株式会社Morght

小学生時代から起業に関心を持っていたという株式会社Morght(モート)代表の土井氏は、高校時代にシリコンバレーを視察し、日本における起業家のロールモデルとなることを決意。創業後、初期のアプリ事業からピボットし、社会的意義と大きな経済的インパクトが見込める睡眠領域へ参入した。

同社の開発する「NELL マットレス」は、他社の倍以上の高密度ポケットコイルを採用する。寝返りのしやすさを追求した圧倒的な品質とD2Cモデルによる優れた価格競争力で、短期間での急成長を実現した。

マットレスだけでなく、これから日本の生産性向上と社会変革という意義をどう形にしていくのか、土井氏に語ってもらった。

土井皓貴(どい こうき)──代表取締役
1997年生まれ、東京都出身。高校在学中にスタンフォード大学へ短期留学し、シリコンバレーのスタートアップ文化に影響を受け、起業を決意。大学へは進学せず、高校3年時の2015年に株式会社Branding Engineerへ入社。イベント事業部の立ち上げや新卒採用に従事し、入社当時5名だった組織を80名規模へ拡大するまでの一翼を担う。2018年5月、株式会社Morghtを創業。
株式会社Morght
2018年創業。「あなたがあなたらしく生きるための、最高の準備を届けつづける。」をミッションに、睡眠ブランド「NELL」を展開。主力商品「NELL マットレス」は、家具の街・福岡県大川市の老舗工場と共同開発し、1日で2億円の売上を記録。その品質が高く評価され、現在、全国の宿泊施設3000台以上に導入。今後は「NELL」を中心に、さまざまなライフスタイル関連のプロダクトを開発予定。
企業サイト:https://morght.com/

目次

  1. 最初の事業失敗をきっかけに睡眠領域へ参入
  2. 「NELL マットレス」開発の背景と品質へのこだわり
  3. 短期的な利益より高単価商品で長期的な社会変革を重視
  4. オンライン販売で重要な「商品力」と「マーケティング」
  5. 言語化できていないニーズのマーケティングを重視

最初の事業失敗をきっかけに睡眠領域へ参入

── Morght創業まで、そして創業後、マットレス開発に至るまでの経緯を教えてください。

土井氏(以下、敬称略) 小学生のころから将来、起業したいという思いがありました。高校3年生の時にサンフランシスコへ短期留学し、シリコンバレーを視察する機会があったのです。

シリコンバレーには創業10数年で世界を席巻する企業が存在する一方で、日本にはそのような企業が少ないことに気づきました。

帰国後、先進国の中でも起業率が最も低いのが日本だと知り、自分が起業家のロールモデルになろうと決めました。起業する人を増やすというよりは、自分のキャリアと人生の一貫性を持たせ、働く時間は人生を謳歌(おうか)できる時間ととらえられる人を増やしたいという考えがありました。

当初は資金も経験もなかったため、まずは成功しているベンチャー企業でインターンをしようと思い、高校3年生の秋に、さまざまな経営者に会いに行きました。その中で最も感銘を受けたのが株式会社Branding Engineerの代表で、そのままインターンとして入社し、社長直下で経営について学び、貴重な経験を積ませていただきました。高校卒業後も3年間勤め、2018年4月に退社。翌月の5月にMorghtを創業しました。

Morghtの創業当初の事業は、アプリ開発でした。2年間で約10のアプリをリリースしましたが、ほとんどダウンロードされず事業撤退という結果に。アプリ事業に挑戦した理由は、社会にインパクトを与えたい、そしてIPO以上の大きなビジネスを作りたいという思いがあったからです。

しかし、アプリのように収益を上げ続けるビジネスモデルの構築は難しく、エクイティー(株式による資金調達)による希薄化も想定されることから、ピボットする際は「最初から収益が立つ事業体」を想定しました。

数多くの事業アイデアを検討する中で、最も社会的な意義を感じたのが睡眠領域でした。

当時、国内の睡眠市場は約1.1兆円から1.3兆円で、日本人は睡眠に対して世界で4番目にお金を使っているにもかかわらず、睡眠の質や時間は先進国の中で最も低いという状況でした。

これは、睡眠不足による経済損失が15兆円に上るというデータにも表れています。日本のGDPの約3%に相当する額です。15兆円というのは、医療費の高騰や生産性の低下などを合わせた金額です。

日本の生産性向上を強く意識していた私にとって、睡眠領域は社会的インパクトを与えられる可能性を秘めた分野でした。

「NELL マットレス」開発の背景と品質へのこだわり

── 睡眠領域に狙いを定めた後は何に着手したのでしょうか?

土井 睡眠領域全体を将来的に獲得するためには、どのようなアプローチが効果的かを考えました。車や家のように、最も高価で意思決定が難しい商品からアプローチすれば、市場全体をとらえられるのではないかという仮説を立てました。結果、それに該当すると判断したマットレス事業から始めることにしました。

2020年10月にマットレスの販売を始めましたが、当初の4ヵ月間は月商100万〜200万円程度と苦戦しました。

しかし、長い検討期間を経て、競合と差別化できる品質、インフルエンサーマーケティング、新生活シーズンのセール、そしてコロナ禍によるリアル店舗への来店困難化とオンライン販売の好調といった要因が重なり、5ヵ月目以降には月商数千万円へと急拡大しました。

多くのお客様が睡眠の質を変革することに貢献できたと、実感しています。

当社の最大の強みは、やはり品質の高さです。なぜその品質を実現できたのかというと、「事業の存在意義」を定義し、より本質的な価値を届けることにこだわったからです。

既存の寝具メーカーの多くは、マットレスを販売すること自体をゴールとしていますが、NELLは120日間の返品・返金保証を設けていることからもわかるように、マットレスをお届けすることがスタートライン。ゴールは、お客様の高い睡眠の質を実現し、それを維持することにあります。

具体的には、多くのマットレスメーカーがリアル店舗での一時的な体験を重視し、柔らかめのマットレスをつくる傾向が見られますが、それは寝返りを打ちにくく、肩や腰への負担を増大させる可能性があるのです。

私たちは寝返りのしやすさに特化した、腰痛・肩こり軽減につながるマットレスを目指しました。

特に、中価格帯のマットレス市場において、既存の課題を解決できる高品質なマットレスを求めるお客様が多いと考えました。そこで、高級マットレスで用いられるポケットコイルを、他社の倍以上の密度で採用。これにより、体圧分散と下からの反発力を高め、寝返りのしやすさを実現しました。

さらに、D2Cモデルで中間マージンを省き、圧縮梱包して直接お届けすることで、高級ブランドの2分の1ほどの価格で提供します。これにより、高級ブランドに匹敵する品質をオンラインで提供できており、120日間の返品・返金保証でお客様のリスクをゼロにしてお届けできるのです。

お客様の価値から逆算したものづくりができていることが、マーケティングや自社の強みにつながっています。

短期的な利益より高単価商品で長期的な社会変革を重視

── コイルの数が強みとのことですが、これは他社には真似できないのでしょうか?

土井 他社も高密度のポケットコイルマットレスを提供していますが、その価格帯はダブルサイズで24万円前後。一方、NELLでは10万9千円程度で販売しており、同等の品質をより優れた価格で提供します。

また、大手ブランドや老舗企業は、新しいチャレンジに対して消極的な傾向が見受けられます。既存の成功パターンから抜け出せない企業が多い中で、我々が優位性を築けた要因の一つともいえるでしょう。

さらに、我々と同じ品質を実現するには、他社の倍以上のコイルが必要となり、製造時間も倍増します。効率性を重視する企業にとっては、製造コストや時間の増加は避けたい側面であり、本質的な品質を追求することが難しい場合があります。

── なぜ、そこまで品質にこだわるのですか?

土井 睡眠事業を選んだ理由もそうですが、「社会をどう変える事業なのか」という視点を大切にしています。たとえば任天堂様のゲームのように、単なる商品提供に留まらずお客様の生活に深く根ざした価値を提供したいということです。

マットレスは、高い睡眠の質を実現するための手段の一つです。今後は、マットレスだけでなく、布団乾燥機やアロマミストなど睡眠の質を高め維持するための多様な商品を展開したいと思っています。これも、お客様の価値から逆算し、社会を変えるためのものづくりとマーケティングを追求したものです。

短期間で大きな利益を上げている企業もありますが、我々は高単価で難しい領域から参入することで市場全体をとらえられると考えています。お客様が買いやすく、高いロイヤリティを築けるような長期的な視点で経営を行っています。

── 日本のマットレス市場、睡眠市場の拡張性をどのようにとらえていますか?

土井 日本はもともと睡眠市場が大きい国ですが、これまで良いブランドがなく、投資に対するリターンが低い状況でした。NELLが良い商品を展開することで、高いリターンを提供したいと考えています。

コロナ禍を経て、自己投資やリカバリーへの意識が高まり、生産性向上への関心も高まりました。これは、少子化で個人の生産性を高める必要性や、AIによる仕事の代替があることで人間がより創造的な仕事に注力するという時代の流れとも合致しているといえるでしょう。

忙しい現代人には、シンプルに睡眠の質を向上させ、生産性を高められるような分かりやすい商品が必要です。NELLのマットレスは、購入後も長期にわたって高い睡眠の質を約束し、お客様が仕事や趣味、子育てといった本来の活動に集中できるようサポートします。

睡眠市場には多くのプレーヤーがいますが、NELLは品質と価格のバランスで他社に負けない経営戦略を構築しています。

オンライン販売で重要な「商品力」と「マーケティング」

── マーケティングについて、直近で力を入れている取り組みや、今後のマーケティングの規模と施策について教えてください。

土井 売上を構成する要素は、「年間購入検討者数 × 認知率 × 購入率 × 客単価」というのが私の考えです。

スタートアップは認知率が低いですが、だからこそ購買率の高い認知率を形成することが重要です。そのためには、お客様の価値を最大化できる品質、価格、訴求が不可欠であり、圧倒的な品質の磨き込みが最も重要だと考えています。

オンラインでの接客投資は続けつつ、今後はリアル店舗への進出も視野に入れています。これまで物理的に大きな商品であり、検討期間が長かったため、リアル店舗の黒字化は難しいと判断し、オンラインに注力してきました。

しかし、今期から来期にかけて、マットレス以外の高単価商材も展開するため、リアル店舗でも黒字経営が可能になると考えています。お客様の声としても、実際に商品を手に触れてみたいという要望が多く寄せられており、そういった需要にも応えたいという思いがあります。

── 今までオンラインだけで圧倒的な品質を届けることができたのは、なぜでしょうか?

土井 ここまでも触れたように、他社と比較して品質面で圧倒しているからです。その他、インフルエンサーマーケティングにも注力しています。

高単価商材のインフルエンサーマーケティングは国内でも成功事例がそれほど多くない分野ですが、NELLは実際に製品を使用してもらい、満足度の高いレビューを発信していただいています。

特に、フォロワー数だけでなく、お客様のロイヤリティが高いマイクロインフルエンサーとの協業を重視し、個別のクーポンコードを発行することで、高いコンバージョン率を実現しています。インフルエンサーの発信の熱量が、品質の高さに裏打ちされているため、多くの顧客に響いています。

言語化できていないニーズのマーケティングを重視

── ファイナンスについて、2021年に大きな資金調達をしたそうですが、その背景と活用方法について教えてください。

土井 これまでのエクイティーでの資金調達は合計で約6000万円と、売上規模に対しては少ないほうです。そのうち約4000万円はアプリ事業で調達した資金で、マットレス事業開始時に約2000万円を調達しましたが、事業開始後すぐに月商数千万円を達成できたため、ほとんど触らずに現在に至っています。

そのため、2021年以降、新たなエクイティー調達は行っていません。一方で、銀行との良好な関係を築き、事業利益と銀行との協業によって資金繰りを行っています。

── IPOは想定していますか?

土井 はい。準備を進めています。IPOに向けて、大きく仕掛けるタイミングは来るかもしれませんが、現時点では新たな大規模なファイナンスの予定はありません。

── 未来構想として、新規事業の拡大はありますか?

土井 NELL事業には二つの側面があります。一つは、これまでのマットレス販売の急成長です。たとえばユニクロのフリースのような、多くのお客様に価値を提供できたヒット商品に似ています。

今後は、マットレス以外のヒット商品を連続的に開発・展開する予定です。

もう一つは、アップセル(上位プロダクトの提案・販売)商材の展開です。マットレス購入者の数十パーセントがシーツやベッドパッドも購入しており、NELLの品質を信頼してくださるお客様が多いことが分かります。今後も、アップセル商材の開発・販売を強化していきます。

Morghtの強みは、高単価商材をオンラインで販売することです。創業当初は女性比率が高かったのですが、これは家庭内で高単価商材の購入決定権を持つのが女性であることが多いためです。

今後も、マットレスで培ったインフルエンサーマーケティングやマスマーケティングのノウハウを活かし、NELL以外のブランドでも高単価商材を展開していきます。既存ブランドのM&Aも視野に入れ、Morghtグループとして拡大する計画です。

家庭内の高単価商材市場は約10兆円規模であり、その一部を獲得するだけでも大きな事業成長が見込めます。

── NELLの優位性である品質を追求し続ける開発体制や、次のヒット商品を生み出すための体制はどのようになっているのでしょうか?

土井 それは、重要なポイントです。

NELL マットレスの開発においては、お客様の声だけでなく、行動を観察し、まだ言語化されていない潜在的なニーズをとらえることを重視しました。寝返りのしやすさに特化したマットレスが欲しいという直接的な声はありませんでしたが、お客様の行動から腰痛や肩こりに悩んでいることが分かり、それを解決できる製品を開発しました。

今後もお客様の行動を分析し、潜在的な需要をとらえたものづくりを重視していきます。また、我々が得意とするマーケティングのノウハウを生かし、試行錯誤の中で得られた成功パターンを活用しつつ、短期間で急成長させることを目指します。

再現性のあるマーケティング戦略を確立し、大きな市場の中で高品質な商材を届けることで、事業を拡大します。我々は「事業家、マーケティング集団」であり、この強みを生かして、複数のブランドを成功に導く再現性を確立したいです。

これにより、従業員一人ひとりが事業家的な視点を持ち、独立しても同様に事業を成長させられるようなスキルセットを身につけられる組織を目指します。

氏名
土井皓貴(どい こうき)
社名
株式会社Morght
役職
代表取締役

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