種類の菌がたくさんいることが極めて重要だと考えられているのです。それが健康の一つの指標であり、外から体を守る免疫システムなどにも関係してきます。
病気や体調が優れない方と健康な方とを比較したとき、この多様性が一つの指標となることが分かっています。アスリートは一般の方と比べて多様性が高いことが数多くの論文で報告されています。
アスリートに特異的な「酪酸菌」の力
── アスリートと一般の方ではそんなに違うのですか。
鈴木 乳酸菌やビフィズス菌が善玉菌としてご存じかと思いますが、酪酸菌という、それ以上に注目されている菌があります。私たちの研究では、この酪酸菌が、アスリートは一般の方と比べて2倍以上も多く存在していたのです。酪酸菌が多かったというのは特異的なデータです。これは当社が約1200人、約2600検体のアスリートのデータを集めて出した結果です。
酪酸菌が作り出す物質に「短鎖脂肪酸」というものがあります。これは筋肉の修復や持久力の向上、腸管の修復など、体に良いと言われる物質です。腸内細菌が良い物質を作り出すのですが、その代表的な菌が酪酸菌なのです。
一般の方よりも運動や食事の面で健康に気を使っているアスリートは、腸内細菌の多様性が高く、酪酸菌も多いという理想的な腸内環境を持っていることが明らかとなりました。
── そうした商品の開発が御社の強みなのでしょうか。
鈴木 大手企業と比べて足りないものはたくさんあると認識していますが、アスリートの腸内細菌データをこれだけたくさん持っている企業は、おそらく世界中を見渡しても他にないでしょう。このデータこそが、当社の最大の強みです。
加えて、私たちは単に菌の研究をしているだけでなく、総合腸活ブランドとして、またコンディショニングをサポートするメーカーとして、さまざまなプロダクトを扱っています。大手企業では、我々のように異なる種類のプロダクトを多角的に展開することは難しいかもしれません。
当社に来ていただければ、データに裏打ちされた体のケアをする商品を、さまざまなラインアップから選べます。小回りが利くという点も強みだと考えています。検査からソリューションの提供まで一気通貫でできることも、他社との差別化につながっています。
たとえば、検査結果に基づいて「食の観点ではこのような提案ができます」「疲労回復の観点ではこのようなプロダクトを紹介できます」といった提案が可能です。
もちろん自社のプロダクトだけでなく、最適なものをあわせて提案することもあります。今まではサプリメントがメインでしたが、食品、特に基礎調味料へとラインアップを増やしており、生活に馴染みやすい形で差別化を図っています。
── 今後の戦略についても教えてください。
鈴木 経営戦略についてですが、市場環境は非常に追い風だととらえています。大手起業の方々が長年、腸内環境の重要性を世の中に伝え続けてくれたおかげで、「飲んだら良いんでしょ?」という漠然とした認識から、科学的なエビデンスが次々と出てきています。
腸内細菌が持つ可能性はきわめて大きく、アカデミックな研究成果も加速度的に増えています。腸活は一過性のブームではなく、パーソナルヘルスケアの中核概念になりつつあると見ています。これは世界的なトレンドであり、マイクロバイオーム研究は進化し、増加しています。
日本国内の市場だけを見るならば競合との差別化が重要ですが、もう少し大きなマクロの視点で見ると、日本食や発酵食といった文化が今後さらに世界的に広がっていくでしょう。この点も追い風です。
国内市場における当社の差別化要因としては、検査から研究、そしてソリューションの提供まで一貫してできることです。現在、デバイスの開発も進めています。検査をした後、「次に何をしたら良いのか」と迷うことなく、さまざまなプロダクトの中から最適なものを選べるよう、当社がトータルで提案できる体制を整えつつあります。
「正しさ」と「楽しさ」を両立する組織へ
── 組織運営については、どんな工夫をされていますか?
鈴木 組織については、研究開発の時期と今の時期ではフェーズが変わり、組織も大きく変化しています。研究部門とマーケティング部門では業務内容や向き合うKPIが異なるため、組織内で意見のぶつかりあいが起きることもあります。しかし、これは成長するうえでどのみち通る道だと感じています。
事業の初期段階では、研究に基づいた「正しさ」や「エビデンス」を重視していましたが、それだけではマーケットに響かない、「伝わらない」という課題がありました。逆に、楽しさや面白さを加えようとすると、その「正しさ」をどのように解釈してもらうかという点で難しさを感じます。これは人の部分にも関係してきます。
世の中のたくさんの人に伝えるためには、デジタルをうまく活用する必要があります。しかし、腸内細菌のような難しい話を一人ひとりに直接伝えるのは困難です。
組織を今の時期に置き換えると、とにかく「認知」してもらうことが重要です。これまで積み上げてきた「正しさ」は継続しつつも、「楽しいな」「面白いな」「やってみようかな」「使ってみようかな」と思ってもらえるよう、時間がかかることよりも「テスト、テスト、テスト」と行動を重ね、組織をその方向に動かしているところです。
今後のマーケティング戦略としては、大きく分けて「認知の獲得」と「顧客体験の創出」の二つです。大手企業のように莫大な予算を投じてマス向けの認知を獲得することはできません。そのため、一人ひとりのお客様に商品体験を広めていただき、新たな顧客を増やすことに注力しています。誰かに教えたくなるような体験を創出することが重要です。
自分自身が「これを使っているよ」「試しているんだよ」と発信したくなるようなコミュニケーションを通じて、顧客体験がさらに広がり、それが新たな認知獲得につながると考えています。
アンバサダーと認知を拡大、プロダクトも拡充へ
── どのようにしてユーザーを巻き込んでいこうと考えていますか?
鈴木 具体的には、当社の価値観に共感していただけるアンバサダーの方々との定期的なイベントなどを、数ヵ月前から始めています。アンバサダー制度自体は数年前から実施していますが、これをさらに世の中に広げていくことに力を入れています。
今後のサービス拡大の余地について、腸活市場は一定の規模がありますが、体のこと全体を考えるとさらに大きな市場があります。D2Cのベンチャー企業として、狭い領域で一番になることは重要です。
しかし、人々は必ずしも「腸を良くしたい」と直接的に思っているわけではありません。腸を良くしたその先の「顕在化された課題」を解決することが重要だと考えています。最終的に健康のベースを作るには腸に行き着くと考えているのですが、その手前の顕在化している課題をサポートすることも大切です。
たとえば、最近注目されている「睡眠の質」や「リカバリー」といったコンディション全般を整える領域に対しても、当社が届けられるものがあると考えており、プロダクトの幅を広げていくことが一つです。
もう一つは、検査サービスの概念を変えていくことです。現在の検査は自発的に行う必要がありますが、これを「トイレで自然に検体を取れる」といった生活動線の中で実現できるデバイスの開発も行っています。これは長期的なビジネスモデルになりますが、自分の体を知る機会を増やし、それによって行動変容を促すことが、当社のビジネスの幅を広げることにつながります。単にサプリメントや食品を売るだけでなく、R&Dがあるからこそ、そういった方向性で進んでいきたいと考えています。
今後の組織図については、今後2、3年はマーケティング部門に集中して人材を拡充していきたいと考えています。現状、ウェブでの戦いが主戦場のため、デジタル領域で共に戦っていただける人材の採用を強化します。
また、R&Dの成果をどのように一般市場に乗せていくかを考えると、ビジネスデベロップメントのような開発人材も必要だと考えています。さらに、マーケティング寄りのPRも極めて重要になってくるでしょう。
投資家はビジネスアスリート 長期目線のコンディションづくりを
── 未来への展望、特に5年、10年、あるいはそれ以降の構想を聞かせてください。
鈴木 さきほどお話ししたデバイス開発の領域は、ディープテックな領域になるため、かなりの資金が必要になると考えています。まずはソリューションの拡充、つまり研究を進める中で広げられるところは広げていきます。
しかし、AuBが思い描く世の中を実現しようとするとき、ディープテックな領域への挑戦が大きな転換期となるとも考えています。そのフェーズまで到達することが当座の目標のひとつです。
将来的には、IPO(新規株式公開)も視野に入れています。IPOをしてから何をしたいのかということも重要ですが、ディープテックの領域に本格的に進んでいくとなったときに、どのくらいの資金調達が必要になるかという数字が見えてくるでしょう。それがIPOによって資金を得るのか、あるいは別の形で資金を得るのかによっても変わってくるため、そこは見極めが必要だと考えています。
資金調達に興味のある方がいらっしゃれば、今後も資金調達を行っていきますので、興味を持っていただけたらと思います。
もう一つ、皆さんは投資に大きな興味をお持ちかと思いますが、やはり一番投資すべきは自分自身の体だと考えています。自分の体がどういう状態であれば、どういうパフォーマンスが出るのか、心と体の両方が極めて大事です。
健康を失ってしまうと、一瞬にしてそれまでの努力がすべて虚しいものになってしまうこともあります。できる限り健康に気をつけていただくことが大切です。そして、その健康の土台の一つが腸であることは、さまざまな研究結果を見ても明らかです。
AuBは、創業以来10年間、ずっと腸内環境の研究をし続けてきました。しっかりとした安心・安全な商品として使っていただけますし、読者の皆さんのような“ビジネスアスリートにとっては、アスリートの研究から導き出されたデータに基づくプロダクトこそおすすめしたい。同様の商品は、他に世の中にないと思います。
もともと腸内環境が悪かった人は比較的早く効果を実感できますが、良い人でも継続は力なりだと感じます。健康とはそういうものではないでしょうか。一日でうまくいくのはドーピングになってしまいますから。地味で分かりにくいことかもしれませんが、分かりにくいものの方が実は極めて大事だったりします。ぜひ一度、お試しいただけたらと思います。
- 氏名
- 鈴木啓太(すずき けいた)
- 社名
- AuB株式会社
- 役職
- 代表取締役

