900万戸に達するとされる日本の空き家は、毎年20万戸から30万戸のペースで増え続けている(総務省の統計などによる)。
にもかかわらず、その多くは不動産の流通市場に姿を現さない。仲介手数料が物件価格に連動する以上、100万円以下の物件を扱う経済合理性が業者にないためだ。
この構造のゆがみに個人投資家として気づき、事業に変えたのが株式会社AlbaLink <5537> の河田憲二氏である。
2019年に空き家買取再販へ業態を転換し、2023年にTOKYO PRO Market、2025年12月に東証グロース市場へ上場した。全国28支店を展開し、2025年12月期は売上高81億円を超えている。
実需では値の付かない空き家を収益不動産として再流通させる事業モデルと、「2100年、空き家ゼロ」という長期ミッションについて、河田氏に聞いた。
企業サイト:https://albalink.co.jp/
目次
アフィリエイトで貯めた現金で買った空き家が事業の始まり
── 大学在学中に始めたウェブマーケティング事業を売却し、2019年に不動産へ移っています。その経緯を教えてください。
河田氏(以下、敬称略) もともとアフィリエイトをやっていて、不動産を始めたのは自分の資産形成のためでした。不動産投資は、安く買って高く売るというシンプルな仕事です。
そうなると、ひたすら安く買う要素が必要になります。渋谷のピカピカの物件を利回り3パーセントで買うのではなく、何か理由がついている訳あり物件のほうが安いのではないか。それが最初の読みでした。
雨漏りしている、人が亡くなっている、所有者がお金に困っている……。そうした物件を探すうちに地方の空き家へ行き着き、100万円かそれ以下で買えると気づいたのです。
当時は就職したこともなく収入もない自営業で、銀行からの信用もなかった。ならばキャッシュでやるしかない、お金を貯めるためにアフィリエイトメディアを作りました。
2019年2月にそのサイトを株式会社ポートに売却し、まとまった資金ができたので買取再販へシフトしています。
── 当時、物件情報サイトに安い空き家はほとんど載っていませんでした。どうやって探したのですか?
河田 テレビでは社会問題として空き家が報じられ、当時でも総務省の統計では800万戸あるとされているのに、アットホームやSUUMOには情報が出てこないのは、自分も不思議でした。
そこで実際に地方の不動産会社を回ってみると、「そのくらいボロボロの物件なら、そこら辺の売り主を知っているから直接つなぐ」といわれました。それで流通構造のゆがみに気づいたんです。
物件情報は仲介手数料で行き交っています。片手3パーセント、売り手と買い手の両手からなら6パーセントもらうのが基本で、1億円の物件と10万円の物件では手数料が物件価格の分だけ違うのに、やることはほとんど一緒。100万円以下の物件を不動産会社が流通に乗せないのは当然です。
とはいえ、珍しいことは何もしていません。空き家投資のノウハウ本は当時から出回っていて、答えが本に書いてあるから、そのとおりにやっただけです。
支店を持たなかった2年半で確かめたこと
── 2019年8月の事業開始から2022年4月の千葉支店まで、2年半ほど拠点を持っていません。何を確かめていたのですか?
河田 この事業が確からしいかどうか、つまりビジネスとして成り立つかどうかを確かめていた、というのが答えです。
事業づくりはマーケットインが基本で、答えは市場やお客様が持っているものだけだと考えています。
手放したくて苦しんでいる方がいることも、空き家を高利回りで回したい個人投資家がいることも、自分が投資家だったころから分かっていた。ここを結びつければ商売になるとは思っていたのです。
なぜ支店を作らなかったのかというと、オンラインですべて完結できるという説もあると思っていたからです。マーケティングを駆使すれば47都道府県から反響を獲得できる。東京に本社を置き、営業担当を束ねてオンラインでクロージングする未来もあり得ると考えていました。
── 検証の結果、その仮説はどうなったのですか?
河田 1、2年で事業は立ち上がり、ここに市場があること自体は確定で分かりました。次は「反響数かける契約率かける1件あたりの粗利益」、この総和をどう増やすかです。
そこでお客様にアンケートを取ると、「スピーディーに対応して現地に来てくれた」「レスがすぐ返ってきた」という回答が出てくる。スピード感と、直接会って信頼できたという2軸だったのです。
ならば、東京一箇所で営業担当を100人、200人と増やすより、現地に支店を出して「今から30分後に会いに行きます」を連発したほうが契約率は上がるのではないか。そういう仮説が生まれました。
実際に千葉支店を出すと、全体では10パーセントほどだった契約率が、千葉支店単体では20パーセントほど出た。本当に倍のスコアです。千葉は僕が高校時代を過ごした場所で土地勘もあった。まず千葉でやってみて、うまくいったら広げようというのが、今も続く延長線です。
── 経営で重視している指標、KPIを教えてください。
河田 全体で見るのは、反響数と契約率と1件あたりの粗利益です。1人あたりに配る反響数はだいたい決まっているので、人員が増えれば反響数も増やせる。マーケティングと人事の両軸でコントロールしています。
当社はデジタルマーケティングが強みで、オウンドメディアとリスティング広告から月5000件ほどの反響があります。それを本社で扱い、営業担当1人あたり月30件ほどというキャパの計算のもと、エリアごとに分けて渡す。売りたいのに売れなくて困っている方からの1本の電話を、毎月30件ずつ渡すイメージです。
── 東証グロースの前にTOKYO PRO Marketを経ています。信用を得る目的もあったのですか?
河田 もちろんです。上場する意味は資金調達のオプションを増やすという話が強くなりますが、東京プロマーケットでは当社はほとんど調達していません。もう一つの上場の意味は、信頼や信用を勝ち取るところにある。それを先に獲得しつつ、マイルストーンとしてプロマーケットを踏めるなら合理的だと当時考えました。
グロース上場後も、資金調達は最小ロットしかしていません。途中で三為取引(中間に入る業者が所有権の移転登記を挟まず、所有権を売り主から買主へ直接移転させる取引)の比率を上げ、バランスシートをあまり使わずに営業キャッシュが出るモデルへ転換できたからです。上場したから財務が強くなったというよりは、ビジネスモデル上そうなっている。
賃貸市場500万世帯に対し、シェアはまだ0.05パーセント
── 実需では売れない空き家を、収益不動産として個人投資家に売る。この出口に行き着いた経緯を教えてください。
河田 投資家だったころ、100万円以下の物件にプラス100万円の原価をかけて合計200万円にすれば、月5万円で賃料がつくと分かった。5万円で住みたい方はわんさかいて、実際そうだったのです。
売り主からすれば、負債のような物件を相続で受け取ってしまっている。親が亡くなられて物件だけが残り、毎年固定資産税を払い、換気に行き、草を抜き、隣人からは枝が伸びていると文句をいわれる。心労もたまる。
一方には、住宅ローンが組めなくて買えないけれど、駐車場が欲しくて広い物件に住みたいというファミリーがいっぱいいる。地域の不動産会社はフルリフォームして住宅ローンで販売する発想なので、築50年の物件は難しいのですが、借りたい方はピカピカのリフォームなどを求めていません。
年間60万円の収入を生むものが200万円でできれば、利回り30パーセントで回る。そこにはもったいなさがありました。
── 潜在需要層500万世帯に対し、自社シェアは0.05パーセント以下と説明しています。この余地をどう見ていますか?
河田 人口1億2000万人のうち世帯数は5500万世帯ほど。そのうち年収500万円以下で地方や郊外に住む方に絞ると、個人投資家が狙う賃貸市場は約500万世帯です。対して昨年の物件販売数は2500件ほど、今期予算で5000件ほど。まだ何も始まってすらいない規模感だと思っています。
空き家の供給は今900万戸といわれますが、毎年20万戸から30万戸増えていて、次の総務省統計ではおそらく1000万戸を超える。仮に年間30万戸増えるとして、当社が扱うのは今年これだけやっても5000件ほどです。
500万世帯の中には、ワンルーム世帯もあれば、三点ユニットのボロボロの家の世帯もある。そうした方に5万円ほどの4DK、80平方メートル、駐車場つきの空き家を提供して、「今のお住まいとどちらがいいですか」と聞けば、選んでもらえる。この市場だけでもまだ行ける余地があります。
── 物件をまとめて売る構想もあると聞いています。何が変わるのですか?
河田 今は1物件を100万円で買って200万円で個人投資家に売る、それを早い回転数でやらせてもらっています。これが100個のバルクになり、5万円かける100件で月500万円の賃料が入りますとなると、話が変わる。
年間6000万円の賃料収入に対して、利回り10パーセントなら買うという地方のファンドが出てくるかもしれない。個人投資家はほぼ事業家なので20パーセント、30パーセントを求めますが、塊になってリスク分散もされれば「10パーセントでもいい」という方に売れる。単純計算ですが、収益が倍になる可能性があります。
── 買い手となる個人投資家を増やすために、何を考えていますか?
河田 個人投資家を増やすことは今後やりたいけれど、まだやれていないことの一つです。空き家に投資して利回りが20パーセント、30パーセント出ることを、普通の方は知らないと思います。でも、そんなに難しくないんです。
当社のIRにも出していますが、アンケートを取ると、年収600万円ほどまでの普通に働いている会社員の方たちが、週末にDIYで利回り20パーセントから30パーセントを出しているのが大半です。不動産投資はハードルが高いと思われがちですが、実際はやり方を知らない、認知されていないというだけです。
空き家のメディアや動画を配信して面白さを知ってもらい、その受け皿として空き家投資やDIYを教える小さなスクールを作りたい。プログラミングを3ヵ月30万円で学ぶサービスの空き家投資版ができれば、裾野をだいぶ広げられるはずです。
廃校も廃病院の再生も視野に──手法を増やすことが査定の強さに
── 2025年5月に民泊事業を始めています。。狙いを教えてください。
河田 空き家が900万戸あって、これをゼロにするには、一般賃貸だけに限ってしまうと、どうしても打ち手が限られてしまいます。そこで、自分たちでも出口を増やそうということで、民泊事業を始めました。最終的には用途を限定せず、再生の手法をできるだけ増やしていきたいと考えているんです。
実際、自治体からは廃校を直してくれ、廃病院をどうにかしてくれと相談も来ています。引き出しが多いほど、空き家を減らすことに寄与できる可能性が増えます。
そして打ち手が増えるほど、対応できる物件の幅が広がります。廃病院はこれまで再生が難しいからと値段をつけられなかった。
でもこれから事例を作って一度成功したデータが取れれば、ここでコンバージョンすれば利回りが出ると分かるので、値段をつけられるかもしれない。
値段をつけられれば、他社が値をつけられない物件を当社は買えますという提案ができる。査定は基本的に収益還元で、立地情報と物件の傷みから想定家賃収入を出し、逆算して利回りに落とし込みます。神奈川県のこのエリアで民泊をやったら実は利回りが出た、というデータがあれば強気の査定ができる。
今まではアセットを軽くして転売するやり方でしたが、財務的な体力もついてきたので、回転数を多少落としてでもデータを取る価値が高いと考えて、今はそちらに舵を切っています。
── 競合が増えたとき、AlbaLinkが選ばれる理由は何だと考えていますか?
河田 買取業は商品というものがないので、付加価値をどうつけるかが難しい。結局は信用とスピードで、スピードも信用につながるという話でしかありません。
その大きなウエートを占めるのが、支店がすぐ近くにあることだと思っています。空き家や訳あり物件の市場で、当社より支店展開している会社はおそらくない。このまま47都道府県に出し、さらに1都道府県に2つ、ざっくり100支店まで出せば、そのスピード感についてこられる会社はありません。
東京からオンラインでヒアリングして電話で100万円ですといった相手と、鳥取の奥地まで行って、今から物件を見に行きますね、100万円です、これは当社が責任を取ります、実家に住んでいた思い入れごと全部引き継いでやらせてくださいという相手と、どちらに売りますかとなったら、絶対に後者だと思います。
── 2026年10月現在28支店で、来年・27年には新たに14支店の出店を想定していますね。優先順位はどう決めているのですか?
河田 最近は、まだ出していないエリアで空き家の相談が何件来ているか、空き家が何件あるかというデータなどを基に優先順位をつけています。もともとはアポイントに行ける範囲を広げることが最適な効率化だと思っていたので、名古屋、大阪、福岡といった主要都市から出し、そこを拠点に隣県を埋めてきました。
ただ、細かい出し方では人の要素が大きい。熊本に帰って空き家で貢献したいという人間がいて、支店長の素養があれば、そこを優先する順番の時もあります。
拠点が散らばるとマネジメントは難しくなります。最初のころは支店長しかいませんでしたが、今は複数の支店束ねるブロック長を置いています。。KPIを固め、それをやるには何をしたらいいのかをブロック長と支店長で膝を突き合わせて詰める。人の問題は絶対に起きるので、ひたすらコツコツやっている感じです。
「2100年、空き家ゼロ」と四半期決算をどう両立するか
── 2100年空き家ゼロという長期のミッションと、四半期ごとに問われる業績。どう両立するのですか?
河田 このミッションに変えたのは上場した直後あたりです。持続的な成長が求められる公的な立場になったので、まったく違うフェーズの会社になったのだと伝えたかった。それでミッション・ビジョン・バリューを再編しました。
2100年という区切りは、あと70数年先です。単純に短期売買を繰り返すのではなく、本当に日本の未来のために空き家を減らす。それはひいては地方創生をして関係人口を増やすところまでタッチしないと、本質的には改善されない。人口が減り続ける以上、一生つきまとう話だと思っています。
一方で四半期の業績が問われることもあります。僕も株主なので株価は気になる。ただ、大きな投資をして赤字を出しても、それに耐えている上場企業はある。
それは社長が批判を受ければいいだけの話で、創業社長としてやっている以上、任期があるとも思っていないし、大株主でもある。そうでないと長期的なプロジェクトには耐えられません。
創業者ではなく株式を保有していなくて、任期が2年だけ任された経営者なら、50年先を考えた長期投資は自分の実績にならないので、できるわけがない。
なので本当にバランスを取るとしか言えない。どう両立させるか。耐える。気合いで耐える、ですかね。
── 個人投資家として空き家に着目したのが出発点でした。いまあらためて、投資対象としての空き家の面白さはどこにあると考えていますか。
河田 たとえば当社についても、大きく株を買ってくださいと言うつもりはまったくありません。
ただ、確からしい市場があって、そこにマーケットのリーダーとしてやっている自負はあります。大風呂敷を広げた業績予想を出すつもりもないので、フラットに透明性高く情報を提供させてもらう。ありのままを見て、長期的に伸びると思われたら投資していただけるとありがたい。
当社がやっているのは空き家投資という領域なので、こちらはこちらで面白いと思います。多少の労働力は必要で、株をポチポチやるだけではない世界線がある。逆にいえば、株式のようにボラティリティが高くなく、賃貸さえつけば20パーセント、30パーセントとロックされたリターンを何年間か享受できる。ローリスク・ミドルリターンのようなものが空き家投資だと思っています。
自分にはできないという方もいるでしょうが、住める状態のインフラを整えて、それこそSUUMOなどを使えばいい。不動産市場は管理体制がかなり整っているので、できないことはありません。ぜひ足を踏み入れていただけるといいなと思います。
- 氏名
- 河田憲二(かわた けんじ)
- 社名
- 株式会社AlbaLink
- 役職
- 代表取締役CEO

