本記事は、安斎 勇樹氏、水野 祐氏の著書『組織の成果を最大化する ルールのデザイン』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の中から一部を抜粋・編集しています。

組織の成果を最大化する ルールのデザイン
(画像=NongEngEng/stock.adobe.com)

ルールの階層構造

私たちを取り巻くのは組織のルールだけではありません。さまざまな階層のルールが、複層的に重なり合っています。最もマクロな社会レベルには、法律や条例のような拘束力が強いものから、業界の慣行、社会通念としてのモラルといった拘束力の弱いものまであります。この社会レベルにおいては日々さまざまな議論が起こっています。

「ベビーカーに子どもを乗せ、自分が優先席に座る親はけしからん」「いや、ベビーカーを普通席のスペースに置かれたほうが邪魔だ」「だったら専用スペースにベビーカーを置けばいい」「いや、そっちは立っている人で一杯だ」……。こうした規範を巡る認識は人によっても異なり、すり合わせるだけでも一苦労です。
俯瞰してみると、こうした社会レベルのルールを前提として、組織レベル、職場レベルのそれぞれで明文化されているルール、弱いルールが仮想的に、そして複層的に積み重なっていることがわかります。

私たち一人ひとりがどのようにそれらのルールを解釈するか、その解釈に従って行動するかは、その人の立場や役割、価値観等によって異なってきます。社会レベルにおいて巻き起こった、さきほど挙げたような認識のズレが、組織や職場レベルでも日々起こりうるわけです。

公式ルールと非公式ルールは相互に作用する

こうしたルールの階層構造を、エドガー・シャインの組織文化の分類に当てはめると、組織レベルにおける公式ルールを「人工物」、「標榜された価値観」に、職場レベルにおける非公式ルールを「暗黙の前提」に位置づけることができます。シャインは「暗黙の前提こそが最も本質的な組織文化である」と指摘しましたが、公式ルールと非公式ルールにも近しい相互作用が発生します。非公式ルールは公式ルール以上に、従業員の行動を左右することがあるのです。全社的に残業を減らすことが通達されていても、直属の上司が「長時間労働する部下を高く評価する」人であれば、公式ルールは機能しません。職場レベルの非公式ルールが強力に働き、公式ルールを形骸化させてしまうのです。
つまり、目の前の課題に対して対処的にルールを設定するだけでは、必ずしも課題を解決するとは限らないということです。「その課題を引き起こしている原因はどこにあるのか」とマクロとミクロを行き来する視点を持った上で、本質的なルールデザインを目指さなければなりません。

組織の成果を最大化する ルールのデザイン
(画像=組織の成果を最大化する ルールのデザイン)

ルールデザインは「ルーティン」に作用する

ここで改めて「ルールデザイン」とは何かを定義づけておきます。本書では、ルールの性質を踏まえた上で、課題解決や価値創造を実現するため、ルールにより人々の行動や思考を動機づけることを、ルールデザインと定義します。
ルールを場当たり的に策定し、ただその遵守を求めるばかりでは、いつしかルールは形骸化し、組織は硬直化します。必要なのは、既存の常識にとらわれず、組織や社会の実態と照らし合わせながら、常に最適なルールを考え続ける姿勢と、人々の心理や感情を踏まえ、実効性のある施策に落とし込む現場感覚です。ルールとは、あくまでも目標達成のためのものなのです。

そこで本書で提案したいのは、公式ルールと非公式ルールの双方からアプローチし、組織文化を望ましい方向性へ変えるよう働きかけていく「ルールデザイン」による組織変革です。組織に所属する一個人として考えれば、「会社の公式ルールを変える立場にはない」「自分一人ではどうすることもできない」と、ただ黙ってルールに従うか、現状に不満があれば退職するかの選択肢しか残されていないように感じられるかもしれません。ですが、本書で提案するルールデザインは、「一人からでも/できるところから」始められるものです。現場で働く人なら「非公式ルール」から、経営層やリーダー層、人事なら「公式ルール」から働きかけることで、組織に所属する人々の「ルーティン(= 行動や思考の習慣)」を変え、組織文化を変えていく。組織のルールをデザインするということは、つまり組織文化をデザインすることに他ならないのです。

組織の成果を最大化する ルールのデザイン
安斎 勇樹(あんざい・ゆうき)
株式会社MIMIGURI代表取締役Co-CEO/東京大学大学院 情報学環 客員研究員
1985年生まれ。東京都出身。東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。人と組織の可能性を活かした新しい経営・マネジメント論について探究している。
主な著書に『問いのデザイン:創造的対話のファシリテーション』(共著・学芸出版社)、『新・問いかけの作法』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)『パラドックス思考』(共著・ダイヤモンド社)、『冒険する組織のつくりかた 「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法』(テオリア)など。

水野 祐(みずの・たすく)
法律家。弁護士(シティライツ法律事務所、東京弁護士会)。Creative Commons Japan理事。慶應義塾大学SFC非常勤講師。note株式会社、アミタホールディングス株式会社などの社外役員。グッドデザイン賞審査員(2018-2020年, 2022-2025年)。テック、クリエイティブ、都市・地域活性化、サーキュラー分野のスタートアップから大企業、公的機関まで、新規事業、経営戦略等に関するハンズオンのリーガルサービスを提供している。著作に『法のデザイン −創造性とイノベーションは法によって加速する』(フィルムアート社)、連載に『新しい社会契約(あるいはそれに代わる何か)』(WIRED日本版)など。

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