本記事は、安斎 勇樹氏、水野 祐氏の著書『組織の成果を最大化する ルールのデザイン』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の中から一部を抜粋・編集しています。

組織の成果を最大化する ルールのデザイン
(画像=naka/stock.adobe.com)

「良いルール」とは何か

組織における「良いルール」とは何でしょうか。経営層や管理職の観点から考えれば、次のようなルールが挙げられるでしょう。

  • ルールが経営戦略と整合している
  • 組織変革や事業成長を促進している
  • コンプライアンスやリスクを適切に統制している
  • 組織文化をより創造的なものに醸成する
  • 顧客/従業員との関係性を深め、エンゲージメントを向上させる

しかし、どんなに戦略的に優れた合理的なルールであっても、対象となるメンバーの納得感・使いやすさが欠けていれば、単なる“お題目”と化し、メンバーのモチベーションやパフォーマンスを損なうものになりかねません。短期的には組織の秩序や統制を保つことにつながっても、中長期的にはメンバーの士気低下やチームの閉塞感となり、組織全体の成長を阻害してしまうでしょう。あくまでルールを実際に利用し、守るのは現場のメンバーです。
彼らの視点から考えれば、これらに加えて自ら主体的に守りたい/使いたいと思えることが「良いルール」の条件だと言えるでしょう。組織の管理都合でつくられた画一的なルールではなく、メンバー一人ひとりの衝動とポテンシャルを解放するためのルールデザインが求められているのです。
こうした観点から参考になるのが、心理学の「自己決定理論(Self-Determination Theory:SDT)」です。
自己決定理論(SDT)は、心理学者のエドワード・デシとリチャード・ライアンによって提唱された、人間の「内発的動機」が高まる条件を明らかにした包括的な理論です。この理論では、人間に普遍的に備わっているとされる「基本的心理欲求(basic psychological needs)」が3つ挙げられています。次の3つの欲求が満たされることで、人は内発的に行動し、高いパフォーマンスを発揮するとされています。

  • 自律性(Autonomy):自分の行動が「自身の意志や選択に基づいている」と感じられること。誰かに強制されているのではなく、自分で選んで行動しているという感覚を得ていること
  • 有能感(Competence):自分が環境に効果的に働きかけ、目標を達成できている、あるいは成長できていると感じられること。自分の能力が発揮され、成果につながっているという実感が得られていること
  • 関係性(Relatedness):他者との間に、温かい絆や信頼関係、所属意識を感じられること。孤独ではなく、周囲の人々とつながっているという感覚を持っていること

この自己決定理論(SDT)に照らし合わせると、組織における現場視点での「良いルール」とは、次のようなものだと言えるでしょう。

  • ルールについて、一人ひとりが「なぜこれをするのか」という納得感を持ち、自らの意志で選択できる余地がある
  • ルールを活用することで自らの能力が発揮され、成長を実感できる。それによってルールそのものの有用性を感じられる
  • ルールを実践することで、メンバーや上司らとの間に信頼や協力関係が生まれ、心理的なつながりを感じられる
組織の成果を最大化する ルールのデザイン
(画像=組織の成果を最大化する ルールのデザイン)
組織の成果を最大化する ルールのデザイン
安斎 勇樹(あんざい・ゆうき)
株式会社MIMIGURI代表取締役Co-CEO/東京大学大学院 情報学環 客員研究員
1985年生まれ。東京都出身。東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。人と組織の可能性を活かした新しい経営・マネジメント論について探究している。
主な著書に『問いのデザイン:創造的対話のファシリテーション』(共著・学芸出版社)、『新・問いかけの作法』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)『パラドックス思考』(共著・ダイヤモンド社)、『冒険する組織のつくりかた 「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法』(テオリア)など。

水野 祐(みずの・たすく)
法律家。弁護士(シティライツ法律事務所、東京弁護士会)。Creative Commons Japan理事。慶應義塾大学SFC非常勤講師。note株式会社、アミタホールディングス株式会社などの社外役員。グッドデザイン賞審査員(2018-2020年, 2022-2025年)。テック、クリエイティブ、都市・地域活性化、サーキュラー分野のスタートアップから大企業、公的機関まで、新規事業、経営戦略等に関するハンズオンのリーガルサービスを提供している。著作に『法のデザイン −創造性とイノベーションは法によって加速する』(フィルムアート社)、連載に『新しい社会契約(あるいはそれに代わる何か)』(WIRED日本版)など。

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