BRANU 株式会社

2025年12月1日、建設業向けDX(デジタルトランスフォーメーション)プラットフォームを展開するBRANU(ブラニュー)株式会社が、東証グロース市場へ新規上場した。

2024年問題や2025年問題を経て、人手不足や高齢化がより深刻になった建設業界に対し、同社は中小企業をターゲットに経営改善や業務の効率化を支援。累計利用社数は5,500 社を超える。

なぜ、アナログな慣習が根強い建設業界で、同社のプラットフォームは受け入れられたのか。その競争優位の源泉は、16年間かけて「蓄積したデータ」と「現場に足を運んで築いてきた信頼関係」にあった。

本インタビューでは、BRANU代表取締役の名富 達也氏に、上場の狙いと今後の成長戦略について聞く。AI活用による業務自動化の先に見据えるのは、テクノロジーを使いこなし、社会的地位が向上した「スカイブルーカラー」の創出だ。75兆円産業(※)の変革に挑む、同社のビジョンに迫った。 (※)2025年建設投資額見通し

名富 達也(なとみ たつや)── 代表取締役
1981年、東京都生まれ。2003年に大学を卒業後、株式会社テレウェイヴに入社。産業別へのICTソリューションを行う中で、建設業界の市場規模や産業構造の変革による社会貢献性など世の中への大きなインパクトを感じ、2009年にBRANU株式会社を創業以来、一貫して「建設DX」という軸で事業を展開。
BRANU株式会社
重層的なピラミッド型産業構造を中心に建設業界における中小企業が抱える多岐に渡る課題を解決すべく建設DXプラットフォーム「CAREECON Platform」を提供。
企業サイト:https://branu.jp

目次

  1. 「CAREECON Platform」は累計5,500社が利用する建設DXプラットフォーム
  2. 上場準備で直面した経営課題
  3. 大工さんが再び憧れられる時代へ 建設DX市場の成長と未来像
  4. 建設DXの導入ハードルと、16年かけて築いた競争優位
  5. ブルーカラーは「スカイブルーカラー」を目指すべき

「CAREECON Platform」は累計5,500社が利用する建設DXプラットフォーム

── まず事業内容とこれまでの変遷について教えてください。

名富 当社は2009年に創業し、以来一貫して中小建設業のDX支援事業を手掛けています。ビジョンは「テクノロジーで建設業界をアップデートする。」ことで、ICTの活用やDXが遅れている中小建設事業者を対象に事業を展開しています。

創業当初から、建設業界におけるDXを通じて、事業全体を支えるプラットフォームをつくる構想がありました。その実現に向けて、まずは事業者にとって分かりやすく価値を実感しやすい「集客」や「採用」支援からスタートしています。

ウェブマーケティング支援のためのSaaS開発からスタートし、建設事業者同士をつなぐ建設マッチングサイトをローンチ。さらに施工管理、採用管理、経営管理といった機能を課題起点で拡充した結果、現在では集客・採用・現場・経営を一体で支える建設DXプラットフォームへと進化しています。

現在、「CAREECON Platform(キャリコン)」というブランドでプロダクト展開をしていて、累計で約5,500社にご参加いただいています。

上場準備で直面した経営課題

── 約2年半前のインタビュー記事で、ChatGPTをはじめとした生成AIなどの先進的な技術に早くから注目されていると発言されていました。昨今のAI技術の進歩は、プロダクトにどのような変化をもたらしましたか。

名富 当初から目指していたのは「自動化」でした。中小企業では、ICTの知識よりも導入や定着に割ける余裕の少なさが課題です。そこで、自動化を実現する手段としてAIに注目しており、LLMなどを活用することで、やりたいことがようやく実現できるようになってきました 。具体的には、コンテンツや報告書の自動作成などをプロダクトに実装しています。

また、社内では「BRANU BRAIN」というプロジェクトを進めていて、5,500社の中小建設企業のデータを活用したAI基盤の構築、現在はAIエージェント化を進めています。これが実現できれば、中小企業の負担は大きく軽減され、建設業界の産業構造の変革につながると考えています。AI活用は、当社の成長戦略の重要な柱の一つです。

── 上場も、この成長戦略を加速させるための重要なステップですか?

名富 そうです。上場の主な目的はAI人材の獲得です。開発だけでなく、企画から実装までを担える体制づくりを重視しています。

また、知名度向上も非常に重要だと考えています。自己資本で事業をグロースしてきたため、経営の選択肢は多くありましたが、上場によってさらに加速させたい。世間の方々、求職者の方々、そしてターゲット顧客に広く知っていただきたいという思いが強いです。知名度があれば、人材採用も有利になりますし、社会的意義のある事業を展開していることをより多くの方に知っていただくことができます。

── 上場準備の過程で、特に大きな経営課題は何でしたか。

名富 上場プロセスそのもの以上に重視したのは、業績の安定化と高い成長性を両立できる経営基盤の構築でした。 私たちは社会的意義が大きく、同時に実行難易度の高い事業に取り組んでいます。そのため、事業の将来性だけでなく、安定的に収益を創出し続けられる体制が整っているかどうかが重要になります。

上場企業としては、持続的な成長を実現する事業ポートフォリオの設計に加え、内部統制や開示体制を含めたコーポレートガバナンスの整備が不可欠です。監査法人との連携を通じて財務・会計基盤を強化し、経営の透明性を高めてきました。

事業モデルやプロダクトの方向性には確信がありましたが、それを安定した成長へと結びつけるための組織設計とガバナンス体制の整備には、最も時間を要しました。結果として、経営体制の強化と管理機能の充実が進み、持続的成長を支える土台が整いました。

大工さんが再び憧れられる時代へ 建設DX市場の成長と未来像

── 建設DX市場のポテンシャルと、今後の市場の全体像についてどのように考えていますか?

名富 建設市場は、老朽化インフラの更新や防災・復旧需要といった日本特有の構造的要因を背景に、人口減少下でも建設投資額は約75兆円規模に達しています。そのなかで、当社がターゲットとする中小企業だけでも概算で年間43兆円の市場があります。

中小建設事業者は、限られたリソースで現場対応、営業活動、人材の手配、経営管理を同時に担っており、日々の業務に追われる構造にあります。そのため、DXの必要性を認識していても、優先順位が後ろ倒しになりやすいという課題があります。

その結果、中小建設業におけるデジタル化は十分に進んでいるとは言えません。一方で、建築分野の建設DX市場は2023年時点で約1,845億円規模、2030年には3,000億円超へと拡大が見込まれています。市場そのものが成長過程にあり、普及余地は大きいと捉えています。

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当社は、中小建設業に特化したプラットフォーマーとして、単なる参加企業の一社ではなく、カテゴリーを定義するリーダーとしてのポジションの確立を狙っています。

── アメリカでは「ブルーカラー・ビリオネア」や「アドバンスド・エッセンシャルワーカー」といった言葉が聞かれますが、建設業界における働き方の未来像についてはどう考えていますか?

名富 かつては、大工が子どもたちの「なりたい職業」として挙げられる時代がありました。しかし近年では、YouTuberなど新しい職業がランキング上位を占めるなど、職業観は大きく変化しています。

ただ、社会に不可欠な産業の価値は本質的には変わりません。テクノロジーの活用によって生産性や付加価値が可視化されれば、現場で働く職人の評価は再び高まっていくはずです。

結果として、大工という職業が再び自然に憧れられる存在になる。そのような循環をつくりたいと考えています。

その未来像を象徴する言葉として、私たちは「スカイブルーカラー」という考え方を掲げてきました。これは、現場で働くブルーカラーが、テクノロジーを使いこなすことで付加価値を高め、社会的な地位や評価が一段上がった状態を指します。スカイ(高い位置)にいるブルーカラー、という意味です。

AIやDXが進んでも、現場の仕事がなくなるわけではありません。現場の技術や経験は、これからも産業の中核にあり続けます。テクノロジーによって段取りや事務といった負担を減らし、本来磨くべき品質や安全、技術に集中できる環境をつくる。そうすることで、現場の仕事はより高い付加価値を持ち、正当に評価される存在へと変わっていく。

私たちは、業界をホワイトカラーとブルーカラーに分けるのではなく、テクノロジーによって現場の価値が引き上がり、働く人の立場や魅力が高まる状態をつくりたい。その先に、建設業界が「カッコいい産業」へと変わっていく未来があると考えています。

建設DXの導入ハードルと、16年かけて築いた競争優位

── 建設業界におけるDX導入のハードルや、お客様獲得におけるリアルな声、そしてそれを乗り越えるための工夫について教えてください。

名富 建設業界におけるDX導入には一定のハードルがあります。ただ一方で、当社のプラットフォームは一度導入されると長く使い続けていただけるケースが多い。これは、操作を覚え込んでもらうことを前提にせず、最終的には「見るだけ」「判断するだけ」で済む状態を目指して設計しているからです。

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現在は、コンサルタントが伴走して支援していますが、将来的にはこの役割の多くをAIに置き換えていく構想です。お客様の数が増える中で、すべてを人で支えるのは現実的ではありませんし、自動化によって価値提供の質とスケールを両立させていきたいと考えています。

最も難しいのは、いわゆる「キャズム」を越えることです。

建設業界は、デジタルマーケティングだけで自然にリードが集まる市場ではありません。課題は存在していても、日々の現場に追われる中でDXは後回しになりやすい。潜在ニーズが顕在化しにくい構造があります。

そのため当社では、短期的なリード獲得に依存せず、ブランディングとフィールドセールスの両輪で市場に向き合ってきました。「スカイブルーカラー」という思想を発信し、業界の価値観そのものに働きかける一方で、全国を回り対面で顧客との信頼関係を築いています。

中小建設事業者は約50万社規模にのぼり、経営者自身が現場に立つことも少なくありません。顕在リードが生まれにくく、接触コストも高い。この市場構造そのものが、結果として参入障壁になっています。

私たちは16年かけて、この業界特有の構造を前提としたコミュニケーションと、成果につながるまで伴走するコンサルティングを磨き上げ、企業文化として根付かせてきました。最初の接点は対面で丁寧に行い、関係が築けた後はオンラインで効率的に支援する。アナログとデジタルを融合させていくことが、建設業界では何より重要だと考えています。

── 仮に大手企業が資本を投じて参入した場合でも、御社の競争優位は簡単には揺らがないということでしょうか。

名富 技術は、資本があればある程度までは模倣できると思います。ただ、私たちの競争優位は、その上に積み重ねてきた「データ」と、それを活かす組織にあります。

16年間、建設業界に向き合い続ける中で、事業者ごとの状況や意思決定の背景まで含めた知見を蓄積してきました。これは外部から購入できるものではなく、単なるデータ量の問題でもありません。

仮に大手やスタートアップが資本を投じて参入しても、業界特有の商習慣への理解や、信頼を前提とした営業組織を構築・定着させるには時間を要します。

私たちは、人材・データ・組織文化という、資本だけでは再現できない領域で差を築いてきたと考えています。

ブルーカラーは「スカイブルーカラー」を目指すべき

── 12月1日上場ですが、このタイミングでの上場には、どのような意図があるのでしょうか。

名富 事業面・財務面の両方で、上場に踏み切る条件が整ったタイミングだったと考えています。複数の事業が同時に立ち上がり、フローとストックのバランスも適正化され、SaaS事業も着実に成長してきました。今後も高い成長水準を維持できるだけの手応えがあり、持続的な拡大に対する見通しが立ったことは、大きな判断材料です。

もう一つは、建設業界を取り巻く環境です。いわゆる2024年問題、2025年問題に象徴されるように、業界の課題は待ったなしの状況にあります。社会的意義の大きいこの分野で、今こそ責任ある立場として踏み出すべきだと考えました。

プロダクトとしてもマーケットフィットが進み、この領域でリーダーシップを取ることで中小建設業の課題解決により実効性のある形で貢献できる確信が持てた。そうした事業の蓋然性と社会的な必然性が重なったことが、このタイミングでの上場を決断した理由です。

── 今後の事業拡大戦略について教えてください。

名富 成長戦略の柱は、大きく三つあります。既存基盤の拡充、プロダクトの強化、そして新領域への参入です。

国内においては、支店網の拡大に加え、渡辺パイプ様との業務提携をさらに深めていきます。渡辺パイプ様は、建設資材・住宅設備の流通において全国規模のネットワークを持ち、約13万社の顧客基盤を有する企業であり、その拠点網は建設事業者との重要な接点となっています。現在およそ200拠点をカバーしていますが、今後はこの連携を強化し、全国約690拠点まで広げていく計画です。

これにより、これまでリーチできていなかった地域の中小建設事業者にも、効率的にサービスを届けられる体制を構築します。

プロダクト面では、経営管理機能の強化を中核に据えています。具体的には、AIを活用したSaaSから、より自律的に業務を支援するAIエージェントへの進化させていきます。加えて、現場で発生するデータが即座に経営管理データへと連携され、入力や集計を意識せずとも経営状況が把握できる仕組みを自動化によって実現していきます。

これは中小建設業が抱える本質的な経営課題そのものであり、この領域を強化することで、顧客にとっての価値が高まり、結果として定着率の向上やアップセルの加速につながると考えています。

新領域として、成果報酬型採用支援プラットフォーム「キャリコンジョブ」を立ち上げます。建設現場で活躍する人材向けのサービスとして、中小建設事業者が導入しやすい成果報酬型を採用します。採用は建設業における最大級の経営課題であり、人手不足の解消と生産性向上を同時に支援できる点は、当社の強みです。将来的には、採用にとどまらず、評価・育成・労務までを一体で支えるHRプラットフォームへと進化させていく考えです。

── 外部からの投資やCVCの活用についても考えていますか?

名富 CVCについては、事業シナジーの見込める企業とは積極的に対話を進めています。とくに、プロダクトと顧客基盤の強化につながる企業との連携は、事業成長の観点からも大きな可能性があると考えています。

上場によって株式の流動性が高まる中で、短期的な視点ではなく、中長期で事業の成長を支えていただける投資家の方々に参画していただきたいと考えています。創業者としての責任を果たしながら、上場企業として適切なガバナンスを維持し、段階的に流動性を高めていく方針です。

単なる資本関係にとどまらず、志を共有できるパートナーとともに、事業を前に進めていく。そうした関係性を大切にしていきたいと考えています。

── 建設業界における懸念点やリスクについても教えてください。

名富 建設業界におけるリスクとして、AIの進化そのものを脅威だとは考えていません。むしろ、事業やプロダクトの可能性を大きく広げるポジティブな変化だと捉えています。AIの進化によって、業務のあり方や意思決定のスピードは大きく変わっていくでしょう。

建設DX市場には競合も存在しますが、市場自体が非常に大きく、現時点では直接的な競争は限定的です。ただし、今後はAIの活用が進むほど、どれだけ現場に根ざしたデータを蓄積し、それを実際の業務改善につなげられるかが、競争力の差になっていきます。その意味で、先行して積み上げてきたデータや知見を最大限に活かすことが重要だと考えています。

奇をてらったマーケティングや一時的な話題性よりも、AIの実装力、長年かけて培ってきた営業やコンサルティングのノウハウ、そして顧客との信頼関係こそが、持続的な競争優位の源泉になります。

また、働き方の面でも大きな変化が起きています。ホワイトカラーの仕事が再定義される一方で、現場を支えるブルーカラーの価値は、今後さらに高まっていくでしょう。建設業界では、テクノロジーを使いこなすことで社会的な評価を高めた「スカイブルーカラー」が重要な存在になります。

私たちは、このスカイブルーカラーの実現を掲げ、これまで蓄積してきた知見とデータ、そしてAIの力を掛け合わせることで、建設業界における産業構造の変革をリードしていきたいと考えています。

氏名
名富 達也(なとみ たつや)
社名
BRANU株式会社
役職
代表取締役

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