株式会社ユーティル

株式会社ユーティルは、創業事業であるウェブサイト制作のマッチングプラットフォーム「Web幹事」を事業譲渡するという大きな決断を下した。同社はこれを機にAI BPO事業へと大きく舵を切り、社名も「株式会社できるくん」へと変更する「第二創業期」を迎える。

この変革の渦の中心にいるのが、代表取締役の岩田真氏だ。なぜ、順調に成長していたはずの事業を手放し、新たな領域へ挑戦するのか。

その背景には、AIの台頭という時代の大きなうねりと、ウェブ制作業界が抱える構造的な課題、そして関わるすべての人々の幸せを願う経営者としての強い意志があった。

AIは人の仕事を奪うのか、それとも能力を拡張するのか。テクノロジーが進化する時代に、企業や人はどう向き合うべきなのか。ユーティルの新たな挑戦の軌跡と、岩田氏が描く未来像とは──。

岩田 真(いわた しん)──代表取締役
1989年、奈良県出身。●年、京都大学卒業後、株式会社ジャフコに入社。数億円規模のベンチャー投資に3年間従事。2015年にユーティル設立。2018年よりWeb幹事事業を開始。2024年よりAI BPO事業を開始。
株式会社できるくん(旧・ユーティル)
「日本中の中小企業のポテンシャルを解放する」をVisionに、中小企業の事業成長支援のプラットフォームを提供するスタートアップ。最新のAI / SaaSを活用し、中小企業の業務支援を行うAI BPO事業を中心に展開。第一弾サービスとしてウェブサイト制作のAI BPO「ホームページできるくん」をリリース。ウェブサイトを入り口に、集客や採用など中小企業のあらゆる経営課題をAI BPOで支援している。
企業サイト:https://utill.co.jp/

目次

  1. 創業事業の譲渡。その背景にあった「矛盾」と「AIシフトの波」
  2. 論理と感情の狭間で。ステークホルダー全員の幸せを考え抜いた決断
  3. 「儲からない業界」を変革する。AIでウェブ制作の未来をどう描くか
  4. AIが進化しても「ラストワンマイルは人」。テクノロジーと人間の共存
  5. AI時代だからこそ価値が高まる「ウェブサイト」と「一次情報」
  6. 第二創業へ。社名を「できるくん」に変更し、新たなステージを目指す

創業事業の譲渡。その背景にあった「矛盾」と「AIシフトの波」

── まず、創業事業である「Web幹事」を10月31日付でW4Partners社へ事業譲渡した決断について教えてください。「Web幹事」はWebサイト制作、動画制作、システム開発の相談窓口を展開するサービスですね。

岩田 はい、一番の根幹には、ユーティルのもともとの思いがあります。それは、デジタルの力をいろんな会社さんにお渡しすることで、より成長したり、人がやるべき本質的な挑戦に向き合えたりする、そういう世の中をつくりたいというものです。

── その思いから、デジタル投資をしたいけれどよく分からない、という企業のための相談窓口として「Web幹事」を運営されていたと。

岩田 そうです。デジタル投資を促進するという思いでやっていました。しかし、そこにAIが出てきた。AIは、あらゆるものを良くも悪くも破壊しながら世の中を進めていくだろうと感じました。

私たちがこれまでピンを置いてきたウェブ制作の領域も例外ではありません。AIの力を他社の方々に渡すことができれば、私たちがもともと目指していた「企業の成長や挑戦を応援する」ということを、もっともっとドライブできるのではないかと考えたのです。このAIシフトの波に乗っていく必要があると強く感じていました。

── AIを活用してウェブ制作の領域をドライブしていく、と。

岩田 はい。ただ、そこに大きな矛盾が生じます。「Web幹事」はウェブ制作会社をマッチングするサービスです。その私たちが自分たちでウェブ制作を始めてしまうと、利益が相反しますよね。

社内外に対しても、「結局ユーティルは何をやっていく会社なんだ?」というシャープなメッセージが発信できなくなってしまう。そうした葛藤がすごくありました。

── なるほど。事業間のコンフリクトが起きてしまうのですね。

岩田 ええ。そして、もう一つはリソースの問題です。「Web幹事」も、これから注力するAIを活用した新規事業(のちの「できるくん」)も、私の中ではどちらも大事で、大好きな事業でした。両方伸ばしていきたい。

しかし、スタートアップとしてはリソースが限られています。その中でバランスを取りながら両方を伸ばそうとするのは、悪手になることが多い。事業として両方を伸ばすためには、必ずしも自分の手でやらなくても、他の会社が育ててくれるという選択肢があれば、両方が成長できるのではないか。

この二つの思いがあって、最終的な意思決定に至ったという感じです。

論理と感情の狭間で。ステークホルダー全員の幸せを考え抜いた決断

── 二つの理由は、時流やリソース配分という観点で非常に論理的だと感じます。一方で、ご自身で立ち上げた事業を手放すことに対して、感情的な抵抗や葛藤はありましたか。

岩田 もちろん、いろいろありました。個人としてはどっちもやりたい。経営者としてもどっちもやりたい。でも、私は大株主でもあります。大株主としての人格で考えれば、このユーティルという株式会社がどれだけ大きくなるんだ、という資本市場的な考え方もある。

── ひとりの人間の中に、複数の立場や人格が存在するわけですね。

岩田 はい。いろいろな人格がせめぎ合って、でも、取れる結論は一つしかないので。そこは悩みに悩みました。

最終的には、総合的、多面的に考えて、この意思決定に関わってくれる人たちの幸せとは何か、ということを基準にしました。

── 関わる人たちの幸せ、ですか。

岩田 メンバーもいますし、株主も、お客さんもいます。その一番大きい母数で関わってくれている人たちが、幸せになる選択とは何だろうか、と考え抜いた結果が、今回の決断でした。

── 社内、特に「Web幹事」のメンバーの方々とのコミュニケーションはどのように進めましたか。

岩田 「Web幹事」のメンバーは転籍になるので、一人ひとりと、全員と話をしました。思うところはいろいろあったと思います。ですが、最終的には新しいチャレンジと捉えて、受け入れて進んでくれたメンバーがほとんどでした。新規事業のメンバーは、より投資ができるようになるので「やります」という話ですし、そこでのコンフリクトはまったくなかったですね。

「儲からない業界」を変革する。AIでウェブ制作の未来をどう描くか

── 事業譲渡によって得られた資金や時間、人材といったリソースは、今後どこに集中させていくのでしょうか。

岩田 一番はAIエージェントの開発です。私たちはリブランディングによって、「AIを使ってウェブ制作、ひいてはIT受託の産業全体を変革していく」という方向に舵を切りました。

── 業界の変革、というと具体的にはどういうことでしょうか。

岩田 そもそも、ウェブ制作の領域はみんな儲かっていないんですよ。赤字や債務超過の制作会社がたくさんあります。なぜかというと、制作会社の数が多すぎて一つひとつが小さく、新しい投資ができない。

その一方で、業界の単価は下がり続けているのに、求められるクオリティは上がり、人件費も上昇している。利幅がどんどん小さくなっているんです。

── 厳しい構造ですね。

岩田 はい。この状態では業界全体がじわじわと衰退していき、若い人たちにとっても魅力のない産業になってしまう。このスパイラルを断ち切るには、制作会社自身が儲かるようにならなければいけません。

そのためには、より付加価値の高いことをやるか、原価を下げるかのどちらかしかありません。AIは、その両方を実現できると考えています。

── どのようにそれを実現するのですか。

岩田 まず第一ステップとして、私たち自身が「儲かるウェブ制作の形」を体現します。これがAI BPO事業である「ホームページできるくん」です。同じウェブ制作の案件を受けても、AIを活用することで他の会社とはまったく違うコスト構造になり、私たちは儲かる、というモデルをつくりにいきます。

その過程で、社内のディレクターが使えるAIエージェントを育てていきます。そしてセカンドステップとして、私たちが「儲かるウェブ制作会社」を実証したうえで、その核となったAIエージェントを、今度は業界の制作会社の皆さんに提供する。

そうすれば、業界全体がAI駆動のウェブ制作という形にアップデートされ、健全化していく。それを目指して今、AIエージェント開発に投資をしています。

AIが進化しても「ラストワンマイルは人」。テクノロジーと人間の共存

── AIの技術は日進月歩です。今後、汎用的なAIが進化して、ウェブサイト制作も簡単にできるようになる時代が来た場合、御社の存在意義や差別化はどこにあると考えますか。

岩田 まず、OpenAIやGoogleのような企業がウェブ制作という領域にどこまでフォーカスするかというと、結構あやしいと思っています。モデル自体は進化するでしょうが、僕らはその進化したモデルをいかに活用してウェブ制作の効率化を図るか、という立場なので、基本的には技術が進化すればするほど追い風になります。

── なるほど。そのほかは。

岩田 もう一つは、どこまでいっても「ラストワンマイルは人」だということです。たとえば、AIは営業をしてくれません。AIでつくったウェブサイトの効果をどう最大化させていくか、お客さんにとって本当に良いものをどう提案していくか。そういった部分は人が担うことになります。

ですから、私たちのコアなアセットは、進化するモデルを活用したAIエージェントと、それを使いこなす「人」。この二つだと定義しています。

── AIは人の仕事を「代替」するものなのか、それとも「能力を拡張」するものなのか、という議論があります。この点についてはどうですか?

岩田 両方だと思います。二項対立では片付かない話です。人がいらなくなるところもあれば、人がより付加価値を出せるところもある。その見極めが重要です。

どこをAIに任せて、どこに人が介在するのか。お客さんにどういう付加価値を提供するのか。そのサービス設計こそが、AI時代におけるサービス業の腕の見せどころになると感じています。

AI時代だからこそ価値が高まる「ウェブサイト」と「一次情報」

── AI時代において、中小企業はウェブサイトについてどう考えればいいのでしょうか?

岩田 「AIが簡単に作れるようになるし、SNSもあるから、もうウェブサイトの重要性は下がるんじゃないか」と思っている方が多いかもしれません。しかし、私は確実にウェブサイトの重要性は上がると考えています。

── それはなぜですか?

岩田 AIは、ウェブ上にある情報をソースとして回答を生成します。Googleのクローラーと同じように、OpenAIのクローラーも世界中のウェブサイトを巡回して情報を収集しているのです。つまり、デジタル上にAIが読み取れるコンテンツがないと、そもそも認識すらされない世界が加速します。

── ウェブサイトがなければ、AIの検索結果にも出てこない、ということですね。

岩田 そのとおりです。ですから、その会社にしか出せない独自の色、ブランディング、思いといった「一次コンテンツ」の価値は、これからますます上がり続けます。デザインなどはAIがラッピングしてくれるようになるかもしれない。でも、その中身となる「何を伝えたいか」というコンテンツの原点を生み出すのは、その会社自身です。

そして、その原点を引き出すのは、やはり「人」の役割だと考えています。

── なるほど。コンテンツの核となる部分ですね。

岩田 はい。ウェブサイトをつくり、そこをハブとしてどういう情報を発信していくか。その戦略は、AI時代において、これまで以上に重要になります。

第二創業へ。社名を「できるくん」に変更し、新たなステージを目指す

── 最後に、今後の展望について教えてください。

岩田 実は2025年12月22日をもって、ユーティルから「株式会社できるくん」へ社名変更します(注)。

注 取材は2025年12月中旬に行われました

── 社名を変更されるのですね。その狙いは何ですか。

岩田 世間的には「ユーティル=Web幹事の会社」というイメージが染み付いています。しかし、私たちは事業譲渡を経て、まったく新しいことに挑戦していく。これは第二創業だと位置づけています。

新しいテーマを掲げるにあたり、社内外に「私たちは新しい会社です」と発信したくて、サービス名でもある「できるくん」という社名に変えることにしました。

── まさに大きな転換点ですね。

岩田 はい。AI時代のウェブサイトの設計や活用については、ぜひ新しい「できるくん」にお任せください、とお伝えしたいですね。

氏名
岩田 真(いわた しん)
社名
株式会社できるくん(旧・ユーティル)
役職
代表取締役

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