本記事は、安斎 勇樹氏、水野 祐氏の著書『組織の成果を最大化する ルールのデザイン』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の中から一部を抜粋・編集しています。
ボトムアップ型のルールデザインにおける4つの段階
職場単位、チーム単位のローカルルールのデザインができるようになったら、次に目指すのはそこでデザインしたルールをうまく活用し、現場が起点となって組織全体のルールを変えていく「ボトムアップ型」のルールデザインです。
あなたは、チーム単位(数名)で大切にしていたルールがきっかけで、業績向上につながり、やがてそのルールが組織全体に波及していった、というプロセスを体験したり、目にしたりしたことはないでしょうか。世の中の企業を見渡すと、このボトムアップ型のルールデザインが、組織を動かした事例は多く存在します。
ここからはそうした変革事例を紹介しつつ、ボトムアップで組織のルールを変えるために必要な方法について考えていきます。
ボトムアップによるルールデザインには、共通する4つの段階があります。組織を経営レイヤーと現場レイヤーに分けて、整理していきましょう。
第1段階:変革テーマの提示(経営レイヤー)
便宜上「第1段階」としていますが、必ずしもこのステップがなければルールデザインが始まらないわけではありません。ただ、多くのケースでは組織変革の方向性として、経営層から「働き方改革」「健康経営」「DX推進」「ダイバーシティ推進」「カルチャー変革」といった、ある種の旗印が提示されています。つまり、経営が「組織を変革したい」というニーズを持っていて、その方向性が何らかの形で「変革テーマ」として標榜されているということです。経営レイヤーがこうした方針を提示していれば、組織として「変わりたい」というニーズがあり、現場レイヤーの課題感と合致していれば、ルールデザインのハードルは大きく下がる可能性があるということです。
第2段階:違和感の顕在化(現場レイヤー)
現場では日々、既存のルールや業務に対して「これって変じゃない?」「なんかズレてないか?」「こうしたほうがいいんじゃないか」という小さな違和感や問いが感じられます。こうした違和感が言語化されることで、ルールデザインの萌芽が感じられます。第1段階で経営が提示した変革テーマに呼応する形で顕在化することもあれば、まったく関連のない文脈で噴出した違和感や反発が、偶発的に経営の変革テーマに結びつくこともあるでしょう。
例えばヤッホーブルーイングでは、現場から寄せられた経営理念に対する「違和感」がきっかけで、実際に変更が加えられました。
ヤッホーブルーイングには「ガッホー文化」という経営理念があり、文章とともに図案が示されています。この図案にはもともと、「チームではたらく」という要素はなく、求める人物像と組織構造を表していました。ところが同社でチームビルディングを重視した研修制度が進められるにつれ、従業員から「ガッホー文化にチームに関する記述がないのは違和感がある」との声が上がったのです。そこで人事チームが経営理念のアップデートプロジェクトを主導し、実際にチームに関する記述が加えられることとなりました。「チームではたらく」と、「働く(Work)」だけでなく「働きかける」という意味も込め、ひらがなで「はたらく」と表記されることになったのです。ほんの些細な変更点かもしれませんが、実際にファンを巻き込むイベントの開催や、セブン-イレブン、エスコンフィールドなど他社との協業など、まさに「働きかける」取り組みに結実していると言えるでしょう。
第3段階:小さなアクション(現場レイヤー)
違和感が明確になったら、次のステップは「アクション」です。いきなり全社的なルール改訂を目指すのではなく、まずは自分たちの「手の届く範囲」で、ボトムアップ型の非公式な「小さなアクション」を起こしてみましょう。具体的なアクションとしては後に詳しく述べますが、変革テーマに基づいて社内勉強会を開催したり、意見を表明し合う場をつくったり、草の根的に新しいプロジェクトを試してみたりすることなどが考えられます。
ローカルルールを考える上で重要なのは、基本原則である「反復的改善」です。ルールが本当に機能するかどうか、チームに合っているかどうかは、試してみなければわかりません。まずはプロトタイプとして小さく試し、運用する中で改善し、より良いあり方を模索していくことが重要です。
第4段階:承認と制度化(経営レイヤー)
現場の小さな取り組みが、経営レイヤーの目に留まり、それらが変革のニーズに結びついたとき、初めて正式な制度として承認されることになります。現実的な話ですが、組織変革における最大の意思決定者は、あくまで経営レイヤーです。どんなに良いプロダクトをつくって、魅力的な広告を訴求しても、消費者が「欲しい」と思わなければ購入してもらえないのと同様に、どんなに素晴らしいボトムアップ型の取り組みも、経営が「いいね!」と思わなければ採択されません。第3段階の小さなアクションが、経営にとって「意味のある」ものとして解釈されることで、ルールは公式に変わり、組織全体へとその効果が波及していくのです。
1985年生まれ。東京都出身。東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。人と組織の可能性を活かした新しい経営・マネジメント論について探究している。
主な著書に『問いのデザイン:創造的対話のファシリテーション』(共著・学芸出版社)、『新・問いかけの作法』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)『パラドックス思考』(共著・ダイヤモンド社)、『冒険する組織のつくりかた 「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法』(テオリア)など。
- ルールを増やすだけでは変わらない、組織文化を動かす設計思考
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